いつかのロミオとジュリエット 03
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「もーっ、響が押し倒したりなんかするから」
バスネットを手に持ち、湯船に浮かぶ花びらを掃除している奏がぼやく。その後ろでは、彼女
の髪にベチャッと張りついてしまった薔薇の花びらを、響が一枚ずつ摘み取っていた。
「入ってる時はいいんだけどねー。これ、あとかたづけが地味に大変」
「それでも、ちゃんとやっとかないと。花びらが排水溝に詰まったら大変だもん」
響が「ふーん」と軽くうなずきながら、濡れた髪をいじる指を休めて、真っ白な肩のラインを視
線でなぞる。ほっそりと綺麗で、おいしそうだ。心の中でそう思っていただけなのに、なぜか奏
に気付かれてしまう。
「ハァ…、さっそくつまみ食いしようとしてる。響ったらぁ」
呆れたような溜め息に続く声は、いつもよりも柔らかくて、甘ったるい。響は思わず無防備な
背中に右手を伸ばしかけて、触れる寸前でとどまる。
花びらを掃除していた奏の動きも止まった。まるで、つまみ食いされるのを待っているかのよ
うに。
「…………」
響が無言で、ゆっくりと奏の肩甲骨に手の平を這わせ、慈しむように脇(わき)の間へと滑ら
せる。一瞬、こそばゆそうにビクッと背を揺らした奏だが、自分から腕を持ち上げて、響の手を
通した。
奏の『カップケーキ』のふもとに指先が届いた。
その途端、彼女の背中全体が大きく震え ――― 響が慌てて手を引っ込める。
「ごめんね、響。わたし、何だかお腹の下がキュウってなっちゃって……」
声音は穏やかだが、ややうつむき加減の表情には、うっすらと赤みが差していた。
「すぐに掃除終わらせるから、響は部屋で待ってて」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
心が揺れる。
響の部屋が近づくにつれ、足腰から力が抜けていくような感覚に囚われてゆく。ドアの前に立
った時には、ひざがガクガクと笑ってしまい、その場にへたり込んでしまいそうになった。
(なんて格好してんのよ、わたし)
うら若い乙女の肢体をかろうじて隠すのは、たった一枚のバスタオル。
やっぱりやめておこう ――― そう思い直し、ドアノブへと伸ばした手を戻した。胸前のバスタ
オルとの閉じ目を左手でぎゅっと不安そうにつかみ、足早に脱衣所へ引き返そうとする。
……なのに、すぐに足がピタリと止まってしまう。
どうせならと思って決めてきた覚悟と、恥ずかしくて逃げ出したいという気持ち。どちらも煮え
切らないまま、奏は足もとに視線を落とす。
「どうしたの、奏? そんなカッコで」
えっ ――― ?
奏の表情が一瞬で固まった。
視線を上げると、ルームウェア姿の響が、ゼリー飲料のパックを手にこちらへとやって来るの
が見えた。奏と目が合うと、普段を変わらぬ顔でストローをくわえ、『ちゅーっ』とゼリーを吸う。
(ななななんで部屋にいないのよっ!?)
てっきり部屋の中で筋トレでもしながら待っているのかと思っていたら、廊下で予想外の遭
遇。しかも今の奏は、身にバスタオル一枚を纏ったきりだ。下着も何もつけていない。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
奏の顔が、火を噴いたみたいに真っ赤に染まる。この格好をごまかそうとうまい言い訳を考
えようとしたが、あせりまくっているせいで言葉が何も浮かんでこず……。
そんな彼女の元へ、響がスリッパをぺたぺた鳴らして近づき、自分の口に含んでいたストロ
ーを、ぐいっ、と奏の口に押し込んだ。
「む゛っ…!」
目を白黒させつつも、『ちゅうう〜〜っっ』と残っていたゼリーを一気に飲み干してしまう奏。
ストローを離した彼女の口が一息つくのを待ってから、響が真剣な表情(かお)で切り出した。
「わたし、奏となら…できるから。しよう」
「し…しようって何をする気なのっ!?」
びくっ、と一歩後ずさる奏を見て、響が情けなくうろたえた。
「ゴ…ゴメンっ、そんな格好してるから。……違うんだ?」
「……違わないけど」
と、おそるおそる言葉を返す奏。
二人の間に、微妙な沈黙が流れ ――― 奏のほうから、それを破った。
「だいたい、なんで響がそーゆー知識持ってるのよ?」
「いや…まあ……うん…」
ジーッ、と視線を突き立ててくる奏から目をそらして、言葉を濁す響。悪い事をして、母親の前
に立たされた子供みたいな気分だった。
「アクション映画のDVD借りてきて観てたら……その、途中のシーンで……ビックリしたけど」
「み、見たんだ?」
「早送りで…。いやいや、奏が思ってるほど、わたし、じっくりと見てないからね」
赤い顔で答える響が、身を乗り出すような姿勢になってきた奏から少し距離を取る。だが、そ
のまま後退して逃げ出すわけにもいかない。
内容について詳しく尋ねてこようとする奏をさえぎって、もう一度彼女の気持ちを確認する。
「奏、わたしと、する…よね?」
「する…けど……。響は、本当にいいの?」
「ウン。だって、ここで逃げたら ――― 」
「 ――― 女がすたる?」
「ううん。奏が傷つく」
あっ……。
奏が言葉を呑みこんで、響の瞳をまっすぐ見つめた。
その数秒後、ふふっ…と微笑みで顔を緩ませて、静かに二人の距離を縮めた。
ぴったり身体をくっつけても、響は逃げない。
奏の両肩を、頼もしい乙女の両手が、ぎゅっ、と優しい力強さで抱いてくれる。
「わたし、傷ついたりなんて……しないよ。響ったら心配しすぎ」
本当は拒絶されていたら ――― それによって響への想いが変わるという事はないけれど、
それでも奏の繊細な心は、二度と自分から響を求められなくなっていたかもしれない。
安心したら、余計に足が震えてきた。
「わっ、ちょっとだけ待って、もう少しだけこのまま…このまま……」
「だいじょうぶ?」
こくんっ、とうなずいた奏が、響の首もとに顔をうずめた。
(だめ、ちょっとでも動いたら涙出ちゃいそう。……でも、しあわせ)
微かに皮膚に触れさせた状態で唇を動かした。
「あのね、響にはカップケーキ以外も……いろんな所を食べてほしい」
響が、ゾクリ…と身震いしたのは、奏の唇がくすぐったかったからだろうか。
……それとも、言葉の内容をはっきりと理解したからか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ベッドまでは響に抱きかかえられて運んでもらった。いわゆるお姫様抱っこ。響の顔が近い。
奏は気付かれないよう、胸をドキドキさせながら見つめる。
(やだ、響の顔なんて……見慣れてるのに)
響は母親に似て、顔立ちがややシャープで、今のように黙ってキリッと表情を引き締めている
と、非常に女性好みの貌(カオ)になる。つまり格好良いのだ。思春期の少女が心を沸き立た
せてしまう程に。
(ま、ガチガチに緊張しまくって、いつもの響らしくない顔になっちゃってるだけなんだけど)
これから幼なじみを相手に初めてを迎える響の心境が、手に取るようにわかる。
内心、苦笑してしまう奏。
それでも、響の顔から視線が離せない。
胸の高鳴りが苦しくなってきて、たまらない。
ベッドの上にそっと下ろされても、奏はどこか夢見心地だった。カーテンが閉じられる音に、よ
うやく反応してバスタオルを巻いた胸元に手をやった。
チラリと響のほうへ視線をやると、彼女もチラッとこちらを気にしつつ、ルームウェアを脱いで
いるところだった。すごく嬉しいのに、なんだかメチャクチャ逃げ出したい気分。
「ちょっと待って、響」
「ん?」
「ヒモ持ってくる」
「…へっ?」
上下共に下着だけの姿になったところで、響は両手を後ろ手に縛られてしまった。
この拘束は、奏にとって保険のようなもの。響を信用していない訳ではないが、かよわい乙女
が無策でライオンと一緒の檻に入るのは、あまりにも命知らずだ。
ライオン扱いされている響が、むうっ…と軽く眉根を寄せた。
縛られている間は別に問題なかったが、いざ動きを制限されてしまうと、一抹の不安が胸を
かすめた。ベッドの上へ奏が乗ってきた途端、座ったままの姿勢で尻と足を動かして、ズリズリ
後退。
「なんで逃げるのよ」
「だって、わたし、こんな状態だし……、でも、変な事しないよね、奏?」
「す・る・の! 今から二人でっ、変な事をっ」
「うっ」
両ひざをピッタリ閉じた脚を盾にして、カラダの正面をガード。だが、それに対し、奏は顔を赤
くしながら両目をつむり、「…………」と黙ってバスタオルの胸元を解除。
お風呂の時は全然平気だったのに。
場所が変わっただけで、響に見られるのがすごく恥ずかしい。
バスタオルが肌を滑り落ち、上半身を露わにした。
「脚開いてくれたら、響の好きなだけ食べさせてあげる」
白くこぼれた発育途中の双乳。
サイズ自体はまだ小ぶりとはいえ、奏の体躯がほっそりしているため、それほど小さくは見え
ない。食べ応えは充分にありそうだと、響の目に映った。
奏がバスタオルをパレオみたいに腰に巻きつけている間に、響の両脚がおずおずと左右に
開かれた。
「だめ、響、もっと」
「あっ…」
恥じらいを表情に乗せて、響がさらにゆっくりと両脚を広げた。ショーツだけの下半身が、非
常に心もとない。
「いいよ、響」
するり…、と奏のカラダが両脚の間から侵入。ぐっと近づけられた乳房に、響の顔が軽く仰け
反る。やわらかな魅惑の感触を想像して、ツバを飲んだ。
(奏がイイって言ってるから……いいよね?)
若々しい張りに支えられた綺麗な丸み。
白い乳肉の先端は、淡く色付いた乳輪に囲まれた、なめらかな突起。すでに固くこわばって
いるのが見ただけで分かる。
「ねえ…」と、奏の両手が優しく響の後頭部に回って、自分のほうへ引き寄せた。
響の唇が右の胸先に触れ ――― 「ちゅうっ」と音を立てて吸いついてきた。
ぞくっ…。
奏のカラダが小さく身震いした。
胸先から伝わってくる甘やかなこそばゆさ。響の唇が「チュッ、チュッ」と何度も吸ってくる。そ
の度に、奏の腰から背中にかけて、官能的な感覚が駆け上がってくる。
「…ンッ」
喉までせり上がってきた声を、奏が呑み込む。無意識の内に、右手の指が気持ち良さそうに
響の髪を梳(す)いている。
優しく乳首を吸いしゃぶっていた唇が離れ、響の顔が左側の胸へと移動した。はむっ、と乳
房を横からくわえ、歯を当てずに唇だけでフニフニと咀嚼してきた。
(やだっ、く…くすぐったいっ!)
カラダの奥深くを、ゾクゾクッ…という痺れが貫いてくる。奏が悩ましげに『ぶるっ…』と小さく
身をよじらせ、たまらず愛しい相手の名前を声に出して喘いでしまう。
「あンっ、くすぐったいよ響ぃっ…」
それは、響が初めて耳にする、幼なじみの濡れた声。
喜んでいる声、楽しんでいる声、怒っている声……。奏の色んな声を、誰よりもたくさん聞い
てきた。だが、その全てよりも ――― さっきの声は、今まで聞いた中で一番『可愛い』と感じ
た。
乳房の丸みに沿う唇が、そのきれいな稜線を愛でるように、スー…スー…っと往復。時折、ふ
くらみを滑る唇が急にクルクル…と小さな円を描いて、奏をくすぐったがらせる。
「……ンッ……ん、んっ……」
意図的なくすぐりに対して、必死で声と身じろぎを抑えようとする奏。しかし、そんな彼女の反
応も響には『可愛い』と思えた。
(奏ってば、わたしに声聞かれるのが恥ずかしいんだ。……でも、聞く)
響の唇がいったん乳房から離れ、「ちゅぶっ…!」とややキツく乳首へしゃぶりついた。途
端、奏が乳房の先に甘い電流を流されたみたいに『びくんっ!』と白い上半身を跳ねさせた。
「あっ…!」
しっかりと閉じていた奏の唇が、我慢しきれず、喘ぎ声によって割られてしまう。
響の唇が「ぢゅぢゅ…」という湿った音を立てる。乳首だけでなく、軟らかな乳輪までも引っぱ
るように吸って、深く唇にくわえ込む。
奏のつややかな唇が震えて、熱くなってきた吐息をこぼす。
(やだ、また声……出ちゃいそう……)
胸の先っぽを含んだ唇は、ゆっくりと先端へと抜けていき、やがて乳頭で引っかかったみた
いに止まる。…が、すぐに「ちゅぽっ」とすっぽ抜ける。
「ンンッ…、だめっ、響っ…!」
乳房の先が甘い疼きを覚えると同時に、こらえていた声と反応がこぼれてしまった。官能的
な痺れが走った背中が、ビクッ、と跳ねて小さく弓反る。
(ふふっ、奏……可愛い)
響が、乳房に唇をグッと押しつけてきた。「ちゅううっ」と強引に乳輪ごと乳首を吸い上げられ
る。
再び引っぱられる感触。そして、また「ちゅぽっ」とすっぽ抜けた。
「あんっ! ……やだぁっ、もおっ」
ほっそりした裸身に、『ぶるっ…ぶるっ…』と立て続けに震えが走った。
響の後頭部を抱いていた両手が、彼女の両肩へと降りた。そうしないと、自分の姿勢が支え
きれない。
14歳の少女の乳房が、何度も吸われて、その度に柔らかく揺らされる。
ちょっとでも奏が声を抑えようとする気配をみせると、お仕置きするみたいに吸い方が乱暴に
なるので、余計に恥ずかしい声が出てしまう。
「ひっ…あはぁっ、駄目…そんな風に……あっ、ンッ、駄目だったらぁ…」
左右の乳房の先が交互に『はむっ』とついばまれ、唇の吸引にもてあそばれる。完全にオモ
チャにされてしまって悔しいのに ――― 響の唇で吸われるのが気持ちよくて逆らえない。
「どう? わたしのカップケーキ……美味しい?」
「んっ」
奏の問いに、乳首を吸ったままコクコクとうなずく響。それを見て、羞恥で顔を赤く染めつつ決
心する。小さな深呼吸を挟んで、口を開いた。
「じゃあ、吸うだけじゃなくて…、舌でもたくさん味わって。おねがい」
……言い終えた途端、さらに顔が熱く、そして赤くなった。
今までの人生で一番恥ずかしい。
むっ…と、低くうめいて響が乳首から口を離し、上目遣いで様子をうかがう。
奏は響と視線が合うと、双眸を羞恥の涙で潤ませた顔を「…やだっ、見ないで」とそらしてしま
った。でも、そう言われても……すっごく見たい。この極限まで恥じらった奏の貌(かお)は、た
まらなく『可愛い』のだ。
「奏、ちゃんとこっち向いて」
「もぉ…、何よ……」
「奏の可愛い顔、わたしによく見せて」
響が乞うと、奏はしぶしぶとだが顔を見せてくれた。さっきまで胸の先っぽを吸いまくられて悶
えていた表情の残り香が、悩ましい色気を醸している。あんまりジッと見ていると奏が泣いてし
まいそうだ。……そう思いながらも、なかなか視線を外せない。
「ねえ、響……食べないんだったら、カップケーキしまっちゃうわよ?」
「ふふっ、食べる食べる♪」
響の顔が、奏の胸へと突っ込んだ。「あっ、こらっ」と奏が軽い抗議の声を上げるが無視。乳
房のふくらみに頬を押しつけ、『むにっ』と軟らかな肉の弾力を味わう。
奏が気持ちよくなるような……それでいて、もっと恥ずかしくなるような事をしてやりたい。
響の唇が、まずは右乳房の先 ――― 淡い桜色に囲まれた頂点へ「チュッ…」と優しくキス。
そして、妻となる少女の望み通り、伸ばした舌を『ちろちろっ…』と踊らせて乳首の頭をいたず
らっぽく舐め洗う。
「あッ、ダメッ、くすぐったい……!」
ビクッ…と思わず身をよじらせて逃げてしまった奏だが、彼女の乳房には、響の口が張り付
いたままだ。こそばゆく甘いうずきによって、すっかりコリコリに勃起させられた乳首を、尖らせ
た舌先が『クニクニ』といじりまわしてくる。
「あはぁッ! んん〜〜っ、ダメッ、気持ちいいけど……ダメよっ、響ぃっ!」
響の両肩を掴んで、かろうじて姿勢を支えている奏が、逃れられない快感に息を乱して喘ぎ、
悶える。
現在、家に二人きり ――― 響以外に聞かれる心配がないからか、奏は興奮で昂るままに
嬌声を上げた。その声は響にとって、いとしくなるほど……そして、いじめたくなるほど可愛い。
せわしない舌使いで、敏感な突起を舐め転がす。
――― ねえ、奏、きもちいい?
――― ほらほら、これはどう? きもちいいの?
心の中で問う響に対して、奏は声で答える。
「もうダメ…あぁんっ、本当に……ああっ、響っ、気持ちよすぎるのぉっっ!」
胸の先っぽが激しく舌で愛撫されて、官能的なムズムズ感が狂いそうなほど募っている。バ
スタオルを巻いた腰が、淫らにモジモジと動いていた。
(どうしよう、響にいやらしいコトされて…………ガマンできないよぉ)
奏が下半身のほうへ完全に気を取られていると、不意にカラダをググッと押された。
「…えっ?」
と、遅れて反応した奏が、密着姿勢から身体で押してくる響に抵抗を試みる。……けれど、彼
女を押し返そうとする両腕に全然力が入ってくれない。
「うそっ、やだっ…響っ!」
白くてほっそりしたカラダが、たちまちベッドの上にひっくり返されてしまった。すぐさま起き上
がろうとした所へ、スマートに鍛えられた細身の肢体がのしかかってきた。
「奏っ!」
響が乱暴に唇を奪いにくる。奏は「嫌ぁっ!」と悲鳴じみた声を上げて顔をそむけたが、響の
唇が追ってきて、強引にキスを迫ると ――― 逆に自分から激しく燃え上がった。
(響……好きっ、大好きっ!)
少女たちの唇が熱いキスを交わしながら、その軟らかな感触をむさぼりあう。
伝えたい気持ちがあるけれど、その感情は今は熱すぎて、口に出した途端、言葉が熔けてし
まって相手に届かない。だから直接唇同士を押し付けあって伝えるのだ。
お互いの胸にある気持ち ――― 愛しているという感情を。
甘やかな唇の軟らかさに溺れて、二人のくちづけが徐々に淫らな熱を持ち始めた。
唾液に濡れた唇を吸い合う際に鳴る、湿った音。それを鼓膜で拾うたび、ぴくっ…ぴくんっ…
と少女たちの肌が微かに震える。
「んっ…!」
「……ンンッ」
キスでふさがった口から洩れる、気持ち良さそうな喘ぎ。どちらからともなく上半身を強く密着
させ、柔らかい身体の奥にある体温(ぬくもり)を二人一緒に感じあう。
――― 響っ。
自由な両腕で、ぎゅうっ、と幼なじみのカラダを抱きしめる奏。
後ろ手に両手を縛られた響は、お返しとばかりにブラジャーに覆われた胸で、グッ…グッ…と
奏のカラダを何度もベッドに押し付けた。両手が使えないのが、もどかしくてたまらない。
「ん゛っ…うん゛っ…!」
奏の悶え方が激しくなった。
もどかしい分の気持ちが響のキスに上乗せされて、より強引に奏の唇を求めてきていた。息
苦しさに喘いで半分ほど開かれた唇は、隅々まで執拗なキスでなぶり尽くされてゆく。
(もっと……響っ!)
唇だけのキスでは全然物足りない。
二人の熱い息を交わらせながら、奏が大きく口を開いて舌を伸ばした。彼女にディープキス
などという知識はない。ただ、もっと深く響に愛してもらいたいと思っただけだ。
「んっ」
低くうめいた響が、どうしたらいいのか分からず一瞬迷った。しかし、奏への愛しさに心を全
部委ねて、自分も口を開いて舌を伸ばし、奏の舌と触れ合わせてみる。
びくんっ、と奏のカラダがくすぐったそうに震えた。
舌の先端同士が触れ合った状態で、響が、ちろっ…と舌を動かしてみる。ビックリしたみたい
に奏の舌が引っ込みかけたものの、すぐにまた舌先をくっつけてきた。
「………………」
「………………」
二人の少女が、重ねた舌先の感触を無言で感じあっていた。響がゆっくりと舌を動かすと、
今度は奏のほうも小さく舌を動かして、それに応えてきた。
ちろ…ちろ…ちろっ、ちろっ……。
ぎこちなくて ――― そして、初々しい舌の舐め合い。先端同士だけで遠慮がちに愛撫しあっ
ていた舌は、時間と共に少しずつ舐める範囲を広げていった。
(わたしたち、今、すっごくいやらしいコトをしてるっ)
奏の興奮が舌に伝わったのか、響の舌を舐めるペースがわずかに上がった。くすぐったそう
にする舌の反応を愉しみつつ、唾液でぬめった肉の弾力を、ずっと舐め味わっていたい。
こうやって、響の身体の重みでベッドに押さえつけられながら……。
少女たちのやわ肌が、興奮の汗をうっすらと帯び始める。
くちびるを深く交えているため、声はかなり殺せているが、密着したカラダは、自分の気持ち
よさを正直に相手に伝えてしまう。
奏は、こまやかに動く舌先で色々とイタズラされるのが好き。
響は、ねっとりと舌全体を絡めあう、愛の告白のようなキスに意外と弱い。
キスを続ける二人の少女が、お互いのカラダの反応にじっくりと耳を傾ける。相手が気持ちよ
くなってくれると、すごく嬉しい。もっと気持ちよくしてあげたいと心から思う。
響のカラダがもぞもぞ悶えると、時折、無防備にさらけ出されたままの乳房の先っぽがやわ
らかく擦られて、奏がなまめかしく上半身をくねらせた。
(うっ…んんっ、あんまり動いちゃ駄目、響)
優しいお仕置きとして、奏が響の舌を丁寧に舐めまわす。……その奏の舌が、いきなり強く
吸われた。
「 ―――― ッッ!」
響の背中を抱いていた両腕が、ビクッとなって、彼女の両肩を強く抱きなおす。奏が怯えたみ
たいに身をすくめるのにもかまわず、濡れた音を繰り返して、何度も激しく吸ってきた。
…………ゾクッ…ゾクッ。
抵抗しようとしたはずの気持ちが、急速に妖しい痺れに溶けていくのを感じた。
あまり強引すぎるのは、嫌い。でもまあ、響相手なら許してあげないこともない。だって、それ
は奏を求めすぎて『ガマンできなくなった心の現われ』なのだから。
(フフッ、力ずくの求愛って、子供っぽいよ? 響♪)
心の中で静かに微笑んだ奏だが、そんな余裕もすぐに無くなる。口性交とも言えるキスのせ
いで、少女のカラダは限界が近い。腰を隠すために巻いたバスタオルの下で、大事な部分が
熱くとろけて ――― 愉悦の蜜を漏らしていた。
(ううう……もう、コラッ、響ってばしつこすぎ! んん゛っ、んんーーっ……駄目っ、やだっ、本当
に駄目っ!)
彼女の表情は淫らな興奮の色を刷(は)いて、悩ましげに上気していた。
激しくキスされているのに、なぜか脳裏には、響のほっそりした首筋や肩をチラチラと思い浮
かべてしまう。無性に全身の肌が熱くなってきて、腰の内側がほてる。
もっともっと欲しい。
響のキスが。
響の口に捕らえられた舌が乱暴に吸われ…舐められ……、そのたびに恍惚感が両脚の間
にジワッとあふれてくる。
(響っ、駄目……響っ!)
ぐっ!と両手の指が、響の左右それぞれの肩を強く掴む。そうしていないと、意識がどこか遠
くに流されてしまいそうだった。
奏のただならぬ様子に気付いて、響がキスをやめる。
「……だ、だいじょうぶっ?」
「ウンっ、平気…だからっ、ホントに平気だからっ、……ア゛アァンッ!」
言葉の最後は、雌猫が鳴くような喘ぎに塗りつぶされた。
奏の右ひざが、ぴくんっ、と微かに持ち上がり……がくんっ、とベッドの上を蹴るみたいに滑
る。キスをしていた口は離れているのに、ゾクゾクする感覚が暴走して鎮まってくれない。
「駄目…これ……駄目……ショートしちゃうっ!」
響の背中に思いきり抱きつく。ほぼ同時に奏の柔らかな肢体を『ブルッ! …ブルッ!』と大き
な痙攣が立て続けに襲った。
(やだっ……これ本当にすごいっ……いいっ!!)
大きな波が通りすぎても、ほてった肌の下を、ピクッ…ピクッ…と気持ちいい小さな波が走っ
ている。響が心配して声をかけてくれているが、今は気だるくて、適当に相槌を打つので精一
杯。
(あれ…?)
うっすら開いた両目に映る響の顔が妙にぼやけていて、人差し指の背で目元をぬぐうと予想
以上の濡れた感触。あわてて両方の目元をゴシゴシぬぐう。
(興奮しすぎて、思いっきり涙出てる……)
ようやく響の顔がはっきりと見えるようになった。 ――― が、視線が合うと、今度は急に恥ず
かしくなってしまい、
「わっ、やだっ」
と、あせりながら響にしがみつき、真っ赤になった顔を彼女の肩に『ギュッ』とうずめた。
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