砂上の相愛


 足元の感覚は、砂。
 下がろうとするたびに、サラサラと崩れて後退の足を絡めとる。

 最初は、年上の思い人に贈る花束の相談だった。
 それがハヤトと花咲みずきとの出逢い。
 花屋が似合う人だ。……それがハヤトにとっての第一印象。
 清楚な容貌。メガネのレンズを通して、柔和な瞳がハヤトを見つめてくる。
 やわらかな物腰には、母性的な魅力があふれていた。
 人妻として、一児の母として、つつましやかに振舞う大人の女性。
 みずきは少年の目線の高さに合わせ、無防備なほど近く顔を寄せてきた。どの花にするかを
ハヤトと一緒にじっくり考えてくれた。
 花束を買って店を出てからも、ハヤトの耳には甘やかな声の響きが残っていた。

 次に店を訪れた時、ハヤトは買うつもりも無いのに、みずきに花束選びのアドバイスを求め
た。この前よりも二人の顔の距離は近かった。
「ハヤトくんが花束を贈る相手って、どんな人?」
「…………」
 中学二年になる自分の娘より若い少年が、純情に顔を赤く染めてプイッと背けてしまう様子
を、みずきが優しく両目を細めて眺めた。
「わたしみたいなおばさんに比べたら、ずっと綺麗な人なんでしょうね」
「…らい……です…」
 顔を背けたまま、ハヤトが何かを言った。「ん…?」とあどけなく首をかしげて、みずきが聞き
返す。ハヤトがゆっくりと首を戻して、今度は聞こえるようにはっきりと言った。
「おばさんと…同じくらい、綺麗です」
「…本当に?」
 みずきが、いたずらっぽくハヤトの顔を覗きこむ。ハヤトはどぎまぎして言葉を詰まらせなが
らも精一杯うなずいてみせた。
「ふふっ、おばさん嬉しいわ。ハヤトくんみたいな素敵な男の子に褒めてもらえて」
 甘い微笑み顔でハヤトの心をくすぐる。少年は、文字通り耳まで真っ赤になってしまい、そん
な彼のウブさを、みずきは飽きずに愉しんだ。
「そうだ。…ねえ、ハヤトくん、おばさんに花をプレゼントしてくれない?」
「花?」
「うん。ハヤトくんから、わたしへの贈り物。それとも ――― ダメかしら?」
 そう言ってわざと表情を曇らせてみせただけで、効果は抜群。

 さんざん迷い抜いた挙句にようやく選んだ花を、みずきは静かに受け取った。
「これ、おばさんが一番好きな花なのよ」という、心からの言葉を添えて。
「…よ…よかったじゃん…」
 ハヤトは心がざわめくのを、照れくさそうな態度でごまかした。

「ハヤトくん」
 彼の帰りを見送りに出た店先で、少年の手の甲をそっと触れ、
「次は ――― この日に来てくれる?」
 そう言って日付を告げた。
「この日はね、主人は用事があって出かけちゃうの。娘も部活があって、もしかしたら遅くなる
かもしれないし……」
 ささやくような小声で続きを話す。
「おばさんね、まだ全然ふくらんでないけど、お腹の中に赤ちゃんがいるの。だからね、もし何
かあったらどうしようかと思って」
 女性のか弱い部分を見せて、少年の中に芽生えている"男"を刺激する。
「おばさんのボディガード、引き受けてくれるかしら?」
 人妻のほっそりしたウエストに目をやってから、ハヤトが<男として頼られたという誇り>に表
情を輝かせて、まっすぐにみずきの瞳を見返した。
「大丈夫だよ、その日はオレ、学校が終わったらすぐにここに来るからっ」
 みずきは、いかにもホッとした風の表情を作って、やわらかな笑みを浮かべた。
「……じゃ、待ってるわね」
 ハヤトの手の甲にあったぬくもりが遠ざかった。離れてゆく手の平の感触。反射的にハヤト
の手が追いかけて、みずきの手の指先を握りしめる。
「 ―――― っ!」
 思わず取った自分の行動に、ハヤトが言葉をなくす。
「こーら、ハヤトくん…」
 少年の手を握り返してくる、やわらかな指の動き。
 みずきがハヤトの耳もとに唇を寄せ、甘ったるい口調でささやく。
「……こんなことされたら、おばさん……うれしくなっちゃうでしょ?」
 数秒の間、固く握り合っていた二つの手が、今度こそきっぱりと離れた。でもまだ視線は繋が
っていた。
「ハヤトくん、次に来た時は花選びのアドバイスじゃなくて、もっとイイことを教えてあげる」
「えっ?」
 ハヤトの唇に、立てた人差し指が当てられて、それ以上の言葉を封じてしまう。
「ハヤトくんの恋が成就するよう、おばさんが手取り足取り…………期待してて」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『フラワーショップ花咲』は、その日、臨時の定休日となった。みずきの体調を慮って、出張する
前に夫がそう勧めてくれたのだ。娘はまだ学校から帰ってきていない。
 花咲家の夫婦が使っている寝室には、ハヤトと、みずきの姿があった。

 みずきの「服を脱いで」という言葉に、ハヤトが戸惑いながらも従う。けれど、みずきが隣にい
るせいか、緊張して手がうまく動かない。
「大丈夫よ、ハヤトくん、わたしが脱がせてあげる」
 少年のたどたどしい手付きに母性を刺激されたのだろう。先に下着姿になったみずきが、メ
ガネの奥の瞳を優しげに細めて、少年の衣服に手をかけた。
「お風呂に入る時、ハダカになるでしょ。それと同じよ。…ねっ?」
 少しでも彼の緊張を解きほぐしてあげようと、穏やかな口調で語りかける。けれど、ハヤトの
注意はもう、ブラジャーという薄絹一枚で覆われた乳房の大きさに奪われてしまっていた。
「…さわりたい?」
 ハヤトの視線に気付いたみずきが、ズボンを脱がしながら尋ねる。返事を聞くまでも無く、彼
の一部はとっくの昔に硬くなって自己主張をしていた。
(まぁ…。ハヤトくんたら)
 かわらしい股間の張りに、みずきが心の中で忍び笑いを洩らした。
 最後の下着一枚の姿になったハヤトは、自分の身体ほど素直になれなかった。にこにことパ
ンツまで脱がそうとするみずきに、「ちょ…ちょっ、ちょっと待ってっ」とストップをかけた。
「どうしたの、ハヤトくん? わたしのおっぱいじゃ嫌?」
「ち…ちがうよ。でも……おばさんって、結婚してるんでしょ」
「わたしはね、ハヤトくんの力になりたいの。今からすることは、あなたが恋した相手と結ばれ
た時のための大事な練習なのよ」
 みずきが、包みこむような笑顔でにっこりと笑ってみせた。
「それからね、今日はわたしのこと、おばさんじゃなくて『みずき』って呼んで」
「み…みずき、さん…」
 クスッと笑って、みずきが首を横に振った。
「さん付けはしなくていいの。みずきって、呼び捨てにして」
「で、できないよ」
「ふ〜ん? それじゃあ……ハヤトくんの欲しがってるこのおっぱいはお預けね」
 みずきがゆっくり後ずさって、自分のベッドに腰を下ろした。たおやかな両腕が彼女の胸の下
で組まれる。メガネのレンズの奥から、微笑みに満ちた眼差しがハヤトを見つめていた。
 たっぷりと量感のある乳房は、組まれた両腕からこぼれそうなほど重たげだ。ブラジャーが
窮屈そうだとハヤトは思った。
「お預けでいいの? ねえ、ハ・ヤ・ト・く・ん?」
 甘い声で呼びかけて注意を引き、上半身をわずかに前かがみにする。
 乳房の重量感がより強調され、ハヤトが息を呑む。
「みっ…」
 みずきの発する色香に、少年は逆らえなかった。
「みずきっ!」
「うん、来て…ハヤトくん、まずはブラジャーの外し方、教えてあげる」

 人妻の白い乳房が、そのやわらかな肉質をハヤトの目に晒した。熟れた乳肉の頂点を彩る
のは、色素の濃くなってきた乳輪と、ぽってりと尖った乳頭。
 妙齢の女体だが、まだ若い頃の肌の張りも残っている。
 手加減のわからぬ少年の手が、ぐいっ、と乳房を掴む。脂肪の軟らかさと、微かな弾力。
「ハヤトくん、わたしのおっぱい…どう?」
「やわらかくて気持ちいいっ」
 左右の乳房が、興奮した二つの手の平によって乱暴に揉みまわされる。綺麗な山を描く乳房
の曲線を愛でることもなく、たっぷりと詰まった脂肪の肉感をむさぼる事に専念していた。
(ハヤトくん、初めてだもの……仕方ないわね)
 むぎゅっ…と乳房に少年の指が食い込み、やわらかな乳肉を絞り上げる。
「……っ」
 みずきが喉の奥で微かな声を洩らした。
 力ずくで揉みこんでくるせいで乳房が痛い。しかし、少年を見守る優しげな表情は変わらな
い。
 みずきが慈母の笑みを浮かべたまま両目を閉じた。乳房を蹂躙する小さな手に感じたわけ
ではないが、彼に対する感情が昂ぶってきたのが分かる。
「う…んっ…、乳首は……あんまり強くいじっちゃだめよ……」
「ごめんっ、痛かった?」
 あわてて謝るハヤトのおでこを人差し指で、つんっ、と突いてみずきが笑う。
「へーき。でも、ハヤトくんの彼女には、もっと優しくしてあげてね。……それよりも、わたしのお
っぱい、思わず夢中になっちゃうほど気持ちよかった?」
「うん! みずき、オレ……みずきのおっぱい好きだっ」
「ふふっ、じゃあね、今度はさらにすごいことしちゃおっか」

 いたずらっぽい笑みを浮かべたみずきが、ベッドに腰掛けたハヤトの正面で両ひざを着い
た。ここで軽い攻防が起こった。
「やっ…やめてよっ、パンツずらすの!」「恥ずかしがらないのっ、男の人のオチンチンなんて
見慣れてるんだから!」「わっ、だめっ、見るなぁぁっ!」「うふっ、かわいっ」
 大人の女性の腕力を持って、抵抗する少年のパンツを強引に剥ぎ取ってしまう。
「〜〜〜〜〜っっ!」
 ハヤトが顔を真っ赤にしてうつむかせ、ギンギンに勃起したペニスをかたくなに両手で覆い隠
す。恥ずかしさのあまり泣き出しそうな少年の顔を見て、みずきも少し反省。
「わかったわ。見ないから、手をどけてくれる?」
 ハヤトによく見えるよう顔を上げ、両目をつむってみせる。しばらくためらっていたが、ハヤト
が渋々と両手をどけた。子供の若々しい肉茎が、ぴんっと元気良くみずきのほうを指す。
「ど、どけたよ…」
「ん、それじゃあ……」
 みずきが上体を乗り出してきた。
 ハヤトの鼻が、成熟した女性のなまめかしい体臭にくすぐられ ―――― 、
「あっ!」
 驚きの声を上げた時にはもう、熱くたぎった少年のペニスは、たわわな乳房によって左右か
ら挟みこまれていた。
(ハヤトくんの……熱いわ……)
 自分の乳房に添えた両手を、ゆっくりと動かしてゆく。
「どうっ? ハヤトくんの好きなおっぱい……ほら、やわらかいでしょう?」
 胸の谷間に埋もれた少年のペニスが、軟らかな乳肉のうねりで優しくこね回される。
 ハヤトは「あーっ…」と「うぅっ…」とか気持ちよさそうにうめくばかりで、返事が出来ない。
(ふふっ、ハヤトくんのオチンチン……もっといっぱい気持ちよくしてあげる)
 ボリュームのある胸の下に両手を回し、激しく揺すってやる。『たぷたぷたぷっ…』と波打つ乳
房のやわらかさに、ハヤトがいっそう大きな歓喜の声を洩らした。
(ハヤトくん……)
 うっすらと両目を開いたみずきが、感じている少年の顔を見上げて陶然とする。
「そうよ、遠慮しないで。家にはわたしたち二人だけだから。気持ちよかったら叫んでもいいの
よ」
 再び両手を元の挟みこむ形に戻し、乳房のやわらかさで包みこんだペニスを、ぎゅっ…ぎゅ
っ…と何度も押しつぶした。
「うああぁっ……みずき、オレっ…めちゃくちゃキモチイイっ!」
「んっ…わたしのおっぱい……よろこんでもらえて嬉しいっ」
 切なげな眼差しで見つめてくるハヤトに、みずきがうっとりと蕩けた微笑を返した。
「はぁっ…はぁっ…、大好きよ、ハヤトくんの……熱いオチンチン……」
 少年のモノを挟む胸が汗ばんできた。
 みずきが左右の手を交互に動かし、乳肉でやんわりと少年のペニスをしごき立てる。乳房の
表面に浮かんだ汗がローションとなり、滑り具合が良い。
 たちまちハヤトが音(ね)を上げてしまう。
「あう、うっ、みずきっ…とめてっ!」
 少年の手がみずきの肩を強く掴んだ。
「トイレ…行かせて……。オレ、もう…出そう……」
 呼吸を乱したハヤトが、弱々しくみずきに請(こ)うた。しかし、みずきはあわててベッドの掛け
布団をめくり、そこに横たわるように指示を出した。
「だめだよ、オレ、本当に…オシッコ……」
「ううん、ハヤトくんのオチンチンから出そうになってるのは、オシッコじゃなくて精子」
 みずきが言葉の説明を加える。
「あのね……精子っていうのは、気持ちよくなった男の人が出す赤ちゃんの種なの。さっ、ハヤ
トくん、早くベッドに横になって。わたしが全部面倒みてあげるから」

 みずきが自分の身体を包む最後の一枚 ――― ショートガードルに手をかけ、大急ぎで脱い
でしまう。なまめかしい肉付きの女体が一糸まとわぬ姿となったわけだが、こうもバタバタして
いては、その匂い立つような芳醇な色香も台無しだ。
 しかし、今はそんなことにかまってられない。みずきにだって女としての矜持がある。初めて
の彼に『暴発』などという無様な真似はさせられなかった。

「ごめんなさい、待たせちゃったわね」
 両方の眉尻を申し訳なさそうに下げ、みずきがベッドに上がる。ハヤトは、おとなしく……とい
うよりも、どこか放心したみたいな顔で仰向けになって天井を眺めていた。
「みずき……オレ、今からセックスするの……?」
 ハヤトの瞳に揺れている不安そうな光を覗きこんで、みずきが優しく笑う。
「これはね、ハヤトくんが愛している人とちゃーんとセックスできるようになるための……ただの
練習。 ――― だいじょうぶよ、今日の事はわたしとハヤトくんだけの秘密だから」
 全裸の少年の腰をまたいで、ゆっくりと尻を下ろしてゆく。
 硬直してまっすぐ上を向くペニスの先端は、カウパー液でぬめっていた。そこに濡れた秘肉を
あてがう。肉唇に亀頭がこすれただけで、脳が甘美さに支配されてしまう。
「ンンっ…」
 みずきの眉根が悩ましげに寄った。少年のペニスに乳房で奉仕していた時点で既に、人妻
の腰の奥は熱く沸き立っていたのだ。
(ハヤトくんのが……入っちゃう)
 背筋を恍惚の震えが駆け上ってくる。
 少年にまたがった姿勢で、みずきが腰を深く落とした。愛液でとろけた膣内に、若々しい硬さ
が潜りこんでくる。
「……っ!」
 ハヤトが聞こえないくらい小さな声でうめいた。股間が溶かされそうな快感に怯えている。とっ
さにみずきが両手を伸ばして、少年の右手を握りしめた。
「ハヤトくん、こわくないわ。ほら、わたしがついてる。……がんばれる?」
 ハヤトがグッと力強く手を握り返してきた。
 快感に溺れながらも、うっすらと開かれた双眸がみずきの瞳を見返して、
「……」
 無言でうなずき、意志を伝える。
 そんな彼を、メガネのレンズを通して、みずきがまぶしそうに見つめた。
「動くわね。ゆっくりするから安心して」
 ハヤトの腰の上で、豊満な尻肉を静かに揺すって、官能の動きを開始する。
 膣襞(ひだ)の熱くとろけた感触が硬い肉茎に絡みついて、みずきの腰使いに合わせて軟ら
かな収縮運動を行う。少年のペニスが、濡れ肉に何度も絞(しぼ)られ、みずきの膣内でビクン
ビクンと痙攣した。
 初めて味わう感覚によって、ハヤトは十秒と持たずに達してしまう。
「うっ、うぅ…うぁっ、みずきっ、ああーっ!」
「いいわっ、いつでも来て、ハヤトくん……全部受けとめてあげるっ」
 人妻の白い肌が上気し、目尻には涙の珠(たま)が浮かんでいた。
 少年の右手をかたくなに握りしめ、みずきが裸体をわななかせた。ハヤトの快感の叫びが寝
室に響き、熱いほとばしりを膣内にぶちまけくる。
(ああぁ……わたしの中に…熱いのが……いっぱい……)
 ハヤとの射精はまだ止むことなく、断続的に、速いペースでみずきの膣内を突き上げてくる。
うら若い少年の精液で膣壁をべったり汚され、得(え)も言われぬ陶酔感に全身が満たされる。
「あああぁぁ……だめ、ハヤトくんのが……。ああっ、とまらないわぁぁっ…!」
 ゾクッ ――― ゾクゾクッッ ―――― 。
 甘美さのあまり眉間に深くシワを刻み、妖艶なヨロコビの表情で喘ぐ。
「あっ、ああぁぁっ……すごく熱いぃ…あぁぁぁぁ……っ」
 腰に力が入らない。
 握りしめたハヤトの右手にすがって、失神しそうな意識を支えた。たいして動いていないにも
かかわらず、全力疾走後のように呼吸が乱れていた。
「だいじょうぶ…? みずき」
 その声で気がついた。
 彼の右手を握るみずきの両手に、優しく左手が添えられていることに。みずきの崩れ落ちて
しまいそうな身体を案じて支えにきてくれたことに。
「………………」
 みずきは返事をすることも忘れた。いつまでもこうしていたいと、ただそれだけを思いながら
両目を閉じた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ベッドの上に横たわった二つの身体が、固く抱擁を交し合う。
 大人と子供……身長差のせいで母子が抱きあっているように見える。
 まだ火照りの収まらない肌を重ねて、情事に耽ったあとの余韻をゆっくりと愉しんでいた。

 人妻の白い肌に顔をうずめていたハヤトが、名残惜しさを振り切って顔を上げた。
「みずき……さん」
 少年は、もうためらわなかった。みずきの顔から視線をそらさず告白する。
「ごめん。オレ、こういうのは、本当はやっちゃいけないことだって分かってた」

 足元の感覚は、砂。
 下がろうとするたびに、サラサラと崩れて後退の足を絡めとる。
 ……下がれないまま、今、みずきと一緒にベッドで過ごしている。

「オレ、好きな人がいるのに、みずきさんのこと……すごく綺麗だって思って……」
 胸に溜まっていた想いを、言葉に換えて吐露していく。
「みずきさんとしゃべれるのが嬉しかった。近くに寄ってくれるといい匂いがして…それも好き。
このカラダも……やわらかくて好きだ」
 そっ…と、みずきの手が髪を撫でてきた。
「いけないのは、わたしのほうよ。ハヤトくんのこと、本当に素敵な男の子だと思って……」
 贈る花束を一緒に選んだ時の少年の顔を思い出す。
 彼の好きな人を想う心にいじらしさを感じた瞬間、『この子のために何かしてあげたい』という
気持ちが、みずきの胸を熱く狂わせた。
「ハヤトくんになら何だってしてあげられる。もっと……ハヤトくんの気持ちを強く惹きつけたい
って思ったの」
 みずきの足もまた砂に絡めとられていた。夫も娘もありながら、下がる事が出来なかった。
「みずきさん…」
 他人の母親に抱かれ……その優しいぬくもりの中で、ハヤトが胸に残っている想いをかき集
めて、たった一言に直した。

「ありがとう」

 救われた気がした。
 胸を愛おしさが締めつけてくる。その甘い痺れを鎮めるため、みずきが深く息を吸う。ハヤト
の髪の匂いが鼻の奥をくすぐった。
「ねえ…」
 みずきの瞳が、少年を温かく見つめる。
「ハヤトくんの好きな人、絶対に幸せにしてあげてね」
「みずきさんも、あの、赤ちゃん……がんばって産んでくだ…さい…」
「なに今さら照れてるの、ハヤトくんたら。…ふふっ」
 純情そうに赤面するハヤトを最後に一度だけ、強く抱きしめた。
「ハヤトくん、先にシャワー浴びてくれる? わたしはもうちょっと……ベッドで休憩」
「うん。シャワー浴びたら、オレ、帰るよ」

 こうして、二つの体は永久に別れた。


 足元の感覚は、砂。
 でも、もう二人の足を絡めとることはない。

<おわり>