ミルキータイム


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 ――― 最近、ラブと吸い方が似てきた気がするの。

 授乳の際、せつなが小さく溜め息を洩らしながら言った言葉。
 遺伝かなぁ、と笑ってみせたラブを、変なものまで遺伝させないで!と軽く睨みながら彼女の
頬をギュウウッッとつねった。割と本気の力で。
 桃園と姓を変えたせつなが初めて育んだ命。現在、生後五ヶ月の女の子。
 ラブもせつなも、娘の顔をのぞきこんでは、
「かわいいね〜〜」
「可愛いわ」
「瞳がちょっとせつなっぽくて……かわいいよねぇ」
「口もとはラブに似てるかしら。それにしても可愛いわ」
「本当にかわいいよねえ、あたしたちの赤ちゃん」
「ふふっ、きっとラビリンス……いいえ、全パラレルワールドで一番可愛いわ!」
「ウンウンッ、宇宙一かわいいよねえ」
「ふふふっ、どうしてこんなに可愛いのかしら?」
 ……などと親バカ全開で我が子のかわいらしさを語り合うのが日課である。

 せつなの容姿は、ラブと結婚した頃と変わらない。しかし、一児の母となって以来、物柔らか
い雰囲気を自然と発するようになった。母のぬくもり ――― とでもいうのだろうか。彼女のそ
ばにいるだけで、ラブもすごく癒された顔になってしまう。

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 夜、娘が寝入ったのを確認して、二人はこっそり寝室を抜け出した。
 向かう先はリビング。……のはずだったが。
「だめよ、ラブ…」
 せつなが弱々しい声で拒絶する。しかし、後ろから彼女を抱きしめるラブは、かまわず首筋に
唇を押しつけた。むさぼるように、強く。
「待てないでしょ、せつなだって」
 せつなの感じやすい部分をルームウェアの上から両手でまさぐりつつ、執拗なキスを繰り返し
て彼女の情欲を刺激してゆく。
 まだ廊下だというのに……せつなの形ばかりの抵抗は、すぐに止(や)んだ。何ヶ月ぶりかの
カラダの火照り。ラブの言うとおりだ。確かに待ちきれない。
「ここでしちゃうの?」
「もういいじゃない、ここで。それに早くしないと……」
「ふふっ、あの子はさっき寝たばかりじゃない。それとも、ラブがガマンできないの?」
 愛撫してくるラブの手に自分の手の平を重ね、気持ち良さそうに身体をくねらせた。その動き
には、どこか誘惑的なものがあった。
 猫科を思わすしなやかな肢体が『早くして……』とおねだりしているようで、ラブは愛おしい衝
動に任せて、ぎゅううっと力いっぱい抱きすくめた。
「久しぶりだから、たーーっぷり愛してあげるねっ」
 それを聞いたせつなが、嬉しそうに瞳を潤ませた。
「ん、もうラブったら。たっぷり泣かせてくれるの間違いでしょ?」

 ――― 来て。
 せつなの淫らな期待に応えて、胸のふくらみがギュッと鷲掴みにされた。娘のために一生懸
命ミルクを作る乳肉が、荒々しい指使いで揉みこまれる。
 ゾクゾクッ ――― と、せつなの表情がとろけてしまう。開かれた口からも、無意識に「ああぁ
…」と甘い声が洩れていた。
「もしかしてイッちゃった、せつな?」
「…ばか。まだ濡れてもいないわよ」
 強がった口調で答えるせつな。正直に言うと、ショーツの内側では秘所の肉がズキズキとうず
いて、熱い湿り気を帯び始めている。
 オトナになる前から、ラブによって随分と激しくイジメられてきた身体だ。乳房を揉みしだく乱
暴な手つきに否応なく反応してしまう。
「……痛いわ、ラブ」
「だって、せつなは痛くしてあげたほうが悦ぶもん。ほら、こうやって、おっぱいを ――― 」
 ギュウッッ!
 ルームウェアの上から、軟らかな乳房を握り搾るみたいに五指が食い込んでくる。せつなの
口から本気の喘ぎが洩れた。
「あ゛あ゛ぁぁぁっっ、ラブぅぅ…」
 せつなの両目の端に、涙の珠がふくれ上がる。乳房が力ずくで辱めを受けているというの
に、それが嬉しくてたまらない。
(こんな事をされてよろこんじゃうなんて……、わたし、母親失格ね)
 自虐的に微笑してみせるせつなの腰が小さくガクガク…と震えていた。こっちもイジメてほしく
て我慢できない。
「おねがい、ラブ。おっぱいはあとで好きなだけ搾らせてあげるから……先にこっちを……」
 引き締まった美しい丸みを描くヒップを、ぐっ…と後ろに突き出して、おねだりする。
「母乳を吸うみたいに強く……ラブの口でここを搾ってもらいたいの」

 ぶるぶる…っっ。
 自分の言葉で感じてしまったのか、濡れてきた恥部に甘美な痺れが走った。

「いいよ。じゃあ、せつな、見ててあげるから自分で脱いで」
「それは駄目。ラブに脱がしてもらうほうが興奮するの」
「んん〜、乱暴に脱がす?」
「もちろんよ。なるべく無理やりな感じで……あ、待って、上は脱がさないで。最初は下だけ…
…その格好でイジメられるほうが興奮するから」
「ハイハイ。こういうシチュエーションに意外と凝るよね、せつなって」
 せつなが「…う、うるさいわねっ」とぼそっとつぶやいてから、気を取り直して、うっとりとまぶた
を下ろした。早く、ラブの手で着衣を強引に剥ぎ取られるという屈辱を味わいたい。

 しかし ―――――― ちょうど鼓膜に飛びこんできた泣き声に、ハッと両目を見開いた。
 せつなの貌(かお)から一瞬で欲情の色が引く。反応の遅れたラブを押しのけるようにして寝
室へ向かう彼女は、すでに母親の顔だ。

「またオムツかな?」
 追いついてきたラブの言葉に、せつなが首を横に振った。
「違うわよ。この泣き方はお腹が減っているの」
 寝室のドアを開けた頃には、一段と泣き声の大きさが増していた。ベビーベッドの上で叫ぶよ
うに泣いている娘を、せつなが優しく抱き上げてあやす。
「ごめんなさい、すぐにおっぱいあげるから」
 最愛の母子が自分たちのベッドに腰掛けるまでの間に、ラブが手際よく彼女のルームウェア
をまくり上げ、ブラジャーを外す。この辺のサポートは慣れたものだ。
 白くこぼれる乳房には、軟らかさと重みが詰まっていた。
 せつなは授乳しやすいように抱き方を斜め抱きに変え、娘の無垢な両瞳に視線を重ねて、微
笑みながら「あーん」と口を開いてみせた。母の真似をして開かれた小さな口に、メラニン色素
の付着した先端部をカプッと含ませてやる。
 乳輪までしっかりくわえた口が、母の乳房からミルクを搾り出そうと強く吸引してきた。乳首が
乱暴に引っぱり伸ばされる刺激に反応して、赤ん坊の口の中へ母乳が噴き出す。
(ンッ……)
 ほんのわずかだが、せつなの表情が動いた。少し張ったような感じがしていた乳房が、娘の
口にごくごくと搾乳されることで楽になっていく。
 低く喉を鳴らしながら、ほんわりと甘みがかった母乳を飲み続ける娘の様子に、せつなは愛
しげな視線をこぼした。

「ラブ、見ててね。最初はちゃんと飲んでくれるんだけど……」
 二人の母が見守る中、しばらくはそうやって夢中で飲んでいたが、やがて乳首だけを口先に
含んで「ちゅっぱ、ちゅっぱ…」と音を立てて吸い付いてくる。
「ほら、ラブがいる時に限って、こうやって遊んじゃうのよ」
「うん、さっきからあたしの顔ばっかり、ずっと見てる……。なんでだろう?」
 胸先に口をくっつけたままの状態で、つぶらな黒目がジーッと、せつなの隣に腰掛けているラ
ブの顔を見上げている。
「あたしが見えてなくてもこんな感じ?」
 ためしにラブがベッドの後ろに隠れて、ジッと息をひそめてみる。ある程度時間が経ってから
「どう?」と声をかけてみたが、せつなは静かに首を横に振る。
「ダメね。なんだか目がキョロキョロしてるわ。まるでラブの気配に気付いているみたい」

 ベッドの後ろから出てきたラブが、別の作戦を試してみることにした。
 あいかわらず乳首をチュパチュパしている娘の横に顔を並べて、もう片方の乳房に口をつけ
る。
「いい? お母さんのおっぱいはね、こうやって……」
 ラブがお手本を見せるように、乳房の先端を深めにくわえてチラッと娘と視線を合わせる。そ
して、ぎゅううっと口に吸引力を加えて乳(ちち)を搾りだした。
 せつなの「…ウッ」という小さなうめき声。彼女の眉間に微妙なシワが寄る。娘と吸い方は同
じなのに、ラブに吸われると何か違う。
 サラサラした母乳の甘さをロクに味わおうともせず、ただ搾れるだけ搾りとろうとする強い吸
いつきに、せつなの口から思わず熱い溜め息を洩れてしまう。
(こ…こら、どれだけ飲む気なの……ラブ、あなたのための母乳じゃないのよ)
 乳頭を無理やり引き伸ばされる痛みに、せつなの瞳が被虐的に潤みつつある。娘がいなけ
れば、とっくの昔に喘ぎ声を上げていただろう。
 生後五ヶ月の娘の口に遊ばれているほうの乳房はくすぐったくて、ラブがむしゃぶりついてい
るほうの乳房は乱暴ともいえる吸引で虐(いじ)められている。
 左右の乳房を全然違う感覚になぶられて、気分が変になりそうだった。
「もういいわ、ラブ」
「どう? ……うわぁっ、めっちゃ笑ってる!?」
 隣に目を向けると、満面に笑みを張り付かせた娘がちっちゃな手を伸ばしてきた。ぺちっ、と
ラブの鼻先を叩く。
「……ねえ、思うんだけど、もしかしてラブと遊びたいんじゃない?」
「そうなのかな?」
 ラブがオードリー・春日の顔ネタである「鬼瓦」をしてやると、娘は無邪気な奇声をあげて喜ん
だ。
「いつも仕事で遅くなって、遊べてないもんねえ。……ん〜ん? さびしかったぁ?」
 今度は人差し指でほっぺたをすりすり。娘が身体を揺らして笑う。
 せつなとラブも顔を見合わせて笑った。
 ラブの人差し指を、赤ん坊の小さな手がきゅっと掴む。そして、そのまま母の乳房に吸いつい
て、喉を鳴らして母乳を飲み始めた。
「チュパチュパしなくなったね」
 一生懸命口を動かして母乳を吸っている娘へ、ラブが優しい声で約束する。
「遊ぶ暇がなくてもスキンシップの機会は増やすようにするから」
「今日は三人で寝ましょう」
「うん、そうしよ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ベッドの中。愛娘を真ん中にして、せつなとラブが向かい合う。
「ねえ、ラブ…、わたしもラブとのスキンシップの機会増やしたい」
「ははは、今日は中途半端になっちゃったもんねー」
 お互いを愛おしく見つめあっていた二人が、スヤスヤ眠る天使の顔を覗きこんで、「ちょっと
だけ許してね」「ふふっ、ごめんね」と謝ってから唇同士の深いスキンシップを交わした。


(おわり)