あなたに愛されるぬくもりを。 03


 ……上半身を起こすせつなの背から、掛け布団が滑り落ちてゆく。その身体を追って、ラブも
ベッドの上に身を起こした。
 はだけられ、乳房を覗かせたままになっているチュニックパジャマの胸元を、せつなの手がさ
りげなく直してやる。
「ありがとう…」
 上気した顔を微妙にそらしながら、ぽつっ…とラブがつぶやく。まるで人形のようにおとなしく
待っている ―― せつなの手に脱がされるのを。
「…………」
 せつながラブのパジャマへと手を伸ばし、それから急にどうしたらいいのか分からなくなってし
まった。彼女のパジャマに触れられぬまま、手を引っ込めてしまう。
(本当にわたしが、こんなに深くラブに触れていいの?)
 一抹の不安と逡巡。
 けれど、自身の胸への問いかけに、答えはすぐに返ってきた。

 ―――― もっと深く触れたい、と。

 今度は迷うことなく両手が伸びて、ラブの顔を優しく挟み込んだ。そして、自ら顔を近づけ、唇
を這わす。ラブが両目を閉じたまま「ン゛…」とうめいた。
 鼻梁で、まぶたの上で、額で、頬で……、せわしなく鳴り響く『ちゅっ、ちゅっ』という甘い音。ラ
ブの顔に激しいキスの雨が降り注ぐ。
「あっ、あっ、せつ…な……」
 顔中がこそばゆいような感触。でも、せつなの両手で顔を固定されているため逃げられな
い。切なげに喘ぐ唇にもキスの雨が降ってきた。他の部分へのキスよりも、やや情熱的に。
 一万回キスしても、全然物足りない。
 ラブの顔を挟んでいた両手が肩へ、さらに滑り落ちて、腕をなぞりつつ彼女の両手へと。反
射的に握り返してきたラブの両手から、ゆっくりと手を抜き、代わりにパジャマの裾を掴んだ。
 ぐっ、とめくり上げられるのを感じて、ラブの喘ぎが羞恥の色を帯びた。しかし、せつなの両手
は、淀みなくラブからパジャマを脱がせにかかる。
 少女の健康的な裸身がどんどん露わになってゆく。ラブ自らも両腕を上げて、脱がそうとする
せつなの動きを手伝う。パジャマが首から上を通過する瞬間だけ、二人の顔が離れた。
「ラブ…」
 ラブの体温が染み付いたパジャマを手から落として、彼女の裸体に両手を滑らせた。すべす
べとしたやわらかな肌の触り心地を、ラブのカラダのあちこちで味わう。
 もちろん、ラブの顔にキスの雨も降らす事も忘れていない。
「せつなぁ…あ゛あ゛っ……」
 ラブの顔が、ビクッ!と左に背けられた。それでもせつなのキスは止まらない。ラブの柔らか
な髪にも、そして正面を向いた右耳にも。
「 ―― ひッ!!」
 びくっ!
 ラブが身をすくめた。いったんせつなの口が離れるが、すぐに再び耳の縁(ふち)を「チュ…
ッ」と唇でついばまれる。またラブが声を上げて、裸身を強張らせた。
(ふ〜ん…、ここが弱いの、ラブ?)
 せつなが、はだけられた赤いパジャマの両袖から腕を抜きつつ、ラブの耳の内側へ『ちろっ』
と舌を滑り込ませた。―― 瞬間、ラブの背にゾゾッッ…と悪寒めいた陶酔感が吹き上がった。
「ひッ…せつな…そこ駄目だよっ、本当に…あっ…本当に……ひっ!」
 びくびくっ、と派手に痙攣するラブの裸体。せつなの着ていたパジャマが、はらり、と落ちた。
これで二人とも上半身は裸に。
「やめっ…やあぁっ! せつなぁぁーっ」
 せつなを身体ごと引き離そうと抵抗するラブと、彼女の両手をかいくぐってさらにカラダを密着
させながら、耳の内側でチロチロチロ…と細やかに舌を踊らせ続けるせつな。
 いじめられる側もいじめる側も、淫らな興奮に酔いしれていた。
(んっ! 胸の先がラブの肌にすれて……っ!)
 せつなが妖しく身震いした。ラブの裸身が跳ねるみたいに悶えるから、その都度彼女のカラ
ダに押し付けた乳首がこすれて刺激されてしまう。
 つっ…と、せつなの赤い舌が、ラブの耳から引き抜かれた。
「そんなに耳が好かったの?」
 からかうような声に、ラブが顔を上げた。せつながクスッと笑って、ラブのあごを指差す。
「よだれ、垂れてるわよ」
「わっ!」
 慌ててあごを拭おうと持ち上げた右手が、パシッ、と掴まれた。代わりにせつなの顔が迫って
きて、ラブのあごにこぼれた涎を、ぺろっ…と舐め取る。
「ごちそうさま」
「もぉ…せつな〜〜……」
「ラブだって、わたしの飲んだじゃない」
 おあいこよ、とせつなが澄ました顔で受け流す。そして、両手をラブのパジャマのボトムへと
かけた。
「こっちも脱がすわよ」
 ぐいっ、とずらされる感触に、ラブが「うっ…」と恥ずかしそうにうめきながら腰をくねらせる
が、抵抗するそぶりはない。むしろ脱がせやすいよう、かるく腰を浮かせて協力してくれる。
 ショーツごと脱がされていく下半身が、白い太ももを覗かせた。
 プロダンサーのレッスンに日々しごかれている両脚は、陸上選手のようにしなやかで美しい
肉付きだ。太ももなど、ピチピチと肉の詰まった弾力感に溢れている。
 そして、その健康的な両脚の間には、匂い立つ濡れた茂み。
「…………」
 ラブの顔が、かぁ〜っと真っ赤に染まっていく。無言の口もとに震える右コブシを当てて、恥ず
かしさを耐え忍ぶ。
 せつなが完全に脱がし終えるのを待って、ラブが口を開いた。
「せつな……濡れてるのわかる?」
 彼女の右手をそっと掴み、淫らな悦びにたぎっている自らの股間へと導いた。他人の指に触
れられる感触。羞恥心が大炎上を起こして、一瞬ラブは気を失いかけた。
(が、がんばらなきゃ……)
 ラブの瞳が、せつなの顔を正面から捉えた。
「……これはね、女の子の身体が赤ちゃんを欲しがってる証拠」
「赤ちゃんを? ラブの身体が……?」
「うん」
「わたしの赤ちゃんを?」
「そうだよ。せつなが、あたしのカラダをいっぱいキモチ良くしてくれたから」
 せつなの手に、ラブの手の平がかぶさる。そして、せつなの指をもっと深くへと導く。
 ぬるり…。
 それは蜜のぬめりだった。処女の秘部が感極まって漏らす、いやらしい味の蜜。
「あっ…」
 せつなが、ぶるるっ…と背中を震わせた。ラブが自分の赤ちゃんを欲しがっているという、た
まらない興奮が激しく全身を打ったのだ。
 うっすら生え茂る陰毛の濡れた手触り、その下の熱くとろみを帯びた部分を指先でまさぐって
みる。濡れそぼった肉の感触。ラブが下半身をわななかせて悦ぶ。
「せつな、そこは優しくいじめてね……。赤ちゃんが産まれてくる大事な場所だから……」
「だ、大丈夫よ、ラブ。精一杯がんばってるから、し…心配無用よ」
 いつの間にか、せつなの顔も真っ赤だった。こんなにも相手の赤ちゃんを欲しがるなんて、こ
れはくちづけとは比べ物にならないくらいの『愛の告白』に違いない。
(わたし……ラブと結婚しちゃうのかしら……?)
 ドックン、ドックン、ドックン、ドックン…。
 胸が苦しいほどに高鳴って、呼吸が切なくなる。遠慮がちに秘所の媚肉をまさぐる指を、ラブ
の細指が、グッ、と押してくる。せつなと瞳が合うと、もうちょっといいよ…という感じでラブが悩
ましく微笑む。
「ラブぅ」
 骨抜きにされてしまったせつなの声が、溜め息のようにこぼれた。
「これでいいの…? それとも、もっと…?」
「はっ…あ゛っ、ア゛ァァ……うん、そこぉ…ほら、こう……」
 ラブが指を絡めてきて、たどたどしく動くせつなの指に、女の子の性器の辱(はずかし)め方
を教授し始める。
「……わかる、せつな……ここを…そう、自分で指を動かしてみて、うんっ…そう、もっと激しく
…あ゛あ゛あ゛あ゛っ、そうっ、そうだよせつなっ、ン…、ああぁっ…あああッッ!」
 涎みたいにタラタラと愛液を漏らす秘所が、習い立ての指戯で『くちゅくちゅくちゅ…』と猥褻な
水音を立ててかき回される。
「せつなっ、あああ…、そう、もっと動かして……は、激しく……ああぁっ、そう…すごい……」
 神経を物凄いスピードで快楽が駆け巡る。自分の手でむさぼっている時の何倍もの快感が、
ラブの性器を刺激してくる。
 処女の膣にズキズキとくすぶっていた情欲の疼きが耐えがたいまでに跳ね上がった。ラブの
意識が真っ白に焼かれてゆく。
「すごいよせつなぁっ、ああぁ…すごぉいっ! すご…本当に…もうあたし……駄目……こんな
にいじめられたら…あたしっ…ごめんせつなっ、あたし……アッ…アアッ!」
 ラブの腰がビクッ!ビクッ!と立て続けに大きく痙攣。同時に、身を投げ出すみたいに激しく
せつなの身体にしがみついてきた。
 せつなの肩に顔を強くうずめたラブが「ごめんっ! イクッッ…!」と告げて、絶頂に達した。
「 ――― ッ!」
 声も出せずに、せつなが驚きに身を強張らせた。裸の上半身にギュッと押し付けられる、熱く
上気して汗ばんだラブの肌ごしに、彼女の全身がさざ波のように震えているのが分かる。
 せつなはそのぶるぶるぶる…と震え続けるラブのカラダをどうしていいか分からず持て余して
いたが、やがて心を落ち着けて、フワッ ―― と包み込むように両腕で優しく抱きしめた。
「大丈夫? ラブ」
 すぐに答えは返ってこなかったが、しばらくして「……きもちいい」と甘えるみたいな声音がせ
つなの耳に届けられた。
 いまだラブの意識は、悦楽の波に揺らされていた。せつなの指戯の余韻をゆったり股間でリ
フレインしながら、うっとりとまぶたを閉じて法悦に浸っている。
(大丈夫かしら、本当に……?)
 なんだか今のラブの身体はフニャフニャで、両腕で抱き支えていないとベッドに崩れ落ちてし
まいそうだった。そんなラブが、ふんにゃりした声で謝ってきた。
「ごめんね〜…せつな〜…、あたしひとりだけで先にイッちゃって……」
「どこへ行ったの?」
 真顔で訊き返しているだろうせつなの顔を想像して、ラブがくすっと微笑をこぼした。
「どこにも行かないよ〜」
「……?」
 不思議そうに首を傾げるせつな。ちょっとだけ元気を取り戻したラブが、せつなの肩から顔を
上げて「ハハハ…」と笑いかける。
「そうだ、ねっ…、せつなは?」
 せつなが、えっ?と虚を突かれた顔になった。
「せつなも……濡れてるよね?」
 声をひそめて恥ずかしそうに訊いてくるラブ。ごくっ、とつばを飲んで、せつなが緊張した面持
ちで座り直した。
 せつなの瞳がかすかな不安に揺れる。でも、
(きっと大丈夫)
 そう自分の胸に言い聞かせて、心を決めた。ラブの身体を抱き支えていた腕を解き、右手を
大胆にショーツの内側へと潜らせてみた。
 まずはやわらかな縮れ毛の感触。その湿り具合を指先で確かめて、小さく安堵。どうかラブと
同じくらい濡れてますように、と祈りながら、さらに手を深く差し入れた。
 ぬるっ。指先が滑った。その瞬間、処女の粘膜に甘い電流を流されたかのごとく、せつなの
カラダが小さく飛び跳ねた。
「……っっ!!」
 クッ…と喉の奥に喘ぎ声を詰まらせて、ふるふるっ…と無言で全身を震わせる。ラブの繰り返
していた『すごい』という言葉の意味がわかった。この場所は、乳首以上に効く。
 だが、今はそんなことよりも、指先に感じる粘液のぬめり。せつながホッとした表情になってラ
ブを見た。
「……よかった。わたしもちゃんと濡れてる」
「せつなのカラダも欲しがってるんだね、あたしの赤ちゃんを」
 そう、ラブの赤ちゃんを ――― 。左手で裸の上半身を抱いて、感動に震えた。こんなにも強
く、あなたへの『愛の告白』をこの身に抱けるなんて……。
「せつな、今度はあたしがキモチ良くしてあげる番だよ」
 せつながラブにやってあげたのと同じように、今度は自分が脱がしてもらった。先にラブが全
裸になってくれているため、生まれたままの姿にされても、さほど羞恥心にさいなまれる事はな
かった。
 むしろ、汗ばんで蒸れていた白い尻が湿った下着から解放されて、きもちいいとさえ感じる。
(でも、今からラブに、わたしのカラダ……いっぱい『すごい事』されちゃうのよね)
 完全に無防備になった不安感。すっかり夜目に慣れたラブの瞳に晒されて、白い肢体が皮
膚の下に歓喜のおののきを忍ばせた。
 ラブの唇が迫ってくる。せつなが最初は唇に欲しい、と目で訴えると、その通りにむさぼるよう
な激しいキスを長々としてくれた。やわらかに唇をふさがれる、この息苦しい感触がとても愛お
しい。
 せつなのカラダがベッドに押し倒された。心臓が、どくんっ、と跳ねる。ラブにだったら何をさ
れてもいいと思えた。ラブの唇に、指に、全身のあらゆる所を蹂躙されたいと願う。
(こんなにも……わたし、ラブが……)
 だからこそ ―― 不意に、胸にぽっかりと穴があいたみたいな空虚感が湧きあがったのかも
しれない。
「ねえ、ラブ、本当は女同士だといくら頑張っても赤ちゃんって出来ないのよね。……色々と本
を読んだから、知ってる」
 見上げていたラブの顔が、不意にぼやけた。涙が溢れてきたらしい。
「けどね、頭でわかってても、やっぱり欲しいの……ラブの赤ちゃん。わたしのカラダ、ラブの事
すっごく好きだって……あなたから命をもらって育てたいって……。ごめんなさい、それだけ」
 告白は終わった。せつながにっこり微笑んで、人差し指の背で両目の涙を順々に拭う。
「うん、もう気にしないで、ラブ」
 ラブの手もすっかり止まってしまっている。ラブの番だと言っていたけれど、お詫びにもう少し
こっちから気持ちいい事をしてあげよう、などとせつなが考えるが……。
「そうだっ、せつな、アカルンだよっ!」
 ラブが瞳を強く輝かせて、せつなの両目を覗き込んできた。その勢いのある眼差しに気圧さ
れながら、せつながおずおずと答える。
「……アカルンじゃなくて、その…赤ちゃんでしょ?」
「ちがうよっ、アカルンだよ!」
 ラブの右手が突然せつなの左手の甲を掴んで ―― 痛いほど握り締めて、二人の胸の前ま
で持ち上げた。
「パラレルワールドって、星の数ほどたくさんあるんだよね。だったら一つぐらいあってもいいと
思わない? 女の子同士でも……あたしとせつなでも赤ちゃんを作れる世界が」
「 ―― ッ! わたしがアカルンを使えば、ラブを連れてその世界まで飛んでいけるっ!」
 赤ちゃん云々の話が急に現実味を帯びてきた。でも…と、せつなは思う。
「だけど、ラブ、赤ちゃんを作るってことは ――― 」
「結婚しよう、せつな」
 いきなりだった。冗談とは思えない真っ直ぐな言葉の響きに、せつなが動転する。
「ちょ、ちょっと待って、ラブ、何言って……だいたい結婚するって、ラブはわたしの事 ―― 」
 ―― 好きなの?
 嘘はついてほしくない。でも否定もされたくない。だから、せつなは言葉を呑み込んだ。しかし、
ラブは、どこまでも真っ直ぐに踏み込んできた。
「あたし、今せつなにしている事の責任……きっちり取るよ、女として」
「やめてっ! 責任なんかで結婚されたくないわっ!」
「だったら、がんばって、努力して、命懸けて、せつなのこと宇宙一好きになってみせる! そ
れならいいでしょ、あたしと結婚しても」
 左手をぎゅっと握ってくる力は頼もしいほど強くて ―― 凛と揺らがない視線は気高いほどに
美しくて ―― せつなが何も言い返せなくなるぐらい最高の…否、最強のプロポーズだった。
「あたし、ちゃんとお父さんとお母さんを説得してわかってもらうの。二人は、真剣な気持ちで結
婚するんだって。それでね、あたし、本当にせつなの赤ちゃんを ―― 」
「馬鹿ぁっ!」
 せつなの口から感情に任せた言葉がほとばしった。ラブの言葉が嬉しくて、どうしようもなく幸
せで、なのに何故ラブに向かって「馬鹿」なんて言ってしまうのか解らない。
 仕舞い込んでいたはずの涙が再び両目に溢れ出して、右手で可愛らしくこぶしを握って、そ
れで何度もラブの肩を叩いた。
「馬鹿ぁっ、ラブの馬鹿ぁっ、わたしなんて、もうとっくにあなたのこと宇宙一大好きよっ! なの
に、これからわたしのこと好きになるなんて、ラブったら遅すぎじゃない、馬鹿馬鹿ぁっ!」
 くしゃくしゃの泣き顔で、せつなが「馬鹿馬鹿」と言い続けた。そんなせつなが、ラブはひたす
ら愛しくて ――― 。
「あたしと結婚して赤ちゃん産んでくれる? せつな」
「そんなの決まってるじゃないっ、馬鹿っ! ラブにも産んでもらうんだからっ、わたしの……わ
たしたちの赤ちゃんをっ」
 もうこれ以上待てなかった。ラブが強引にせつなの唇を奪う。婚約の ―― キス。涙のしょっ
ぱい味がして、熱くやわらかくて ――― 。
 百万回キスしても、全然物足りないと思った。