あなたに愛されるぬくもりを。 04


 全身の肌と肌とふれあわせながら抱き合うのは、パジャマ越しのそれより何倍も気持ちよか
った。すっかり汗ばんだ肌が、お互いの白い裸身に熱く密着する。
「あん…ラブ……動いたら、ダメ……」
 ラブの肌に、胸の先っぽ ―― 硬くなった薄桃色の乳首がこすれる。過敏な刺激に、せつな
がかすれ気味の喘ぎ声を上げて、悩ましげにカラダをくねらした。
 しかし、そんな色っぽい声で頼まれると、逆にウズウズとしてしまうラブだった。瞳いっぱいに
イタズラな微笑を浮かべて、裸身を前後に動かした。
「動いたらダメっていうのは……こういう事かな〜?」
「やっ、ラブぅぅ……う、動かないでって頼んでるのに〜〜っ」
 あはは、とラブが笑って指摘してくる。
「おっぱいの先がこすれて気持ちいいんでしょ。……せつな、イヤラシっ」
「だ、だれがイヤラシイのよっ!?」
「じーっ」
「やだ、こっち見ないでよ」
 せつなが顔を赤らめつつ左こぶしを口もとに当て、視線を泳がせた。ちょっと強がってるそぶ
りもまた可愛らしい。
(今のせつなの顔、食べちゃいたいくらいカワイイ……)
 ラブの顔が、せつなの左こぶしをスルリとかわして唇を奪いにいく。もちろん、その際にいや
らしくカラダを動かす事も忘れずに。
(……これ、あたしもけっこう気持ちいいけど)
 せつなのやわらかな肌に、欲情して強張った乳首を擦りつけ、こねくるように転がして味わう
快感。せつなのカラダを使ってこっそり自慰をしているみたいで……微妙な罪悪感。
 唇を吸いあう甘い音を響かせて、何回もくちづけを楽しむ。両手は ―― 指は、どんどんせつ
なの白く美しい裸身を滑って、
 ―― ほっそりした肩の丸み、柔らかな二の腕、ヒジの内側、華奢な手首、細指を絡めてくる
手 ―― 。
 ラブの指先が ―― 手の平が、せつなという少女をなぞってゆく。
 ―― 敏感なわき腹、汗ばんで熱くなった背中、肩甲骨の感触、うなじの触り心地、ぷにっとし
た耳たぶ、上気した頬、汗に濡れた額 ―― 。

 喘ぎ声を上げようとするせつなの唇を、いじわるくキスで塞ぎながら、胸にたくさんの想いをこ
ぼれさせた。
 ―― せつはあたしだけのもの。せつなは誰にも渡さない。せつなを強く独占したい。ずっとせ
つなに触れていたい。せつなの何もかもを愛し尽くしたい…………

 ラブの両手が、せつなのつややかな黒髪に深く手櫛を通した。そして、そのサラサラとした黒
髪の流れを、感情のままに、乱暴とも言える手つきで梳(す)いてゆく。
 何度も何度も、繰り返し ――― 繰り返し ――― 。
 それは言葉じゃなくて、動きによる「ささやき」だった。せつなが好きだよ、もっとせつなが欲し
いよ、もっともっとせつなを愛したいよ……と。
 せつなの髪にほんのり香っていたシャンプーの匂いも、ラブが執拗な手櫛の愛撫を繰り返し
ているうちに、無残に散ってしまった。
 女の命である髪を、こんなにもかき乱され、嬲りまわされ ――― それでも、せつなは狂おしく
胸の中で歓喜の叫びを上げた。
(ラブが……わたしを欲しがってる……!! こんなに激しくっっ!!)
 唇を吸ってくる動作も、響かせる音も、ずいぶんと粘っこさを増した。せつなが、その淫らさに
震えて ――― 全身を激しく疼かせた。
(ラブ、来てっ。もっと……もっとたくさんっ……もっといっぱいっ……!)
 カラダが熱くて、我慢できなくて、ラブに『ぎゅううっ!』としがみつく。女の子の本能で理解して
いた。今からラブの手で、自分がとてもイヤラシイ娘にされてしまう事を。
 でも、それが今のせつなの望み。
 興奮して震えの止まらない両手が、ラブの両頬に添えられ、キスを続ける彼女の顔をそっと
持ち上げた。唇にこびりついていた唾液が、ほんの少しの間だけ粘つく糸となって、二人を熱
い唇を繋いだ。
「ラブ、そろそろ……わたしの、赤ちゃんの産まれてくる所を……その……」
「どうして欲しいの?」
 ラブがせつなの髪をかき回すのをやめて、右手の人差し指を彼女の唇に滑らせた。くすぐっ
たさに、せつなが「ああ…っ」と声を震わせた。
 言わなくても何をして欲しいのかは分かるけど、それでも彼女の口から言わせたかった。そ
れを恥ずかしそうに口にする時のせつなは、きっとものすごくカワイイから。
「…………て…しいの」
 ラブに視線をまじまじと顔に感じ、自然とせつなの声が縮こまってしまう。ラブを見返す瞳も、
まるで怯えた小動物みたいで。
(あっ、やっぱりカワイイっ。……でも、この程度じゃあ許してあげないよ)
 ラブがわざと聞こえないフリ。
 せつながもう一度、蚊の鳴くような声を精一杯振り絞って哀願する。しかし、ラブはやっぱり聞
こえないフリをした。
(も、もしかして、からかっているの? ……ラブったら!)
 せつなが、キッと瞳に怒りを込める。まるで、燃える炎をそのまま紅玉に宿したような美しさだ
った。その瞳に打たれたラブが、全身をゾクゾクとわななかせた。……が、それも一瞬の事。
 気丈な姿勢はもろく崩れ、可憐な細身を震わせての必死の懇願。
「赤ちゃんを産む所を、い、いじめてほしいの。いやらしいこと……されたくて仕方がないの」
 もう本当に、ベッドから飛び降りて逃げ出したいほど恥ずかしかった。顔が火を噴いたみたい
に熱くて、しかもそんな顔をラブに見られていると思うと ――― 。 
「ラ…ラブゥゥゥゥ〜〜〜、もう嫌ぁぁぁぁ〜〜〜」
 ラブの肩に顔をうずめて、イヤイヤをするみたいに頭を振り乱す。そのあまりにも可愛すぎる
恥じらいの仕草は、破壊力満点だった。
「あーーんっ、せつなカワイイーーーっっ!!」
 これこれっ、これを待ってたの!と思わずガッシリ抱き返してしまう。
「もおっ…わたしで遊ばないでよ〜…」
 せつなの声は泣く寸前だった。ラブが一応「ごめんね」と謝っておく。……でも、その顔はにや
けている。
「可愛かったから、ご褒美あげる……ちゅっ」
 ラブが、せつなのおでこに軽いキス。その感触を撫でながら、せつながぼやく。
「はぁ……。どうしてこんなイジワルな相手を好きになっちゃったのかしら。……この前だって、
ハンバーグに細かく刻んだピーマン混ぜてたでしょ」
「たはは、バレてた? えーっと…、でもね、ちゃんと理由(ワケ)はあるんだよ。あたしなりに、
せつなのピーマン嫌いを少しでも克服させてあげようと考えて ――― 」
「ふーん?  どこかの誰かさんは、わたしがハンバーグ食べているのを横目でチラチラ見な
がら、笑いをこらえていたようだったけれど?」
 ラブが「うっ」と微笑を浮かべたまま凍りつく。確かにイジワル自体が目的ではなかったが…
…とはいえ、せつなへのイタズラ心があったのも事実だった。
 せつなが怒っているフリをしつつラブから顔をそむけ、心の中では、悪戯な猫の顔で舌を出し
た。その数日後に、こっそりコロッケにラブの苦手なニンジンをすり身にして混ぜて<お返し>
したのは内緒だ。
「……でも、イジワルされている時のせつなって、いいよね。いつもの10倍は可愛いもん」
 つっ、とラブの人差し指があごの下を這って、せつなの顔を上げさせた。まだ羞恥の色があ
せていない表情でラブと向き合い、せつなが冗談を口にした。
「じゃあ、今のわたしは普段のラブより100倍は可愛いという事かしら」
「もお、それってせつながあたしの10倍美人って事じゃん」
「あら、違うの?」
「せいぜい5倍程度にまけといてよ。……っとウリウリ〜」
「あっ…ラブ……っっ」
 ラブの指が、せつなの胸先をつまんで転がしていた。身悶える少女の裸身を、ラブの細腕が
仰向けにして組み伏せる。
「あっっ!」
 せつなの白い喉がのけぞった。『ちうううッッ…』とラブの口に乳房の先が強く吸引されて、乳
首が痛いほど引っ張り伸ばされる。
(ダメっ…ラブにそんな風にされたら……我慢できないっ!)
 せつなが太ももをすり合わせて、ガクッ!と崩れるように腰を引いた。ラブに吸い付かれた乳
首がたまらなく疼いて、処女の恥部を淫らに潤ませた。
「あ゛ぁああぁぁ……」
 せつなが声を震わせる。全身にゾクゾクとくる感触。もう本当に待ちきれない。
「ねえ、ラブぅ、わたしちゃんと可愛くお願いしたでしょ? は…早く、ここを ―― 」
 せつなのすらりとした腕が、ラブの手を取って自らの下腹部へと導いた。まだ草むらといって
も差し支えない柔らかな恥毛の茂み、そしてイヤラシイ蜜をたっぷりと滴らせる無垢な秘貝。
 ラブの指が触れただけで、ビクッ…、と腰に震えが走った。
「大丈夫だよ、せつな。来て」
 その声にうながされて、せつなの両手がラブのカラダにすがりつく。きゅっ、と心細そうに。し
かし、胸は『ドキドキドキ…』と心臓の音でいっぱいなくらい高鳴っている。
「せつな、ほら、あたしのカラダ、ここにある。…怖くなったら、もっと強くつかんでいいからね」
 ラブがあやすみたいに優しい声で、せつなの緊張を和らげてやる。せつなの首が小さく縦に
振られてから、ゆっくりと彼女の秘所に指をすべらせた。
「あっっ…ア゛ッ!」
 せつなの声が跳ねる。
 熱く欲情したぬかるみを指先がまさぐる。まだ処女の性器は、濡れそぼった割れ目をぴっち
りと固く閉じているが、その内側では、ラブの指を待ちわびて恥肉をトロトロに蕩けさせていた。
 すりっ…すりっ…。
 しどけなく濡れた恥裂に指先を這わせ、ゆっくり上下に撫でさする。それだけでせつなが腰砕
けになって、「アッ…アッ…!」と今にも泣き出しそうな声を上げた。
(駄目っ…これ、溶けちゃうっ……! ラブの指に溶かされちゃうっ!)
 オナニーの経験すらない少女の頭の中で警報が鳴り響く。生まれて初めて味わわされる淫ら
な指戯で、処女の恥肉が官能的な悦びに沸き立っていた。
「だめだよ、せつな。脚を閉じないで」
 反射的に「きゅっ」と閉じてしまった両太ももを、ラブの手の平がやんわりと押し広げた。優し
げな声色と口調だったのに、叱られた、と思い込んだせつなが目の端に涙の粒を浮かべた。
「ごめんなさ…い、ラブ……」
「ううん、怒ったんじゃないよ。ごめんね、せつな」
 ラブがせつなの後頭部に手を添えて、「よしよし」と優しく撫でてやる。それからギュッとその頭
を抱きしめた。
「大丈夫? 怖くない? ……まだいけそう?」
 耳元にこぼれる愛しい人のささやきに、せつながしっかりとうなずいた。ラブが「よし、じゃあ
頑張ろうね」と返してくれたのが嬉しかった。
「おねがい。わたしをもっと……ラブの指で……」
「いいよ。まかせて。……でも、途中で怖くなったら本当に言ってね?」
 ラブとて、自分のつたない性欲の捌(は)け口に使用するだけだから、誰かに自慢できるほど
上手くはない。けれど、ウブなせつなの秘所を感極まらせるには十分な指使いだ。
 くちゅっ、と粘つく肉音。
「ああっ」と小さな叫びを上げて、せつなが愛しい相手のカラダにしがみつく。ラブがその汗ばん
だ熱い裸身を抱きしめ返して、秘貝の軟らかな肉唇に、グッ、と指先を押し付けた。
「………………ッッ!!」
 せつなの背中を『ゾクゾクゾクゾク……』と瘧(おこり)のような震えが駆け抜けた。今、ラブが
指で触れている部分の ―― そのずっと奥がたまらなく熱い。
「あ…あっ、ラブ…すごいわ……それ……あ゛っ、それっ……」
 清い処女の入り口を浅く割りながら、濡れそぼった綺麗な肉色の粘膜を、ゆっくりと往復する
ラブの指先。皮膚越しではない、直接の快感刺激に、せつなの腰が恍惚と悶えた。
(あ゛あああああ……ああああああああ…………)
 せつなの双眸がうっすら開いて、ぼんやりと天井を見つめた。思考を放棄して、ただ快楽に
酔いしれながら。
「せつなはもっと奥がいい……?」
 ラブが指に濡れた肉の感触を絡ませ、くちゅくちゅ…と静かに粘っこい音を響かせた。さらに
深く指を潜らせようとしている。
「あっ、あっ! あっ、あっ……あっ!」
 淫らな蜜でぬかるんだ秘貝の内側をまさぐる指使いに、ビクッ!ビクッ!と白い肢体を跳ねさ
せた。また反射的に脚を閉じてしまいそうになったが、寸前でラブの言葉を思い出す。
(うっ…ラブに叱られちゃう……)
 せつなが閉じかけていた白い美脚を、ぐいっ、と開いた。
「うんうん、せつな、えらい」
 そう言って、ラブが頭を撫でてくれた。まるっきり子供扱いだけど、せつなは素直に喜んだ。
「ご…」
「ん?」
「ご褒美。……さっきラブが駄目って言ったから、わたし、脚を閉じなかった……」
「そうだね。せつなにちゃんとご褒美あげなきゃ…だね」
 ラブの手がせつなの前髪をかき上げ、チュッとおでこに優しいキス。せつなは嬉しくて、その
唇に額をこすりつけた。
「ふふっ、せつなってば子犬みたい」
 甘えてじゃれ付いてくるせつなを写真にとって、皆に自慢してまわりたい。あたしのお嫁さん
は、こんなにかわいいんだよって。
「……そうそう、こっちにも『ご褒美』あげないとね?」
 ラブが『ぷぢゅ…』と今まで以上に湿った音を立てて、せつなの性器を内側から強く指先でさ
すり上げた。せつなが溢れさせた愛液を潤滑油にして、敏感すぎる恥肉を細かくこすってや
る。
「いやっ…あッあッあッ…駄目っ! だめぇぇ…ラブぅぅぅッッ!!」
 せつなが腰を、ぶるるるる……、と震わせて、ラブの身体に必死にしがみついてきた。
「だめッ…ちょっと待ってラブっ、こんな……無理っ! 駄目だってば……あ゛あ゛あ゛ッ!」
 涙目で激しく首を横に振って訴えてくる、そんな彼女の反応があんまりにも可愛らしいものだ
から、ラブが調子に乗って、さらに指使いを速めていく。
「せつな、ほら、この辺っ? ん〜〜、こっちかな? ……それともここかなっ?」
 ビクッッ…ビクビクビクッッ!! と、せつなのカラダの反応は、電気でも流されたみたいに
劇的だった。しどけなく濡れた秘所のあちこちをイヤラシクまさぐられた上、薄い包皮ごしに未
開発のクリトリスにねっとりとした愛撫を受けたのだ。
(い゛っっ……やだっ、何これッッ!!?)
 その小粒な一点が甘受した強すぎる快感に、せつなが両脚を、ビクッッ、と突っ張らせた。気
持ちよすぎたのか、足の指が全て反っている。
「ふ〜ん、ここなんだ、せつなのお豆さん。ほら、こうするといいでしょ? ほらっ…ほらっ…」
 ラブの指使いに合わせて、せつなのカラダが面白いほど、ビクッ! ビクッ! と跳ねる。
「……ッあ、ぐッッ…うぅっ…くっ…ウゥッ! は…うッ」
 まるでラブの指の動きに感電させられているみたいだった。美しく整った顔立ちが無様な泣き
面に歪み、まともに喘ぎ声も上げさせてもらえない。
「 ――― ンンンンッッ……あはあああっっ!?」
 ぐぐっ…と持ち上がっていた腰が突然ガクンッ!と崩れる。敏感すぎるクリトリスへの責め効
果は顕著だった。
(ダメッ ―― もう頭がおかしくなるッッ ―― )
 股間から突き上げてくる快感の津波は、きもちいいを通り越して、気が狂いそうだった。せつ
なの意識はクリトリスを嬲るラブの指に翻弄され、そして……
「ひっ…、ひぐっ、うっ…、うっ…」
 食いしばった歯の間から嗚咽を洩らし、すすり泣いてしまう。 ―― それが鼓膜に届いた瞬
間、ラブは、びくっ!と全身を強張らせて、思わずせつなの顔を覗きこんだ。
「だ、だいじょうぶっ!? せつなっ!?」
 明らかにやり過ぎた ―― ラブが瞳に後悔の色が浮かぶ。しかし、指の動きが止まったこと
で意識を揺り戻されたせつなは、まぶたを開いて、グッ、と瞳に力を入れてラブを見返した。
「へ…へーき。……だってっ、ラブとだから……」
 抑えきれない嗚咽に声を震わせ、強がっているのが見え見えだった。
「わ、わたし、本当に平気よ。ほら…ね?」
 無理に浮かべて見せた笑顔。謝ろうとするラブに、微笑みながら何度も首を横に振った。そ
れでもラブの瞳から悔悟の念が消えないと見ると、逆に自分から謝った。
「ごめんなさい……わたし、初めてでびっくりしたから……」
「そんなっ! せつなが謝ることないじゃんッ!」
「ごめん……次からは精一杯がんばるから ―― だから、もう泣かないから……」
 これ以上ないほどのいじらしさに打たれたラブが、彼女の唇へそっとキスを重ねた。

(無理にがんばる必要なんてないよ)

 ラブのやわらかな唇の感触は、そう言っていた。"二人"が愉しめない愛なんていらない。
 髪を梳かれる。ラブの左手が指を優しく動かして、せつなの髪先を洗うように。女の命である
髪に、自分の愛を溶けこませるように。
 ……心地よかった。

 ラブが唇を離した時には、せつなは落ち着きを取り戻し、泣きやんでいた。そして、今度は無
理にじゃなく、本当の笑顔を浮かべてみせる。
「ありがとう、ラブ」
 ――― でもね、わたしは「やめてほしい」なんて一言も言ってないでしょ。
 せつなが胸の内でひっそりと言葉をこぼした。
「ふふふっ」
 と、鈴が転がるみたいな声で笑う。
 本当は、ちょっとだけこわかった。しかし、それ以上に人生で一番、最高にドキドキできた。ま
だ心臓で高鳴っている興奮の響きがその証拠だ。
 ――― 全然嫌じゃなかったのに、ラブったら。
 ラブの耳元に口を寄せて、せつなが軽く怒った口調でささやく。
「ラ〜ブ? ちょっとだけお仕置きよっ」
 耳たぶへ這わせた唇が、その部分をチュッと口に含む。くすぐったそうに身じろぎするラブを
感じながら、甘く歯を立てた。…少しだけ食い込ませる。
 ぴくんっ、と反応するラブのカラダ。
 ラブの指使いを思い出すと、全身がとろけるような欲情を覚えた。
「……したい。ラブと、エッチなこと。泣かされたって全然かまわないから」
 心の底からの本音。
 大好き ―― その気持ちを込めて、今度はもう少し強くラブの耳たぶを噛んでみた。
「ンッ!」
 痛みに身をすくめるラブ。そんな彼女とほっぺた同士をギュッとくっつけて笑う。
「せつなは最高にエッチなこと……したい?」
「うんっ、ラブとしたいっ」
「じゃあさ、セ ――― しちゃおっか」
 途中の言葉があまりにも小さすぎて、聞き取れなかった。せつなが視線で尋ねてみるも、ラブ
がその言葉を繰り返すことはなかった。
 代わりに、ラブがせつなの恥部に這わせていた手を抜き、上半身を起こした。
「…あっ」
 せつなが、離れていくぬくもりに追いすがろうと手を伸ばす。その腕と、ラブがせつなの顔へと
伸ばした左腕が交差する。
 ラブが優しく微笑みつつ、せつなの顔を濡らす涙を丁寧にぬぐってゆく。
「終わりじゃないよ。すぐにまたくっつくから」
 その言葉に安心して、せつなが手を引っ込める。だが、涙のせいでたっぷり潤んだ眼差しは
一刻も早くラブと重なりあいたい、と望んでいた。
「あ、今のせつなの目、いやらしい…」
「そうでしょうね。でも、わたしをこんなにいやらしい女にしたのは、どこのだ〜れ?」
「あはは…」
 苦笑。せつなのからかうような目付きに同意せざるを得ない。最初、ラブとのキスにすら驚い
て泣きかけていた少女は、清冽な印象を脱ぎ捨て、とても淫らに羽化していた。
 黒髪は乱れ、白くほっそりした肢体は上気して汗ばみ、胸や恥部をラブの目から隠そうともし
ない。微かに恥じらいを残した表情もまた、ゾクッとくるような色っぽさを刷(は)いている。
 視線にカラダを撫でられただけで、せつなは「あっ…」と声を洩らし、なまめかしく裸身をくねら
せる。もうそれくらい、全身の感度は高まっていた。
 興奮を誘う媚態に、ラブがうっとりと瞳を潤ませた。
「せつなのカラダって……いやらしくて……それでもすごく綺麗だよね」
「好き?」
「うん。大好き」
「わたしも、ラブのカラダが大好き。スタイルが締まってる割に、あちこち柔らかくて……手触り
が美味しいもの」
「たはは、せつなの手には、恥ずかしい所まで味わわれちゃったもんね…」
 ラブが座った姿勢のままベッドの上を移動。興味深く見守るせつなへ、恥ずかしそうに頼みこ
んだ。
「こ、これから二人で赤ちゃん作る練習するけどね、なんであたしがこんな事知ってるのかって
質問だけは、絶対にしないでね」
「そんな風に言われると、逆に気になるけど?」
「ごめん、せつな。そのね……恥ずかしい思いをするのは……あたしだけじゃないんだ」
 なんとなく空気を読んで、せつなが「…わかったわ」とうなずく。
 言えない。絶対に。ラブが幼い頃、偶然ばっちり目撃してしまったお父さんとお母さんの『ハダ
カのプロレスごっこ』
 あたしもー、お母さんとチーム組むぅ…と言って参加しようとしたラブを、重度の胃潰瘍に苦し
められているみたいな痛々しい笑顔で懸命にごまかす両親の気の毒な姿は……これからもず
っと記憶の底にしまっておいてあげたい。
(でも、そのおかげで、せつなと出来ます。ありがとう、お父さん、お母さん……)
 心の中で妙にかしこまって感謝したラブが、せつなの左脚を軽く持ち上げようとする。その動
きに反応して、せつなが自分から脚を浮かせた。
「こう?」
「そう、赤ちゃんが産まれる所をくっつけあうの。こうやって……」
 ラブの右脚が、せつなが浮かせた左太ももの下に潜りこみ、お尻をすりながら体同士の距離
を詰めてくる。
(ラブが……わたしのほうへ"深く入ってくる"……)
 ぶるぶるぶるッッ ―― せつなの背が、本能的に淫らな行為を察して震える。ラブの指にかき
回された秘所でも、『じゅんっ…』と熱く沸き立つような疼きを感じた。
(あっ…ラブっ ―― 早くっっ!)
 ほんのわずかな数秒も待ちきれない。せつなが後ろ手を着いて裸身を起こし、ラブが「来て」
と持ち上げた左脚の下に、右脚を滑りこませた。
 ぐっ、と腰をラブのほうへ、深く突き出すように差し入れる。彼女の動きに合わせて、ラブが身
体を倒し、右側臥位の姿勢を取った。せつなの欲情した腰を、より深く受け入れるために。
「くっつけてみて、せつな」
 ラブの白くむっちりとした両太ももにくわえこまれた腰を、二三度、軽く動かして位置を調整。
ぐっしょりと淫らな蜜で濡らした処女の性器同士を……その軟らかにとろけた肉の感触をすり
寄せあう。
「あ゛っ…ラブ……」
「んっ、いいよ、せつな…」
 ぬるぬる…と、なんとも言えぬ甘美なヌメリが股間に押し付けられる。蠱惑的な肉の悦びが
二人の背筋を貫き、ぞくぞくぞくっ ―― と止まらない震えをもたらした。
「すごいよ、せつな……これ」
 目を閉じて神経をそこに集中させながら、ラブが腰を揺すった。二人の秘所が『くちゅくちゃ
…』と粘っこい音を奏でる。いやらしい蜜でぬるんだ肉の摩擦に、せつなが紅潮させた顔を仰
け反らせた。
「あぁ…はぁぁっ! …来てっ、ラブぅぅ……もっと来てぇぇ!」
 数段高い声で喘いだせつなが、自らも腰を使い出す。ますますとろみを帯びてゆく恥部が、
愛液という名の涎を二人の腰下に飛び散らせた。
「あンッ! せつな、そんなにいやらしく動いちゃ……」
 ぶるるッッ…と裸身を震わせて、ラブが口もとを覆うように右こぶしを持ち上げた。そして、そ
の腕とクロスさせながら、左手でベッドのシーツをギュッと強く掴んだ。
「ごめん、ラブ……ガマンできないの、わたし……ラブともっと……、あぁっ、ラブっ!」
 せつなが甘やかに腰を揺すり、『クチュクチュクチュ…』と淫靡な音で二人の秘所をかき回
す。
「やだっ、せつなっ…! だったらあたしだって……、ほら、こ…こんなのは、どうっ?」
 ラブが腰の振りに緩急をつけてきた。激しく責めて、すぐにゆっくり舐めるような腰使い、そし
てまた急速にテンポを上げ……。
「ううぅぅぅぅ……ふぁああああああぁぁ…………」
 せつなが股の間をびちゃびちゃに濡らしながら、間延びした喘ぎ声で白い喉を震わせた。こ
のまま生殺し状態で「おあずけ」を続けられたら、本当に狂ってしまいそうだった。
「やあぁ……ダメよっ、ラブ……ここをそんなにイジメられたら、わたし死んじゃう!」
 せつなが後ろ手についた両腕をがくがく震わせて、ついにはラブと同じように裸体をベッドの
上に倒してしまった。
「やっ、ホントに……わたし死ぬっ!」
「まだ…駄目っ……まだ死なせてあげないっ……」
 二人の腰の動きが、さらに貪欲さを増してくる。お互いに性器を密着させたまま決して離れよ
うとしない。まるで腰から下の部分が激しくキスをむさぼっているみたいだった。
「まだだよ……まだいけるよ、せつなの…ンッ……カラダは……っ!」
「ダメよッッ! もうこれ以上は ――― あ゛あ゛ああああああッッッ!!」
 せつなが汗まみれの上半身に、痙攣のさざ波を走らせた。小刻みな津波に意識を明滅させ
るも、ラブの腰使いが気絶させてくれない。
「ほらっ、ねっ? まだ死ねなかったでしょっ? ……ねえっ、せつな、もっと…っ?」
 彼女のほうを窺わなくても、大きくうなずいたのが分かる。
 今ならせつなの事が何でも分かる気がして ――― 。
(そっか、これ、ダンスの時と一緒だ……)
 目で見なくても、言葉を交わさなくても、ただ感じるだけでせつなとピッタリ呼吸を合わせるこ
とが出来る。せつなという存在を全身で憶えている。
 ぬるぬると滑る淫猥な恥肉のワレメ同士を、ずっとくちづけ合わせたまま踊れたのも、二人
の身体が自然とお互いの動きを先読みするように反応し続けたから。
(最高の相性……ゲットしてるよね、あたしたちって)
 そんなことを考えながら腰の速度を落として誘う。今度はせつなのリードで踊りたいと。
(ラブ、わかったわ。……精一杯がんばる)
 息も絶え絶えといった調子だったせつなが、それでも欲情に駆られて腰を使い始める。秘貝
の中身をトロトロに蕩けさせて、ラブの性器に吸い付くように密着させたままで。
(うぅっ…すごっ……せつなの腰の動き……)
 ゾクゾクゾクッッ ―― 。ラブが表情に淫らな悦びの色を乗せ、再び裸身を震わせた。
 細やかな腰の動きには、明らかにラブを攻め落とそうという意思があった。濡れた恥肉をヌ
ルヌルヌル…と激しく摩擦され、気持ち良さのあまり、処女の膣肉が『キュゥゥッ』と収縮する。
 性器をありえないくらい刺激されているせいか、尿意までこみ上げてきた。ラブが思わず漏ら
しそうになって、ブルルッ…と腰を痙攣させた。
(ああぁぁ……、やだっ、あたし、もうイカされちゃいそう……)
 ラブの左手の指が、ベッドのシーツに食い込んだ。イキたいという衝動が、性感帯のように敏
感になった全身を突き上げてくる。
「ダメっ…、ダメよ、ラブ、まだ許してあげないんだからっ!」
 声の響きは朦朧としているが、その口調はややキツめ。せつな自らも全身に淫靡な震えを走
らせつつ、さらに深く腰をねじり込んだ。ラブが気持ちよさそうに悲鳴を上げる。
(そうよっ、いいわ、ラブ。そういう声……もっとわたしに聞かせて!)
 白磁の肌に汗の玉を浮かべながら、白い尻をなまめかしく揺する。処女の恥裂を、軟らかに
溶けた性器でねちっこく舐め回すかのように。
「駄目駄目っ……せつな、これスゴイっ……あぁ…ヒッ! やっ…駄目っ…あ゛あ゛んっ!」
 ビクンッ!とラブの裸体が跳ねた。彼女の肌を伝って、ベッドの上に熱い汗のしずくが落ち
る。
 せつなもまた、秘所の疼きに酔い狂わされていた。ラブを快感でなぶるための腰の動きは、
自分自身にも返ってきていた。軟肉にこすれるクリトリスが、卑猥な肉欲を強く響かせる。
「ラブっ、わたしも……駄目よっ、あっ…あ゛あぁ…ふあァッ! だめ、やっぱり死んじゃうっ!」
 せつなの腰の動きが、何もかもをかなぐり捨ててスピードを速めた。彼女の腰使いに従順に
組み敷かれていたラブが、あわてて追いすがってきた。
「イヤッ、せつな……あたしも一緒に死にたいっ、せつなと一緒にっ!」
「来てっ、ラブも一緒に……わたしと一緒にッッ!」
 思春期の少女たちが、白くなめらかな下半身を絡ませ合って、一つの快楽を駆け上がる。せ
つなの腰のリズムに合わせて、ラブも力強く腰を揺する。
 二つの腰の動きが、互いの軟らかに蕩けた性器をこねくり回して、官能の疼きを淫らに煮え
たぎらせた。
「あぁ…せつなぁっ! いいっ? 一緒だよっ! ほら、イクよ…いい…イクよ? あーーーっ、
せつなぁっ、ああッ! ア゛アアアァァァッ!!」
「わかってるわ、ラブっ! 一緒に…一緒に死ぬからっ! あ゛あ゛っ、ラブッ、ラブぅッ、一緒に
…あああっ! ラブうううううーーーッッ!!」
 落雷のように強い痙攣が、二人の腰を何度も打ち据えるが、ラブもせつなも腰を振るスピー
ドを緩めなかった。そして、ついには密着した彼女たちの股間が同時に『ピュッ!ビュッ!』と愛
液の潮を吹いた。それでも彼女たちの腰は、秘所をすり合わせる動きをやめなかった。
「ふああ…あ゛あっ、あぁぁぁ……」
「……く…………はぁ…………」
 ラブとせつなの顔は法悦に酔いしれて、すっかり弛緩している。
(すごい…せつなと……こんなにすごい……あああ)
(ラブ……わたしとラブが……ああ、まだ二人のカラダ繋がってるのね……)
 熱く汗まみれになった裸身を絶頂の余韻に浸らせつつ、スー……と意識が遠くなるような感
触に身をゆだねた。ぐったりとした力の抜けた下半身が、ようやく腰の動きを止めた。
 二人の口から洩れるのは、全力疾走後みたいに荒く乱れた吐息だけ。言葉を吐く気力も意
思も残っていない。
(赤ちゃんを作るのって……死ぬほど大変なのね……)
 練習でこれぐらい疲れるのだから、本番のことを考えるとゾッとする。でも ――― 。
 せつなの手が自分の下腹部を優しく撫でた。

 ―― 大丈夫よ。わたしの中に……生まれてきて。

 まだ宿っていない<生命>へ、せつなが語りかける。

 ―― このあたたかい躰(からだ)で、あなたをちゃんと受け止めてあげる。
  ―― まだ頼りないお母さんだけど、大丈夫。わたしの隣には、頼りになるラブがいつもいてく
れるから。ほら、心配なんていらないでしょ?
 ―― あなたを産んであげたいの。笑顔と幸せを、あなたにたくさんあげたいから。

 あなたに愛されるぬくもりを。 ――― その言葉を最後に、せつなはラブと下半身を繋げたま
まのあられもない姿で眠りに落ちていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 あの日…、全身にラブの残滓をこびりつかせて迎えた朝から、もう七年もの月日が過ぎた。


 タンタンタンタンッ、とまな板の上を踊る楽しげな包丁の音。薄く切ったニンジンを重ねて、細
く切っていく。このあとゴボウの千切りとまぜあわせて、シャキシャキと小気味よい歯応えのサ
ラダにするのだ。
 わたしはまな板の上に鮮やかな赤の彩りを散らしながら、ラブの顔を思い浮かべて微笑ん
だ。ごめんなさい。でも反省はしてません。ふふふっ。
「こらーっ、桃園せつなーーっっ!!」
 まるで想いが通じ合ってるみたいに、帰宅したラブが一直線にキッチンへと突撃してきた。も
しかしたら、虫の知らせでもあったのかもしれない。…ていうか、フルネームで呼ばないでよ。
 反射的に両手でおなべのフタを盾のように構えて、ラブと対峙する。
「あ…あら、今日はずいぶんと早かったのね。そんなに夕食が待ちきれなかったのかしら?」
「白々しいっ! あたしがニンジン嫌いなの知ってるくせに! なんでイジワルするのよっ!?」
「イジワルだなんて……。わたしはただラブのニンジン嫌いを少しでも早く治してあげたいと思
って ――― 」
 ぷっ、と噴き出しそうになったので、心にもないことをしゃべる口を閉じた。しかし、にやにやと
頬が緩んでしまったのをラブに見られた。マズイ。
「せーつーなー?」
 ラブの浮かべた笑みに、どす黒いモノが広がっていく。……殺意?
 悪に堕ちた瞳でニヤリと笑いながら、ラブはずっと背後に隠していた左手を、ゆっくりと突き
出してきた。その手が掴んでいるビニール袋にぎゅうぎゅうに詰められた、たくさんの緑の塊。
 ああ、一目見ただけでわかる……。ピーマンだった。
「気が合うよねー? 実はあたしもね、せつなのピーマン嫌いを治してあげようと思って……」
「ふふふ……あはははは……」
 わたしはついにこらえきれず、口から笑い声をこぼしてしまう。ラブ、残念だったわね! 勝ち
誇ったわたしは、フライパンに用意してあった料理を彼女へ見せ付ける。
「ラブっ、今日の夕食のメインは<ピーマンの肉詰め>よっっ!」
「なっ!? ―― どうしてせつながっ!?」
「精一杯がんばって克服したわ。ラブにバレないよう、こっそりとね」
 そう、今みたいなラブの顔が見たかったから。
 このあとの夕食で絶望と向かい合うラブ。そんなラブを眺めつつ、わたしは軽やかに箸を進
めるの。ふふっ♪ 全ては計画通り。
 えっ…と、これってやりすぎじゃないわよね? まさかラブ、本気で怒ったりとかは……。
「せつな、許さない」
 ……えっ?
 ラブは瞳に怒りを溜めて、ピーマンの詰まった袋をテーブルに置き ―――
「悪いせつなには、たっぷりとオシオキ」
 わたしはおなべのフタを落として、大きくなり始めたお腹をあわてて両手で覆う。この先は、赤
ちゃんには見せられない。
 唇をふさぐ軟らかな感触。妊娠中のわたしに遠慮して、最近は全然ベッドでいじめてくれな
い。だから、わたしはガマンできずに自分から口を開いて、ラブの舌を受け入れた。
 ラブの両腕で身体が抱きしめられる。これでもう逃げられない。いつもよりも乱暴に舌を絡め
られながら、しばらくは解放してもらえそうにないと思った。
 そして、このまま解放しないでと願った。

 たくさんのことを思い出す。
 たとえば、爆発したメビウスの塔の跡地に建造された<ホホエミタワー>。そこで挙げられ
た、ラブとわたしの結婚式。
 美希がブルンを使ってくれて、とても素敵なウェディングドレス姿で式に臨むことが出来た。
 さらに、この日のために練習を重ねてきたブッキーの生演奏が美しく式を盛り上げてくれた。
(ちなみにお父さんは始終泣きっぱなしで、お母さんや他のみんなにずっとあやされていた)
 その後、新婚旅行を兼ねてラブとわたしは、二人がかわした約束のために旅に出た。二人寄
り添い、希望を信じて。
 数多(あまた)のパラレルワールドをゆく月日。わたしたちの想い描く夢を羅針盤にして、遠い
遠い、果て知らぬ旅路。
 ……気になっていたことがあった。ラブにもらった結婚指輪を手の平の上に転がしながら考
える。概視感。この重みは何かに似てると一年間ほど悩み続けて、ようやくわかった。
 ラブがわたしにくれた、あのラブレターの重みだ。そういえば、やっぱり封を開けるのがもった
いなくて、まだ中身を読んでいない。
「一度きりの人生なら、ラブと生きてゆきたい……」
「ちがうよ、せつな。あたしと、あたしたちの子供と一緒に、でしょ?」
「そうよね」
 ラブの笑顔は、どんな時でもわたしを支えてくれた。世界に降り注ぐ、太陽の恵みのように。
 そして、ある事情があってラビリンスへと戻った時、
「せつな姉(ねえ)の捜してるのは、人間タイプの種の同性間妊娠でしょー? 出来るよぉ。我
が頭脳及びラビリンスの科学文明は偉大なー」
 非道い奴だったが、それでも俺たちの仲間だ ―― そう主張するウエスターとサウラーに球
根から育てなおされ、最年少科学者となったノーザちゃん(6歳)がいともあっさりと……。
 かくしてわたしは、ラビリンスにおける同性間妊娠者の第一号となり ――― 。

 服の襟元をずらして鎖骨の辺りにキスマークを付け始めたラブに、わたしはささやく。
「ねえ、母乳が出るようになったら、ラブも飲んでみる?」
「んっ」
 あなたがくれた愛が、わたしの中でゆっくりと実ってゆく。けど、これで終わりじゃない。
 この子を産んだら、次はわたしがあなたの中に<生命>を実らせる番。

 ラブのお腹に手を這わせ、いずれその場所に宿る未来の生命へと、心の声を届ける。
(待っててね、すぐにあなたにも、愛されるぬくもりを ――― )



(おわり)