フミエ×ヤサコ

 窓の向こうは、すでに黄昏時の蒼さに沈みかかっていた。
 電気を点けていないこの部屋もまた、同じ色に染まっている。
「ひッ…」
 ベッドの上で、白い肢体が蠱惑的なしなを折った。
 ようやく第二次性徴の兆しが見え始めたばかりの裸身は、女としての要所要所の肉付きもま
だまだ浅く、だが、肌の表面をしっとりと濡らす汗の湿りが少女のカラダをひどくなまめかしく見
せていた。
「フミエ…ちゃん、やぁ…ダメっ……もう許して……」
 悩ましい溜め息に乗せて、小此木優子 ―― ヤサコの口が震える言葉を吐いた。細っこいカ
ラダは、随分と長い間、友人の意地悪な指戯に晒されていた。
 どこをどう攻めればヤサコのカラダから快感を引きずり出せるか、それを熟知した指使いが
白い肌の上を滑って、くすぐるみたいに愛撫を続けてくる。
「あぁんっ!」
 一際高い声で、また鳴かされた。
 ベッドの上にだらしなく投げ出された衣服と下着。それらを適当に左右に分けて、ベッドの真
ん中に二人の少女の裸体が折り重なっている。
「わたし……もうダメ……」
「何言ってんのよ、ヤサコ。物欲しそうなヨダレで、こんなにぬるぬるにしといて……」
 橋本文恵 ―― フミエがイジワルな笑みを浮かべて、匂い立ちそうなほどの量の愛液でベッ
タリと濡らしたヤサコの股間に手を這わせた。
「あっ…」
 ヤサコが、汗でぬめった上半身をぴくんっと仰け反らせた。
 大きく開くよう命じられて、閉じさせてもらえない両脚。ぷっくりとした無毛の恥丘を滑り、綺麗
に閉じられた処女の部分を、フミエの指が浅くえぐってきた。
「アッ! フミエちゃ…痛い……あんんッ」
「何が『痛い』、よ? ほらほら、ヤサコのここってば、す ―― っかり、大・洪・水♪ ほーんとイ
ヤラシイ!」
 ちゅくちゅく…とフミエの激しい指使いに合わせて響く小さな水音に、ヤサコの表情が羞恥に
ゆがんだ。
 見目の可愛らしさは、二人ともやや平凡。痩せ気味とも思えるほっそりした体つきと、こんな
時にでもかけたままの電脳メガネが共通点。ショートの髪と、セミロングの髪。気弱に屈服した
表情と、勝気そうな表情。対なる二つが、唇を通じてひとつに交わる。
 ……………………。
「…ンっ! ぷはッ」
 呼吸をキスで押さえ込まれたヤサコが、酸素を求めて強引に唇を離した。
「こら、なんで勝手にキスやめちゃうのよ」
 逃げた唇へ、再びフミエがキスを押し付けた。
「んんーっ!」
 上下の歯を割って、フミエが舌を乱暴にねじ込ませてきた。思わずくぐもった悲鳴を上げてし
まうヤサコ。逃げ場の無い口の中で、フミエの舌がヤサコの舌を絡め取り、きつく吸い上げる。
 どんっ!
「うっ!?」
 驚きの声と共に、フミエの軽い体が突き飛ばされて仰け反った。一瞬呆然としたのは、ヤサ
コもフミエも同じ。やがて、ヤサコが自分の両手をまじまじと見て、自分がフミエを突き飛ばした
のだとようやく理解した。
「ご、ごめんなさい、フミエちゃん、わたしっ……」
 狼狽したヤサコが、メガネ越しにフミエの顔を見つめた。フミエの表情から、笑みが消えてい
る。
「…………」
 無言のフミエが、スッと右手を動かしたのを見て、ヤサコがビクッ!と身をすくませて両目を
閉じた。ぶたれる、と思った。
「……まったく、何て顔してんのよ」
 優しく髪に触れてくる、フミエの手。乱れていた髪に、手櫛がそっと通される。
 こわごわと片目だけ開いたヤサコへ、フミエが寂しげな苦笑を洩らした。
「ずいぶんとキラわれちゃってるわねぇ、あたしってば」
「そ、そんな事……」
「女の子同士って、やっぱ変?」
 ヤサコは、フミエから目をそらして小さく首を横に振った。そんな彼女を見つめながら、フミエ
が笑みに含ませた寂しさを強めた。 
「あたしは……本当はおかしいと思ってる。ヤサコとはね、もっと普通の友達でいたかったの。
なのに……」
 フミエがメガネの機能を使う。カラダのすぐ右脇の空間から、半透明のキーボードが湧出し
た。二人のいるベッドにまとわりついた薄闇に、電脳の淡い燐光が差す。
 フミエが右手の指を鮮やかにキーボードへと走らせ、仕上げに左手を伸ばして、向かい合っ
ているヤサコの右手をぎゅっと握った。途端に、ヤサコのカラダを、マーキング表示が埋め尽く
した。正確に言うと、無数のマーキングで埋められているのは、ヤサコの電脳体だ。
「……わたしのカラダ、こんなにたくさんキスされてたんだ」
 マーキングのひとつひとつが、フミエのキスの位置ログ。ヤサコの左手の人差し指が、それら
をひとつずつ、いとおしそうになぞっていく。
「フミエちゃん、ちょっとズルイ」
「何がよ?」
「わたしのカラダに、こんないっぱいキスして。わたしなんて、まだここにしかキスしたことないの
に……」
 キス跡に触れていたヤサコの指が持ち上がって、フミエの唇を右から左へ、ツーっと滑った。
フミエが、繋いでいた手を離して、唇へと触れていたヤサコの手をバッと払った。
「やめてよッ!」
 唐突に消え失せたマーキング表示。部屋の薄闇を、キーボードの放つ淡い光がぼんやりと照
らしていたが、しばらくして、それも消えた。
 瞬間沸騰した興奮が少し治まるのを待って、フミエが口を開いた。
「別にヤサコの事が好きだとか、そんなんじゃなかった。いつか、ヤサコに好きな人が出来た
ら、ちゃんと応援してあげたいと思ってた。けど……」
 泣き出すのを堪えているみたいなフミエの声が続ける。
「相手がイサコっていうのが気に入らないのよッ!」
 天沢勇子 ―― イサコの名前が口に乗った途端、フミエの語気が荒くなった。
「くやしいのよッ、アイツにヤサコを取られちゃうのが。何だかよくわかんないけど、気に喰わな
いってーの!」
「フミエちゃん……」
 フミエがこの場にいないイサコに向けて一方的に放っている不協和音の空気を、ヤサコが当
惑の笑みと共に受け止める。
 イサコの凛とした横顔。その横顔を、ヤサコは綺麗だと思った。真っ直ぐ前を見ている眼差し
を素敵だと思った。彼女がしなやかな肢体の動かす度、その動作全てに魅力を感じた。彼女
のそばにいる時はいつも、今この瞬間世界中が敵に回っても大丈夫だと思えるほどの強い安
心感を覚えた。電脳体には記録されない、ヤサコが胸に焼き付けた想い。
「最近さ、イサコ、しょっちゅうあんたに電話かけてきてるよね?」
 語気を元に戻して、ヤサコの腰に片腕を回しながら、電脳モニターとキーボードをセットで出
した。そして、素早く指をキーボードの上に踊らせて、「ほらね」とモニターに映し出された情報
をヤサコに示した。
 ここ約一ヶ月間のヤサコとイサコの通話記録だ。
「えっ?」
 目の前でいとも簡単にプライベート情報をハッキングされてしまったヤサコが、一瞬絶句した
ような表情になったが、苦笑を軽く口元に浮かべただけでフミエの行為を許した。
「気になる?」
「腹立つ」
 ムスッと答えたフミエの背に、ヤサコが両腕を回してギュッと力を込めた。汗ばんだ少女たち
のカラダが、吸い付くようにくっつく。
「イサコって、わたしのこと欲しがってると思う?」
 フミエはそれに答えない。代わりに、ヤサコのあごをつかんで強引に開かせ、たっぷりと唾液
を乗せた自分の舌で、彼女の舌を舐め回した。
 けったくそ悪いイサコの名を紡いだ舌なんて、こうやって消毒しないと気持ち悪い。
 口の周りを唾液でベッタリと汚された顔をそむけて、ヤサコが微笑む。
「あのね、わたし、今度イサコと二人で遊びに行く約束しちゃった。電話越しなんだけどね、イサ
コ、昔に比べてかなり険が取れてきた感じ……ンンっ」
 だらり…と口の中に流し込まれた唾液を、ヤサコが嚥下する。たまらなくなって、下半身の熱
く疼く部分を、フミエの太ももに擦り付けた。
「口ではイサコのこと話しながら、こっちの部分はあたしのカラダ求めちゃうってワケ?」
 フミエが嫌悪感を声に滲ませた。こういう節操の無いマネは嫌いだ。太ももを引き上げて、ヤ
サコの濡れそぼった股間へひざをグリグリと押し当ててやる。「あっ」と声を上げて、ヤサコが
腰を引いた。
「何逃げてんのよ? 気持ちいいんでしょ、ほらほらぁ!」
 押し付けたひざで、ヤサコの秘所を上下にさすってイジメてやる。
「あっ…く……やだっ、フミエちゃ…ん……」
 だんだんと蕩けていくヤサコの声。その声を楽しみながら、彼女の頭を抱き寄せ、『ちゅっち
ゅっ』と弱い耳の裏をキスで攻めてやる。
「やっ…耳、やめてぇ……」
 やめない。左右に振って逃れようともがくヤサコの頭を押さえ付けて、舌先で耳たぶを嬲って
いく。
「ヒィッ!? あッ、アッ…やだぁッ……くひぃぃッッ」
 フミエのカラダの下で、強張ったヤサコの上半身がビクンッ! ビクンッ!と激しく身悶えた。
体重の軽いフミエが振り落とされそうになる。
(ヤサコって、とんだ暴れ馬ね。ふふっ、こりゃ乗りこなすの大変だわ)
 ベッド上のロデオに興じつつ、ヤサコの敏感な耳に舌を這わせて、よがり狂わせていく。
「やめっ、あーっ……あぁぁんッ、フミエちゃ…フミエちゃん! とめてっ、耳…おかしくなっちゃ
う!」
 その声を聞いて、フミエが舌使いを休めずに薄く笑った。
 ヤサコの声が、苦悶の色をまといつつ、次第に濡れていくのがハッキリと分かる。彼女の耳
に『ちろちろちろ…』と細かい動きで舌を走らせながら、腰の奥深くに、ゾクっ…と甘美な疼きが
湧き上がるのを感じた。
(ヤサコ、たっぷりとイジメ抜いてあげるわ!)
「やあぁああああぁぁ……もうダメなのぉぉッ、許してぇええぇぇぇ……」
 ダメ。許してあげない。
 胸に燃えるのは、暗い、嗜虐の炎。ねっとりと耳全体に唾液を塗りたくってやっても、まだ治
まらない。むしろ、だんだん強くなっていく。嫌がるヤサコが可愛くて仕方がない。
「やあッ…もうイヤぁッ! ……フミエちゃんなんてキライッッ!」
 目の端に涙を浮かべて泣き喘ぐヤサコの最後の一言で、フミエが我に返った。
 ヤサコの耳からゆっくりと口を離し、彼女の顔を見据える。
「今、何て言った?」
 ハァハァ…と息荒く胸を上下させているヤサコが、涙潤んだ目でフミエをキッと見返して、キッ
パリと言い切った。
「わたし、もうフミエちゃんのこと、キライ」
 フミエの中で、炎が爆(は)ぜた。ヤサコが嫌がっているのに無理に続けた自分が悪い。それ
は分かっている。分かっていてなお、感情が沸騰していくのが止められない。
「あたしだって、ヤサコのことなんて大キライよッ!」
 ヤサコの身体に馬乗りになって、どんっ!と両手で彼女の肩を突いた。ベッドの上で身体を
バウンドさせるヤサコに向かって、フミエが激しい剣幕でまくしたてる。
「何よっ、イサコイサコイサコ…って! あたしに犯されてカンジてるくせに、よく他の女の名前
なんて出せるわねッ! ヤサコってサイテーッッ!」
「サイテーなのはフミエちゃんのほうでしょ!? ただイサコにとられたくないってだけで、わたし
のこと、好きでもないのにいっぱいキスした! わたしをお嫁に行けないカラダにした!」
 フミエが大きな目を白黒させて、裏返った声で叫び返す。
「あ…あんたなんかお嫁に欲しくないわよッ。こっちからお断りだわ!」
「フミエちゃんのお嫁さんになるなんて言ってないでしょ!? 人の話ちゃんと聞いてから断っ
て!」
「ウ、ウルサイッ、このレズビアン! イサコの嫁にでも何にでもなりなさいよ!」
「レズビアンはそっちでしょ! わたしのカラダに欲情しまくってるくせに……。フミエちゃんがそ
ばにいるだけで犯されている気分だわ!」
 ヤサコが顔を横に向けて、「最っっ低ッ!」と吐き捨てた。
「このッ……!」
 怒りで言葉を詰まらせたフミエが、勢いよく右手を振り上げた。けれども、感情に任せての行
為は、その途中で力なく減速した。振り下ろされた右手の平が、ヤサコの頬で、ぺちんっ…と
情けない音を立てた。
 二人とも、無言だった。
 ヤサコに馬乗りになっていたフミエが、ゆるゆると彼女のカラダから降りていく。
「……思いっきりぶてばよかったのに」
「暴力キライなのよ」
 二人が唇を重ね合わせて、いったん言葉を閉じる。すぐに離れた唇同士が、また言葉を紡ぎ
出す。
「ヤサコは、優しくされるのが好き?」
「うん。あまり乱暴にされるとこわいよ」
 フミエが、ヤサコの背に両腕を回して、彼女のカラダを優しく抱き包んでやる。それに応える
ように、ヤサコもうっとりとフミエの背に両腕を絡める。
「じゃあさ、イジメられるのは?」
 フミエが、ヤサコの目を覗き込みながら質問する。しばらくして、ヤサコが恥ずかしそうに答え
た。
「優しくなら……好きかな」
「じゃあ、毎日優しくイジメてあげたら、あたしのこと好きになる?」
 ヤサコは答えずに、くすくすと笑って逃げた。一瞬だけマジな目付きだったフミエも、肩の力を
抜いて「あはは」と笑った。
 いつの間にか和やかになっていた雰囲気で、二人がじっと見つめ合う。言葉を交わしていな
い状態でも気まずくない。沈黙の中で、二人がお互いの息遣いを感じあう。くっつけ合った肉付
きの薄い胸板の上で、お互いの心臓の音が重なってハーモニーとなる。

 二人がそっと目を閉じて、
 キスで唇のやわらかさを確かめ合う。

 フミエと溶け合っていたヤサコの意識が、無粋に呼び戻された。
「電話…」
 ヤサコのメガネが、静かにコールを受けていた。
「きっとイサコの奴よ。くそっ、女のカンで邪魔しにきたのね」
 フミエが声に怒りを含ませて、ヤサコの体から離れた。そして、ヤサコに興醒めした目を向け
て、出れば?と素っ気ない態度を示した。
「う、うん、ゴメン」
 身を起こしたヤサコが片手で指電話を開いて、「もしもし?」と電話の向こうの相手に声をか
けた。フミエの言った通り、相手はイサコだった。
「イサコっ!」
 ヤサコの表情がパァっと明るくなる。イサコが相手の時だけに見せる、特別な表情だ。
(何よ、ヤサコったら…)
 フミエがむくれて、あぐらを組み、両手を後ろについて上半身を支える。もちろん、その座り方
だと、大切な女の子の股間がしっかりと『開けっ広げ』だ。
(もうっ)
 楽しく電話中のヤサコが、それを見て、はしたないなぁと表情をしかめる。
「ふんっ」と鼻を鳴らして、フミエが右脚を持ち上げた。つま先で、五本の短い指がワキワキと
動いていた。よく動く指だ、と感心すると同時にヤバい気配を感じて、ヤサコがさっと身を引い
た。
(甘いっ!)
 フミエの足が伸びて、ヤサコの尻を捉える。つるりと丸みを帯びた尻の表面で、フミエの足の
指がわしゃわしゃと動いて、ヤサコが「きゃあっ!」とくすぐったそうに悲鳴を上げた。
『どうした!? ヤサコッ!』
 イサコの声が緊張を帯びる。慌てて、ヤサコが取り繕う。
「う、ううん、何でもない。ちょっとゴキブリが…ね……」
『ゴキブリ?』
「うん、あれっ…、見間違いかなぁ……?」
 わざとらしく答えるヤサコが、視線に力を込めて、フミエの動きをけん制する。
(フミエちゃん、電話中なのよっ)
 だが、その甲斐もなく、フミエの足がまたヤサコの下半身へと触れてきた。今度は、太ももの
間に入り込もうとしているのを見て、ヤサコが急いで股をギュッと閉じた。
『……ヤサコ、聞いているのか?』
「えっ?」
 フミエとの攻防に気を取られて電話どころではないが、それをイサコに言うわけにもいかな
い。
「ごめん、イサコ、なんだっけ…?」
 フミエのいるベッドから退避しようと、ヤサコが彼女に背を向けた。しかし、素直に出してもら
えるわけはなく、無防備を晒した背中に、ぴったりとフミエが密着してきた。
(ヤ・サ・コ〜♪)
 フミエが指電話で拾えない程度の小声で呟いて、耳の後ろに『フゥ〜っ』と息を吹きかけた。
びくんっ!と身をすくませて、ヤサコが悲鳴を上げてしまった。
「ひぃっ!」
 こっちの声は、電話を通じてイサコに届いた。
『ヤサコッ!?』
「ち、違うのイサコ、ちょ…ちょっとネズミが……」
『今度はネズミかっ!?』
 電話の向こうで、イサコが軽く混乱する気配がした。
(フミエちゃんッ、電話中だってば〜〜!)
 後ろから腰に回されたフミエの両手が、スルスルと下へ降りていこうとした。
(ダメっ!)
 ヤサコが、フミエの手が到達するよりも早く、指電話を使ってないほうの手で股間をしっかりと
押さえた。
(チッ…)
 フミエが舌打ちするも、しかし、彼女の優勢は崩れない。これでヤサコの両手は封じたも同
然。左手をそこに残したまま、右手がヤサコの肉体のラインに沿って、舐めるように上へと…
…。
(―― ッ!)
 ヤサコが気付いて、激しくカラダをくねらせて逃れようとした。
(無駄無駄っ……ほ〜ら、つかまえたッ)
 前屈みになってあがいていたヤサコの胸を、フミエの手が捉えた。乳房とはまだ呼べない浅
い肉付き。胸の上に微弱な丸みを描いただけのふくらみの、その先っぽを、フミエの指が優しく
つまみ上げた。
「あっ…あッ!」
『今度は一体何だっ!?』
 ちっちゃな乳首を、フミエが馴れた指使いでクニクニとしごき上げてくる。たまらず、ヤサコが
股間を押さえていた手を上げて、フミエの右手首を掴んだ。待機していた左手が、すかさず、
ヤサコの股間に滑り込んでくる。
 ちゅぷっ…。
 その音と共に、ヤサコの腰がガクガクと砕けそうになった。こんな状況なのに、すごく感じてし
まう。もし、これがイサコにバレたら ―― そう思った瞬間、
 ―― ゾクゾクッッ!!
 腰の奥から甘美な痺れが、強烈に跳ね上がってきた。
「くぅッ…ダメっ……!」
『―― ッ? ―― ッ?』
 一瞬の絶頂に意識を白く染められたヤサコの鼓膜を、イサコの声が揺さぶってくる。頭がぼ
ーっとしてしまって、何を言っているのか理解出来ないが、きっと自分の事を心配してくれてい
るのだろう。心の中で、ぼんやりと(ありがとう)と呟いてみた。
(ほらほら、ヤサコ、何か言わないと。イサコ、随分と怪しがってるわよ) 
 こつん、こつんとフミエが後ろから弱い頭突きをかまして、ヤサコを正気づける。
「あっ……ごめん…イサコ、ウッ……ちょっと…あンッ…電波の状況悪いみたいなの」
 乳首と下半身の無垢な恥裂を同時にいじり回されながら、ヤサコがとろん…とした声でイサコ
に言った。
「はっ…またっ……今度……電話っ…するから……」
『…分かった。なぁ、ヤサコ、オマエ風邪でも引いてるんじゃないのか。調子変だぞ?』
 ヤサコは答えられなかった。イサコが電話のすぐ向こうにいるというのに、肩越しに首を伸ば
したフミエに、堂々と唇を奪われていた。
「……ンぐっ」
 だらり…と口の中に流し込まれてきた唾液を嚥下する音。指電話は、その音をどういう風に
拾ったのだろう? 虚ろに考えるヤサコの舌を、フミエの舌がピチャっと舐めた。ヤサコもお返
しに、フミエの舌をピチャピチャと舐め返した。
 イサコと電話が繋がっている状態で…………ヤサコがたまらなく興奮する。この唾液の跳ね
る音を彼女に聞かれている ―― ヤサコの理性が淫靡な熱で蕩けていく。
『オイっ、ヤサコ、大丈夫なのかっ?』
「ん……風邪じゃないから、平気。……本当にゴメン、もう切るね」
 ごめんね、イサコ ―― 理性がこれ以上溶けてしまう前に、指電話の機能をオフにした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 気が付くと、室内を染める色は、宵刻の蒼から、夜の黒へと変わっていた。
『ちゅぷっ…チュッ……ちゅるっ……』
「あぁぁッ、いやっ、フミエちゃんっ、歯立てちゃ……ンッ……イヤァッ……ああんッ!」
 フミエの口が乳首を吸いしゃぶる音よりも大きく、ヤサコが異様に昂ぶった声を上げる。
 ベッドの上を細い体がのたうって、シーツを汗で湿らせていく。
「どうしたのよヤサコ、今日はメチャクチャ乱れてるじゃない。そんなに興奮した? イサコに、
エッチな声聞かれちゃうの」
 首肯したヤサコが、一際高い声を上げて、びくんっ!と背を弓反らせた。コリコリと硬くなった
乳首を、フミエが軽く噛み付いてみせたのだ。
「あああぁぁぁぁぁーッ」
「ふふっ、今日のヤサコは本当にいい声で鳴くじゃない。この声を、イサコの奴にも聞かせてや
りたいわ。どんな顔するかしら?」
 軽く噛まれただけだというのに、ビンビンに感じてしまっている乳首を、フミエの人差し指が弾
いた。「あひぃッ」とよがり声を上げて、ヤサコがまたビクンッ!とカラダを跳ねさせた。
「ふふふ…」
 フミエの口がようやくヤサコの乳首から離れて、よりキモチイイ所へと移動を開始する。
 未成熟なふくらみに這わせた舌が、浅すぎる胸の谷間に滑り落ち、舌先をチロチロと踊らせ
ながら、ヘソまで下りていった。
「ん…かわいいおヘソ」
 ヤサコのヘソのくぼみを、すぼませた舌先で丁寧に掃除したあと、置き土産として、そこにた
っぷりと唾液をこぼしてやった。
 ヤサコのカラダに唾液の跡を刻んで下降していくフミエの舌が、腰のラインを割った。
「アッ……フミエちゃん、早くぅ……」
 待ちきれず、ヤサコが切なげな声を出す。下半身だけでブリッジを行うみたいに、腰をフミエ
の顔の前にグイッと持ち上げた。
 急にやられたので、フミエが「うわっ」と驚いた。
「ははっ、ヤサコったら、すっかり発情しちゃって」
 太ももの内側までベトベトに濡らした恥部にまじまじと視線を送りつつ、牝の愛液臭をいっぱ
いに鼻から吸い込んだ。今日の臭いは格別。鼻腔がただれそうなほど甘酸っぱい。
「ヤサコの臭い……美味しい……」
 フミエが、ズーっ、ズーっと鼻息荒くその臭いをむさぼった。興奮して擦り合わせた自分の太
ももの間が、ジットリと気持ち悪くぬめっている。
「こんなイイ臭い嗅がされたら、あたしもうガマン出来ない…よっと……ハイ、御開帳♪」
 愛液でビチャビチャになっているヤサコの恥裂に両手の親指をかけ、おどけたセリフを口に
して、グニッと左右に広げた。
「あっ…」
 ピクンっと、ヤサコのカラダが反応する。
 粘液にまみれた内側の淫肉は、処女という事もあって、かなり綺麗だ。ベッタベタに淫蜜を塗
りたくられた処女膣の入り口を見て、性的に興奮状態にあるフミエは(美味しそう…)と、ごくり
…とツバを飲んだ。
「ああッ…鼻が変になりそう」
 空気ではなく、むせ返るような牝臭を呼吸しながら、フミエがヤサコの股間に顔を密着させ
た。
「アアッ、フミエちゃんッッ!」
 ヤサコが歓喜の声を上げる。カラダで一番淫らな部分で、フミエの唇とキスする快感。恥裂
の内側に溢れていた愛液を、フミエが飢えた犬みたいに激しい舌使いで舐め取っていく。
「死んじゃうよ……そんなにされたら死んじゃうよぉッ! ああ ―――― ッッ!! 」
 とろとろになった膣肉を割って奥に潜り込んでくる舌の感触に、ヤサコが身体をビクンッと折
り曲げて叫んだ。
 ぞくっ…ぞくっ…と背筋を這い登ってくる快感の信号が止まる気配をみせない。苦悶と歓喜の
入り混じった顔で、ヤサコが嬌声を撒き散らした。
「フミエちゃん、イイのっ…すっごくイイのぉッ」
(もっと……イイことしてあげるわよっ!)
 フミエが、愛液にまみれて真珠みたいにテカッていたクリトリスに『ちゅぅぅッ』とキスをしてや
る。ガクンッ!と瞬時にヤサコの腰がベッドに崩れ落ちた。
「皮の上からなのに、そんなに感じてどうすんのよ、ヤサコ。ほら…こうしたら、もっとスゴイわよ
ぉ」
 上目遣いでヤサコの反応を窺がいながら、舌先で上手にクリトリスの包皮をむいて、まずは
優しくキス。
「ふあっ…」
 ヤサコの腰がビクンッ!と跳ねる。
「はーい、では、もういっちょ♪」
 フミエの口が容赦ない『ぢゅるぅッッ』という音を立てて、クリトリスを吸い上げた。
 ビクビクッ! ビクッッ!!
 喘ぎ声も出せないほど気持ちよかったのか、ヤサコが口をパクパクさせて、快感の涙をベッ
ドに散らした。ぐぐっ…と弓反っていた背中がベッドに着地するのを待っていたかのように、三
回目。
「あっ…あああッッ! やっ……フミエちゃんっ、ダメッ、オシッコ漏れちゃうッッ!」
「はははっ、漏らしなさいっ。あたしが全部飲んであげるから」
 冗談とも本気ともつかない調子で、フミエがそう口にした。
「あー、全部飲んじゃダメか。イサコにおすそ分けする分は、ちゃんと残しとかないとね」
「イヤイヤっ、やめてっ!」
 ヤサコが顔を真っ赤にして恥ずかしがる。その様子を笑っていたフミエが、そろそろいいかな
…とヤサコの恥部から顔を上げた。こっそり太ももを擦り合わせて堪えていた秘所の疼き具合
が、もう我慢出来ないぐらいに激しい。
(うッ…やだっ……あたしのココもスゴイことになってる……)
 切なげな溜め息をこぼし、フミエがぶるぶるっと身体を震わせた。ヤサコに「……そろそろす
る?」と呼びかけてみる。
 ヤサコは、躊躇うような間を持たせてから小声で答えた。
「今日は……床でしたい」
「はぁ?」
「そのね……ちょっと乱暴にしてもらいたいの。犯す……みたいに……」
「あんた、優しくされる方が好きって言ってたじゃん」
「今日だけ。……ダメかな?」
「いいわよ、オーケー。乱暴にレイプしてあげる」
 そして、あまり足腰に力の入らなくなった二人が助け合ってベッドから降りて、床へ。
 ゆっくりと寝そべっていくヤサコの背に、ひんやりとした床の硬い感触が染み入ってきた。暖
かく柔らかなベッドでする時とは違い、肉体的な性欲の対象として惨めに貶(おとし)められてい
る気分。
「フミエちゃん」
「ん?」
「……すごくゾクゾクしてきた」
「マゾ」
 表情にウズウズと期待を載せるヤサコを一言で切って捨て、床に寝そべった彼女の左ひざ
の裏に手を這わせて、軽く脚を持ち上げる。
「…ンッ」
 ぶるっ…と身震いしたヤサコが、腰をわずかに浮かすと、その下にフミエの左脚が深く滑り込
んできた。
「よっこらせっと」
 フミエがオバサンくさい声を上げて、ヤサコの左太ももの付け根に、自分の右脚をどかっと乗
せる。お互いの両脚の間で、下半身同士がくっつき合う。
 上体を起こしたままのフミエが、濡れそぼった二つの股間を覗き込む。
「こんなカンジで……よしっと」
 フミエが腰の位置を微調整して、気持ちのイイ部分同士をぴったりと密着させた。
「ああんっ」
 ヤサコの色っぽい喘ぎが、『ピチュっ』と濡れた水音に重なった。
「くっついたよ、ヤサコ、分かる?」
「うん。……フミエちゃんの、熱い」
「興奮してるのよ、ヤサコを犯したくて」
 フミエが、なまめかしく腰を上下に揺すった。愛液でぐっしょり濡れた恥裂で、ヤサコの淫部を
舐め回すような動き。女の子同士が、股間で行う官能的なキス。もっと深いキスが欲しくて、ヤ
サコが腰を悶えさせた。
「フミエちゃ……ん……」
「ほんとイヤラシイ子。これからは、『ヤラシイ子』っていう意味で、ヤラコって呼んであげるわ。
いいわね、ヤラコ」
「そんな名前やだよ……あぁっ」
「ほ〜ら、ヤラシイ子のヤラコちゃ〜ん、どうしたのぉ? 自分の名前呼ばれてんだから、返事
ぐらいしなさいよぉ…」
 ヤサコを侮蔑的な名前で呼び、フミエが汗ばんだ額を手の甲でぬぐった。イキたがっている
彼女の様子を眺めながら、腰の動きを止めた。10秒と持たずに、ヤサコが腰を揺すってせが
んできた。
「あんっ、お願いっ、フミエちゃ〜ん……わたしのこと、ヤラコって呼んでいいからぁ」
 フミエがくすっと笑って、ゆっくりゆっくりと腰を動かし始めた。ヤサコを焦らして、生殺し状態
に追い込む。
「ヤ・ラ・コ♪」
「あ〜ん、フミエちゃんっっ」
「ヤラコ、名前呼ばれてんだから、返事くらいちゃんとしなさいよ。ほら、ヤラコっ!」
「ハイ……ハイッ」
「ヤラコ、優しくされたい? それとも激しく?」
「はいっ、激しく……してほしいですっ」
「あははっ、今のあんた、すっごく可愛いわよ、ヤラコ」
 フミエが声を弾ませて笑った。そして、ヤサコを攻める腰の動きが、だんだんと熱を帯びてい
く。くちゅくちゅくちゅ…と密着部分で二人分の淫水が捏ね合わされ、発酵しながら泡立つ。
「あんっ、あンっ、フミエちゃん…フミエちゃんッ……」
「ヤラコ、もうイキたい?」
「はいぃぃ……イキ…たい、です」
「じゃ、た〜〜〜っぷりとイージーメーてぇ、あ・げ・る」
 ニタリ、と心底イジワルそうに微笑みを浮かべるフミエが、ヤサコのカラダを見下ろしつつ、メ
ガネを起動させた。ヤサコの上半身を埋めるみたいに空間に湧出したキーボードとモニター。
ヤサコの秘所を攻める腰の動きがペースダウンしたのと対照的に、フミエの指が猛スピードで
キーボードを叩き始めた。
「ふふふふふふふふっ……」
「フ、フミエちゃん?」
 ヤサコがハッと気付いた。かなり強引なやり方で、自分のメガネがハッキングを受けている。
「フミエちゃんっ、何をしてるのっ? ねえってば!」
 ヤサコのメガネの左レンズに、細やかな電光文字がビッシリと浮かび上がって、高速でスク
ロールしていく。そして、フミエの作業終了と同時に、文字がピタリとかき消えた。
「い、一体何をしたの?」
「大丈夫、ちょっと邪魔なパッチを外しただけ」
 キーボードとモニターをしまい、フミエがいつもと変わらぬ笑顔に戻った。
「ヤサ…じゃなくてヤラコ、想像妊娠って言葉、知ってるでしょ?」
 ヤサコが頷くと、フミエが説明を続けた。
「メガネをかけたままセックスすると、たまにね、電脳体情報の誤認識が起こって、電脳体のほ
うだけに、妊娠の症状が出ちゃうケースがあるのよ。電脳体だから、いくら妊娠しても子供生む
ことは出来ないんだけどねぇ」
 いわゆる電脳体的想像妊娠ってやつよ、とフミエが付け加えた。
「……フミエちゃん、さっき外した邪魔なパッチって、もしかして……?」
 こわごわと訊いてくるヤサコの顔を見返して、フミエが喉の奥で「くくっ」と笑った。
「そうよ、こんな事が起きないようにするために、各メガネに自動ダウンロードされてるパッチ」
「そんな ―― ッ!? …やッ、ダメッ!」
 動いているフミエの腰を、ヤサコの両手が慌てて押さえる。それでも、フミエが強引に続けよ
うとする。汗ばんだ全裸のカラダを揺すって、腰を娼婦のようにくねらせて、自分が一番感じる
部分で、ヤサコの一番感じる部分を攻め立てる。
「あれ、どうしたのよ、ヤラコ。イキたいんじゃなかったの? ガマンせずにイッていいのよ? 
ほらほらぁ、手から力が抜けてるわよぉ」
「くうぅ…」
「だいたい6パーセントぐらいなんだって、電脳体の想像妊娠が起きる確率。でもね、言っとくけ
ど、激しいイキ方したら、妊娠する確率跳ね上がるわよ!」
 顔いっぱいに広げられた意地悪な笑みに、ヤサコが怖がって身をすくめた。それがフミエの
嗜虐心を煽り、腰使いが一段と激しくなった。
「ひゃあぁっ、嫌っ…嫌っ……フミエちゃん、腰止めて……ダメぇぇぇ」
「止められるワケないじゃないッ。ヤラコの電脳体を妊娠させられるって考えただけで、腰の奥
のゾクゾクが ―― あああぁンっっ!」
 欲情に任せて振り乱している腰の深い所から、官能の疼きが湧き上がってくる。少女の膣内
を打ち寄せるのは、甘美な波。フミエが両目を閉じて、甘ったるい声で酔いしれた。
「すごい、最高に素敵な気分じゃない……」
 うっとりと洩らしたフミエが、じっとりと汗をかいた額に張り付く前髪をザッとかき上げた。二人
の密着した股間に響き合う、『クチュクチュ…』と淫蜜が跳ねる粘っこい音に聞き惚れる。
「うっ……ぷはぁっ」
 息を止めた状態で、グッと腰を力ませ、イクのを耐えようとしていたヤサコが、自然瓦解した。
無駄に終わった涙ぐましい努力を、フミエが笑い飛ばす。
「あははははっ、何やってんの、ヤラコ? ヤラシイ子のヤ・ラ・コ♪ あっ、そうだ!」
 名案を思いついたという風に、フミエが胸の前でパチンっ!と両手を合わせた。
「……ヤラコ、もう許してほしい?」
 即、首を縦に振るヤサコ。フミエが魔女の笑みを見せて、腰使いを緩めてやる。
「じゃあ、あたしの質問に答えて、ヤラコ……ううん、ヤサコ、あなたが一番好きな人の名前を
あたしに聞かせて。それから、一番嫌いな女の名前も」
「うっ…」
 言葉を詰まらせたヤサコが、逡巡の気配を見せた。だが、それに対して、フミエが腰使いを
荒くして、強引に答えを迫る。
「ほらほら、答えてなさいヤサコっ、あんたの一番好きな人の名前はっ?」
「フ…フミエちゃんですっ」
「そうよっ、ヤサコ! さぁ、一番嫌いなヤツの名前も言いなさいッ」
「…………」
「早く言わないと、妊娠させるわよッ!?」
 ヤサコがぶんぶんと首を左右に振った。キッと睨むみたいにフミエの顔を見上げる眼差しに
は、強く、真っ直ぐな輝きが宿っていた。
「言い直すわっ、わたしが一番好きな女の子の名前はイサコっ! わたしが今、一番嫌いな女
の子はフミエちゃんっっ!!」
 ハッキリと鼓膜に届く、その声。一瞬、頬をぶたれたみたいに、フミエが表情を無くした。でも
次の瞬間には、直情的な性格のフミエを、怒りの感情が支配していた。
「ヤサコッ、今何て言った!? もういっぺん言ってみなさいッ!」
「怒鳴らないでよッ! フミエちゃんは下品よっ」
「下品結構! どうせあたしはこういう女なのよッ!」
 ヤサコと真っ向から睨み合ったまま、フミエが猛然と腰を振り始めた。愛液をローションにし
て、とろとろにぬかるんだ恥部のワレメ同士を激しく擦り合わせる。
「ああぁッ…くッ」
 悶えながらも、ヤサコは、フミエへと真っ直ぐ向けた眼差しをそらさない。しかし、フミエの容
赦ない腰使いが責め立てているのは、ヤサコの肉体で一番快感に対して脆い部分だ。ニュル
ニュル…と二人の股間の滑りを良くしている愛液が飛沫となって、派手に飛び散る。ヤサコの
虚勢も長くは続かなかった。
「あ…アアっ! ダメっ! ンンーッ、アッ!」
 床の上で、ヤサコのカラダが、びくんびくんっ!…と陸揚げされた活きのよい魚みたいに跳ね
る。それを見たフミエが楽しそうに笑う。
「あははははっ、ヤサコってばめちゃくちゃカンジてるじゃない! どう、一番嫌いな女に犯され
て、妊娠までさせられちゃう気分は?」
 くやしさの余り、ヤサコの目に涙がにじんできた。フミエが腰を振る度に、淫らな水音を立てて
歓喜している自分の股間に、すさまじく嫌悪感を覚えた。
「なによっ、妊娠する確率なんて、たった6パーセントなんでしょ!?」
 涙で両目を潤ませながらも気丈に言い放つヤサコに、フミエがギラギラとした眼差しを注い
だ。
(……ねじ伏せてやるッ!)
「だったら、妊娠するまで犯し続けるだけよッ! さいわい、あたしはヤサコとなら何度だってセ
ックスできるもん。……たった6パーセント? その数値、100パーセントになるまで犯してあげ
るわ!」
 ヤサコの顔が強張った。犯されて、電脳体を妊娠させられる……。だんだんと、それが実感
になってくる。
「イサコに見せてあげるわ。妊娠して、ぽっこりとお腹の膨らんだヤサコの電脳体。あははは、
イサコ、どんな顔するかしら?」
「フミエちゃんの……卑怯者! 卑怯者ぉ!」
「何よっ、あたしに犯してほしいって頼んだの、ヤサコでしょ!? 自分が安易に吐いた言葉の
責任は、キッチリ取りなさい!」
 ゾワッ……と背筋を震わすのが、これから妊娠させられる恐怖なのか、それとも、こんな状態
にもかかわらずカラダの芯がとろけそうなほどに湧き上がる快感なのか。
 理性が、暴力的に屈服させられていく。抵抗が出来ない。
(イサコっ……ごめんなさい、もう無理なの! わたしのカラダ……これ以上フミエちゃんに逆ら
えない!)
 フミエの腰使いが、どんどんと激しさを増す。ガクガクと狂ったように揺さぶられるカラダ。もう
耐えられない。膣が熱くなってきてたまらない。このままでは、子宮が熔けてしまいそうだった。
「フミエちゃん……もうわたしッ……あンっ!」
「ンっ……、妊娠する覚悟は出来た?」
(させられちゃう…ッ! 妊娠させられちゃう……ッ!)
 ああっ…と観念したヤサコが虚ろに悶えた。
「フミエちゃんッ、フミエちゃんッ、それでもわたし……イキたいのっっ!」
 ヤサコが右手を伸ばすと、フミエが両手で包み込むようにそれを握った。ヤサコも、その手を
強く握り返した。
(フミエちゃんっ…)
 被虐の悦びに浸っていたヤサコの表情が、一瞬だけ心穏やかになった。
 大好きだよ。
 心の中で洩らした告白もまた一瞬の事。フミエの腰がぐりぐり動いて、愛液でぬかるんだ恥裂
同士による、ディープキス以上の卑猥なくちづけを求めてきた。たちまち、ヤサコの意識が、淫
らな悦びに溺れさせられてしまう。
「いいのっ? 妊娠させるけど、ホントにいいのねッ!?」
「かまわないッ ―― ああぁぁッ、やっぱりヤメテっ、イヤああああッ!」
 この期に及んで、妊娠から逃れようとあがくヤサコが、可愛らしすぎてたまらない。嗜虐的な
セックスに沸くフミエの淫部が、狂おしく昂ぶった。
「往生際悪いッ、イキなさい! このッ ―― くううううぅぅうぅッッッ!!!」
「だめええッ! あああアッ!? ―――― ああッ!? あっ…あぁッ……」
 フミエと下半身同士で繋がっているヤサコのカラダが、壊れたオモチャみたいにガクンガクン
と揺れた。同時にフミエも絶頂に達して、激しい痙攣に見舞われる。
「ああー…、ヤサコ…ヤサコぉ……」
 ビクッ……ビクッ……と絶頂の余韻に震えているヤサコへ、フミエが自分の体を重ねた。自
分と同じくらい細いカラダを、ぎゅっと大切に抱き締める。
 久々の激しい情事のせいで、双方ともかなり呼吸が乱れていたが、唇の距離が近くなると、
ごく自然に二人がキスを交わし合った。
「ひどいよフミエちゃん……」
 キスのあと、ヤサコの唇が、そんな一言をこぼした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「フミエちゃんが悪いんだから!」
 テーブルを挟んで、服を着たヤサコと、服を着た上に身体のあちこちを文字化けさせたまま
のフミエが、向かい合って食事をしていた。
「だからって、あそこまで派手にメガビー乱射することないでしょうに……」
 フミエが不満げに洩らす。ぐったりしているヤサコをスキャンして、電脳体の妊娠の有無を確
認した直後のことだった。損害は、お年玉換算で二ヶ月分。
 テーブルの上に並んだ料理に箸を伸ばしながら、フミエがあっけらかんと笑う。
「まっ、妊娠してないみたいだし、ヨカッタじゃん」
 そう言ったあとで、「本当はちょっと残念…」とフミエが小さく舌を出した。
 優しい子と書いて、ヤサコ。彼女がその名の通に相応しい優しげな微笑をこぼした。
「ひとつだけ聞かせて。フミエちゃんがわたしを妊娠させようとしたのは、単なるイジワル?」
「もちろん、そうよ」
 しばらくフミエの顔を見つめていたヤサコが、苦笑じみた溜め息をついた。
「もう、素直じゃないなぁ」
「ウルサイ。てゆうか、あんたの手料理すっごくマズい」
「えーっ、せっかくフミエちゃんのために作ってあげたのにーっ」
 そういえば、さっきからフミエが箸をつけている料理は、全てレトルトで間に合わせたモノばか
りだ。
「マズくなんかないよぉ…」
 やや自信なさげに、ヤサコが自分で作った料理に箸をつけ、おそるおそる口の中に入れて
みた。咀嚼するヤサコの顔が、だんだんと微妙になってくる。
「まったく、どういう味付けをしたんだか」
 咀嚼するばかりで呑み込もうとしないヤサコの顔を見て、フミエが溜め息を付いた。
「ホラっ、それ寄こしな。あたしが食べてあげるから」
 フミエがテーブルの上に身を乗り出して、顔をヤサコのほうに近づけた。「んっ」とヤサコのほ
うからも顔を近づけ、すっかり咀嚼された上に、唾液をたっぷり含んでドロドロになってしまった
料理を口移しする。
(んんっ……)
 ペースト状の料理本体を嚥下したあとも、フミエの舌が甲斐甲斐しくヤサコの口内を舐め回し
て、こびり付いていた食べカスをキレイに掃除してやる。オマケで、唇もペロリと舐めてやった。
「えへへ、フミエちゃん優しい」
 そう言って、ヤサコがまた自分の料理に箸をつけた。
「じゃあ、わたしが噛む係、フミエちゃんが食べる係ということで……」
「んな下らないこと言ってると、イサコのとこに嫁に行っても、すぐ返品されちゃうわよ」
 フミエの白い視線に晒されて、バツの悪そうに笑っていたヤサコだが、ふと手元に視線を落と
して、「でも…」とつぶやいた。
「その時は、フミエちゃんがわたしをお嫁にもらってくれるから……」
 ヤサコの顔がほんのりと紅潮した。まともに顔を上げることが出来ず、上目遣いでフミエを見
る。
「あのね、フミエちゃん、誤解しないでほしいの」
 ヤサコが恥ずかしそうに顔を伏せて続けた。
「わたしね、イジメられたり、犯されたりして悦んじゃうような女の子だけどね、でも、それって相
手が……フミエちゃんだからだよ」
「ぐあっ!?」
 突然フミエが変な声を上げた。鼓膜がくすぐったいような、痒いような……。さっきまでマズい
マズいとおもっていたヤサコの手料理が急に美味しそうに思えてきて、無性に食べたくなった。
「ほらほら、噛む係、ちゃんと仕事する。こっちはお腹すいてるんだから!」
「は〜い」
 ヤサコが料理を口に含む。噛み始めたばかりの口へ、フミエの唇が押し付けられる。
(んむっ、フミエちゃん……まだだよぉ)
 咀嚼する歯や歯茎を、フミエの舌がチロチロと舐めてくる。
(フミエちゃ〜〜ん)
 ヤサコの口の中にドロドロと溜まった、咀嚼と唾液で調理された温かな料理を、フミエの舌が
こそぎ取っていく。口の中がキレイになっても、フミエの舌は出て行かなかった。ヤサコの舌を
優しく絡め取り、愛情をたっぷりこめて吸いしゃぶる。
(フミエちゃん……)
 重ね合わせた唇から、『ぴちゃぴちゃ』とお互いの舌を舐め回す濡れた音が響いてくる。二人
は食事のことも忘れて、長い長いキスに酔いしれた。

おわり