お姫様と狼は一夜限り… 01

 いつも、いつでも、ずっと一緒だった。手をのばせば、必ず笑顔で握り返してくれる。
 だから何も怖くなかったし、プリキュアにだってなれた。
 いつまでも、二人このままでいたかった。

 それは、とても夕焼け空が綺麗な日。平穏な一日の終わり、二人だけの静かな帰り道。たわ
いないおしゃべりに続く切ない沈黙。そのあとに紡がれた言葉はたった一言だけ。
「りんちゃん」
 夕焼けの空へ遠い眼差しを向ける彼女の横顔を見て、こらえようもない淋しさが胸の奥から
湧き上がってきた。思わず彼女の手を取って、ぎゅっと握る。
 ――――。
 ――――。
 ――――。
 祈るような気持ちで、握り返してくれるのを待つ。でも、彼女の手に力がこもる事がなかった。
それが答え。
 ただ、手を繋いで、二人並んで夕焼け空を見上げた。この先、彼女たちの場所と時間は、
『愛』によって引き裂かれてしまうのだから。
 二人は、もう何も言わなかった。
 ゆっくりと視線が惹き合う。お互いに瞳を見つめながら、しっかりと意志を込めて頷いた。今、
この胸にある大切なものを残そう、と。
 どんな愛にも負けないほどの、二人の強い想いを。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ベッドの真ん中で、夏木りんは頭を抱え込んだ。もう逃げ出したくて逃げ出したくて、たまらな
いのだ。せめてちゃんとした下着を身につけたいと思っていた。
 動きやすくショートにしている髪は、クセが強く、襟足で左右に跳ねている。少年みたいに色
気のない髪型。
 カラダも、フットサルで日々鍛え上げた無駄のないスレンダーな体型。年頃なので、胸には一
応肉がついてくれているが、手足はまるで男の子のようだ。
 母親譲りの気が強そうな顔作り。視力2.0の大きな瞳は人情味深く、薄く桜の色が差した唇
も、相手の事を思えばこそ口うるさい。
 実は誰よりも女の子らしくありたいという願望は、心の奥底に鍵をかけて仕舞ったまま。随分
と前から、コンプレックスという埃(ほこり)にうっすらと埋もれてしまっている。
 なのに、今の自分の姿ときたら……。
(ううっ、すーすーする……)
 ブラジャーもショーツも身につけず、サテン生地のスリップ一枚だけの姿。両脚が胡坐(あぐ
ら)をかいていなければ、14歳でもそれなりに色っぽく見えるだろうに。
 サテンの生地が、やたらとサラサラツルツルしていて落ち着かない。母親にこっそり無断で拝
借してきた、輝くような真珠色のランジェリー。
『きっとりんちゃんの家のどっかにあるから!』と強引に指定されたので、仕方なくこれを着てい
るものの……。
(やっぱこういうの似合わないようっ)
 頭を抱えていた両手が下がって、胸の上で交差して、両肩を心細く抱き締めた。自分の格好
が恥ずかしくて、悶え死にそうだった。
「……りんちゃん」
 ドアの外から遠慮がちな声。りんが慌てて、胡坐を組んでいた脚を女の子座りに直して、スリ
ップの裾をキュッと下に引っ張った。
 小さく開いたドアの隙間から、おずおずと顔を覗かせたのは、夢原のぞみ。
 いつもは砂糖菓子みたいにフワフワした甘さを表情に含ませているのに、今は、乙女の恥じ
らいを顔いっぱいに広げて、頬をほんのりと赤く染めていた。部屋に入ってこず、ドアの所でモ
ジモジとしている姿がいじらしくて、ドキッとする。
「ほら、おいでよ」
 りんが優しく呼びかけても、やっぱり入ってこない。ここはのぞみの部屋だというのに、まだた
めらっている。苦笑にも似た溜め息をひとつこぼして、りんが背中を向けてやった。
(ありがとう)
 その気遣いに、のぞみが心の中で小さく感謝。恥ずかしがったのも無理はなく、身に纏ってい
るのは、こちらもサテン生地のスリップ一枚きり。りんと同じく、母親のものだ。
 静かに部屋に入り、後ろ手にドアをそっと閉めた。そして、ドアの鍵をかける。かちり、という
柔らかな小音が、二人の鼓動を少しだけ速めた。
 両親はいない。帰ってくるのは、明日の午後になるらしい。今夜から明日の朝まで、りんと二
人きり。
 だから、鍵をかける必要はないのだが、それでも、これからするコトを想像すると、簡単に開
けられる状態でドアを放置するのが不安だった。
 のぞみが深呼吸で自分を落ち着かせた。
 普段は飾りゴムで髪を短めのツーサイドアップにしているせいで、見た目の幼さが一割り増し
だが、今は入浴後。しっとりと下ろしたセミショートの髪に、年相応の色香がふんわりと漂って
いる。
 母の遺伝で、スタイルも悪くはない。美少女まで、あと一歩といったところだ。
 ベッドの縁まで寄って、のぞみが足を止めた。
「ねえ、りんちゃん」
 りんの背中に眼差しをこぼしながら、ベッドに腰を下ろした。
「うん?」
「その下着の上に、指輪なかった?」
「指輪?」
 聞き返してくるりんに、のぞみは何でもないという風に首を振った。
 胸元の凝ったレース刺繍に、胸の谷間へと流れる細いリボン、生まれたての真珠のような純
白の光沢。りんが今着ている物と、全く同じデザイン。
 丁寧に、大切に畳まれて保管されてあったこのランジェリーの上に、優しく置かれていたひと
つの指輪。母が常に指に付けている指輪よりも、ずっと母の指に似つかわしい。
 きっとその指輪は父が贈ったのではない ―――― ならば。乙女の直感が相手を教えてくれ
た。
(お母さんたちも、これをウェディングドレスにして"結婚"したんだ)
 りんの手の甲に、のぞみが手の平を重ねた。カラダをゆっくりと寄せていく。薄いスリップが体
温の輻射をさえぎることはなく、近づくほどにりんの温もりを肌が感じ取っていった。
(興奮してるのかな? りんちゃんのカラダ、いつもより熱い気がする)
 後ろ髪に少し隠れたうなじ。りんの部活が終わるのを待って一緒に帰った日、今と同じように
後ろからそっと忍び寄って、彼女の汗の匂いを嗅いだ。
 髪に唇が軽く触れた。キスの意図はなく、単に顔を近づけすぎただけ。
「の〜ぞ〜み〜?」
 首を巡らせて振り返ったりんが、やわらかい声で、のぞみのフライング行為を注意した。
「……えへへ、ちゃんと結婚式するのが先だよね」
 二人がまくらのほうに目をやった。
 まくらの上に仲良く並べてある二つのブレスレット。ビーズを数珠繋ぎにした二人のハンドメイ
ドアクセサリー。
 ピンクのクリアビーズの連なりに、一粒だけ天然のローズクォーツを交えているのが、りんの
手作り。
 レッドのクリアビーズの連なりに、一粒だけ天然のカーネリアンを交えている方は、のぞみの
手作り。
 二人で秘密の結婚式を挙げることを決めたのち、ナッツハウスでひそかに作り上げたウェデ
ィングブレスレット。二人が向き合って、それを手に取る。
 視線は真っ直ぐ、お互いの瞳にぶつかった。
「りんちゃん、あたしたち、健やかなる時もお腹がすいた時も、たとえ死んじゃっても、ずっとず
っと親友だよ」
 なんだか妙な誓いの言葉だが、それでも一生懸命に言葉を紡ぐのぞみの真剣な表情を見て
いると感極まってしまう。
「……誓います」
 りんはもう、その一言を口にするだけで精一杯だった。ちょっとでも気を緩めたら泣いてしま
いそう。
 のぞみが、りんの右手をそっと取って、彼女のために作ったブレスレットをうやうやしく通して
いった。しなやかな手首に、澄んだ炎の色が美しく映える。
 りんもまた、のぞみの左手に、ビーズの一粒一粒に思いのたけを込めたブレスレットを優しく
通していった。細い手首に、澄んだピンクの色が可愛らしく踊る。
「……のぞみ、キスの前に手、繋ごうか」
「うん」
 りんの右手と、のぞみの左手。軽くふれあった指先に続いて、手の平同士が重なる。ゆっくり
と指が絡み合い、二人の手に力がこもっていく。
「のぞみ、目を……」
「あっ、待って」
 のぞみがにっこり柔らかな笑みを浮かべた。
「もう少し、りんちゃんの顔見ていたい」
 じーっと飼い主に懐く子犬みたいに見上げてくる彼女の顔を、りんもしっかりと瞳に焼き付け
ておく。
 心の中で一分を数えてから、左手の人差し指で、つん、とのぞみの額を突っついた。
「ほら、早くしないと夜が明けちゃうよ」
「うん。じゃあ、りんちゃんのほうからしてくれる?」
 のぞみの両目が愛しげに細められ、瞳にりんの笑顔を留めたまま閉じられる。おとなしくキス
を待つ無防備な表情。でも、本当は、緊張のあまり心臓をバクバク鳴らしていた。
 りんもまぶたを下ろし、ゆっくりと顔を近づけていった。吐息がお互いの唇に届くほどの距離
になると、のぞみの左手が強張って、りんの右手に『ギュッ』と指をしがみつかせてきた。
 震えそうになる体。
 厳かな空気の中、二人がくちびるを許しあう。やわらかなぬくもり。かすかな吐息の湿り。本
当に唇同士を軽くくっつけただけの、初心(うぶ)なキス。
(りんちゃん……)
 のぞみが自由な右手で、りんの左腕を優しくさわった。察しのいい彼女は、その腕をのぞみ
の腰へと回し、力強く抱き寄せる。
「あっ…」
 のぞみが声を上げた。その一瞬だけ離れた二人のくちびるが、すぐにまた溶け合う。のぞみ
のほうからもカラダをすり寄せ、りんの背中に腕を回した。最初はぎこちなかったキスも、少し
ずつ甘さと熱さを増してゆく。
「んん…んっ…」
 りんがくぐもった声を洩らして、もぞもぞとカラダをくねらせた。『ちゅっ…ちゅっ…』としつこく吸
い付いてくる無邪気な唇がくすぐったくて、思わずキスを解こうとする。
(んっ…、だ〜め。逃がさないんだもんっ)
 のぞみのキスが、後ろへ逃げようとしたりんの動きにあわせて前に出る。『チュッ』と甘い音が
撥ねる。愛犬にじゃれ付かれて困る飼い主みたいに、りんが口許に苦笑を刻んだ。
(もう、のぞみったら仕方ないなぁ)
 こそばゆさをガマンして、のぞみの好きにさせてやる。甘く唇を吸われるたび、のぞみの腰に
巻きつけた腕がビクッ、ビクッ、と反応してしまうのが、ちょっと恥ずかしい。
「……りんちゃん、キモチよかった?」
 ようやくキスを終えたのぞみが、陶然とした声でささやきかける。うっすら開いたまぶたの下
は、はっきりと潤んでいて、大人びた色気を醸していた。遅れてまぶたを上げたりんが、いつも
と違うのぞみの表情を真正面から見つめ、ドキドキと頬を赤らめて戸惑った。
(のぞみって、こんなに綺麗な顔する時もあるんだ)
 見蕩れて声も出せないりんの前で、のぞみが元の幼げな顔付きに戻った。りんが何も言わず
に黙っているから、拗ねてしまったのだ。
「答えてくれないんだ……。りんちゃんのいじわる……」
 りんの背中を抱いていた腕が、いじけたみたいに力なく垂れて離れた。ハッ、となったりん
が、これだけは離すまいと、握り締めあった手に力を込める。
「ごめんっ、のぞみ、ちょっとボーっとなってて……」
 りんがお詫びとして、おでことほっぺたに軽めのキスを一回ずつしてやった。
「りんちゃん、ここも〜」
 のぞみが自分の唇を指差して、子供っぽくねだってくる。「はいはい」とおざなりな返事と共
に、りんが唇を重ねた。『ちゅッ』と可愛らしい音を立てて、唇が離れる。
 二人が顔を見合わせ、どちらからともなく幸せそうに微笑む。
「ええ〜、結婚式がつつがなく終了いたしましたので……」
 のぞみの表情は心の底からキラキラとしていた。
「今からケーキ入刀タイムに入りまーーす! ウェディングケーキいっただきーーっ」
「…ってコラ」
 さっそくベッドから降りて、冷蔵庫に用意してあるホールケーキのもとへ向かおうとする彼女
を、りんが引き止める。
「寝る前にケーキなんて食べたら太るでしょ」
「まだ寝ないもんっ!」
「そ、そりゃまぁ、今日は……」
 のぞみが、空いているほうの手でどんっ、とお腹を叩いてみせた。
「腹が減っては戦は出来ぬって、お侍さんが言ってたもん! パンがなければケーキを食べな
さいって言ってたもん!」
「いや、パンあるから。買い置きの食パン。てゆうか、そっちはマリーアントワネットのセリフでし
ょうが」
 りんが繋がった手を引っ張って、駄々をこねるのぞみをベッドの中央まで連れ戻す。そして、
グイッと顔を寄せて、イタズラっぽく睨みつけてやった。
「のぞみ〜? ひとがせっかくこんな色っぽい格好してるっていうのに、食い気を優先させるな
んて……すっごく失礼じゃない?」
「ふえぇぇんっ」
 りんに怒られ慣れているのぞみが、彼女の眼差しからの逃げるように片手で頭を庇って身を
縮こまらせた。しばらく泣き真似を続けてから、ちらり、と上目遣いにりんの顔を見てニッコリと
微笑んだ。
「ケーキよりも、りんちゃんのほうが美味しそうかも」
 のぞみの視線に顔を上気させて、りんが片手でスリップの裾をきゅっと押さえた。
「……エッチ」
 全然嫌そうじゃない非難を一言だけこぼして、りんが視線を伏せた。その恥じらいが、彼女を
女の子らしく見せた。
 固く繋がっていた二人の手が、自然にほぐれていく。
「りんちゃん、さわってもいいかな?」
「えっ? ……うん、うんっ」
 おっかなびっくり、りんが首をカクカクと縦に振った。のぞみの二本の腕を伸ばして、まずは両
肩に触れてきた。さわられる感触がくすぐったくて、目をつむってしまう。
 りんの睫毛が可憐に震える。目を閉じたせいで、肩を撫でる手の感触がいっそう敏感に感じ
取れた。
 むきだしの肩からヒジまでを、そのキメ細やかな素肌を手の平で味わうように、のぞみの手
の平が優しく這い下りていった。背筋がゾクッとしたが、怖いわけじゃない。声を押し殺そうとし
た唇を、思いきって開いてみる。
「あっ…」
 りんにしては、か細く、弱々しい声。下腹部に響いてきた甘美な疼きを隠そうと、指を固く組み
合わせた両手をもじもじと脚の間にねじ込んだ。
「恥ずかしがらなくてもいいよ、りんちゃん。あたしだって ――― 」
 その先の言葉は呑みこんでしまったが、のぞみの言おうとしていた事はしっかりと伝わった。
りんがちょっとリラックスする。
(そうだよね。恥ずかしがっても仕方ないか)
 りんがまぶたを上げて、のぞみと視線を絡み合わせた。そして、脚の間から両手をそっと抜
いて、悩ましげに声をひそめて誘いをかける。
「あたしの恥ずかしい所……さわりたい?」
「えへへ〜、りんちゃんガマンできないんだぁ」
「無邪気に茶化さないのっ。ほらっ、四の五言わずにとっととさわる!」
 眉をビン!と跳ね上げたりんが、ベッドの上にひざ立ちになって、高圧的な態度で両腕を組
む。なんだか仁王様みたく勇ましい姿だが、確かにのぞみの言うとおり、股間は淫靡な疼きに
たまらなく喘いで、我慢できないほどだった。
「こ、こわいよ〜〜」
 りんに見下ろされながら、のぞみがおずおずと脚の間に手を差し入れる。手首から先がスリ
ップの裾に隠れ、指先が熱い湿りにふれた。「あっ!」という声と共に、りんの腰がビクッ!と小
さく跳ねた。
「うわっ、とろとろ……」
 のぞみが思わず上げた声に、りんの強気な顔が一転、か弱い少女の表情になってうろたえ
る。
「そ…そういうのは口に出して言わないのっ。恥ずかしいじゃない」
「でも、りんちゃんのここ……ほらほらぁ」
「ひぃっ!? こ…こら、のぞみぃ〜〜」
 無垢な股間の縦筋をさすりさすり。のぞみの指が、ぴっちり閉じた秘貝のワレメを何度も往復
する。イヤラシイ蜜のせいで滑りが良い。
 もはや腕を組んでいられなくて、のぞみの両肩に手を置いてカラダを支える。
 のぞみの指が動くのにあわせ、微かにだが、りんの腰がなまめかしい上下の動きを繰り返し
ていた。
「そ…そんなに激しくいじられたら、やだ……あッ!? あぁぁっ、だめっ、だめだったら……そ
んなに……ちょっとダメだってば、のぞみぃ〜」
「え〜、まだ最初だからゆっくりしてるよ?」
「じゃあ、お、おねがい。もっとゆっくりして……。でないとあたし、もう腰ガクガクだし、おかしくな
っちゃう」
 りんの声に懇願の響きが混じる。
「う〜ん、りんちゃん大丈夫?」
 ぴらり、とスリップの裾を大きくめくって、のぞみが中の様子を確かめた。そして、「うわ〜」と
感心したみたいな声を洩らす。
「りんちゃんてば、本当に感じやすいんだ」
 股間から太ももの内側にかけて、ナメクジが這い回った後のように粘液がこびりついていた。
「あっ……!!」 
 りんの顔が、これ以上ないくらい真っ赤に染まった。隠さなきゃ……。そう思うのに、手が全
然動こうとしない。
 部活動で太陽に当たっている健康的な手足と違い、そこだけ妙になまっちろい。うっすら生え
ている縮れ毛の繁みは、愛液の湿りでぐっしょり濡れそぼっていた。今は、恥丘にべったりとワ
カメみたいに張り付いている。
 のぞみが、じっくりとりんの股間に視線を注いだあと、「へぇ〜」と一言だけ洩らした。
 りんは、死にたい気持ちで目を閉じて、羞恥のあまりブルブルと震えだした。
 スリップの上質な生地がのぞみの指を離れ、ふわっ、と落ちた。いやらしさでいっぱいの部分
を隠してくれるも、りんの火が点いたような羞恥はおさまらない。
「うっ…」
 りんの喉が小さな嗚咽を洩らした。目の端には涙の粒も浮かんでいる。
(は、恥ずかしいっ。こんな姿見られて……お嫁にいけないじゃないっ!)
 のぞみに責任を取らせて本当の結婚(籍を入れさせる)という選択肢も封じられている。同性
だから、という以前に彼女には心から愛している人がいるのだから。
(あたしにこんな恥ずかしい思いさせて……。責任取る気もないくせに……。このっ、のぞみの
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ッッッ!!!)
 湧き上がってきた怒りの衝動が恥ずかしさをぶっ飛ばした。
 りんが涙を散らして、目を見開いた。ビックリするのぞみの顔を凶暴に一瞥して、自分のスリ
ップに手をかけた。
 バッと脱いだスリップをベッドに叩きつけようとして、すんでの所で母がそれを大切に仕舞って
いた事を思い出す。丁寧に畳んでベッドの脇に置く。
「…ったく、乙女の大切な部分を断りもなく覗くわ、ジロジロ見続けるわ……のぞみぃ?」
「ハ、ハイッ!?」
 すっぱだかのひざ立ち姿も勇ましく、腰の両脇に手を置いて宣言する。
「もうこうなったら、とことんやるわよ! あたしたちの結婚式っ。あたしのカラダ、好きなだけさ
わらせてあげるし、好きなだけ見せてあげる! その代わり、のぞみだってお嫁にいけないカ
ラダにしてやるんだから!」
「ひいぃぃッ!?」
 のぞみが身を縮こまらせながら、ベッドの上をずりずりと後ずさりする。見下ろすりんは、すぐ
には追わない。幼さの残る胸の丸みと、淫猥に濡れた股間を惜しげもなく晒しながら眺めてい
る。ぶっ飛ばしたはずの羞恥がじわじわと復活してくるが、あえて虚勢を張っていた。
 真っ白い歯並びを覗かせて、ニヤニヤと意地悪い笑みを見せた。
「ど〜こ〜へ〜行〜く〜の〜か〜な〜〜?」
 楽しげに両目を細めたりんが、ゆっくりと姿勢を落とし、ベッドの両手をつく。獲物を追い詰め
るサディズムに舌なめずりする全裸の牝狼。そぉっ…と伸ばされた前足が、のぞみの踝(くるぶ
し)を押さえつけた。
「あ〜んっ、やだやだぁっ」
 即座にその脚を引っ込めるのぞみ。だが、本気で逃げ出すつもりなんてもちろんない。ベッド
のヘッドボードに背が当たると、自然とおとなしくなる。
 再び伸ばされたりんの手に、のぞみは脚から力を抜いて応えた。弛緩した足首を、ふくらは
ぎを、りんの手の平が撫で回しながら這い上がってくる。
 ひざ頭をサワッといらう指の感触に、のぞみが「んんっ」と抑えた喘ぎ声を上げた。くすぐった
くて、脚がビクッ!と撥ねる。
「くすぐったい? ……それとも、気持ちいい?」
 りんの人差し指が、ひざ頭の上でいやらしく踊った。す〜…、す〜…っと円を描く動きを繰り
返し、その度、白い脚をビクビク震わせるのぞみの反応を面白そうに窺がう。
「やだ……あっ、だめっ」
 こらえきれず、のぞみがりんの手を掴んで、その動きを止めようとした。すると、今度はもう一
方の手が逆のひざを責めてくる。
「や〜ん、ダメぇ」
 その手も掴んで止めた。二人とも手が使えなくなったが、りんは、ちゃんと次の手も考えてあ
った。
「へぇ、いいの? 手が使えなくなったら……」
 りんがグイッと強引に身を寄せ、顔をのぞみの首元に近づける。
「こうするしかないじゃないの」
 ぺろり、と舌を伸ばして舐め上げた。指とは違う種類のくすぐったさが、のぞみのうなじを這っ
た。濡れた軟らかい舌の感触が肌を滑る。のぞみが思わず両目を閉じた。
 唾液の湿りで引かれた短い線が、のぞみの首筋に余韻を残した。
「どう?」
 ささやくように感想を尋ねつつ、なおもりんが舌を伸ばす。ゆっくりと頬を下から上へ、いった
ん離れて、耳の外側をなぞっていく。
「うぅ〜、りんちゃぁ〜ん……」
 切なげな声で名を呼ばれても無視。この程度でまいってもらっては困る。のぞみが必死で首
をそらして逃げようとするが、イジワルな舌はそれを許さない。
 のぞみの耳の内側で、『ぴちゃっ』と濡れた音が響く。体温以上に熱くなった唾液が耳孔にネ
ットリと垂れる。のぞみがますます固く目をつむりながら「うーっ」とうめき声を洩らす。
「のぞみ、その顔、嫌がってるの? それとも……喜んでるの?」
 ピチャピチャピチャと舌を鳴らし、のぞみの耳を舐め上げてやる。飢えた犬みたいな舐め方
で、耳全体を唾液で汚してまわる。のぞみの呼吸がどんどん乱れていく。
(興奮してる興奮してる♪)
 次の彼女のリアクションを予測して、のぞみの両太ももの間に、右ひざを滑り込ませておい
た。一瞬遅れて、のぞみがビクンッ!とカラダを痙攣させた。秘所の奥で激しく湧き上がった甘
美な疼きに、反射的に両脚を閉じてガードしようとするのだが……。
「あぁぁんっ、りんちゃんのいじわるぅ〜〜っ」
 割り込ませた右ひざが、それを思いっきり邪魔していた。抑え切れない発情の昂ぶりが、の
ぞみの理性を狂おしく焦がす。
 はぁッ、はぁッ、と荒く息をつきながら、のぞみがりんの手を離し、代わりに自分の火照った股
間へと伸ばした。しかし、蜜を溢れさせる秘所を慰める事もかなわない。りんの右ひざがピッタ
リと押し付けられて、完全に股間を塞いでしまっていたから。
「ほらほら、のぞみ、さぁどーする?」
 りんの声と表情は非常に楽しげだ。自由になった手をのぞみのあごの下に添え、真正面を向
かせる。半泣きになったのぞみの顔を舐めるような視線で見つめる。
「りんちゃん……」
 こぼれそうなほど大きな涙の粒を目の両端に溜めて、のぞみが愛しげな声音で名前を呼ぶ。
りんの右手 ―― ウェディングブレスを嵌めたほうの手を取って、自分の口許へと運んだ。
「あたしもイジワルしちゃうんだからっ…」
 力を抜いている右手の人差し指を、のぞみの口がちょっぴり含む。チロッ、と舐められる感
触。『ちゅっ、ちゅっ』と音を立てて吸い付きながら、チロチロと小刻みに舌を使ってくる。耳を舐
められて感じさせられた仕返しだ。
 くすぐったさよりも、その行為の可愛らしさに、りんの背がゾクゾクと悦びを覚えてしまう。下半
身を沸かせる悦びに腰がモジモジ悶えて、その動きがのぞみの股の間に押し付けている右ひ
ざへと伝わる。
(やだ、んっ…もうっ! りんちゃんめ〜)
 大事な所をぐりぐりしてくる右ひざの動きを、りんのさらなるイジワルと勘違いしたらしい。のぞ
みが『ちゅぱちゅぱ』といやらしく唾液の跳ねる音を響かせて、人差し指から小指まで順々にし
ゃぶり、丹念に舐めまわしていく。
「やっ……のぞみっ、くすぐった……てゆうか、かわいい……」
「むぅっ!?」
 のぞみが膨れっ面になって、りんの指をくやしそうにガジガジ齧る。
「わっ、こらっ、食べるなっ! 感じてるから……くすぐったくて感じてるから!」
 誤魔化しているわけではなく、本当の事だ。ただ、不等式で表すと、かわいい > くすぐった
い、というだけの話。
「ほら、もっといっぱい舐めてよ」
 りんが五指を広げて、のぞみの口の前にかざす。のぞみが言われたとおり、ペロペロと指の
付け根の間まで舌を滑らせて、丁寧に舐めてゆく。
「くうぅっ」
 さすがに敏感な指の付け根の間はたまらないらしく、りんが身を折って悶える。その反応のせ
いで、のぞみがそこを重点的に舌先で責め始めた。
「ひゃっ、ちょっと…そこばっかり駄目っ、あっ、やだっ、こらこらっ、だめって…あッ!?」
 立場逆転。
 りんの腕がビクっ、ビクっ!と震えて引っ込められそうになるが、のぞみが掴む力を強めて離
さない。眉根を寄せた悩ましげなりんの表情を上目遣いで窺がいつつ、さらに舌使いを速め
て、徹底的に弱点を攻め抜いてやる。
「ゴ…ゴメン、のぞみ、もう無理っ、あたしもう無理っ、……ひッ、ちょっとのぞみっ」
「り〜んちゃん、降参は無しだよ」
 手はもうすっかり唾(つば)まみれだが、それでも、ぴちゃぴちゃ…というイヤラシイ音が、指
の間で鳴り止まない。りんのくびれた腰がビクンッ!と跳ねる。下半身をいじりたくて仕方がな
かった。
(……でも、それってのぞみも一緒だよね?)
 ぐりっ。りんの右ひざがのぞみの股間を刺激する。いやらしく分泌した蜜でぬめっている感
触。のぞみが「あっ…」という呟きと共に舌を止め、顔を赤らめる。