Friendful party 01


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「あなたの最高の友だちは?」と質問されたら、もちろん「愛乃めぐみ!」と答える。
 だから、ふと悩みたくもなる。
 もし質問が「めぐみの最高の友だちは?」だったらどうか。
 今は自信をもって「自分だ」と言える。
 けれど、これから先はどうだろうか?
 ずっと先の未来、めぐみの最高の友だちは、自分なのだろうか?

 内側からアクティブな輝きを放っている彼女を思うと、漠然とした不安を感じる。どんどん先に
進んでいくめぐみに、いつのまにか置いていかれてしまいそうな気になる。
 物質的な距離の問題ではなくて、二人を結ぶ心の距離感。
 自分の未来をうまく想像できなくて、ついネガティブな気持ちに捕らわれてしまう。
 部屋の隅っこ。
 子供の背丈ほどもある大きなニワトリのぬいぐるみ、そのちょうど首にあたる部分をギュウウ
ウと絞め落とすみたいに抱きしめながら、ずっと座り込んで考えていた。

 どうすれば、いつまでもめぐみと隣同士でいられるのかな……?


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 全身が心地よく温まる。
 小粒のダイヤモンドを散りばめたような星空の下、白雪ひめは温泉に浸かりながら「う〜〜
ん」と両手を高く伸ばした。
 中学二年生……といっても、どこか幼げな感じがする。発育速度の関係で、女の子の体付き
を彩るふくらみが小学生並みに未成長なのと、子供っぽいところが抜けない性格のせいだろ
う。
 本名は、ヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイ。
 ブルースカイ王国の王女であるが、国を離れて暮らしているうちに、庶民生活にすっかり馴染
んでしまっている。
 蒼穹色のロングヘアは、今は丁寧に巻いたタオルのターバンで包み上げられているが、普段
は背中でフワッと大きく広がるほどのボリュームがあり、サイドも両肩の前まで流れている。い
つ何時、白馬に乗った王子様がプロポーズしてくるか分からないので、常に髪の手入れはおこ
たらない。
 可愛らしく整った顔立ちは、明るく笑えば誰もが目を惹かれる。いずれは大人の女性としての
麗しさを得るとはいえ、まだまだ当分は無邪気な蕾。
 ――― そんな表情が、大きな一仕事を終えて完全に緩みきっている。
 隣で湯に浸かる少女が微笑みを浮かべたのは、それがチラリと視界に入ったせいだ。
「本当に今日は大変でしたわね、ヒメルダ」
 肩の下まで湯に浸かる姿すらも優雅。
 ひめよりも年齢は一つ下の中学一年生。しかし、第二次性徴はひめ以上にはっきりと身体に
現れており、雪めいた白い肌に包まれたプロポーションは、すでに女性らしさを匂わせている。
 紅城トワ。
 ホープキングダムの王女であり、本名はプリンセス・ホープ・ディライト・トワ。
 つややかで美しい赤髪を縦ロールにして、ふんわりと量感を持たせている。お姫様らしいエレ
ガントな雰囲気を振り撒く髪型だ。入浴時に際して、ひめと同じくタオルで作ったターバンに収
めたために、いつもは髪に隠れている真っ白なうなじが覗いていた。
 ……湯気に濡れて、ほんのりと色香をにじます綺麗な首筋だが、ひめはそれを特に気にする
様子もなく、弛緩した声で返事する。
「わたしのことは、ひめでいいよぉ〜。本名よりも、この名前のほうで呼ばれ慣れてるしぃ〜」
「では、ひめ」
 切れ長だが、おっとりと目尻が下がった双眸を優しくひめへと向ける。
 トワと視線を合わせたひめが、「はぁっ」と溜め息をひとつこぼしてみせた。
「毎年この時期になると、年中行事の感覚で世界のピンチが来るんだよねぇ。全く面倒ですぞ」
「いいではありませんか。時期が分かっているからこそ、今回はあらかじめ全てのプリキュアが
集まって、万全の状態で対応できたのですから」
 露天の温泉を楽しみつつ、平和な夜空を見上げるトワ。
 他のプリキュアと妖精たちは、ホテルの中で、ノリと勢いに任せた祝賀会の真っ最中だ。さら
にプリキュアではないが、繋がりの深い一部の関係者も乱入 ――― もとい招待されて大いに
盛り上がっている。
(皆の楽しそうな笑顔、あれこそがプリキュアの勲章なのかもしれませんね)
 女子によるメンズファッションコンテストに続いて開催された、男性陣によるレディースファッシ
ョンコンテスト。
 セクシー路線に打って出たバスドラのせいで崩壊した会場の雰囲気を、捨て身で盛り返した
サウラーの献身。赤い薔薇をイメージしたイブニングドレスを見事に着こなすも、鏡に映る自分
の姿に心を奪われすぎて、コンテストへの出場を忘れてしまったシャット。女の子なのに、なぜ
かこちらに出場してイキイキとしていた明堂院いつき。少年の姿に変身するやいなや女子に群
がられ、現在もなお皆の着せ替え人形と化しているラケル……。

 二人で抜け出してきた会場の賑やかさをしみじみと思い出しつつ、そっと隣へ視線を戻す。さ
きほどのトワのまなざしを追ったのか、ひめもまた夜空を見上げて、しあわせそうな微笑みを
表情に乗せていた。
(ふふふっ)
 胸のうちで鈴のような笑い声を転がし、ひめと一緒に夜空を ――― 。
 だが、ザパン!ザパン!と退屈そうに湯を蹴り上げる音がトワの気分を乱す。
 ……ひめの仕業ではない。
 勝手に二人についてきた三人目の少女が不満そうな声を上げる。
「あーあ、ヒマヒマ…、ねえ、さっさとマナを捜そうよぉ」
「行きません。そもそも、わたくしとひめは、マナを捜すためにここに来たのではありません」
 トワがきっぱりと断るが、三人目の少女はマイペースを崩さずしゃべり続ける。
「知ってる。あそこじゃ落ち着いて話が出来ないから、二人でここに来たんでしょ。
 ――― だからそれが終わったら、六花にさらわれたマナを、あたしと一緒に捜してよ」

 ひめとトワが、「何故そうなるの?」とでも言いたげな表情で顔を見合わせた。
 そんな二人を、逆にキョトンと青い瞳で見返す少女 ――― レジーナ。

 誰もが愛くるしい印象を抱く容貌と、思春期の女子の魅力を輝かせたような肢体。
 胸や尻のふくらみ具合は、まだわずか。しかし、それがカラダに描く絶妙な曲線は、少女とし
ての可愛らしさを最大限に主張しており、決してマイナスな評価にはならない。
 澄みきった碧眼は、まるで宝石。彼女の気分次第で光り方は、キュートに、不機嫌に、いじら
しく、とコロコロ変わる。今は大好きなマナがいなくて退屈そう。
「……で、なんだっけ? ひめがトワに相談したい事って」
 こちらの用事は早く終わらせて、マナを捜しに行きたいのだろう。あまり興味が無いらしく、そ
れが声にハッキリと現れている。ひめは苦手なオカズが食卓に並んだ時みたいな表情になっ
た。
(ホント、この子何なの、ハァ…)
 と、心の中で溜め息をつく。
 でも……と思い直す。
 複雑な事情があるが、レジーナはトランプ共和国の前身であるトランプ王国国王の娘。つまり
は王女的な存在。聞くに値する意見をくれるかもしれない…………あ、やっぱ駄目だ。
 湯の表面にだらしなく広がるレジーナの金髪。ひと筋ひと筋が純金のツヤを見せるストレート
のロングヘアは、さわらせてもらいたくなるほど綺麗なのに、扱いはぞんざい。温泉に浸かる前
に、ひめがせめてアップにしてあげようとしたのだけれど、「面倒くさーい」「あとでマナに乾かし
てもらうからいいも〜ん」と、そのまま湯にジャポン。
(うーむ、女の子の命でもある髪を大切に扱わないような子は頼りに出来ませんぞ)
 心の中で、むむむっ…とうなるひめ。
 ひょいっ、とトワの背中からレジーナが顔を覗かせてきた。
「あ、もしかしてブルースカイ王国とホープキングダムで軍事同盟とか結んじゃうって話? 面
白そう! トランプ共和国も交ぜて〜〜」
 青い瞳が急にウキウキとした輝きを帯びた。まるで、じゃれつく相手を見つけた子犬みたい
に。

「ちが…」
「違いますっ」
 ひめの声に被さるように、トワの言葉が否定。そして、肩越しにレジーナのほうを振り返りな
がら、微かなトゲを含んだ声で続ける。
「そもそも、あなたは今のトランプ共和国とは特に関係ないではありませんか」
「んー、そうだけど…、でもパパの人脈や人望はまだ生きてるし、それ使って一年ほどで共和
国の要職に着いて…、それから早くて半年ほどで権力の中枢に食い込んで ――― 三年ほど
待ってくれたら、共和国全部を完全にあたしのモノに出来るけど?」
「レジーナなら本気でやっちゃいそうでコワいよ……。わたしがトワに相談しようと思ったのは、
そういうコトじゃなくて ――― 」
 仕方なく、ひめが話の流れを修正に掛かる。
 自分が思い悩んでいた事について簡単に説明。…………簡単すぎて言葉が幾分足りてない
部分もあったが、トワもレジーナもうまく補ってくれる。
「将来、めぐみに『最高の友』として誇ってもらえるような素晴らしい人物になるにはどうしたらい
いか、と。そういうことですの?」
「つまり、王女の仕事をこなす傍ら、めぐみに胸を張れるような副業もやってみたいんだ?」
 二人とも理解が早くて助かる。
 ひめがフンフンとうなずいて、「でね…」と話を続けた。
「せっかくだから同じ王女のトワから何かいいアドバイスがもらえないかな〜って思ったの。
 ……あの〜、トワ、聞いてる?」
「聞いてますわ」
 後ろからじゃれつこうとしてくるレジーナの両手を何度も払いながら、視線で続きを促すトワ。
 レジーナのほうは、すでに興味がひめの話からトワへと移ってしまっているようだ。
「わぁ、トワの肌って柔らかくてスベスベ〜〜」
「ちょ…、ちょっとレジーナっ、どこをさわって……っ」
「あの〜、わたしの話……」

 華奢な丸みを描く肩。それを愛でるように滑る手の平。
 トワの綺麗な背中に、レジーナのかわいらしい裸身がぴったりとくっつけられる。うなじ近くを
クスクスとあどけない笑い声が這って、くすぐったかった。
「ふ〜ん、マナのほうがいいけど、トワのカラダもそれなりに……もっとあたしにさわらせて」
 そう言いながら肌をなぞる指先の動きは、こっそりとトワのカラダの正面へと回り込もうとして
いた。すぐに察知したトワが湯を跳ね上げて裸身をよじるが、レジーナの手は離れない。むし
ろ、そんな抵抗が彼女の遊び心を刺激してしまう。
「レ、レジーナ……ちょっといい加減に……っ」
「ふふっ、ちょっとだけトワのこと気に入っちゃった。……そうだ、あなたに『トワワン』ってカワイ
イ感じのニックネームを付けてあげる。うれしいでしょ?」
「ト…トワワンっ?」
 トワの表情が驚きの色に ――― しかし、それも一瞬の事。誇らしさを顔に覗かせた少女
は、左手を自分の胸に当て、背後のレジーナに向けて言葉を放つ。
「せっかく考えていただいたのに申し訳ありませんが、レジーナ、わたくしにはすでに『トワっち』
という、大切な友から頂いた素晴らしいニックネームが ――― 」
「ええー、『トワっち』よりも『トワワン』のほうがカワイイじゃない。トワワンもそう思わない?」
「思いません。まったく思いませんわ。わたくしはトワワンではなく、トワっちです」
 決してキツい口調ではない。だが、何があろうと譲歩する気はないという強い意志が声に現
れていた。

(へぇ〜、あたしに逆らうんだ……)
 トワの態度は、レジーナの意に添わぬものだった。
 少女の青い瞳が不機嫌そうな輝きを帯びるも、五秒も数えぬ内に、その瞳に宿る感情が切り
替わる。まるで新しいオモチャを手に入れた子供のように楽しそうだ。
「ふふっ、トワワ〜〜ン」
「だからっ、トワワンでは……あっ」
 湯の中で、レジーナの右手は鮎のごとく軽やかに動いた。即座にトワが右ヒジで牽制してくる
も、それをスルリとかわして、腕と身体の隙間にすべり込む。しかし、トワの対応は早い。ワキ
をきつく締め、二の腕と身体でレジーナの右手首を挟みあげて動きを封じようする。
(トワワン残念っ、そんなのお見通しなんだからぁ)
 左手でトワの腰のくびれをスゥー…と撫で上げ、ゾクリとくるこそばゆさで彼女の意識を乱す。
時間的にわずかな隙でも、レジーナの右手が目的を達成するには充分過ぎた。
「あっ…くぅ」
 胸先の敏感な刺激に、トワの短くうめいて、クッ、と俯く。眉間に微かに刻まれたシワと、閉じ
られた双眸で美しい睫毛が震える様(さま)が、少女の表情に悩ましげな色を這わせている。
「ほらほら、トワワン、どう? くすぐったいでしょう」
「トワワンではないと何度言えば……あぁ、レジーナ、駄目ですっ、そんな…はぁっ、あっ」
 13歳のプリンセスの胸に、まろやかに描かれた乳房のカタチ。まだそれほど大きくはない
が、白い肌はなめらかで美しい張りがあり、そのふくらみは誰の目にもやわらかな手触りをイメ
ージさせる。
 初雪の白さが戴く薄桃色の乳輪、その中央を可愛らしく飾る突起 ――― レジーナの指がそ
れを優しく捕らえて、甘やかなくすぐりを加えている。
「あれえ〜、もしかしてトワワンってば、もう降参?」
「降参など……だ…誰が……うっ、うぅっ、駄目…ああっ」
「へぇぇ、まだ降参しないんだ。じゃあ、こっちのほうも…」
 左の胸のふくらみにもレジーナの手が伸びた。
 やわらかな曲線に手の平をすべらせ、ゆっくりとさするような動きで、きめ細やかな肌の下に
ある瑞々しい肉の弾力を愉しむ。今のトワは、喘ぎをこらえつつ、湯に浸かったハダカの上半
身をくねらせるのが精一杯の抵抗だ。攻め急ぐ必要は無かった。
 右のふくらみに占領していた手も、乳突起をつまむのをやめて、トワの乳房を優しく撫でまわ
して愛でる方向に戦術転換。
「あぅっ…はあぁぁ、レジーナ…、もういい加減に……」
 胸のこそばゆさに、トワが吐息を震わせる。
 かつてトワを笑顔にさせるため、天ノ川きららがハグしながら体をくすぐってきたコトがあった
が、あの声を上げて笑ってしまうような明るいこそばゆさとは違う。
 白い肌の下を、甘く犯されるようなこそばゆさ。
 レジーナの手つきには、どこかいかがわしいものを感じてしまう。

「あ〜〜、トワワンの胸、きもちいい…」
「ト…トワっちです…」
「フフっ、強情なんだから」
 左右の手の平に広がる、やわらかな乳房の肉感。まだうら若い乙女のふくらみは成熟前だと
いうのに、いつまでも触っていたくなるような心地良さでレジーナの手を酔わせていく。
(……ハッ、いけない。あたしのほうがウットリしてどうすんのよ!)
 レジーナは胸の内で、ふむ…、とうなずいて、手の平を乳房から浮かせた。ただ両手共に、
五本の指先だけは乳房に残しておく。かろうじてギリギリ触れている程度の接触だ。そして、そ
の状態でトワの乳房を、ス〜…ス〜…と優しく撫でまわしてやる。
「う…く…ああっ、レジーナ、駄目っ…くすぐった……あ゛っ、駄目ですっ、あぁぁぁ……」
 トワの裸身が、びくんっ、となり、湯の表面にさざ波を立てる。
 乳房の表面を無軌道になぞるため、ときおり、五本の指先いずれかが敏感な乳頭をかする。
それがトワにはたまらなかった。
「だ…駄目です、レジーナ、これ以上は……」
「ん〜? トワワンはやっぱりここが気持ちいい? つまんじゃおっか、ほらぁ」
「あぁんッ、いけませんっ、駄目……あっ、うぅ」
 レジーナの手から逃れようと上半身をよじるが、そんなトワを面白がっているらしく、ツンとこ
わばってきた乳首がいじわるく愛撫される。
 優しくつままれたまま、スリスリと転がされるみたいにしごかれて……。
 今度は、かろうじて乳房の先端に届くぐらいの距離から、爪の先でコチョコチョと……。

 こそばゆく責められる胸先に湧き上がる感覚 ――― トワは、まだそれの名前を知らない。

「ああっっ……あッ!」
「あ、今、トワワンの背中がビクンッてなった」
 トワの背中に押しつけた柔らかな肌に、彼女のカラダの反応が正直に伝わってきた。
 調子に乗ったレジーナが、さらにこまやかに指を動かして、なめらかな乳突起をさらにくすぐり
上げてやる。
「あっ…ああああっ、駄目っ、そんな…ああああっっ!」
 トワの両目の端に、うっすらと涙がにじみ始めた。
 自分のカラダの上で、他人の手が好き勝手に振る舞っている。……屈辱なのに、全身によく
分からない熱を帯びてしまう。
「フフ〜ン♪ またトワワンの背中びくびくしてる〜〜」
「…し、してませんっ」
「強がっちゃう子には、お仕置きなんだから♪」
「ま…待ってくださいっ、駄目ですっ、レジーナっ」
 こんなにも感じやすくなっている乳房の先っぽをこれ以上いじくりまわされたら……。
 ――― ゾクッ。
 言葉に出来ない不思議な痺れのようなものが、カラダのどこかで疼いた時だった。

「も…もうっ! やめなさいよっ、さっきからトワが何度も駄目って言ってるじゃない!」
 と、ひめから強い非難の声が上がった。
 レジーナの自分勝手なスキンシップで困っているトワを助けてやりたい ――― ひめの瞳は、
そんな真っ直ぐな気持ちに溢れていた。
 あ、居たんだ ――― という程度の視線を返してきたレジーナを、ぐっと睨みつける。
 それに対してレジーナは、やれやれ…という表情で、あからさまに溜め息をついてみせる。
「まったくぅ…。ひめってばお子様なんだから」
「何よっ! 胸だったらレジーナだって似たようなものじゃない!」
「胸の話じゃないわよ」
 と、軽く鼻白んだレジーナが、隙を突いてカラダを引き離そうとしたトワを後ろからギュッと抱
きすくめる。そして、やや得意げにレクチャーする。
「いい? ひめ、この場合の女の子の『駄目』はね、気持ちいいっていう意味なんだよ」
「変なデタラメ言わないの!」
 即座にひめが嘘と断じる。強制的に抱きしめられているトワも、その通りと言わんばかりにう
なずいている。
 レジーナの瞳に、ムッとした光が浮かんだ。
「ウソじゃないわよ。本当に ――― 」
 言葉が ――― 止まった。
 胸の奥。ズキズキとする。

 マナが六花の家で勉強してくると言うのを、ベッドで漫画を読みながら見送った夜。
 漫画を読み終えてもまだ帰ってこなかったので、空を飛んで直接菱川家の二階、すわなち六
花の部屋へ様子を覗きに行った。窓にはカーテンが掛かっていたが、その隙間から部屋の中
を見ることが出来た。

「どうかしたの、レジーナ?」
 自分では一瞬に感じたけれど、実際は十秒近く経っていた。急に黙り込んだレジーナへ、訝
しげな視線を向けてくるひめ。青い瞳から切なさを払って、彼女に微笑みかける。
「…うん、ウソじゃないよ。ひめが本当に好きな人と一緒になれたら、きっと分かる時がくるっ
て」
 透明な笑み。
 優しくて落ち着いた声。
 痛いけれど ――― 違う、自分が痛いからこそ ――― 誰かの幸せを祈りたい気持ちにな
る。
 ひめが、ポカンとした顔でこちらを見ている。その顔が面白くて、「アハハッ」を声に出して笑っ
てしまう。
「あーあ、もうマナ捜しに行くのやーめた」
 そう言って、トワのカラダから両腕を解く。……解放されたトワは、完全に意表を突かれた表
情。
「……捜しに行かなくていいの?」と訊いてきたひめに、レジーナは「いーのいーの」と右手の甲
をヒラヒラと振りながら答えた。
「その代わり、明日の朝、六花の目の前でマナにいーっぱい甘えてやるんだから」
 ひめはモヤモヤした気持ちを胸に抱えだした。
 心配する必要はなさそうだが ――― それでもレジーナが無理して余裕ぶっているように思
えるのだ。どうしていいか分からず、トワと視線を交わす。
 トワとしては、レジーナがおとなしくしてくれたほうがありがたいはずなのに……今はひめと同
じで少しもどかしい気分。
(ハァ…、調子が狂ってしまいますわ)
 きららなら、こんな時…きっと。
 トワが両手の指を絡めてカタチを作った。そして、両手の平に加えた瞬発的な圧力で思いき
りよく湯を飛ばす。彼女の手から発射された湯が、見事にレジーナの顔を直撃した。
「わっ、なによっ!」
 唐突の悪戯に柳眉を逆立てるレジーナ。
 だが、トワは笑顔をひめのほうへ向けて、
「見ましたか、ひめ。今のはお風呂できららが教えてくれた『ニンジュツ』という、この国古来の
必殺技ですのよ!」
 と、はしゃいでみせる。