Yes! ふたりはプリキュアっ! 01

 天には雲すらなく、太陽すら見えず。
 ただ、延々と赤黒い色が空を覆い続けていた。昼も夜も無く、大地に染み渡る血のように。
「はぁ…はぁ…」
 薄暗く、空気のよどんだ神殿の最深部で、疲れきった息遣いが荒くこだまする。
 ザッ、と石畳に突いた剣で身を支え、騎士がつぶやく。
「まさか、ここまでコワイナーの侵入を許すとはね……」
 声音は勇ましくも、まだ幼い。ものごころつく前から訓練を重ねてきた肢体は、スラリとした少
年のように見えるが、れっきとした少女だ。
 炎を生み出す魔剣で斬り伏せたコワイナーの消滅を見届け、騎士は凛々しい表情のまま、
隣へと目をやった。 
「姫…」
 蜂蜜のように綺麗な金の髪もくすんでしまうぐらいに疲れきった少女が、それでも背を伸ばし
て騎士の顔を見つめ返した。
 そういえば、姫の澄んだ歌声を最後に聞いたのはいつだっただろうか。
 幾多の世界を滅ぼしてきた、仮面の狂王が率いる軍勢<ルナティックミリオン>に対し、この
世界は卵の殻のごとく脆かった。
 ある日、空を埋め尽くし、流星群のごとく地に降り注いだコワイナーの軍勢。一瞬で喫した趨
勢。死を孕んだ世界からは、太陽すら逃げ出した。
 見渡す限りの大地を死が埋め尽くし、まだ生き残っている者たちも、やがて来る死を絶望と
共に受け入れていた。
 もはや死んだも同然の世界で、微かに息づいている勇気 ―― ここにいる騎士や姫のよう
に ―― と、それを支える希望 ―― 闇が世界を覆った時、異界の門より来たりて、全ての邪
悪を打ち滅ぼす<プリキュア>と呼ばれる二人の戦士の伝説。
「姫、まだ信じてますか、プリキュアの伝説」
「はい」
 力強い輝きを宿した瞳で真っ直ぐに騎士の両目を見つめ、姫がハッキリ頷いた。
 彼女たちの後ろにあるのは、『祈りの祭壇』と呼ばれる聖所だった。
 その祭壇の周囲だけは、いまや神殿に広がる血臭を含んだ空気ではなく、千年もの悠久の
時を経てなお変わることのない、水晶のように澄み切った空気によって保たれ続けていた。
 祭壇の中央部に拵えられた大きな聖碑に、大人がニ三人並んで通れそうな程の虚空がぽっ
かりと穿たれている ―― それが異界の門。内部は濃密な金色の靄が立ち込めていて、奥ま
で見通せない。異界の門を固定する四元素のオーラが時折パチパチと小さなスパークを散ら
していた。
 そして、その前に設けられた小壇の上には、神代の頃、最も古き聖霊が大地の奥深くから汲
み上げた金と銀で織り上げたといわれる二つの腕輪がしめやかに置かれていた。それは、プ
リキュアのみが身に着けることを許された神器。
 突然、カチン…と鳴り響いた澄んだ音に、騎士と姫がギョッとして振り向いた。
「ねーねー、ミルク、こうすればあたしたちプリキュアになれるのかなぁ〜?」
「もっとぶつけてみるミル!」
 カッチン、カッチン、カッチン、カッチン……二人の視線の先には、神器である腕輪に一切の
畏敬の念を払わず、それらを玩具みたいに叩きつけ合う少女と妖精。
 少女のほうは5歳ぐらいか。桃色の髪がふわふわと背中まで流れていて、彼女にしか価値の
分からないガラクタをぎゅうぎゅうに詰め込んだリュックにかぶさっている。妖精のほうは年齢
不詳。頭に真っ赤なリボンをつけた完全ニ頭身の体型は、騎士の手の先からヒジまでの大きさ
で、綺麗なミルク色。ホワホワとした耳は彼女の身体よりも大きく、石畳にぺったりと着いてしま
っている。
「…あっ…あ……」
 何かを言おうとして、青ざめた顔で固まってしまった姫。その隣で、騎士が精神的な混乱を起
こしつつ、神殿中に響き渡りそうなほどの大声を上げた。
「ユメぇぇぇぇぇぇっっっ!!? 何やってんのぉぉぉぉぉぉっっっ!!?」
 ユメ、と呼ばれた少女が騎士のほうを振り返り、ニコッと天真爛漫な笑顔を返した。
「あっ、騎士さまっ、姫さまっ、あのねあのね…」
 やや早口で少女がしゃべり出す。
「ためしてみたけど、あたしとミルクじゃ、やっぱりプリキュアになれないみたいだから、今から
この中にいるプリキュア呼んでくるねっ」
 そう言って、異界の門を指差しながら、ユメはやっぱりニコッと笑ってみせた。
「あっ…危ないから、そこから離れなさいぃーっ!」
 姫の口を悲鳴が突いた。姫と騎士、二人の少女にとって、ユメは妹のような存在。幼い頃に
ユメが両親を亡くして以来、二人が引き取り手になって、この神殿で大切に面倒を見てきた。
 姫が意識を集中する。本来ならば、ユメは今、自分が神殿の生活区に張り巡らせた破邪の
結界の中でおとなしくしているはずなのに……。―― 見つけた。結界にこっそりと中和されて
いる部分があった。小さな子供なら、くぐり抜けられそうな穴。
「ミルッ!」
 姫が気付いたのを見て、ミルクがとてて…と短い足であとずさった。その彼女の前にユメがバ
ッと飛び出してかばう。
「ちがうよっ、あたしがミルクに頼んだの。騎士さまと姫さまを助けたいから結界を解いてって。
プリキュアがいれば、騎士さまも姫さまも、もうあぶない戦いしなくてもいいんだよねっ、だから
……」
「やかましい……黙れ」
 ゆらりっ、と騎士が一歩を踏み出した。びくっとユメが身を強張らせた。
「ユメ、アンタ何様のつもり? あたしたちを助けるだ? …ざけんな。戦闘中にこんな所までや
ってきて、危ないのはどっちだと思ってんの?」
「あ…、あたし、だけど、騎士さま……」
 ユメの言葉が震え始める。それを、騎士は怒声で押さえ込んだ。
「黙れって言ってんだろっっ!! いいかっ、アンタもしかしたら今頃大怪我してたかも知れな
いんだぞ……分かってんのっっ!!」
「でもっ、あたしっ……」
 必死で訴えようとするユメへ、騎士はくるりと背中を向け、冷めた声で吐き捨てた。
「……もういい、とっとと生活区に戻れ。そして、二度と顔見せるな」
 最後の一言が、ユメの幼い胸をざっくりとえぐった。無残にうなだれて、言葉を無くしまう。
「言いすぎミルっ!」
 ミルクがユメの足の後ろから抗議するも、騎士は無反応で返した。
 ユメがぶるぶると震える体を、自分の両手で抱きしめる。
「……ごめんなさい、騎士さま」
 消え入りそうな謝罪を背中で受け、やはり騎士は冷たい無反応を通した。それほどまでに怒
っているのだ、ユメが危険を冒したことを。
「さぁ、腕輪を元の場所に置いて。……ユメもミルクも生活区に戻りましょう」
 姫が柔らかな声音で、ユメを慰めるように言った。
「……戻らないよ」
 うつむいたまま、小さく答えるユメ。立ち去ろうとしていた騎士の肩がピクリと反応した。
「……いいかげんにしろ」
 ゆっくりと振り返る騎士の目に宿った怒気が、鋭くユメを射抜いた。けれど、ユメは全身を震
わせながら顔を上げて ―― 。

 ニコッと天真爛漫な笑顔を作った。

「あたしね……騎士さまも姫さまも、ミルクのことも、この神殿の人たちも……みんな大好きだ
よ、だから……」
 小さな身体が翻る。異界の門へ向かって ―― 。
 騎士の表情が凍りついた。
「ミルクも行くミルっ!」
 ユメの足にミルクが飛びついた。腕並みに器用に動く両方の長耳をユメのふくらはぎに巻き
つけて、一緒に異界の門へ飛び込む。
「ユメぇぇぇぇぇっっっ!!!」
 刹那の刻を挟んで、騎士がユメとミルクの姿を追いかけた。鍛錬を極めた両脚が生み出す
超加速 ―― 縮地法。それを以ってしても届かない。ユメを掴まえようと高速で突き出した手
は、聖碑の硬い感触に弾き返されてしまった。
 ユメとミルクを呑み込むと同時に、異界の門は消失した。最初から、そんなものは無かった
かのごとく。
「そんな……」
 姫が両手で口元を押さえ、表情を無くす。
「ユメッッ!! ユメエエエエエエエエエ ―――――― ッッッ!!!!」
 騎士の喉から絶叫がほとばしり、魔剣が聖碑に神速で振り下ろされた。
 カッッ! と硬い音と共に聖碑が半ばまで断ち割られるも、異空へと繋がる境界を斬り開くほ
どの力は無い。
「ユメ……」
 呆然と目を見開いて、騎士がその場に両ひざをついた。千の昼、千の夜をコワイナー相手に
闘い抜いてきた勇敢な少女が、初めて絶望にその身を包んだ。
 からん…。
 ひざをついた主に続いて、魔剣が石畳の上に力無く転がった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「きゃああああああ…………」
「ミルうううううう…………」
 二つの声が、どこまでも深く異空を落ちていく。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「追え」
 赤黒く染まった天を支配する<仮面城>の玉座にて、闇色の衣に身を包んだ影が短くつぶ
やいた。
 玉座の前、血よりも赤い黄昏の光の中に浮かび上がる七つの影。その内のひとつが、王の
命を拝受して、次元を跳躍する気配と共に消えた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 夜、欧風の宮殿を照らすは月の光。
 白い外壁をうっすらと青く染め、宮殿の建築美を、夜の闇に沈めてしまわないようにしてい
た。
 月の輝きすら従えている如き威容。
 その広大な敷地面積は、周囲を取り巻く街並みを優雅に圧倒していた。
 これが王族でもなく貴族でもなく、「水無月」の姓を冠する一個人の邸宅とはにわかに信じ難
い。
 こつり…、と広々とした廊下に小さな足跡が響いた。大きな窓から月を見上げる視線は、育っ
た環境のせいか、随分と大人びた理知の輝きを帯びていた。
 水無月かれん、十三歳。
 丁寧に櫛通しされたストレートロングの髪は、月の光を浴びて、よりツヤを増している。
 キャミソール型の薄い寝着に浮かび出た体躯の線は、ほっそりと華奢。伸びた四肢もスラリ
と細い。
 美しく完成した少女期の体型。併せて顔かたちも可憐に整っているとくれば、思わず保護欲
をかき立てられそうになるが、瞳の奥に覗く凛とした輝きと、意志強そうな眉が、それをキッパ
リと拒否している。
 だが、彼女の体が廊下へとこぼした影は、あまりにもか細く、とても心細げだった。
 胸でぎゅっと枕を抱きしめる仕草が、こどもっぽいからかもしれない。
 お守りのように枕を胸で抱いたまま、廊下を進んでいく。
 優秀な音楽家である両親は、共に世界を飛び回っていて不在。いつものことだ。だから、今こ
の家にいるのは、かれんと……。
 かちゃり、と軽い音を立てて目的の部屋のドアノブを回した。電気の消えた、真っ暗な部屋。
 明かりが点いてないとはいえ、勝手知ったる部屋だ。かれんの両腕が、空中へと枕を放り投
げた。羽毛の詰まった枕は、ゆるりと放物線を描いた後、ぽふっ、と柔らかくターゲットに命中
した。
「きゃっ」
 ベッドで就寝していた者が、小さな悲鳴を上げて、枕元のシェードランプに手を伸ばした。
 真っ暗な部屋に、ほんのりと明かりが灯った。
「お嬢さま……」
 秋元こまちが、ベッドの上に身を起こした。
 年齢は、かれんより二つ上、おっとりとした顔つきの十五歳。長さをあごのラインに合わせた
ボブの髪型から、一尾だけ伸びた後ろ髪が、白いうなじを隠すように垂れている。
 長年、水無月家の執事として勤めてきた坂本が、老齢を理由に隠居するに当たって、入れ替
わりにやってくるはずだった敏腕なメイド……の妹。
 手違いで彼女のほうを住み込みで雇う契約になってしまったものの、大人でも大変な仕事を
毎日きっちりとこなし、かれんの生活に支障が出ないように努めている。
 学業も怠らず、メイドとしての勤めも手を抜かず……、そして、年下のかれんの困った要求に
も応えてみせる。
 かれんが、後ろ手にそっとドアを閉めながら言った。
「こまち、わたし、今日もここで……」
 ……寝るわ、と続ける前に、こまちが、かれんの枕を手に取った。そして、自分の枕の隣に
並べる。
 かれんがベッドに近づくと、自発的に身体の位置をずらして、人ひとりが横になれるだけのス
ペースを空ける。
「さっ、どうぞ、お嬢さま」
 掛け布団をめくって、かれんを招きつつ、ランプの明かりの中で優しい笑みを浮かべてみせ
た。それは、誰もが甘えたくなるような母性的な笑顔。
 かれんの胸に頑なに閉じ込めてある、ほとんど顔を合わせる機会の無い母への思慕がこぼ
れそうになった。しかし、それをおくびにも見せず、可憐な顔をツンと澄ましたまま、こまちのベ
ッドへと入っていった。
 ベッドに横臥したかれんの体に掛け布団をかけ、こまちがシェードランプへと手を伸ばす。
「ダメよ、こまち。まだ消してはダメ」
「はい」
 理由を聞くこともなく、かれんに従う。彼女の手が、パジャマの胸元に伸びても、そして、その
手が前掛けのボタンをひとつずつ外し始めても、身じろぎ一つしない。ただ、表情に少し困惑の
笑みを滲ませるだけだ。
 さすがに、全てのボタンが外され、はだけられたパジャマから肌が覗くと、こまちも顔を赤らめ
た。ブラジャーはつけていないので、小ぶりな果実が二つ仲良く、かれんの目の前にまろび出
る。
「あっ…」
 こまちが恥ずかしそうに声を洩らした。
 まろやかな稜線を描くふくらみは、サイズ的にはまだまだだが、乳房としての形は綺麗だ。将
来は、釣鐘型の重たげな乳房が実ることになるだろう。
 ランプの心許ない光量のせいか、乳房の肉付きから腹部のヘソにかけての陰影の付き方
が、ひどくなまめかしい。
 乳房の頂を彩るのは、肌の白さと薄い桜色が溶け混じった乳暈、その真ん中につつましく突
起した乳頭を、かれんの眼差しがじっと見つめてくる。吐く息がかかるほどの距離でまじまじと
見られる恥ずかしさに、こまちは何も言わず、いじらしく耐え続けた。
 しばらくして、かれんが、
「その……わたしの胸よりもずいぶん大きいのね」
 言葉に含まれた微かな憧れと嫉妬の響きを感じ取り、こまちが消え入りそうな小声で、
「……申し訳ありません……」
 と、本当に申し訳なさそうに返した。
「こまち」
「はい…」
「妊娠しないと……母乳って出ないのよね」
 中学生の年頃なら当然に知っている事を、分かった上で尋ねながら、かれんが片方のふくら
みに手を伸ばした。
 しっとりとした肌のやわらかさ、瑞々しい触り心地。軽く力を込めた指先と手の平に伝わって
きたのは、たっぷりと詰まっていそうなクリームの感触。
 もしかしたら、と思ったわけではないが、かれんが慎重に力を加減しつつ、こまちの乳房を揉
んでみた。
「うっ…」
 こまちが、洩らしそうになった声をこらえた。
「あっ、ごめんなさい、……痛かった?」
「いえ」
 こまちは笑顔で首を横に振った。
 最初は遠慮がちにおずおずと手で触るだけだったかれんだが、やがて、こまちの胸にじゃれ
付くように顔を寄せて、乳房の柔らかさを頬で味わい始めた。
「気持ちいい……」
 うっとりと響くかれんの声音。それに対して、こまちは「……っ……う……」とほぼ無言。
 年頃の感じやすい乳房に頬擦りを受けている彼女は、喘ぎとしてこぼれそうな声を、切なげ
な吐息に変えて吐き出すので精一杯のようだ。
(……く、くすぐったぁい……)
 こまちは自ら声を封じ、乳房をさわさわ、すりすりと刺激してくる優雅なくすぐったさに、黙って
身を委ね続ける。
 今の自分の胸は、十年近くも母の愛に飢えていた少女への捧げ物。かれんが胸にしまって
ある想いを何も聞かずに汲み取って、好きにさせてやる。
 だが……。
「あッ…ひっ」
 胸先をつるりとかれんの唇が吸い込み、敏感な乳首をキュッと締め付ける。こまちの眉がゆ
がみ、眉間に悩ましげなシワが寄った。
 上目遣いでそれを見上げたかれんが、こまちの乳房から口を離した。一時的に息を乱してい
たこまちが、すぐに表情を戻して優しい微笑みを返した。
「ちょっとだけ、くすぐったかったです……」
 そう言ってから、恥らうみたいに視線を伏せた。
「こまち……」
 呼びかけたあとで、かれんが言葉を詰まらせた。続く言葉を考える間、視線をこまちの乳房
に落として、吸ったばかりの乳首を指でもてあそび始める。
「あっ…やんっ……アっ、お嬢さま…申し訳っ…あっ……ンンっ…くすぐったっ……」
 逃げようとはせず、ただ身をよじらせて耐え忍ぶ健気な彼女へ、かれんは強く視線をぶつけ
た。
「こまち、あなたは一生この家のメイドよ。もし辞めたりなんかしたら、絶対に許さないわ。……
おばあちゃんになっても、ずーっとわたしのそばにいるのよ」
 強い語調で、身勝手にそう決め付ける。
 こまちは、花開く寸前の蕾(つぼみ)みたいに口元をほころばせて、「はい」と小さく返事した。
 かれんの繊手が、こまちの両肩を抱いた。そして、顔をぐっと近づけて、こまちが目を閉じる
のも待たずに唇を重ねた。
 こまちとキスするのは、これが初めてではない。これまでに何度もこまちの唇を奪ってきた。
 キスは、乙女にとってとても大切なものだからこそ。
 かつて、羽衣を奪われたため帰れなくなった天女の伝説のように、こまちからキスを奪ってし
まえば、彼女の心はずっと自分の側に残ってくれる。
 誰かを好きになったりすることもなく、ずっと自分だけを見ていてくれる。
(ずっとわたしだけのこまち、ずっとわたしだけの…………お母さん)
 一心に唇を重ね続けるかれんの胸で、切なさが増していく。
(絶対に、どこにも行かないで……)
 かれんが、こまちの唇を開放した。
 今度はこまちがいつものように、かれんの髪を手で幾筋かすくって、髪の一本一本を愛でる
みたいな恭しいキスを長々としてくれた。
 髪へのキスが終わるのを待って、かれんが口を開いた。
「こまち、今日はあなたの胸で眠ってもいい?」