fusion07

「なぎさ……来て……」
 今度はほのかの番だった。再びほのかの体に被さるように密着してきたなぎさを抱きなが
ら、片方の手の平に、口の中で溜めていた唾液をねっとりとこぼしていく。手の平から溢れそう
な量を、少し腰を引いて隙間を空けてくれたなぎさの股間へと運んでいった。ぐちゅっ…と粘っ
こく響く音と共に、なぎさの秘所へ到達した。
「いい? 動かすよ…」
 なぎさの秘所に当てた手をゆっくりと動かして、優しく愛撫を始めた。なぎさの性器に粘着して
いた淫蜜の汚れが、ほのかの唾液で洗い落とされていく。唾液にまみれた指を、秘貝の割れ
目に沿って滑らせ、なぎさの中へ浅くもぐり込ませてみた。
「ん゛……ッ! ほのかの指が…アタシの中に……!」
 目の前にある恋人の顔に、熱い吐息をこぼす。呼吸を乱しながら、耳朶に触れそうなほど近
づけられたなぎさの口が、ほのかに熱っぽい声音で囁く。
「ほのか…もっとアタシの中に来て……。処女膜、破っちゃっていいから……もっと奥まで来
て。ほのかの唾を…アタシの体の奥に擦りこんで……」
「ダメよ……なぎさの中すっごく熱くなってて……これ以上入れたら私の指が熔けちゃう……」
 なぎさの粘膜をゆっくり撫で上げながら、ほのかが囁きを返した。
 なぎさの秘所で、ほのかの指が唾液と愛液をくちゅくちゅと卑猥な音を立てて混ぜ合わせる。
出来上がった混合液をべっとりと手に絡ませ、自分となぎさの秘所へ交互に塗りつけた。
「ほら、分かる? なぎさの液と私の唾がこんなにいやらしく混ざり合っちゃってる」
「うん、分かるよ。アタシたち自身も……溶け合って…ひとつに混じり合えたらいいのにね……」
 夢のように呟くなぎさに、ほのかの可憐な唇が、ゆったりと言葉を紡いだ。
「出来るよ、なぎさ…、私がなぎさを溶かしてあげる。だから、なぎさも私を溶かして……。二人
で一緒に溶けちゃいましょ」
 なぎさの秘所で、ほのかの手がゆっくりと動き始める。性器の上で淫らに指を踊らせ、なぎさ
の性欲を昂ぶらせていく。なぎさも遅れじと、ほのかの股間に手を差し入れ、恋人の手慣れた
愛撫を真似ながら、懸命に指を動かした。彼女にしてもらった丁寧な愛撫を思い出しながら、
ほのかのクリトリスをそっと指で転がす。
「ねぇ、ほのか…、こんな感じでいいの…?」
「んっ…いいよ、なぎさの指使い…優しくて…、すっごく感じちゃう……」
 敏感に疼いてくるクリトリスの刺激で、ほのかの膣に溜まった快感が、ふつふつと煮え始め
た。興奮で汗ばむ裸身が悶え、静かにわななく。
 なぎさもまた、秘所の奥を蕩かせていた。ほのかの指使いは繊細で、快感の導き方が上手
い。しおらしい喘ぎ声を上げて悶えるなぎさの裸体が、ピクンッと可愛らしく跳ねる。その瞬間、
触れ合っていた二人の乳首が素早く擦れた。本人たちの昂ぶりに合わせて、乳首はいつもの
倍以上に敏感になっている。胸先での強い刺激……薄いガラス同士を打ち付けあったような、
砕けそうな危うい快感の共鳴に、二人が同時に身をすくませた。
「ひゃうッ!?」
「きゃんッ!?」
 意識が崩れそうになった一瞬を過ぎて、鈴音のような余韻を胸に響かせる二人が、お互いの
顔を見合わせて小さく笑った。
「ビックリしたぁ。乳首がこんなに感じるなんて…」
「私の乳首、まだジンジンて痺れてる…」
 驚いた際に硬直した体をほぐすように、二人の手の動きがゆっくりと再開される。
「なぎさ、少しだけ一緒に溶けちゃお……」
 誘惑を紡ぐほのかの唇に、なぎさの唇が重なる。ひとつに溶けた唇の中で、湧き出る唾液を
交互に口移しで飲ませ合う。唾液交換の合間を縫うように、二人の舌が積極的に絡み合って、
深い淫欲のうごめきにふける。
(ほのかっ、ほのかっ……)
 どんどん高まっていくほのかへの愛しさ。ほのかと一緒に、今こうしていられる嬉び。他の全
てが色あせてしまいそうなほどの幸せな想いが、なぎさの胸のうちで臨界を越えた。股間の奥
から、ぞくぞくっと妖しい響きが立ち昇ってきた。あとは、ほのかの手の動きがもたらす快感
に、まったりと加速を加えてもらいながら、着実に絶頂へと昇り詰めていくのみだった。しかし…
………
(やだっ…、これじゃあ、ほのかよりも先に溶けちゃいそう……。アタシ、ほのかと一緒じゃない
と……一人だけで溶けちゃうなんて嫌っ!)
 いくら焦っても、もうブレーキは効かない。
 何をどうやって察知したのか、ほのかが急に顔をねじって、口付けの結合を解く。
 絶頂への歩みを少しでも遅らせようと耐えているなぎさの耳に、優しい声色の呟きが届いた。
「……なぎさ、もっと激しくして……、なぎさが溶けるタイミングに…間に合うように……」
 快感に喘ぎながらも、恋人を想う柔和な表情で微笑む。
 「激しく」と言われても、ほのかの大切な部分を荒々しく扱うことなど、なぎさには出来ない。躊
躇しているなぎさの耳に、もう一度ほのかの声が届いた。
「なぎさにだったら激しくされても平気だから……、壊れそうなくらいメチャクチャにされても大丈
夫だから……、私もなぎさと同時に溶けたいの……」
「ほのか……」
 ほのかの言葉に、なぎさを抑えていた箍が溶け崩された。めらっ…と陰部に淫靡な焔を点
し、瞳孔の内に快楽の魔を宿した視線で、ほのかの裸身を舐めるように撫でていった。
 先程まで優しく動いていたなぎさの手が、ほのかの秘所を犯し始める。予告もなしに、乳首以
上に敏感なクリトリスを親指で押し潰され、ほのかが「くひぃッ!?」と悲鳴を上げた。浅くとは
いえ、膣口を乱暴にえぐりながら往復する指の動きに、ほのかは裸身を仰け反らせて悶え喘
いだ。
「はひぃッ……あ゛ああぁんっっ! あ゛あ゛ッ、あ゛あ゛ッ、あ゛あ゛あ゛ッ!」
「もっと…もっといくよッ、ほのかッ!」
 哀れなほど呼吸を乱しながら、悩ましく歪んだ表情で、ほのかが力を振り絞って頷く。ほのか
への陵辱が激しさを増し、処女の部分が狂ったように責め抜かれた。性器を快感という炎で灼
かれ、ほのかは呂律の崩れた口調で虚ろに嬉びを謳った。
「あひぃぃッ! あ゛ぅっ…うぅ…あ゛ん…くふっ、あ゛っ、気持ち…い゛ぃ、あ…うぁんっ、な…なぎさ
ッ、も…もっと…あう゛んッ! んあぁッ! あ゛あぁーッ!」
 ほのかが仰け反った体をくねらしながら、火が付いたような嬌声を上げる。性器を嬲り倒すよ
うに動く激しい手付きに、熱く沸いた淫蜜の飛沫が、無残な涙のようにベッドの上へと撒き散ら
されていった。
「なっ…なぎさぁッ、なぎさッ! 気持ちいい゛のぉ……、でもぉ、あ゛ひぃ…もうダメ……本当に
壊れちゃう゛よお゛ぉ……」
 秘所への責め苦が止まらない。なぎさの指が、容赦なく性器をかき回し、卑猥な蜜が跳ねる
音を響かせ続ける。
「あう゛あ゛あ゛ッ! 熱い゛っ……大事なところが熱くなってきちゃう゛ぅ……!」
「ほのか……、アタシも……ほのかと一緒に…どんどん熱くなってるよっ」
 なぎさの手の動きが急速にペースダウンした。ほのかが「ふあ…?」と気の抜けた声を漏らし
て、ぼんやりと様子を窺う。弛緩しきった太ももがぐいっと持ち上げられ、ほのかの腰の下に、
なぎさの脚が滑り込んできた。
「アタシのも…ほのかのも…もうぐしょぐしょに蕩けてる……」
 なぎさがもう一方の脚を上げながら、尻をもぞもぞとくねらせて前進し、ほのかの脚の間へと
深く入り込んでいく。やがて二人の股が食い込みあい、濡れそぼった音を立てて性器同士が密
着した。ぬちゃり…と粘っこく、ぴったりとくっついて……ひとつに溶けた。
「見て……ほのか、アタシたち、繋がっちゃったよ。ひとつになっちゃったよ……」
 片手を背後に突いて体を支えながら、歓喜の声でほのかに呼びかける。ほのかの顔も歓喜
で輝いた。それもつかの間、二人の性器を蕩かす快楽の熱が、繋がった部分で交わり、それ
ぞれ相手の体の奥へと染み入っていった。体内を甘美な熱で炙られ、二人は嬉びの表情のま
ま苛まれた。
「……あくぅっ! 熱いよッ…なぎさのが熱いよぉぉーッ! ヤケドしちゃうぅぅッ!」
「こんな熱いの……ありえないッ! 熱いのがお腹まで来てるぅぅーッ!」
 熱い熱いと叫びながらも、決して離れようとはしない。むしろ、どちらからともなく腰を使い始
めて、熱く濡れた性器を擦り合わせ、快楽の熱を高めていった。
「ふあああッ…これ以上熱くされたら溶けちゃう……なぎさの中に溶けちゃうッ!」
 断末魔のように伸ばされた腕が空を掴もうとして、パシッとなぎさに受け止められた。手首を
掴んだなぎさの手が、するりと上へ滑り、ほのかの手の平に吸い付いた。意識する必要も無
く、ごく自然に、お互いの指が深く絡まった。
 まるで愛の象徴のように手と手を固く握り合わせながら、二人は犬のようにあさましく腰を揺
すって、身も心も溶けていくような快楽をむさぼった。
「なぎさッ…なぎさッ…、あ゛あッ!」
「熱いよ…ほのかッ、ほのかぁッ!」
 膣から突き上げてくる官能の波に、すっかり意識を攫われてしまった二人の嬌声と、ぐしょ濡
れになった性器を激しく擦り付けあう潤んだ音が部屋に満ちる。
 必死で腰を揺すってほのかを攻め立てていたなぎさが、快感の喘ぎを大きく吐いた。
「くぅ……ああぁぁーッ!」
(ンンっ! 今またゾクゾクって来ちゃった……。もう…、アタシ、あッ…もうダメ……)
「ほのか…もういいっ? アタシ溶けるよッ!? ほのかもいいッ!?」
「来てッ! 私も溶けちゃうっ! ……溶けちゃうのッッ!」
 そして、一瞬の間を置いて、二人の快感の鬨が部屋を揺さぶった。叩きつけてくる絶頂の高
波にさらされ、感電したように硬直した二人の体を大きな痙攣が走る。
 握り合わさっていた二人の手が力尽きて、ベッドの上へと落ちた。
「…………来て、なぎさ」
 背後で突っ張っていた腕の力を抜いて、ベッドに倒れこもうとしていたなぎさが、ほのかの声
に最後の力を振り絞って応えた。ほのかの腰の下から気だるげに脚を引き抜き、そのままぐっ
たりと彼女の上に崩れていった。
 静けさを取り戻した部屋に、二人の荒い息遣いだけが響く。
 西日が残していった熱に上乗せするかたちで、上昇した二人の体温が発散され、部屋が息
苦しいほどに蒸れていった。
 噴き出す汗が止まらない熱い全身をひとつに重ね、まだ断続的にくる絶頂の余韻の中で、二
人は目を閉じたまま、ゆっくりとまどろんだ。長々と及んだ行為に、すっかり日も去ってしまい、
電気を点けていなかった部屋は暗く、ちょっとでも気を抜くとそのまま眠ってしまいそうになる。
 夢と現をさまよっていたほのかの意識を、なぎさの声がそっと揺り起こした。
「ねえ……ほのかの心臓の音……アタシの胸に伝わってくるよ」
「うん……私も感じるよ、なぎさの早い鼓動……」
 重なり合った胸に、お互いの生命の響きを感じながら、情事の名残をしみじみと愉しんだ。煮
詰まった快感が膣の中にこびりついて、二人の体を甘く疼かせている。
「ははっ…、アタシ、まだ腰が痺れちゃって立てないよ。あとちょっとだけ、ほのかの上で休憩さ
せて……」
「……ずっとこのまま乗っててもいいよ? こうしてなぎさと一緒にいられるなら、私、幸せだも
ん」
 誘惑を紡いで微笑むほのかに、なぎさが困ったように笑う。
「アタシだってこうしていたいけど……、でも、ほら、日もすっかり落ちちゃってるみたいだし…
…。ほのかのおばあちゃんももうすぐ帰ってくるんじゃない? 早く服着ないと…ンっ」
 なぎさの口が急に塞がれた。なぎさの言葉を唇で封じてから、キスがゆっくりと解かれた。二
人とも閉じていた目蓋を開いて、薄暗い闇の中で見つめ合う。
「なぎさ、今日は泊まっていって……。私…なぎさと朝まで一緒に溶けていたいの……」
 逡巡させる隙も与えず、ほのかのキスが、またなぎさの唇を奪った。なぎさの口の中に舌を
差し込んで、愛しげに舐め合いながら、舌同士の愛の抱擁を交わす。二人の中で、快楽の残
り火が、再び炎として燃え上がっていく。
「……ねっ、いいでしょ?」
 ほのかの甘い囁きに、なぎさは頷かざるを得なかった。
「うん、ほのかの言う通りにするよ」
 くすくすと可愛らしく勝利の笑みを漏らす恋人の耳元へ、なぎさがそっと口を寄せる。もはや
「好き」という言葉では物足りない想いを、もっと強い言葉に変えて、ほのかへと送った。
「ほのか、愛してる……」
 ほのかの表情が、優しい微笑みに溶けた。嬉しさのあまり、少し潤んできた視線でなぎさを見
上げながら、ほのかも真っ直ぐな想いを口にした。
「なぎさ……愛してるっ!」
 なぎさの背に細腕を巻きつけて、ほのかが堰を切ったように愛の告白を行った。
「愛してるっ! なぎさのこと……いっぱいいっぱい愛してるっ! これから先…どんなことがあ
っても、なぎさのこと…ずっと愛してるっ!」
 なぎさの体にむしゃぶりついて、狂おしいほどの愛に酔いしれる。感極まって、涙がぽろぽろ
と溢れているのにも気付かないまま、「愛してる」という言葉を口にし続けた。
 なぎさの耳に繰り返される愛の告白に、熱い歓喜が体中を駆け巡った。ほのかを愛しく想う
気持ちで、胸を痛いほどに焦がしながら、彼女の体をしっかりと抱き締めた。
 なぎさの五感全てがほのかを求めていた。身も心も溶け合うような快感の中で、もう一度、ほ
のかとひとつになりたいと願っていた。
「これからも……ずっと一緒に溶けてあげる。この世でたった一人…ほのかとだけ溶けてあげ
る……」
 ありがと、ほのか。ほのかと出会えて本当に良かった。ほのかと愛し合うことが出来て本当に
良かった。
 胸に溢れた想いを、言葉に変えることなく、そのままほのかの唇へと押し付けた。初めて愛を
営んだ褥(しとね)の上で、言葉のない静かな愛の告白が、何度も何度も交わされ続けた。

 美墨なぎさと雪城ほのか、これから二人が歩んでいく人生が今、ひとつへと溶けていった。


(END)