人魚姫の花珠(パール) 06


 はるかに向けた、つややかな白磁のような背中。美しく伸びる左脚を前に、右脚を後ろに、柔
軟な股関節を使って、直線に近い角度で大きく開かれた両脚。ほそやかな腕は左右共に手の
平をベッドに着けて、上体を支える役目だ。
 暗闇に目隠しをされているからこそ、ここまで大胆に羽化できた。
(くっついているのが分かるわ。わたしの大切な場所と、はるかの大切な場所…)
 字バランスのポーズと腰の一点で交差する前後開脚の姿勢 ――― 熱い肉のヌメリがこす
れ合う卑猥な感覚にたまらなくなったのか、はるかが弛緩した嬌声を洩らした。
「ふあぁ…、み…みなみさん……腰が…ぁぁっ」
「溶けちゃいそうなぐらい気持ちいい? ふふっ、わたしもよ」
 みなみが、くっ…と悩ましげに両目をつむった。
 さっき指でいじったクリトリスの甘美な痺れ。それがまた違った快感の波に溺れていく。昨日
まで悦びのカケラも知らなかった純潔の性器が、肉欲のうずきにたっぷりと犯されていた。
(こんなにも気持ちいいんだったら、毎晩一緒のベッドで、はるかと……)
 はるかの性器が熱くなっているのが分かる。赤ちゃんを産む部分でそれを感じている。
 処女の恥貝から、快楽の蜜が垂れる。
「んっ」
 小さくうめいたみなみが、ゆっくりと腰を揺すった。
 粘蜜でぬめった敏感な処女肉をすり合わされて、はるかが「あっ…あっ…」と恥ずかしいポー
ズのまま身悶えて、恍惚の色に表情を溶かした。
 みなみの背筋を、ゾクリ…と痺れが這い登ってきた。
 暗くて ――― 視界の利かない世界で、それ以外の感覚が冴えているせいか、はるかの声
はどんなに小さくてもよく聞こえた。息遣いの乱れさえ聞き取れてしまう。
 熱い溜め息をこぼして、いつのまにか両目の端に溜まっていた涙の粒を頬に落とす。
「好きよ、はるか。愛してるわ」
「わたしもですっ、みなみさん、……だからっ」
「ええ、赤ちゃんでしょう?」
 みなみがベッドに着いた両手に、ぐっ、とチカラを込めた。姿勢の安定感が少しばかり増し、
腰を揺する動きに『攻め』が生まれた。濡れた媚肉の愛撫。はるかの無垢な性器に淫らな蜜を
なすりつけ、汚し、あさましい肉の悦びに従わせる。
(わたしと同じ悦びを、赤ちゃんを産む場所でたっぷりと味わいなさい)
 ゾクゾクと興奮を覚える背筋。その後ろから、はるかの声が届く。
「あっ、あっ、みな…みさ……ん゛っ、駄目……動いたら、腰の奥…変にっ……」
「ふふっ、女の子同士でも妊娠できるように、こうやっておまじないをかけてあげているのよ」
 ほっそりと洗練されたバレリーナのごとき肢体が、なまめかしく腰を使って、愛しい後輩の恥
部をねっとりと責め上げた。濡れそぼった処女肉は、ぴったりと重なった軟らかな秘部を舐め
るように愛撫。熱くなった恥肉にこね回された二人の蜜が『…くちゅっ』と音を鳴らした。
「……聞こえた、はるか? お互いの腰が漏らしたイヤラシイものが混ざり合う音」
「…………」
 はるかから返ってきた答えは、恥じらいの無言。
 みなみはそれを許さない。
「躾が必要ね」

 みなみが体勢を強引に変える。半身になりながら、前に伸ばしていた左脚を、はるかの右太
ももの下にぐいっと深くねじ込む。
「ああっ!?」
 驚いて 字バランスのポーズを崩壊させたはるかの左脚が、びくんっ、とベッドの上に投げ出
される。両腕はポーズの取っていた時のまま、だらんとベッドの上に放置。汗ばむ脇も股間も
大きく開いたままのだらしない姿は、まるで糸の切れた人形だ。
 ――― その弛緩した裸身に、ビクッッ、と電流が通された。
 側臥位の姿勢になったみなみが、はるかの右脚を両腕で抱きしめ、無防備な股の間に熱くな
った秘所をぐりぐりと押しつけてきたのだ。
(ひっ……!)
 びくんっ、と小さくのけ反るはるかの背中。いじめられるという予感が、ぞくぞくっ…と妖しくカラ
ダをうずかせてくる。
「聞こえなかったのなら、しっかり聞かせてあげるわっ」
 こまやかに速く揺すられる腰の動き。二人の密着した濡れ肉がすり合わされて、たちまち粘
っこい水音が部屋に響き始めた。

『くちゅくちゅくちゅ…っ、くちゅくちゅっ……』

 まだ小学生を卒業して一年も経っていない少女の耳を、その淫らな音が容赦なく犯す。自分
のいやらしさを証明する粘蜜の響きは、処女の股間を甘美に疼かせる恥肉の愛撫よりも、正
直興奮したかもしれない。
「きっ、聞こえますっ! ああああぁっ、聞こえますっ、聞こえますっ!」
 恍惚の声音で、はるかは叫んだ。カラダが熱くなってたまらない。
「死んじゃうぐらい恥ずかしいのに……ああっ、もう気がおかしくなってもいい!」
 ガクンッッ!
 思春期の瑞々しい裸体が、電流に打たれたみたいな激しい震えに貫かれた。高まりすぎた
羞恥の感情が、秘所を蕩かす快感とぐちゃぐちゃに混ざり合ってくる。閉じた両目の端から涙
をこぼしながら、はるかは混乱した頭をベッドの上で何度も左右に振った。
「ああっ、すごいっ、音が鳴ってる……いやらしい音してるっ! すごいっ」
「音がいやらしいのは、はるかのせいよ。そうでしょ? ほらっ」

『くちゅっっ…くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ……くちゅくちゅくちゅっ、くちゅっっ』

 二人の股の間で響く濡れた音は、糸を引きそうなほど粘度を増していた。余韻が残っている
うちに次の水音が被さってくる。
 みなみがくびれた腰を淫らにくねらせるたび、はるかの健康的な肌の下を、ひくっ…ひくっ…
と筋肉の喘ぎが走る。処女の粘膜を愛し合わせる行為に、身体全体が酔いしれてしまってい
た。
 ……全力疾走したみたいに肌が熱くなって、喉が渇きを覚える。
 耳の奥 ――― 鼓膜に直接響く、粘っこい水音。
 みなみの股間から分泌された、いやらしい液体。

 ――― ぞくりっ。

「……うぅ……」
 みなみの味を想像して、はるかがこっそりと喘ぐ。カラダがゾクゾクとうずいてくる。しかし、こ
の気持ちは、みなみには届かなかった。
「いやらしいわね、はるか」
 一瞬、心を読まれたのかと思ってドキリとするはるか。だが、すぐに音の事だと気付く。
 はるかの様子を窺いながら、みなみが声をひそめて続けてくる。
「……今夜の事、わたしは誰にも言わないけれど、すぐにみんなにバレてしまうわね」
「えっ? ど、どういうことですかっ」
「だってはるか、あなた、わたしの赤ちゃんを身ごもるんでしょ? ……大きくなったおなかを見
れば、何をしたかなんて一目瞭然よ」
 快感でかき回された脳は、正常な判断が出来なかった。
 ――― それは ――― 駄目 ――― 。
 思わず自分のおなかを両手で押さえてしまう。
 みなみはそれを見透かしたように言葉を続けた。
「あら、やっぱりわたしの赤ちゃんはいらないの?」
「ち、違っ…」

(ふふっ、ごめんなさい、はるか)
 はるかをいじめていると、腰の奥のムズムズが激しく昂って気持ちよくなってしまう。
 処女の股間同士を淫らに交わらせながら、ふと思い出した。
 熱く濡れたキスで結ばれた二人の性器へと、右手を伸ばす。
「んっ!」と、はるかがうめいてカラダをすくめた。感じきっている性器をまさぐられるのは、ひど
くくすぐったいらしい。
(確か、この辺のはず…)
 白くほっそりした指が、はるかの処女の部分を這って、最も敏感な一点を探り当てた。
 愛液にまみれた、つぶらな快楽の肉真珠。
 優しく、中指の腹でスリスリと撫でてやる。
「 ―――――― ッッ!!」
 その瞬間、はるかが示したのは、ビクンッッ!と腰が後ろへ強く跳ねるみたい反応。甘美な
刺激を直接神経に与えられたみたいな感覚は、もちろん初めてだ。
「……だいじょうぶよ、はるか、今度はもっと優しくさわるから」
「あ、待ってっっ」
「ふふふっ、待たない」
 包皮の上から、とんっ…とんっ…と軽く触れる指の動きを、ゆっくりと一定の間隔で繰り返す。
幼いクリトリスにとって、それは十分に甘やかな快感だった。恥骨にうっすらと快楽が響き、処
女の性器の奥が『ジ…ン』とうずいて、透明な蜜をしたたらせる。
「この気持ちよくなった状態で、続きをしましょう」
 右手を股間から抜いて、新たな蜜でぬかるんだ二人の秘所を再び密着させる。
 はるかは、クリトリスを刺激されて、より感度が高まったらしい。性器でキスをしただけで、とろ
けた声を放った。
「ふわあっ……だ…め…きもちよすぎる……」
 びくっ、となった左手で汗ばんだ髪をかき上げたところで、みなみの腰が動いた。
 続けて、びくんっ、と跳ねる左手。……が、何かに当たった。(ふえっ?)と思わず手を這わせ
たそれは、枕だった。
「んっ、あっ…みなみさんっ、腰…激しっ、あ゛っ、あっ」
 秘所を淫らな肉の愛撫で責められ、ベッドの上で悩ましげな声を上げて身悶える。枕をたぐり
寄せたのも、ぎゅっ、と抱きしめたのも無意識だった。
 鼻をくすぐるエキゾチックな匂い。すぐ最近嗅いだ気がするが、はるかには何故か思い出せ
ない。だが、枕に染み付いた、もう一つの匂いの正体は解かった。知っている女の人の髪の匂
い。うっすらと、せいらの顔が脳裏に浮かんだ。
(ああ、そっか。これ、せいらさんのまくら)
 ―――――― 。
 全裸になって淫らな愛を交し合っている姿を、間近でせいらに観察されているような気分。背
徳的な羞恥のヨロコビに、はるかの情欲は燃え上がった。
「ああっっ、みなみさんっ、もっと激しく……激しくっっ!」

 はるかの興奮は、みなみを燃え上がらせた。
 歓喜で子宮がとろけそうになるのをこらえて、腰をなまめかしく揺する。
「そう、今すぐ妊娠したいのねっ。本当にいやらしい子っ、躾けてあげるっ」
 軟らかな恥貝同士をヌメヌメと猥褻にこすり合せる。
 弱い部分を執拗に舐めまわされるような感触に、はるかが快楽の泣き声を放った。みなみの
耳の奥が淫靡にくすぐられ、背筋にゾクッと痺れが走った。
(あああ、はるかの声……たまらないわね)
 うら若いバレリーナのカラダが、肉の悦びに溺れて腰を振るという、あさましい行為に没頭す
る。今夜まで純潔を守ってきた処女の性器は、淫らな快感にただれながら、もう一つの処女の
性器と愛し合っていた。
「みなみさんっ、あ゛っ…熱いっ、あっ、ああっ、あっ、あっ」
「ああっ…、はるかはわたしと一緒の悦びを味わっているのよ、分かる? ……ほら、ノーブル
学園の生徒代表であるわたしが、こんなにっ…乱れて……あ゛あぁっっ」
 ガクッ、と砕けるように腰を震わせたみなみ。しかし、すぐに持ち直して、はるかの恥部を甘く
責め抜くために腰を揺する。
 淫らな蜜のヌメリにまみれた女子中学生の性器。何度も何度も愛しくヌルヌルとこすり合わさ
れた二つの軟らかな秘貝は、そのたび卑猥な水音を立て、腰が蕩けそうなほど甘美な悦びを
幾度となく味わった。
 はるかの裸身が大きくわななく。遅れてみなみのカラダも。
 ゾクッ ――― ゾクッ! ゾクッ!
(何これっ、抑えきれないっっ)
 無垢な膣を深く突き抜けてくる恍惚感。
 びくんっ!とみなみの全身に大きな痙攣が走った。はるかも同じタイミングで、子宮を突き上
げる快楽の波涛を感じていた。
「あっ、あっ、あっ、はるかっ、駄目っ……何かっ、あっ、腰がっ、ああああっ!?」
「うくぅぅぅっ……ああっ、みなみさんっ、やだっ、もうだめえええっ……ふあ゛ああああっっ」

 愛液にまみれた処女の粘膜が、今までで一番熱く蕩けて ――― 。
 同時に、二人の少女の膣がキュウウッ!と強烈に収縮。
 ……びくっっ! びくっっ! びくっっ!
 やわらかな肌の下を何度も痙攣が走る。
 生まれて初めての絶頂だ。 

(ああ、はるか、はるか……)
 電気ショックでも受けたみたいな感じだった。体の自由が利かない。気持ちよすぎる痺れに、
全身が陶然と酔いしれている。それでも絶頂の波が通り過ぎてしばらく経つと、なんとか動ける
ようになった。……余韻でまだフラフラな状態ではあるが。
 みなみ上体を起こし、ベッドを四つん這いで移動して、はるかの熱いカラダにのしかかった。
「あぁ…、みなみさん……」
 法悦の表情で二人はキスを交わした。息が乱れているせいで、長い間くちびるを合わせてい
られない。だから、何度も短いキスを繰り返した。甘くて幸せな味のするキス。
「はるか…」
「はい」
「愛してるわ」
「ふふっ、そんなの当たり前じゃないですか」
 愛してるという一言が今さらながらくすぐったくて、ぎゅっ、とみなみに抱きついてしまう。
 カラダの奥には、みなみがくれた気持ちのいい波が少し残っている。
 ――― みなみさん、本当に大好きです。
 
 ……抱きついてくる柔らかなカラダの熱さが気持ちよかった。
 ――― 愛しい。はるか、あなたとなら。
 胸からあふれそうになる想いを、優しいキスに変える。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――― 10年後。
 獣医師免許の交付を受けたわたしは、新たに生まれたドレスアップキーを手にしていた。
 まだ色の決まっていない、水晶のように透き通った夢の鍵。


 わたしは今、財宝寺家との縁談を正式に断り、日本を離れ、世界的な海洋学者である北風
あすか博士に師事しながら、海の獣医として一日でも早く独立できるように日々励んでいる。
 あすかさんは、仕事面では心から尊敬できる。プライベートでも頼れるお姉さんといった感じ。
でも、お酒を飲んだ時が少し問題。だって、『魔女』に変わるから。
 あすかさんは、ある程度酔うと、マタタビを食べた猫のようにふにゃふにゃとだらしなくなる。
そして性格がすごく甘えん坊になる。子供がお母さんに甘えるみたいにベタベタとわたしにスキ
ンシップを繰り返してくるし、あと、なぜか服を脱ごうとするの。
 絡んでくるのをやめさせようとすると、拗ねてしまって、二日酔いになるまで飲もうとする。だ
からといって、お酒を取り上げると拗ねて泣いてしまう。

 ああ、他人にはとても見せられない一面…………。

 けれど、酔ったあすかさんは、毎回必ず最後に一言、その時、わたしが心に秘めている感情
や思いを正確に射抜いてくる。
 態度にも表情にも全く出していないから、知られるはずはないのに、それでもあすかさんの言
葉が間違えることは決してない。 ――― だから魔女。

 ――― 「もし、あなたの愛しい娘が王子様と結ばれるなんてことになったら、あなたのしあわ
せは海の泡となって消えるよ?」

 今回の魔女の言葉で、わたしは日本に一時帰国する事を決めた。隠していたお酒と引き換
えに休暇をもらう。
 でも、もしも……。
 心が迷う。
 これから再会する愛しい人が、わたしとではなく、本当に王子様と ――― 。
 その不安は、わたしの喉から声を奪った。帰国のための一歩一歩が、ナイフで切られるよう
に痛い。


 不安に沈むわたしの前に唐突に現れたのは、財宝寺さんだった。
 たまたま出演したテレビ番組にて、一条らんこ ―― アイドル界のトップお笑い芸人 ―― と
出逢い、意気投合した勢いでそのまま彼女と結婚してしまった大財閥の御曹司。

 財宝寺さんが「キミの幸せに一枚噛ませてほしい」と差し出してきたのは、王子様を殺すため
の短剣といった物騒な物ではなく、ひとつのリングケースに収まった二つの結婚指輪だった。
「まあ、実はこれ、らんこのアイデアなんだけどね……」
 説明を聞かなくても、意図は読めた。
 天然のピンクダイヤモンドを載せた指輪は、わたしの愛しい人のためのもの。
 もうひとつの指輪は、意匠を凝らした石座(シャトン)はあるものの、肝心の宝石が無い。
 ――― だけど、わたしの結婚指輪なら、これが正解。
 だって、わたしの宝石は……。
「…で、らんこから伝言。 ――― 『確かに借りは返したわ! よって、これからはわたしの時代
よ! あーはっはっはっ!』だそうだよ」
 借りというのは、かつて、わたしがプリキュアの一人として闇の魔女ディスピアを倒し、絶望に
包まれようとしていた世界を救ったことかしら。しかし、わたしにその借りを返すことで、なぜ彼
女の時代が来るのか……全く分からない。
 なにはともあれ、この親切はありがたく感謝して受け取っておいたほうがいいわね。彼女の場
合、下手(へた)にわたしが遠慮すれば、引っ込みが付かなくなって、今度はダイヤを散りばめ
たドーナツサイズの純金の指輪とかを用意しかねない。
「ありがとう、財宝寺さん。……でも、指輪のサイズとか、その、どうやって……」
 それにわたしの帰国や、心にそっと秘めておいた想いも……。
 わたしの疑問に、財宝寺さんが爽やかに笑って答える。
「それはね、らんこが財宝寺家の財力と人脈を使って作った秘密の情報部隊が……」
「今すぐ解体してください! そんな部隊っ」
「え、やだよ、らんこに怒られる」

 気が付くと、不安なんてすっかり消えてしまっていた。
 声も普通に出ているし、足を傷つけるような鋭い痛みも無くなっている。一条らんこのせい
で、すべてがバカバカしくなってしまったのかもしれない。
 ふと、肌身離さず持ち歩いているドレスアップキーを確認してみた。
 無垢な水晶を思わす透明さの中に、うっすらと霞むように、色が現れ始めている。
 桜の花びらのような、優しいピンク色。
 わたしが夢見るこれからの人生を、しあわせに染め上げてくれる色。

 わたしは力強くうなずいた。 
 帰国したら、二つの指輪と共に、愛する人へ、ただまっすぐに気持ちを伝えよう。
 そして、王子様とも向かい合って話し合おう。
 わたしは、もう結果を……未来を恐れない。たとえ、どうなるとしても、最善を尽くした上で受
け入れる。
 

 真珠は、海によって育まれる宝石。
 その真珠の中でも、最上級のものは花珠(はなだま)と呼ばれる。
 わたしにとって、春野はるかという女性は花珠だった。
 夢というきらめきを核にして、美しい努力を数え切れぬほど重ねて、本当の輝きを身に着け
たプリンセス。
 海の彼方にいる彼女を想いながら、結婚指輪の石座へ静かに視線を這わせる。


(おわり)