映画『プリキュアオールスターズ　輝きのフェスティバル』 01



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　真空の闇が、強大なチカラの激突に震える。
　烈光が瞬くたびに惑星が砕け散り、銀河の一部が削り取られたように蒸発する。
　拮抗する二つの存在。
　物理を超越した攻撃は幾度となく交錯し、やがて互いを完全な『無』に叩き込んだ。
　ほんの一瞬だけ宇宙に訪れた静寂。
　だが、両者は即座に実体を再構成して復活 ――― 同時に激戦再開。素粒子が融解するほ
どの爆発的なエネルギーの嵐が宇宙に吹き荒れた。
　恒星を龍の姿に変えて使役する。空間跳躍を駆使して光速すら超えて激突する。
　両者にチカラの限界は無い。無敵であり、万能である己の総てを相手の殲滅に傾け続ける。
　己の存在をあらゆる空間、あらゆる次元に同時展開し、因果を無視した百万の攻撃手段で
相手を撃ち抜く。直後、回避と防御が不可能な百万の一斉攻撃を食らう。
　二つの存在を中心に宇宙の時空軸は歪み続け、宇宙の中に別の宇宙を誕生させる。互い
が消滅と再構成を当たり前のように繰り返し、次の瞬間、凄まじい破壊の渦となってぶつかり
合う。
　何十億回目かの消滅を経て、両者の再構成速度に鈍りが見え始めた。何百億回目かの消
滅を経て、両者共に完全なカタチでの再構成が不可能になった。しかし、それでも闘争は収ま
らない。
　己自身を使い捨ての囮にして相手へ特攻させると同時に、新たに実体を構成した自らが、わ
ずかな隙を突いて相手を吸収。その全情報を己のモノへと塗り潰して存在ごと取り込む。…
が、一瞬にして反転。己の総てが相手の情報に書き換えられる。…が、あらかじめ仕掛けてお
いた超次元的な罠が自動発動して、己自身と共に相手を滅ぼす。
　消滅した実体を再構成 ――― 出来ない。再構成を開始しようとすると、強制的に停止され
てしまう。相手ではなく、神のごとき己自身のチカラが、己の意志に逆らって阻止しているの
だ。
　乗っ取られているのではない。融合状態のまま強引に同時消滅に持ち込んだ上、同空間座
標上での再構成のタイミングが重なったせいもあり、偶然的に、両者は存在の根幹部分から
混ざり合ってしまった。もはや相手は己であり、己は相手なのだ。
　宇宙を揺るがした二つの存在は、消滅という状態から立ち上がれない。ひとつに混ざり合っ
てなお、互いの再構成を許すつもりなど無い。やがて、それらはただの虚空へと成り果ててし
まう。

　それは約百億年前という、悠遠の昔。一万年にも及んだ死闘の果ての光景。
　星々に生命が誕生し、知性を持って文明を築き、繁栄の時代を迎える頃になっても、ひっそ
りとその虚空は有り続けた。神のごときチカラはおろか、塵一つ動かすことさえ出来ずに、真空
の宇宙を漂うのみであったが。
　けれども ――― 、　
　二対の存在のうち、一方にとっては、全てが美しいまでに想定内。
　激戦のさなか、単なる物質の崩壊波動に偽装して放出した＜鍵＞ ――― 数千万もの破滅
的な攻防と、数百万回という己の存在の消滅を目くらましにして、完璧に相手の思考領域から
逸らした上で遺した復活の手段。
　その＜鍵＞は今、永い眠りから目覚めつつある。
　青い星、地球にて。　


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　――― プリキュアオールスターズランド運営本部・大会議室。

「ど…どうしよう、プリキュアオールスターズランド開園まで、あと１時間！　き、緊張〜〜」
「あら、はるかったら、さっきまで開園を楽しみにしていたのに？」
「ああっ、みなみさんっ。たしかに楽しみにしてましたけど……、いざ、その瞬間が近づいてくる
となると……ああああ」
「もう、はるはるってばぁ。顔、こわばりすぎだよ〜」
「それじゃあ、はるかちゃんの緊張がほぐれるよう、あたしが明るい歌を一曲 ――― 」
「マ…マナは、運営本部長の仕事で大変なんだから、そこまで気を遣ってくれなくても大丈夫
よ」
「……そう？」
「（小声で）ナイス、みなみんっ」
「マナ、園内全体の最終チェック担当の雪城班が戻ってきたわ。このチェックリストに確認のハ
ンコをお願い。あと妖精たちのシフト表にも、もう一度目を通しておいて。それから……」
「えーっと、ハンコハンコ……」
「はい、マナ」
「これでよしっ、と。次はシフト表か……」
「はい、ここよ」
「六花さんって、こうやって見てると、ホントに良く出来た奥さんって感じですね」
「六花は、マナとの夫婦歴が長いから」
「愛ケル」「愛シャルね」「愛でランス」「愛だビィ」
「ちょっとうららっ！　まこぴーっ！　ラケルたちまで！　もおっ」
「ほのかさーん、ゆうゆうからハニーキャンディもらってきたよぉー。ハイ、舞ちゃんとアコちゃん
もどうぞ。最終チェック、ごくろうさま」
「ありがとう、めぐみさん」
「ハニィキャンディはぁ♪　甘くぅておいしーいぃ♪　これを舐めれぇばーみんなハピネ〜スぅ♪」
「何そのヘンテコな歌」
「アコちゃんも一緒に歌う？」
「まさか」

「 ――― かれん、わたし、ちょっと羊羹を取りに行ってくるわ」
「え、よく分からないけど、こまち……落ち着いて」

「はるかーっ、見てパフーっ、キャンディと一緒の髪型にしてもらったパフー」
「美希にお耳を結ってもらったクル！　おそろいクルーっ！」
「美希ー、ミップルもパフたちみたいに可愛くお耳を結ってほしいミポ」
「えっ？　う…うーん、どうしよう……（この耳は、ちょっと）」

「あ痛たたたたッ、アイちゃんっ、ワイのしっぽは食べ物とちゃうでぇぇっ」
「キュピ？」
「ここはハミィがびしっとアイちゃんを叱って言う事を聞かせるニャ！
 アイちゃんっ、こらニャ！　……あ、全然だめニャ。タルト、ごめんニャ」
「諦めんの早ッ。いや、予想ついてたけど！」

「（もぐもぐ）えーっと、ほのかさんたちが帰ってきたってコトは、これで全員集まったのかな？」
「あ、響ちゃんっ。おいしそうだね、そのケーキ」
「やよいちゃんも半分食べる？」
「 ――― こらぁッ、響っ！　わたしがあとでみんなに配ろうと思ってたカップケーキをっ！」
「いけないっ、バレたっ」
「二人とも！　こんな所で走ったら危ないわよっ！」
「ゴメンいおなちゃん、奏が怒って追いかけてくるから……」
「響がわたしを怒らせて逃げるから……」
「つまみ食いは正直いけないと思うなぁ。筋が通ってないよ」
「そうです！　わたくしが毎晩夢見るほどに楽しみにしていた奏のカップケーキを、先に一人で
食べてしまうなんて許せませんわ！　月影ゆり裁判長！　重い裁きをッッ！」
「そうね……。では罰として、響はあとで、ここにいる全員が感動するような素敵な曲を弾きなさ
い。以上よ」
「なっ！？　甘すぎですわっ、その判決！」
「まあまあ、亜久里、怒らないで。甘〜い判決でいいんだよ、ケーキの罰だけに！
 なーんてね、あははは……あれ？」
「あかん…、あかんわ、なぎささん。そんなんじゃ誰一人 ――― 」
「プッ…、っく…くくくっ……」
「ゆりさんっ！？」

「あのぅ…、誰か咲を……」
「どうしたの、舞ちゃん？」
「あ、やよいさん、咲を知らない？」
「さあ、わたしは見てないけど…。咲ちゃんって、りんちゃんと同じ班だったよね？　あそこにり
んちゃんいるから聞いてみよっか」

「うーん、ゆりさん…、ちょっと意外かも」
「フフフッ、知ってる？　うらら。意外さだったら、いおなも負けてないんだよ。一見きれいでカッ
コいいけどぉ、実は、すごごごーくケチンボな一面が……」
「ひ〜め〜っ！？」
「ちょっと待ったぁっ、意外って言ったら、やっぱりいつきでしょっ！　武道の達人で凛々しくも、
笑顔の爽やかな生徒会長 ――― しか〜し、その正体は！」
「うん？　ボクがどうかしたの、えりか」
「あ、そこにいたんだ、いつき。ちょうどいいや。ランスもこっち来て〜〜」
「何か用でランス〜？」
「いつきの前でポーズ取ってくれる？　とびっきりあざとくて可愛いやつ」
「あざとくて可愛い……こうでランス？」
「か ―――― 、
 かっっわいいーーーッッッ！　うっわあああっ、かっわいいなぁー、もおおっ！」
「ほらね」
「えりかっ、いつきで遊ばないでくださいっ！」
「あたしたちのひかりも、意外性十分だよね、ほのかっ。
 エヘンっ、ここにおられるひかりは、なんと＜光の園＞のクイーンであらせられるぞよ！」
「なによ、なぎさ、そのしゃべり方…。
 正確に言うとね、ひかりさんはクイーンの『命』なの」
「つまり、ひかりさんと＜光の園＞のクイーン様は、揃って一つの存在ということでしょうか」
「その通りよ、れいかさん」
「クイーンちゅうコトは、メルヘンランドのロイヤルクイーン様みたいな感じなん？」
「いやいや、＜光の園＞のクイーン様って、もっとスゴイんじゃない？　だって、なぎささんから
聞いたよ。ひかりちゃんの作るたこ焼き、かなり美味しいって！」
「なおの評価基準は食べ物ですか…」
「でも、わたしの作るたこ焼きは、アカネさんのたこ焼きに比べたら、本当にまだまだで……」
「へ？　ウチはお好み焼きは得意やけど、たこ焼きはそんなに……」
「あ、違います、あかねさんではなくアカネさんです」
「……？？」
「ねえ、せつな、もしかしたらだけど ――― クイーン様の作ったたこ焼きを食べさせたら、美希
たんのタコ嫌いも治るんじゃないかな？」
「＜光の園＞のクイーンが作ったたこ焼き……。確かに奇跡のひとつぐらい起こせそうね。さっ
そくひかりに頼んでみましょう」
「頼まないで！　お願いだから！」

「キュアキュァ…」
「…………」
「シフォンはコッペさまが気に入ったみたいココ。ずっとくっついて離れないココ」
「いえいえ、ボクが思うにこのベッタリ具合は……恋かもなのですっ！」
「コフレの言う通りでしゅ！　コッペさまがまた一つ、乙女心をハートキャッチしたでしゅ！」
「こうして運命に導かれて出逢った二人は、満天の星空の下、永遠の愛を誓い合うのですぅ！」
「噂の二人にさっそくインタビューしてみるププ。コッペさま、今のお気持ちはどうですかププ？」
「…………」

「コッペさまの体、モフモフムプ。本当に奥まで入れそうムプ」
「奥に何かありそうロマ」
「みんなで探検してみるポポ。 ――― ルルン、はぐれないよう手を繋ぐポポ」
「ルルっ♪」
「あ…あんまりくっついちゃだめポポ」
「（もぞもぞ）……けっこう深くまで入れるロマ」
「何かあるムプっ！」
「うっ、すごく変な臭いがするルル〜〜」
「あ…、それ、なぎさの靴下ポポ」

「えっ、咲なら一緒に戻ってきて、そのあとは……、えっと、向こうでしばらくみゆきと話してたっ
け」
「みゆきさんと？」
「内容までは分からないんだけど、けっこう楽しそうに話してたよね、ありす」
「ええ。咲ちゃんの声で、チョココロネがどうとか聞こえてきましたが……」
「……髪型の話かな？」
「りんさん、ありすさん、ありがとう。次はみゆきさんに話を聞いてみ ――― あれ？」
「みゆきちゃん……は、どこ？」
「そういえば、のぞみちゃんもいませんね」
「あ、ホントだ。さっきまでいたのに……」

「難しいわね、エレンがどうすれば元の猫の姿に戻れるのか」
「わたしも音吉さんの本を読んで、色々と試してはいるのだけど……」
「ねえ、くるみ。あなたがミルクの姿に戻るのとは、やっぱり全然違うの？」
「ええ、単純な変身とは別のモノとして捉えるべきね。身体的な問題でもないから、かれんの医
学知識で解決できるとも思えないし……」
「ごめんね、エレンちゃん。獣医学の分野にも、さすがに妖精の変身に関する療法は……」
「謝らないでよ、祈里。わたし自身、この姿で何か不自由してるってワケでもないし。
 かれん、それにくるみも、相談に乗ってくれてありがとう」
「 ――― あきらめるのは、まだ早いよ、エレンちゃん。あなたに覚悟があるのなら、このアメを
試してみるといいわ」
「ゆうこ、そのアメは……？」
「これぞマニアックすぎる味わいで全国に多くのファンを持つ（？）大阪名物、納豆餃子飴よ！」
「ゆ、ゆうこ、それはいわゆるショック療法的な？」
「待って、ゆうこちゃん！　それ、ショックだけで、療法的なモノは一切無いから！」
「アコ、さっきから考え込んでどうしたドド？」
「ショック療法ってワケじゃないけど……。人間の姿になってるエレンの体に、猫だった時の気
持ちよさを思い出させてあげたら、それを足掛かりにして戻れる可能性はないかな…って」
「つまり、あごの下を撫でてあげたりとか？」
「猫って尻尾の付け根辺りが敏感で、うまく刺激してあげると喜ぶのよ」
「耳の後ろをこちょこちょしてあげるのもいいと思うわ」
「へっ！？　わ…わたし、今からみんなにそんなコトされちゃうのっ！？」
「ちょっとエレン、どうして赤くなるのよ？」
「だ…だって、アコぉぉ、なんか恥ずかしい〜〜！」
「あらまぁ、うふふふふふっ」
「ゆうこちゃんがとても楽しそうな笑顔に……！」

「なるほど、いよいよ名探偵の出番 ――― そう言いたいのね、りんさん」
「いえ違います、こまちさん。全然違いますから」
「フラッピたちがこっちに来た時には、まだ咲ちゃんはいたの？」
「いたラピ。たしか、のぞみに何か話しかけていたラピ」
「その時、みゆきも一緒だったチョピ」
「……もしかして、三人ともいないラピ？　ぐらさんは何か知らないラピ？」
「オレはさっきまでドアの近くでリボンとしゃべっていたけど、三人が出て行ったのは見てないん
だぜ」
「つまり、これは密室少女失踪事件！」
「だーかーらー、こまちさんっ」
「オレがドアの近くにいたのは、舞たちが帰ってくる前まで……だいたい１０分ぐらい。だから、
出て行ったとすれば、それ以前。 ――― お手洗いにしては、ちょっと長すぎるんだぜ」
「どうしよう。咲には『迷子になったら大変だから一人で部屋を出て行かないで』…って言ってあ
るんだけど」
「だったら大丈夫ですわ。今、三人の姿が見えないという事は、おそらく咲ちゃんは、のぞみち
ゃん、みゆきちゃんと行動を共にしているのでしょう」
「みゆきちゃんといるなら心配ないよ。むかし、大阪で迷子になった時も平気だったもん」
「うん、のぞみもああ見えて、結構しっかりした部分もあるし。三人とも、きっとすぐ戻ってくるよ」
「 ――― って思いたいよね〜、りんちゃん」
「あははっ。なーんだ、やよいもあたしと同じ気持ちなんだ」
「あの…、りんさん、やよいさん…」
「ううう、フラッピがきちんと咲に付いていれば……、最後に一目（ひとめ）会いたかったラピ」
「縁起でもないチョピ…」

「どうしたでござる？　メルポ殿」
「メェー、メメ…メー」
「むむっ、メー…でござるか？」
「メェー、メ〜〜」
「……さっぱり分からんでござる。くっ、拙者の語学力が不足しているせいで！」
「ポップ、シロップを呼んできましたわ」
「かたじけない、リボン殿」
「……で、メルポ、どうしたロプ？」
「メェーー、メッ、メッ、メメェ…」
「咲がロプ？　……分かったロプ。マナたちに話してみるロプ」

「奏さん、見てて。このペンをクルクルして……ほら、来た！」
「 ――― ごきげんよう、エブリワン！　ロイヤルティーチャー　ミス・シャムールよ」
「キャアアアアッ、何ッ、何なのッ、その可愛い肉球のステッキ！　お願い触らせてーッッ！」
「ホワァーーット！？」
「はるかっ、……奏も静かに。何かあったみたいよ」
「どうしたんですか、みなみさん？」

「ねえ、メポメポ、ミポミポ、何かトラブルでもあったの？」
「う〜ん、トラブルかどうかはまだ分からないメポ。とりあえず、なぎさの靴下のアレとは別件っ
ぽいメポ」
「なぎさの靴下は、ジャンケンで負けたつぼみが身を投げ出して厳重に隔離してくれたミポ」
「つぼみの献身をボクたちは決して忘れないメポ。妖精たちの間でいつまでも語り継いでいくメ
ポ」
「うぅぅ……、あの時パーを出さなければ……、グーを出してさえいれば（……ガクッ）」
「あ、つぼみん、また意識をなくした」

「あそこに置いてきたかも ――― 咲がのぞみにそう言っていたのをメルポが聞いたのね」
「そうロプ。そのあと咲たちがどこかへ移動して、姿が見えなくなったって言ってるロプ」
「六花、お手洗いのほうには、やっぱりいませんですわ」
「分かったわ、ありがとう、リボン。 ――― マナ、そっちはどう？」
「うん、コッペさまの中には誰も潜ってなかったよ。でも、またなぎささんの靴下見つけちゃって」
「きっ、緊急隔離ッッ！」
「マナッ、早くこの箱の中に入れるケル！」
「ダメシャルーーッッ！　それ【 ヒーリングチェスト 】シャルーーッッ！」
「あっ！　もしかしたら、なぎささんの靴下が良い感じにヒーリングされるかもしれませんわ！」
「ありす……意味が解らないビィ……」
「靴下はいいから、咲を……」
「まかせて、舞ちゃん！　あたしが今すぐ咲ちゃんを捜してくるからっ」
「待って、めぐみ。闇雲に捜しに行っても、ミカン狩りがミカンになるだけだよ」
「なぎさ、それを言うなら『ミイラ取りがミイラになる』でしょ。 ――― あと、なぎさの靴下はこちら
で回収します。迷惑をかけてごめんなさい」

「も…もしかしてトラブル発生？　ど…どうしよう、あと一時間もないのに」
「違う違う、はるか、こういう時はね、あと一時間ぐらいはあるって前向きに考えるんだよ。
 無理してあせったところで、いい結果なんて絶対生まれないんだから」
「あら、ひめ、珍しくイイ事を言うじゃない。でも、ひめの場合、まだまだ大丈夫って思っているう
ちに時間が過ぎて、ギリギリになってから慌てだすのよねぇ」
「もおーっ、いおなーっ！　せっかくわたしが先輩らしいところを見せてるのにーっ！」
「はい、はるかちゃん、ハニーキャンディどうぞ。甘い物で気分を落ち着けるといいよ」
「ありがとう、ゆうこさん」

「 ――― で、いなくなった咲ちゃんたちの事ですが……」
「キュピラッパーーっ」
「キュアーっ、プリプーーっ」
「ああ、アイちゃんっ、シフォンちゃんっ、超能力で遊んじゃダメよっ」
「そもそも迷子になっているかどうかも解らないワケで……」
「右に行ったり左に曲がったりするから迷子になるんだよ！　まっすぐ進めば絶対迷子になん
てならないよ！」
「なお、声が大きいです。静かに。暫定捜索部長のありすさんに怒られますよ」
「プリキュアオールスターズランドの総面積は東京ドーム約８個分。……ですが、移動時間を推
測すると、それほど遠くへは行けていないと思われます。
 そこで、ゆうこちゃんのアイデアで、この運営本部近辺の２０ヶ所に【 お菓子の家 】を設置。お
いしそうな雰囲気に誘われて現れたならば、ただちに捜索班の妖精たちで身柄を確保します」
「身柄を確保って……捕り物みたい」
「あと、咲ちゃんの好物がハンバーグカレーというコトで特別に【 ハンバーグカレーの家 】も１ヶ
所設置してみました。こちらではカレーとご飯のおかわりが自由となっています」
「りんさん、見ててください！　わたし、咲さんよりもたくさん食べてみせます！」
「いや、大食い対決の場とかじゃないから……」
「そういえば、今さらだけど王女様はカレーが好きだったわ」
「そして、やよいちゃんからの情報で、みゆきちゃんが大のシンデレラ好きというコトが分かりま
したので、四葉建設が急ピッチで【 シンデレラのお城 】を建築中です」
「うんうん、みゆきちゃんならきっと興味を示して、お城に向かうはずだよ」

「ああ…あああ……」
「どうしたの？　舞。顔が真っ青よ」
「あああ、ゆりさん…。咲が原因で、すごい額のお金が使われているような気がして……」

「 ――― いやいやいやっ、ちょっと待って、ありす！　あと一時間無いのよっ！？　お城の完
成とか絶対間に合わないでしょ！」
「そう言われてみると…、確かにくるみちゃんの言う通りですわ。……困りました」
「うーん、何かいい打開策は……」
「みんなーっ、クレッシェンドトーン様からお話があるナツーっ」
「ひょっとして咲の居場所に心当たりがあるファファ？」
「とにかく話を聞くドド」

『 ――― みなさん、運命の時が近づいています』
「運命の時？」
「オールスターズランドの開園時間のコトちゃう？　普通に言うたらええのに」
『……ですが、何一つ恐れることはありません。ここにいる皆がチカラを合わせたなら
ば、どのような困難も乗り越えられるのですから』
「つまり、みんなでがんばって捜せってこと？」
『常に互いに心を通わせること、信じあうことを忘れてはなりません。
 それこそが奇跡を起こす鍵なのです。
 ――――――――― ……………………』
「……あれ？　クレッシェンドトーンが」「これで終わりパフ？」「咲ちゃんたちの情報は？」

「結局、具体的な打開策は示してもらえなかったわね」
「でも、みなみさん、クレッシェンドトーンが言ってくれたみたいに、わたしたち全員が気持ちを
一つにして頑張れば、なんだって出来ちゃうはずですよ！」
「はるか…。ふふっ、確かにそうね」
「おぉっ、はるはる、気合入ってきたっぽい」

「頼りない運営本部長にチカラを貸してね、お・く・さ・ん」
「仕方ないなぁ。わたしが頼り甲斐のある運営本部長にしてあげます」
「じゃあ、みんな、こっちに注目して。今から捜索チームを編成するから！」

……………………
………………
…………

「本当にごめんナリ〜、みんなに心配かけて」
「まあ、怪我をしたツチノコを放ってはおけないもの」
「祈里ちゃん、ツチノコ、大丈夫そう？」
「ええ。でも念のため病院で治療を受けさせないと……。せつなちゃん、お願いできる？」
「任せて。すぐに送り届けるわ」
「ふー、たいした怪我じゃなくて良かったぁ」
「…っていうか、ツチノコってほんまにおったんや。これ、世紀の発見と違うん？」
「咲さんの忘れ物を取りに行く途中、みゆきさんが偶然転んで、起こそうとしたのぞみさんが偶
然ツチノコと目が合って ――― 奇跡の連携ですね」
「あたし、こまちさんみたいに爬虫類が平気ってワケじゃないから、最初は怖くて……」
「そうそう。のぞみちゃんたら、その辺に生えてる草持ってきて、震えながら餌付けしようとして
たんだよ」
「ヘビは草なんてたべないでしょうが」
「アハハッ」
「こけた時、思いきりおでこ打ったけど、そのおかげでツチノコさんが助かって……これってウ
ルトラハッピーだよねっ」
「ウンウン、しあわせゲットだよ！」
「みなみさんっ、きららちゃんっ、本物のツチノコだったよ！　ツチノコ！」
「ハイハイ、落ち着いて、はるか」
「常識的に考えたらすごいんだけど……ツチノコねぇ。（ぐるりと周りを見渡して）それ以上にレ
アな妖精なんて存在が普通にいるし、地球の神さまも、今こっちに向かってるって話だし」
「うっ、きららちゃんの言う通りかも」

「ところで、咲の忘れ物って何だったの？」
「……あ、取ってくるの忘れてた」
「もう、咲ったらぁ」

……………………
………………

「では、せつなちゃんも帰ってきて、これで本当に全員揃ったというコトで……ポチッと」
「わっ、大会議室の天井が開いてく！」
「壁もよ！」
「どうせやったら広い場所で変身したほうが気持ちええと思てな。ワイがロゼッタはんに頼んど
いたんや」
「奏、ほら、あっち見て。机とかが引っ込んで、代わりにすっごいオブジェが出てきた」
「華々しいというか……お金かかってるわねー」
「大会議室のステージ化が終わったら変身いくよーっ、各チームごとに集まってーっ！」
「あ、床も動くんだ。スライドしていく……って、のぞみっ！　床に流されてる！」
「へっ？　……ああーっ、りんちゃん！」
「大丈夫ですわ、のぞみ。床の移動速度は、安全重視のため緩やかです。さあ、わたくしの手
を取ってください。りんの所へ向かいますわ」
「ありがとうっ、亜久里ちゃん」
「……どっちが年上なんだか」
「げ、ハピネスチャージチームって、あたしらの後ろで変身するの？」
「それがどうかしましたか、えりか？」
「いや、だってキュアプリンセスって変身の終わりに撃つじゃん」
「安心してよ、えりか。ちゃんと他のプリキュアに当たらないように撃つから！」
「ホントぉ？　…ホントにぃ？　……ホントにだいじょうぶぅ？」

「わたしたちプリンセスチームは、ハピネスチャージチームの隣で……
 よろしくお願いします、めぐみさん！」
「うん、こちらこそよろしくね、はるかちゃん。一緒に変身しよ」
「はいっ、それじゃあ行きます！ ――― プリキュア・プリンセスエンゲージ！」
「 ――― プリキュア・くるりんミラーチェンジ！」

→ ＯＰ

「ぎゃああっ、いま頭にかすったぁぁっ！」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　脇浜すみれは、母の運転する車に乗ってから数度目となる深呼吸をした。残念ながら、緊張
は一向に和らがない。窓の外を流れる景色にも全然視線が向かない。落ち着かなくて、肩から
提げたポシェットの中身を、何度も確認してしまう。
　この春が終わる頃に８歳の誕生日を迎える一人娘を、ハンドルを握る母が微笑ましく気遣
う。
「心配しなくたって大丈夫よ。出発前にママと一緒に何度もチェックしたでしょう。
 忘れ物なんて無いし ――― それに、すみれは今日もバッチリかわいい。プリキュアに負けな
いくらいにね」
「え〜っ、わたしなんかよりプリキュアのほうがかわいいもんっ、キラキラしててカッコいいもん
っ」
「そう？　じゃあ、ここで簡単なクイズ。ママとプリキュア、カッコいいのはどっちでしょう？」
「プリキュアっ！」
「グッ…。くやしいけど正解ね。……それでは正解したご褒美として、これから毎日、すみれの
苦手なピーマン料理が夕食に加わります」
「ええーっ！」
「冗談よ。でも、プリキュアや妖精さんに会ったら、今ぐらいの大きな声できちんと挨拶するの
よ。
 ――― あとピーマンも、少しずつでいいから食べられるようになるコト。いいわね？」
「う…、うん、少しずつがんばってみる……」

　できればピーマンの無い世界に生まれたかったなぁ…と、すみれが元気無くうつむいて小さく
溜め息をついた。そんな彼女の耳に、「あっ…」という母の声が飛び込んできた。
　すみれが反射的に顔を上げると、フロントガラスの上方に、青空を高く飛翔する鳥影が見え
た。「シロップだっ」と、思わず声が出た。
　母が前方に視線を注いだまま、助手席に座る娘に話しかける。
「遠くに住んでいる子供たちは、ああやってシロップに送迎してもらうのよ」
「すごーいっ」
　シロップの飛んで行く先に、すみれが今から向かう目的地が見えていた。
　空を目指すみたいに高い、幻想めいた城壁にぐるりと囲まれた夢の遊園地。磨き上げたば
かりのように真っ白い大理石の城壁は、地上５０メートルを越えたあたりから、澄み通った水晶
の壁に変わっている。
　水晶の壁の内側に『シュワーッ』と綺麗な光が立ち昇り、それがパッと弾け、ゴールド、ピン
ク、ブルー、グリーン等、多彩な輝きが集まって出来た巨大な魚が生まれる。それが上空をゆ
ったりと泳いでみせる光景に、すみれは早くも心を奪われた。
「ねえっ、ねえっ！　ママ見て、ほらっ！」
「はいはい、見えてます」
　すみれは、もう待ちきれないといった様子だ。ポシェットにしまってあった招待状を取り出し
て、足をブラブラさせる。普段なら「お行儀が悪いわよ」と、ノーブル学園出身の母にやんわりと
たしなめられてしまうところだが……。
「ふふっ」と、母の口もとが仕方なさそうに緩む。
　さすがに今日は見逃すことにしたようだ。前を走る車に合わせてスピードを落としながら、娘
との会話を続けた。
「プリキュア主催のお祭りなんて、本当に夢みたいな話よねぇ。
 ――― ４０人のプリキュアと５００名の妖精スタッフによるおもてなしなんて、ママには想像もつ
かないわ」
「うん…」
「すみれ、今日はたっくさん楽しんで、そして、ママに素敵なお土産話ちょうだいね」
「は〜い」
　返ってくるのは、うわの空の返事ばかり。すみれの心は、今、すっかり招待状に魅入ってしま
っていた。母の目つきが、ちょっと拗ねてしまう。

『いつもミラクルライトで応援してくれる子供たちへ、ありがとうの気持ちを込めて』
　プリキュアオールスターズランドから、子供たちの元へ届けられた招待状。
　その見開きは、プリキュアたちの集合写真になっていた。
　みんなの笑顔ひとつひとつが、まるで宝石のように輝いている。
　すみれの親指が右下隅にある不思議な紋様をさすると、招待状の上に、フワッ…と煌く黄金
の粒子で出来た球形のフィールドが生まれる。そして、数秒もせずにその形が薄れ、内側から
現れた立体ホログラムのプロフィールカードが４０枚、宙に浮かんだ状態で静止。
　キュアブラック、キュアホワイト、シャイニールミナス……、すみれはプリキュアたち全員の顔
と名前を暗記して、カードを見なくても、ちゃんと言えるようになっていた。カードに記載された簡
単な自己紹介と子供たちへのメッセージも全部読んでいる。
　すみれの指が一枚のプロフィールカードに触れると、自動的にスーッと自分のほうへスライド
してくる。新しくプリキュアになったばかりのキュアフローラのカードだ。

　自己紹介のところに書かれた彼女の夢。
 ――― 『いつか本当のプリンセスになりたい』

　うまく言い表せないけれど、その言葉に、すみれの気持ちがグイグイ惹かれてしまうのだ。
（プリンセス……、おひめさまかぁ）
　すみれの小さな手が招待状を閉じて、何かを想うように両目のまぶたを下ろす。
　――― キュアフローラに会ったら、ママが本家に帰省した時にしてみせた、あのエレガントな
お辞儀をしてみようかな。こうやって、スカートの両裾を軽くつまんで……。
「どうしたの、すみれ、スカートなんかいじって……、ハッ、もしかしてトイレを我慢してるのっ？
 そうなのねっ！　……あと少しだけ辛抱なさいっ！　今、ママのマスタングが法定速度ギリギリ
で強行突入するから！」
「ま、待ってママっ」
「ええ、もちろん安全運転でいくわよ！　ママの走りを信じなさい！」
「だから、ちがうのぉぉーーっっ！」