nameless Flower 04


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 秋に入っても、夏の暑さは去ろうとしなかった。
 時刻は午後8時前。気温も少しは下がり、昼間に比べるとずいぶん過ごしやすい。
 つぼみはパジャマ姿になっていたが、寝る気配など微塵もない。
 メガネのレンズ越しに覗く瞳は、夜露に濡れたみたいにしっとりとしている。
 長い髪を邪魔にならないよう一本結びにして、あらかじめ用意してあった宿題道具を持ち、玄
関へと向かった。隣の家へお邪魔するための<建前>は、完璧だった。
 ふたばは、もうぐっすり寝ている頃だろう。
 両親に一言告げてから家を出ようと思い、まだ明かりのついているリビングを覗く。母親がい
た。つぼみに気付いたのか、二人の視線がメガネのレンズを通してバッタリ出逢う。
 つぼみが何か言うよりも早く、母がやわらかな声を洩らした。
「あら…」
 教科書やノートを抱きしめた娘の姿を見て、事情は察してくれたらしい。
「そう…、えりかちゃんと一緒に宿題するのね」
 母のメガネが、部屋の照明を硬質に反射する。浮かべている笑みは、ニッコリではなくニンマ
リだった。ビクッ、とつぼみが後ずさりした。
「い、…行ってきます」
 それだけ答えて、逃げ出すみたいにその場を後にした。

 久々の……、ふたばが生まれてからは初めてとなるお泊まりだった。
 来海家の玄関でつぼみを出迎えてくれたのは、予想外の人物。
 今宵、空にかかるは上弦の月。そこから玲瓏と降る光にも似て ―――― 。
 白皙の美貌へ、知性的な雰囲気を添えるメガネ。そのレンズの奥から、大人びた静かな眼
差しが覗く。
「あら…」
 先ほどの母の反応と同じ。猛烈な既視感。
「そう…、えりかと一緒に宿題するのね」
 顔にかかる長い髪をサラ…とかき上げながら、穏やかな微笑を口元に刻んだ。
 つぼみは、月影ゆりに「こんばんは」と挨拶することも忘れ、しばらく玄関で硬直し続けた。

 寝室では、えりかが困り果てた表情でベッドの上にあぐらをかいて座っていた。
「いやー、ウチの中でゆりさんの姿見かけた時にゃ、あたしもマジびびったよ。もも姉も事前に
一言(ひとこと)言っといてくれたらいいのにさ〜〜」
「えりかもですよ。今夜ゆりさんが泊まるって分かった時点で、どうして教えてくれなかったんで
すか?」
「そんな事したら、つぼみ、来てくれなくなっちゃうじゃん?」
 隣に腰掛けてきたつぼみへ、上体をもたれかけさせる。彼女の細い肩にほっぺたを押しつけ
てスリスリ動かす。なんだか子猫っぽい。
「ふたばちゃんが生まれてから、ずっとご無沙汰なんだよ、あたしたち。海より広いあたしの心
も、とっくにガマンの限界超えてるよぉ」
「まさか、ゆりさんがいるのにするつもりですか!?」
「うん。やるっしゅ」
「………………」
 世も終わりといった風情(ふぜい)で、つぼみが黙って天井を仰いだ。
 全くやる気なさげなつぼみの態度に、えりかがムッとした表情になって顔を上げた。
「つぼみったら全っ然っ、気合入ってない!」
「私たちのしているコトがゆりさんにバレたらどうするんですか? 壁をぶち破ってフォルテッシ
モが飛んできてもおかしくありませよ」
「ゆりさんこそ、今頃もも姉にフォルテッシモきめられてるんじゃないの」
「そ、そうなんですか?」
「さあ、ね」
 ぴょこっ、と小さな体躯をかわいらしく跳ねさせ、ベッドから下りる。そして、座っているつぼみ
の正面に両ひざを揃えてひざまずいた。
「いいよ。つぼみがその気にならないんだったら、あたしがその気にさせてあげる」
 うやうやしいとも言える手付きで、恋人のほっそりとした右足を持ち上げる。
 大きな瞳は、悦びの色に湿り始めていた。
 上から見つめ返すつぼみも、久しく忘れていた官能の震えを背筋に走らせた。
 
 ウェーブのかかった髪を小さく揺らして、まずは右足の親指に口をつける。
「あっ…」
 たったそれだけで、つぼみの全身が小さくわなないた。
 やわらかな唇の感触と、あたたかな吐息。桜色の爪に濡れた舌先が這う。えりかの舌が動く
たび、右ひざがピクンッ…ピクンッ…と跳ねようとする。
(こんなの……ゆりさんがいるのに……私……)
 ねっとりとした舌の運びで、足の親指を丁寧に舐めしゃぶってくる。こういう奉仕的なプレイを
する時のえりかは、つぼみをまるでお姫様のように扱う。
「いつまで……親指を舐めてるんですか?」
 落ち着いてはいるが、昂ぶりを隠し切れていないつぼみの口調。
 えりかの口が親指を放して、その隣の人差し指へ唇をつける。侍女のごとく従順さを示しなが
ら、小さな指を一生懸命に舐め洗う。
「えりか」
 物柔らかな声で呼びかけられ、次の指の奉仕に移る。幼い子をあやす母の手みたいな優し
さで舐め、垂れそうになった唾液を丁寧に舌でぬぐう。つぼみへの愛しさに溢れる舌使い。
 感じている ――― つぼみの呼吸も次第に熱を帯びてきた。
 頬を上気させ、メガネのレンズを通して、興奮した眼差しをえりかへぶつける。
「ゆりさんがいるのに……こんな…イヤラシイことをして……イケナイ子です、えりかは」
 ふつふつと、心の中が沸く。
 小柄で愛くるしい、小学校高学年といっても通用しそうな外見の少女に、足の指を舐めさせて
悦んでいる ――― 本当にイケナイ子なのは自分のほう。
(でも、こんな私にしたのは、えりか……あなたなんですよ)
 順々に、右足の指すべてを舐め終えたえりかがこちらを見上げてきた。何かを期待している
眼差しに、ブルブル…ッと自分の身体が震えてしまうのを感じた。
 骨の内側を痺れさせる歓喜。
 これ以上は駄目だと思いつつも、もっとこのヨロコビに溺れたいという気持ちを止められな
い。
「私の足を下ろしてください」
 えりかの両手が、壊れ物を扱うみたいに優しく、つぼみの右足を床に下ろす。
 二人の視線は、お互いを固く見つめ続けている。
「パジャマと下着を……全部脱ぎなさい」
 脱いでください ――― ではなく、脱ぎなさい。穏やかに口にしたが、それは命令だ。
 えりかは被虐的に反応した。

 ゾクッ…、ゾクゾクゾク ―――――――― 。

 つぼみの前にひざまずいたまま、官能の悦びを腰の奥深くから溢れさせた。このままだと下着
が湿ってしまう。
「ゆ、ゆりさんがいるこの家で、あたしに全裸になれって言うの?」
 それ、たまんないよぉ、つぼみ。
 両方の瞳を興奮で潤ませ、とろけかけた笑みを顔に浮かべる。
 つぼみも同じくらいレンズの奥の瞳を潤ませて、再度命令する。
「そうです。今からは私がいいと言うまで、パンツ一枚身に着けていることは許しません。こ、こ
れは、命令ですっ」
「し…仕方ないよねぇ、つぼみの命令じゃ……」
 ふらふらと立ち上がり、思いきってパジャマに手を書けた。
 羞恥の念と淫らな興奮によって、えりかの全身が『カァ〜ッ』とほてり始める。

 白々とした部屋の照明の下、うら若い肌がさらけ出された。
 えりかの体躯は、胸や腰の辺りに第二次性徴の証(あかし)がほんのりと現れているものの、
手足は人形のように華奢で、痩せっぽちな体型。しかも両眼がクリクリと大きめな童顔。
 年端もいかない子供を裸に剥いたみたいな気分 ――― 今はそれが嗜虐的な方向に働い
た。
「恥ずかしいですね?」
 つぼみの問いに、えりかが照れ隠しの緩い笑みを浮かべてみせた。隠すなという命令は出て
いないが、場の空気を読んで、胸のふくらみや局部は晒したままの状態だ。
 本当は今すぐにでもつぼみの視線から裸身を隠したいのだろう。両手がモジモジ…と微妙な
動きを繰り返して落ち着かない。
「な…なんかさぁ、こうやって明るい場所でじっくり見られるのって、なかったよね」
 ハダカ同士での触れ合いと違って、羞恥に耐えているカラダへ視線を突き立てられるのは不
慣れだった。皮膚の下がムズムズしてくる。
「そうだ。どうせなら、もっと過激にいこうよ」
「……?」
 小首をかしげるつぼみに白い背中を向けて、クローゼットをごそごそと漁る。お目当てのモノ
はすぐに見つかったらしく、それを手に戻ってきた。
 左手からダラン…と垂れたブルーのリードは、右手に持っている大型犬サイズの青い首輪へ
と繋がっていた。
「パンク系のチョーカーを勉強してたらさー、原点にまで戻りすぎちゃって……」
「なるほど…」
 本革製のなめらかな首輪もリードも、えりかのハンドメイド。つぼみはごく自然な調子でうなず
いてしまう。でも、すぐに気付いた。えりかの手にしている道具の淫靡な意味に。
「わ…わかりました」
 ぎこちなく首輪を受け取って、細っこい首へと手を伸ばす。嵌(は)めてみると、かなりブカブ
カ。拘束的な意味合いは弱いが、彼女をイジメてみたくなる程度には興奮できる。
「この前、これつけて…オナニーしたら……めっちゃドキドキした……」
「ふふっ、えりかは……変態さんですね」
 リードの端を持って、手加減して引っぱってみる。たゆんでいた紐が軽く張られ、その感触が
微かに首輪へと繋がった。
「あっ…」
 少女の瞳が、切なそうに潤む。リードの端をつぼみのたおやかな手に握られているだけで、
被虐的な悦びが股の間を濡らしていくのが分かる。
「せっかくですから、ドアの前までお散歩しましょう」
「えっ、うそ…」
 さすがにえりかも顔色を変える。
 しかし、
「えりか、命令ですよ」
 優しくこちらを見据えてくるつぼみが口にしたその言葉で逆らえなくなる……。
「つ、つぼみのほうがよっぽど変態さんだよぉ」

 ドアの所にたどり着くまでに、がくがく…と震える両脚は何度も崩れ落ちそうになった。
「はふぅ…」
 ぺたんっ…と上体をくっつけて、えりかが力の抜けた溜息を洩らした。もう限界…。
 恋人の首輪に繋がるリードを握って、後ろからゆっくりとついてきたつぼみは、彼女の様子を
やんわりと微笑しながら眺めて、
「じゃあ、少しだけドアを開けてみましょうか」
 と、さらにとんでもないことを口にする。
 ええーーっと声に出さず、えりかが顔を引き攣らせた。
(いくら命令でもっ……けど、命令だし……つぼみの…命令だから……)
 脳裏に『命令』という単語が響くたび、麻薬めいた妖しい快楽が『とろり…』とこぼれ落ちる。そ
の度に、秘唇がズキズキと淫らにうずくものだから堪(たま)らない。
(あああ……つぼみの命令で辱められるのって、めっちゃイイ!)
 肩越しに振り返って、濡れた瞳でつぼみと見つめ合う。
 緊張と快感が入り混じった表情でコクッ…とうなずき、静かに、慎重にドアノブをひねった。廊
下の気配に注意して、そぉ〜っとコブシ一つ分だけ開けてみる。
(もも姉もゆりさんもいないよね〜〜)
 ほっとした雰囲気になっている少女の背後で、つぼみのメガネが硬く光を跳ね返した。
(甘いですっ、えりか♪)
 足音を忍ばせて、白い裸身にぴったりと寄り添う。右手に持っていたリードを左手に持ち替
え、その空いた右手でえりかの太ももを『ススゥ〜〜っ…』と撫で上げた。
( ―――― ッッ!!)
 廊下に気を取られていたえりかにとっては完全に不意打ち。悲鳴を喉の奥で押し殺して、ドア
を閉めようとするが、それよりも早く小声の命令が飛ぶ。
「……閉めないで! そのままっ!」
 つぼみの声に、カラダが反射的に硬直。マネキンのように動きを止めた彼女の太ももへ五本
の指の這った。さわさわと……太ももの弾力を指先で執拗に舐め味わうみたいに、皮膚の表
面を滑ってくる。
 くすぐったくて、えりかは「…ッッ…ッ…ンッ…」と何度も喉を鳴らした。
(や…や…やばいって、これ! もし部屋からもも姉かゆりさんが出てきたらどーすんのっ、完
璧に見られちゃうじゃんっ、終わりじゃんっ…)
 全裸姿に犬の首輪というマニアックな格好で、太ももをもてあそばれている。こんなものを見
られたら、言い逃れる方法が思いつかない。
 えりかが強張った顔でドアの隙間から廊下を窺う。そのすぐ後ろでは、つぼみが右手を太も
もの内側にすべり込ませて、さらにいやらしい動きでまさぐり始めた。
(ダメッ、そこ弱いっ…)
 ビクッ!と小ぶりな尻がくねらせ、つぼみの手から逃げようとした。だが、「ぱしっ」と軽い音を
立ててリードが引かれ、その優しいとも言える衝撃が首輪に伝わった途端、
「…く…ゴメン……」
 えりかは、まるで鞭を当てられた馬のごとく従順になってしまう。

 快楽の責めに耐える、熱く湿った呼吸音のみが廊下へ漏れ出す。
 背後から太ももの内側をまさぐっていた指は、脚の付け根の辺りまで登ってきている。けれ
ど、そこから先 ――― 指を欲しがっている部分までは決して上がろうとしない。
(そんなトコばっかりいじって……イジワルだよぉ、つぼみ〜〜)
 とにかくイキたくてたまらない。焦れてきた秘所が、一段と熱い潤みを増す。
 待ちきれずに自分から腰を下げて、淫靡な悦びに濡れた秘唇へつぼみの指を誘おうとする。
その瞬間、「ぱしっ」とリードが引かれた。
 えりかが腰の位置を元に戻して、心の中でぼやく。
(ちぇっ。ひどいよ、つぼみったら。あたし、もう腰ガクガクなのにさ……)
 そして、
 にっこりと自然な笑いが表情を彩った。
 いじめられているのに、全身が今までにない興奮で沸き立っている。そんな自分が恥ずかしく
て、それを意識すればするほど、腰に『ジンジン…』と響く快感の痺れが強まるのだ。
(まいったなぁー、あたし……本物の変態だったんだ)
 わずかに開かれたドアの隙間 ――― 廊下のほうへ顔を向けてはいるが、その両目はうっと
りと閉じられ、たとえ目の前を家族が横切っても気付きそうにはなかった。

 白い後ろ姿が、泣くように身悶えする。
 ぴくっ、ぴくっ…と小さく裸体をくねらせたり、びくんっ…と尻肉を跳ねさせたり。
 彼女の反応ひとつひとつが、おとなしい性格のつぼみを昂ぶらせていった。
(えりかったら、私をこんないやらしい気分にさせて……許せませんよね、これは)
 えりかの太ももを解放した右手が、パタン…、と小さな音を鳴らしてドアを閉じた。
「お、終わった〜?」
 荒い息をつきながらグッタリした口調で尋ねてくるえりかに、「いいえ、終わってません」と生真
面目な声で返して、口もとに微笑を走らせた。
「それとも終わりにしたいですか? まだイッてもいないのに」
「えっ、イカせてもらえるの!?」
 えりかの顔にパッと喜色が射す。すかさずつぼみが「それはえりか次第です」と言葉を添え
た。
「私が今のえりか以上に気持ちよくなれたら……許可してあげます」
 そう言って、パジャマのボトムに手をかけた。
 それを脱ぎ終えたあとは、続けて、いつも履いているものよりも、おしゃれを意識したショーツ
を。パジャマの上は脱がないようだ。

 恥毛の淡い黒さに隠された部分以外は、初雪のように白い下半身。綺麗な丸みを帯びた尻
を支える太ももは、えりかよりも少しばかり肉付きが良い。
 えりかと位置を入れ替え ――― 左手に持ったリードは離さないまま ――― 今度は自分が
ドアへぴったりと体の正面をくっつける。そして、右手でツルリと尻を撫で、後ろに待機するえり
かへ肩越しの命令。
「いいですか、今から私のお尻を舐めて気持ち良くしてください。もし気持ち良くなれなかった
ら、その時はお仕置きを考えます」


 彼女の背後で、首輪に繋がれた全裸の少女が静かにひざを着いて、奉仕姿勢を取った。
 真っ白い尻に、えりかの左右の手が添えられて ――― 。
「ひ…あっ」
 触れられただけで、つぼみが思わず声を洩らしてしまう。
 それほどに、少女の尻は感じやすかった。
(…く…くすぐったいです。あぁぁ…ああ……)
 たいして撫でてもいない内から、軟らかな尻肉をピクンッ…ピクンッ…と悶えさせている少女
の様子を後ろから眺め、えりかが天真爛漫な顔立ちを『ぽうっ…』と淫らに上気させる。
「つぼみって、相変わらずお尻が敏感だよねぇ」
 キュートな曲線を描く尻の丸みを ――― その軟らかに蕩けた桃の手ざわりを、まずは優しく
撫でまわして、ゆっくりと味わう。
 慣れた手つきに尻肉を撫で上げられ、つぼみの心が淫らにざわめいた。
「ふぁぁ……えりかの手がぁ……」
「まだまだこれからだからね、つぼみ」
「あ…、当たり前です。もっと気持ち良くしてくれないと、お仕置きですからねっ」
 口調こそ高圧的だが、声質はあどけなく、しかもその響きは今にもとろけ落ちそうだ。
『ちゅっ』
 臀部(でんぶ)の肉に吸いつく、甘いキスの音。
「ふあ…っ」
 つぼみが口から、溶けた声が洩れた。
「あぁんっ…くすぐった…い…」
 もじっ…と、右ひざを軽く曲げて綺麗な脚が悶える。
 ひざ立ちのえりかが、焦らすような間隔を置いて、『ちゅっ…ちゅっ…』と甘い音を鳴らすキス
を繰り返した。
「ンッ、……はぁあっ…あっ……んっ!」
「つぼみ……大きな声上げたら、ドアの外に聞こえちゃうからね?」
「わかって…ます、気をつけてます……から。もっと、続けて……」
 つぼみが青いリードを握る左手にぎゅっと力を込め、気丈に振る舞ってみせる。彼女のそん
な所が可愛いかも……などと思いながら、尻の丸みに唇を沿わせて上下に往復させる。
(んん〜〜〜〜、つぼみのお尻ってやわらかいよね〜〜〜〜)
 小ぶりな尻だが、肉感を愉しむには充分だ。何より、水餅に唇をくっつけたみたいな軟らかさ
がキモチイイ。しつこいほど尻の上で唇をすべらせて、その感触を丹念に味わう。
「そんな…こと……、されたら、くすぐった…くて……ガマンが……」
 とぎれとぎれの訴え。
 つぼみが切なげに顔を歪ませ、たまらず腰をくねらせた。秘所の奥がどんどん火照ってきて
いるのを仄(ほの)めかす、悩ましげな身悶え。
「んー? つぼみったら、もう降参なのかな〜?」
 唇を離して、つぼみの腰まで垂れている一本結びにされた長い髪の先をつまむ。そして、そ
れを筆みたいに扱って、コショコショ…と尻の表面をくすぐってやる。
「……ッッ!」
 不意打ちのくすぐったさ。つぼみが泣きそうな顔で喘いだ。
「ああッ…、えりかっ、何をっ!」
「そんなおっきい声出したら外に聞こえちゃうって」
「大きな声を出させたのはえりかですっ」
 言っても無駄だった。
 えりかは面白いオモチャを見つけたみたいに、くすぐる手をとめない。髪の筆を添わす位置
やら角度やらを微妙に変えつつ、今度はこそばゆさで尻をいじめ抜こうとする。
「くらえ、連続・髪の毛パンチ」
「だ…だめですっ、えりか…それ以上……ひゃうぅ!」
 両ひざの裏がピンと伸びて、両方のかかとがビクッ!と同時に浮いた。くすぐったすぎて、下
半身に電気を流されたみたいな反応。
(ここは毅然とした態度を示してやめさせないと ――― ふあああああっっ!!?)
 大きく開いた口が、声に鳴らない悲鳴を上げた。
 髪先がコショコショコショ…とこまやかに動きながら、尻たぶの割れ目に潜りこもうとしてき
た。これは今までで一番くすぐったい。
「うううっ……」
 唇をクッ…と噛んでこらえる。
 このむずがゆいような快感に、心がずるずると堕ちていきそうだった。それでもギリギリの崖
っぷちで踏みとどまるのに成功。
「やめてくださいっ……命令ですっ、えりか」
 左手のリードを少しきつめに引く。「ちぇー…」と渋々手を引っこめる首輪付き少女。その代わ
りに、右腕をギュッと右側の太ももに絡みつかせてきた。
 二つのカラダの距離が、ほぼ密着と言っていい距離まで近まる。

「……舐めていいかな?」
「ま……待ってください」
 つぼみの右手がパジャマの裾(すそ)を掴んで、ガバッと乱暴に大きくまくり上げた。まず白い
腹部が露わになり、さらにはAAA(トリプルAカップ)のブラジャーまでもが曝(さら)け出される。
 もどかしげにそれもずり上げ、小さなふくらみ ――― ほぼペッタンコだった昔よりも幾分成
長した微乳をこぼす。
(んっ……)
 両胸の先端をドアにくっつけた。ひんやりした感触に、敏感な突起がさらにツン…とこわばっ
てしまうのが分かる。
 何も言わずとも準備ができたことを察してくれて、
「ンンン〜〜〜っ♪」
 えりかの口が尻肉にむしゃぶりついてきた。熱い息をこぼす唇を押しつけ、濡れた舌で好き
放題に小ぶりな桃尻を蹂躙(じゅうりん)してゆく。
 まるで、ソフトクリームを早く舐めて溶かす競争でもしているみたいに ――― 軟らかな尻肉
をなぶる乱暴な舌の動きが止まらない。
 唾液の跳ねる、ねばついた水音が時折響いてくる。
(私の…お尻が……えりかの舌でめちゃくちゃに……)
 感じやすい場所を猛烈に舐めまわされて、つぼみが全身を熱くする。
「んん゛……くぅっ…、はぁぁぁっ……ああっ……」
 身じろぎするたびに、二つの乳頭がドアの表面でこすれる。じん…じん…と胸先から甘くうず
いてくる快感に、どうしても声が洩れてしまう。
 たっぷりと舐めまわされた尻は、唾液まみれで卑猥な色気に匂い立っていた。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ……」
 興奮が昂ぶったせいで荒くなった呼吸。
 汗ばんできた上半身を動かして、硬くなった乳首をドアに何度もすりつける。小さな乳房の先
端が甘美に痺れて……声を抑えきれない。
「はぁっ…あっ、あっ……やっ…アアッ…あっ…うぅっ…」
 この声がドアの向こう側にこぼれてしまっていると思うと、羞恥心が異様に高まってきて、
(あっ……!)
 閉じられたまぶたの下から涙があふれてきて、メガネのレンズを濡らしてしまう。
(駄目です。こんな淫らな事をして悦んじゃうなんて……もう私は完全に駄目です)

 ぱたっ、とつぼみの左手からリードが落ちた。
「えりか…、ひくっ」
 嗚咽のまじった声に、尻の肉付きをむさぼっていたえりかが顔を上げた。
「どうしたの、つぼみ?」
「こんな私を……………………罰してください」
「へっ?」
「えりかの手で、私をお仕置きしてくださいっ」
「はああああ!?」