Sugar vs Mustard 02


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 朝、ラブは寝室内のソファーで目を覚ました。主に、ベッドが使えなくなった時の避難寝場所
として用いられている場所だ。
 二つの女体が激しく情事を交わしたベッドの中心は、彼女たちの愛液でぐっしょりと濡れてし
まって、今もまだ湿った染みが残っている。
 あのあと、ソファーに移動して、絶頂の余韻にうずくカラダの火照りが冷めるまでの間、抱き
合いながらキスを繰り返して、熱い吐息に蕩けている唇の感触に酔った。
 ラブの裸体に覆いかぶさるせつなが、こまやかな舐め方で唇をくすぐって、彼女に口を開か
せた。がんばった今夜のご褒美として、そこにたっぷりと唾液を垂らしてやる。
「おいしい? ほら、もっとあげるわ」
 嚥下する喉の動きを感じて、またせつなが唾液を用意した。ラブがねっとりした液体を舌で受
けて、今度はすぐに飲み込まず「ン…」とうめいて、せつなの舌を誘う。
 そこからは二人の舌による共同作業。ラブの口の中で、若い母たちの舌が愛撫しあうように
ピチャピチャと絡められ、唾液が粘っこくなるまでこね回した。
「待って」
 せつなが舌を止め、くちづけしたまま、ラブの舌の上にさらに唾液をこぼした。
「いいわよ、飲みなさい、ラブ」
 言い終えてすぐ、せつなの唇はラブの喉へと移動。白い喉に這わせた唇に、『ごくっ…』と大
量の唾液を飲み下す動きが伝わってくる。「んっ」と、ラブの喉が軽く仰(の)け反った。せつな
の生温かい唾液を飲まされる事で、興奮を覚えたのだ。
(ふふっ、可愛らしい反応)
 ラブの喉に、せつなの舌がチロチロと小さく踊る。
「…あ…ん、もー、いじめないでよぉ」
「いじめてない。ラブを愛してあげているの」
 甘い睦言を交える二人が、再び「ちゅっ」と唇同士をキスで結んだ。そして、重なり合った汗だ
くの裸身をやわらかにくねらせ、快感の残り火を最後まで愉しもうとした。
 ――― もっとも、せつなの鋭敏な耳に、子供部屋で寝ている娘のぐずつく声が届いた途端、
二人の濃密な時間は強制切断された。
 ソファーから戦闘的に跳ね起きたせつながカラダを拭き、簡単に消臭を施し、衣服をきちんと
身につけるまで要した時間は、わずか12秒。
「ごめん、せつな。あたし……立てない」
「じゃあ、もう寝てなさい」
 さっきのセックスで半分腰が抜けているラブは、寝室を出てゆくせつなをソファーに横たわり
ながら見送った。

(うわ、まだ昨日のが残ってる…)
 股間の奥にこびりついた、ディルドで激しく犯された感触。再び欲情が「じわっ」と腰に溢れて
きそうになるのを断ち切って、ラブが立ち上がる。
「昨日は……そこそこハードだったかなぁ?」
 ウーン、と全裸で背伸び。まだ娘と一緒に寝ているせつなが起きてくる前に、美味しい朝食を
作っておこうと気合を入れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ラブの手が優しくボールを転がす。はしゃぎながらボールを追った娘が、両手でキャッチしよ
うとした瞬間、顔面からこけてボールに頭突き。
「ああーっ!」
 ラブが慌てて娘を抱き起こした。ラビリンス製高機能のハンディカメラで、母と娘が遊ぶ姿を
撮影していたせつなも、それを中断して心配そうに我が子の顔を覗き込んだ。
「あ、キョトンとしてる」
 娘は何が起こったのか分かっていないような表情で、つぶらな眼差しをラブとせつなの顔に
結び、特に理由もなく笑顔になった。二人の母にとって、それは世界一可憐な花が眼前で花開
いたような現象であり ――― 。
「かわいいっ! かわいすぎるっ!」
「せつなっ、早く撮って! 撮って!」
「だいじょうぶっ! スペシャル高画質モードで撮影中よ!」
 至近距離から自分を撮影するハンディカメラに興味を示したらしく、娘がラブの腕の中でもぞ
もぞと小さな体を動かし、必死で両手を伸ばしてきた。
「ん、さわりたいの?」
 好奇心は大切だ。そう思ったせつなが「ハイ」と微笑して、カメラを娘の手の届く距離まで優し
く近づけた。楽しそうに声を上げ、娘がペタペタとカメラにタッチしてくる。
「気をつけてね、せつな」
「わかってる。カメラが顔にぶつかったりしないよう、ちゃんと注意してるから」
「そうじゃなくて……ほら、この子、初めて触る物にパンチする癖あるじゃない」
 ラブの言葉が終わるよりも早く、ちっちゃな右コブシが握りしめられて、特別仕様の高価な光
学レンズにジャブを打ち込んでいた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「せつな、一つだけ聞いていい?」
 娘が眠ったのを確認して、寝室へ向かおうとしていた時だった。背後から静かに抱きついて
きたラブが、廊下を歩むせつなの足をとめさせた。
「エスカレートしすぎかな、あたしたちの、ああいうプレイって?」
 ラブの声の裏には、母親としての罪悪感があった。娘の無垢な瞳は、あんなにも自分たちを
綺麗に映してくれているのに……それを裏切って、あさましく、淫らに行われる嗜虐と被虐の
宴。
 せつなが短く黙考した上で、重々しく口を開いた。
「とりあえず、ラブの思いつきに乗せられて、次々と道具を作るのはやめたほうがいいわね。せ
っかく作ったのに、全然使わない物もあるし……」
「たはは…」
「そもそも、ラブが私をいじめたい…って言うから頑張って作ってあげたのに、その道具で、私
がラブをいじめている時点で何かおかしい」
「ま…枕投げるの下手だよねぇ、あたし」
「……それにね、実を言うと、毎回、騙すような真似をして製作機具を借りてくるのって、ちょっ
と後ろめたい気持ちがあったのよ」
 育児という最優先任務の狭間(はざま)に、ラビリンス情報通信整備局管理官の身分とコネを
使った上で、それっぽい理由を申告して、中央科学技術研究開発部から精密作業用のロボッ
トツールを借り受けるのだが、
『さすがせつなさん、育児休暇中でも色々と仕事してるんですねえ』
 と、いつも笑顔で感心してくれる技術士も、まさか、それを用いて高度なSM道具が生み出さ
れているとは思うまい。

「まあ、でも…、ラブとああいうコトをするのは、やめたくない」
 後ろから回されたラブの手に、自分の手の平を重ねた。このまま抱いていてほしい、という穏
やかな意思表示。
「化学反応なのよ。私たちのカラダは、お互いのカラダに反応して、激しく燃え上がる」
 娘への罪悪感は、せつなも心の隅に抱えていた。けれど、桃園ラブという最高の女性に娶ら
れて、この身体の細胞の一つ一つに彼女への歓びが溢れているというのに、
 ――― まだ、あなたとの幸せを終わらせたくないの。
 娘を傷つけないためにも、熔けるように求め合う母親たちの姿は寝室の内側に閉じ込め、外
には絶対に出さない。だから今夜も……。
「ラブ、あの子が眠っている間に…、ねっ」
「ええー、今日もするのー?」
「断れないわよ? 私を『桃園せつな』にした責任は、ちゃんと取りなさい」
 げんなりした顔のラブを従えて、いざ寝室へ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ていっっ!」
 ベッドに置かれた『Sugar vs Mustard』の枕に、勢いよくラブのチョップが叩き込まれた。何事
かとせつなが両目を丸くする。
 ラブがせつなのほうを見て、短く答えた。
「気合入れたの」
 そして、枕にスピンをかけて天井近くまで放り投げる。根拠のない自信に満ちた視線と、あま
り期待してなさそうな眼差しが、枕の軌道を追いかけた。
 ベッドで軽くバウンドした枕は『Sugar』の面を上に ――― 。フンッ、と鼻息を強くしてラブが腕
組み。勝ち誇った目で、チラッとせつなの顔をうかがう。
(なんでそんなに格好つけてるのよ?)
 せつなは苦笑しつつも、「おめでとう」と言葉を添えて、ささやかな拍手をラブに送った。

「じゃあ、こういうコトだから……」
「そうね、ラブ。今夜は思いっきり……お願い」

 自らの身体を抱き、恥らうように頬を染める仕草は、実は我慢できないほどの欲情の疼きを
抑えている動きであり ――― それを目にしたラブの心に、化学反応を引き起こした。
「わかった。もう許してあげないよ、せつな」
 徹底的に愛されたい(いじめられたい)と願うマゾヒストへ、普段よりも何倍も優しく微笑みか
けるサディスト。その瞳の奥に、大切なせつなを快楽で踏みにじりたい…という、残酷で倒錯し
た悦びを見つけた若い母は、しあわせそうに笑みを蕩かせ、
「私を早く…お仕置きして……」
 と、秘所に熱い湿りを帯びさせながら喘いだ。

 ラブの命令で服を脱いでいく。もちろん、下着も。
 すべてを脱ぎ捨て、興奮で熱くなった裸身が解放される。けれど、ラブが持ってきたフェルト
製の手枷と足枷で、すぐに拘束されて自由を失う。
 寝室の天井に備え付けられたフックに、チェーンが取り付けられた。両手を頭上高くに上げさ
せられ、両手首を拘束する手枷の金具とチェーンが繋がれる。これでもう両腕を下ろせない。
 両ひざ立ちの姿勢を取らされたせつなの脚は、ひざの少し上あたりを足枷で拘束されてい
る。二つの足枷は、40cmのスティック(軽金属棒)で繋がれており、これによりスティックの長さ
だけ強制開脚させられ、恥部を大きくさらけ出した奴隷的なポーズになっていた。

 母親として日々を送っているせいもあり、普段は柔和な雰囲気をまとうようになったが、こうや
って裸にしてみれば分かる。まるで野生動物のように美しく、戦闘性を秘めた気高い身体。
 白くやわらかな肌の下に潜むのは、出産後に再開した自己エクササイズにより、しなやかに
研(と)がれた筋肉。あらゆる事態に即応できる反射速度。骨の芯に宿った屈強な意志。
「せつなは身体も心も強いのに、どうしてかなぁ。そんなに、あたしに飼われたい?」
「ええ。ラブになら……、んっ…!」
 背後から伸びてきた手が、乳房の先っぽを指でまさぐる。バストのふくらみは、綺麗な丸みを
皮膚の張りが支えていて、重みはあるけれど垂れてはいない。乳輪から乳首にかけてのメラニ
ンの色づきは、娘以上にラブの口が母乳を搾るためだ。
「今日もいっぱい飲んであげるね。でも、その前に ――― 」
 股間の高さに合わせて、スタンドに乗せられたハンディカメラが設置され、さらにもう一台のス
タンドが用意された。こちらにはモニターが乗せられ、ちょうどせつなの顔の正面の高さで位置
が固定される。
 そして、ラブの手が、せつなの頭に優しくヘッドセットマイクを装着。
「わかるでしょ、これからせつなの可愛い姿を記録してあげるから」
 ラブが手際よく機器同士の無線接続を終え、今夜の主役となるオモチャを持ってきた。せつ
ながそれを見て、思わず息を呑む。

 黒くて厚めのパッド。ペタペタと、ひんやりした感触が両足の裏、両わき腹、両腋、そして左右
の乳房の先に貼り付けられた。なめらかで、しかし少しチクチクするような硬さを感じる。
 ラブが右手に持つのは、各パッドを操作する液晶端末だ。電源をオンにすると、センサーが
作動。タッチパネル画面に現れた全パッドが、彼女の指による操作を待っていた。
「おねがい、ラブ。それを使うのなら私の口をふさいで」
「だーめ。せつなの色っぽい声で、解説を入れてもらう予定だから。これ、千匹分のこまかい虫
の足の動きだっけ? あたしもまだ試したことないけど、どれだけくすぐったいんだろうね?」
 ゾクッ ――― 。
 背後に回ったラブが、せつなの耳もとに嬲るようなささやきを残した。それだけで、せつなの
秘所は煮えたぎりそうになってしまう。
 カメラが撮影を開始すると同時に、連動してモニターに映像が出る。「うーん」と不満げにうめ
いたラブがせつなの背中から離れ、カメラを乗せたスタンドの高さを調整し、レンズがやや下方
から見上げるように設置し直す。
「あっ…」
 羞恥の吐息が、せつなの口から洩れた。無機質なカメラの瞳が、丸見えになった彼女の恥部
を捉えた。高解像度の画面に大きく映し出された性器は、肉眼で見る以上に鮮明でなめらか
だ。
 反射的に脚を閉じようとしたが、左右の足枷を繋ぐスティックに邪魔されて、それが出来ない
ことを思い出した。
(晒し者になるのって、予想よりも恥ずかしい…)
 丁寧に手入れされた陰毛と対照的に、卑猥に淫肉を覗かせた若妻の恥裂。愛蜜のぬめりで
妖しく肉を濡らして、発情している ――― そんな自分の性器をモニターで確認して、せつなが
顔を真っ赤にした。
 再び背後に戻ってきたラブが、左手をせつなの腰の前に回して、女性器の大陰唇を、ぐに
っ、とつまんで広げてみせた。いやらしく濡れた肉の具合がカメラに内蔵された大容量のメモリ
ーチップに記録され、恥辱的な映像がモニターに出力される。
「始める前から、こんなに濡れてるんだ?」
「ラ、…ラブにいじめてもらえるから、う…うれしくなって、つい……」
「それって、マゾって事?」
「そうね、マゾ…なのかも」
「なのかも? ちがうでしょ、せつな」
「ご、ごめんなさいっ。わ、私は…正真正銘の……マゾヒスト…です」
 声を録(と)られているためか、答えるせつなの口調は、いつもよりもぎこちない。そんな恥じ
らいが可愛くて、ラブは微笑しながら、妻の背中に唇を這わせた。
「あんっ…」という、くすぐったそうな小さな喘ぎ。
 それに合わせて、右手の液晶端末に指を走らせる。まずは右のわき腹だけ。パッドの内側に
びっしりと生えた、6000本にも及ぶ微細な繊毛がサワサワとうごめく。
「うっ、あっ…」
 軽く驚いた声を上げるせつな。しかし、10秒…20秒…と経っても変化しない刺激に戸惑い、
後ろのラブを気にし始める。
「それじゃあ、そろそろ ――― せつなのカワイイ踊りと声を愉しんじゃおっかな♪」
 タッチパネルを操作して、パッドの動作をアイドリングモードからアクティブモードへ切り替え
る。

「ひああああっ!?」
 ビクンッッ!!
 拘束された裸体が、電気を流されたみたいに跳ねる。同時に、二つの白い乳房も、軟らかな
肉の重みを感じさせる動きで大きく揺れた。

 右のわき腹を責めていた繊毛のくすぐりが、急激にパワーアップ。サワサワと単調に肌をな
ぞるのみのパターンから、数十の虫がそれぞれ違う動きで好き勝手な方向へ這い回るランダ
ムパターンに移行。また、繊毛のいくつかの先端が硬質化、ぞわぞわぞわぞわっっ…とうごめ
くこそばゆさの中に、ちくっ、ちくっ、と刺すような感触も混じってくる。
「ううッ…ああっ、ああああッッ!? あああああッッ!」
 右わき腹のパッドを振り払おうとするかのごとく、せつなが裸身を激しく左右によじった。しか
し、パッドの内側の粘着ペーストが、ガムテープ並みにへばり付いて剥(は)がれない。そして、
この粘着ペーストは次第に体温に反応して、蚊に刺されたような痒みを皮膚にもたらす。
(全身のあちこちが痒く……あああああっっ!!)
 ラブがせつなの股間の下から左手を入れなおして、秘所の恥肉を指で開いた。愛液のしずく
に濡れた膣口が引くつく様子がモニターに映し出される。
「んーー…、濡れ方が、ちょっと足りないかな?」
 右わき腹のパッドをいったんアイドリングモードに戻して、次は左の腋と、右足の裏のパッドを
アクティブモードに。その途端、両腕を拘束するチェーンが音を立てて引っぱられた。
「あっ! あっ! ダメッ…、はあァァァァっっ!」
 全身をこわばらせて抵抗できたのも一瞬、せつなが繊毛のこそばゆさと粘着ペーストの痒み
に屈服した。彼女の見事な裸身が、ビクッ!ビクッ!と哀れに跳ね悶える。
「あ゛あ゛あ゛っ、やめっ……助けてっ、ラブ!」
 どんなにカラダを振ってもパッドを剥がすのは無理だ。それは作った本人が一番良く知ってい
るはずなのに、ジタバタとあがくのをやめられない。拘束されて不自由な右脚のひざから先が
何度も床を叩き、吊られた腕がうるさくチェーンを鳴らす。
 
 びくっ、びくっ、と上下に跳ねる腰の動きに手こずりながらも、股の下から回した左手の指が
恥裂を広げて、せつなの性器の粘膜をカメラのレンズに晒す。ヘッドセットマイクが拾う声は、
苦悶の入り混じった哀願の言葉で満ちているのに、こちらは正直に熱く蕩けて、指を濡らす愛
液の量も増えてきている。
「これはどうかな、ダブル腋責め」
 右の足裏のパッドをアイドリングにするのと引き換えに、右の腋に貼り付けたパッドをアクティ
ブに。左右の腋を計12000本の微細な繊毛が同時に責めてくる。
「ひあっあああっ…あっあっ、アアアッ…ひゃめっ、ダ…ダメッ…あ゛あっ、あ゛あ゛ッッ!」
 数十匹の虫が好き勝手に動き回るこそばゆさが、チクチクと刺す微かな刺激感と一緒に、く
すぐったさに弱い腋のくぼみを責め嬲り、せつなの意識を狂わせようとする。
 ――― ゾクゾクゾクゾクゾクッッッ。
「ああっ…あっ、ぐっ…ふあ゛あ゛ーーっ、アッ…、ラブ…ッ、ひゃ…め……あ゛あ゛あ゛ッッ」
 びくんっ…びくんっ…と腰から上の裸身に何度も強い痙攣が起こり、両方の乳房がやわらか
に波打ちながら跳ね揺れる。
「次はねぇ、……ウン、おっぱいにしよ」
 軽い口調でラブが決定。
 左右の乳房に貼り付けられたパッドも稼動開始。すでに粘着ペーストの痒みで被虐的に固く
なっていた乳首を、虫の這い回るこそばゆさが犯し始めた。
「ヒイイイイッッ……ああああああぁぁぁっっ」
 両腋と両胸を、耐えがたいこそばゆさに蹂躙され、せつなが悲鳴みたいな嬌声を上げて背中
を仰け反らせた。
「アアッ、アアアァァーーーーッッッ!」
 それは、愛するラブと娘を守るために、静かに鍛錬を継続している女体が一方的に屈服させ
られる光景だった。美しい睫毛に彩られた双眸は無残に涙にまみれ、つやつやとした唇は哀
れっぽい喘ぎに震え続ける。
 ――― なのに、ラブの指で広げられた女性器は淫らに熱く、ぐっしょりと濡れそぼり、撮影さ
れてモニターに映し出されているにもかかわらず、ヌメヌメと蕩けた粘膜を卑猥に悦ばせてい
た。
 涙でぼやけた視界が、モニターに映る自分の性器を見つめた。
(これが…私なの? こんなにいじめられて…苦しいのに……)
 モニターの中で、熱く濡れた性器が揺れている。尻を揺すりながら、ラブの指をおねだりして
いるのだ。この、狂わんばかりのこそばゆさに責められている状態で。
(もっと、ラブの奴隷になりたい……!!)
 彼女の指が触れている部分の奥に、熱いモノが駆け上がっていく ――― 子宮を溶かされる
ような陶酔感。
「アアアッッ!!」
 せつなの口が大きな喘ぎを吐いて、電気ショックに打たれたみたいに全身を強く痙攣させた。
それに続き、ボタッ…ポタポタ……と床に何かが滴る音。
 気が付いたラブが、全部のパッドを停止させ、即座にせつなの様子をうかがう。
 荒く呼吸を乱しながら、ぐったりとうなだれるせつな。床を鳴らしている雫(しずく)は、その彼
女の二つの乳房に張り付くパッドの下から……。
「わっ、せつな、母乳出てるよっ」
「えっ、うそ…」
 こんな経験は初めてだった。乳房が張っている気配はなかったが、ラブがいっぱい吸うせい
でミルクの貯蓄量が増えていたのかもしれない。
「………………」
 自分の製作したSM道具にいじめられて母乳を噴き出すなんて……。せつなが羞恥に赤く染
まった表情(カオ)を横にそむけた。けれど、逆にラブは楽しそう。
「あははっ、おもしろーいっ。ねえ、せつな、もう一回出してみせて」
「ひぃっっ!?」
 突然アクティブモードで稼動開始した両胸のパッドと、両腋のパッド。せつなの短い悲鳴を洩
らして、激しく身をよじる。
「この組み合わせだと、もう出ない? じゃあ、両胸と、左足、左わき腹! ……ん〜、これでも
駄目かぁ。よしっ、これならどうだ!」
 敏感な乳頭を、言葉に出来ないこそばゆさで攻めつつ、腋、わき腹、足の裏に張り付くパッド
が次々と切り替わりながら、狂ったようにうごめく何万もの微細な繊毛で彼女をくすぐり責め
る。
「はあああっ…あっ! あっ! あっ……あ゛あ゛はあぁぁッッ!
 びくんっ!
 びくんっ!
 手足やカラダに、電流を流されたみたいな反応が走る。汗にまみれになって悶える若妻の裸
体が、こそばゆい拷問によって、無理やり跳ね踊らされ ――― 一秒も休ませてもらえない。
(もう無理! 呼吸が……出来ない!)
 気絶する一歩手前の状態で、せつなの腰が痙攣して、びくびくびく…と尻肉を揺する。
 まるで、実験度物の扱いだった。母乳を噴き出させるために、肉体に与えられる責め苦。虫
の群れが這いずり回る感触が、せつなの弱い部分をなぶるようにくすぐり続ける。

「ホントにせつなは……強情なんだから!」
 いつのまに用意していたのか、ラブの手にしているのは木製の靴ベラ。自宅に数あるSM道
具の中でも、せつなが手がけていない原始的なアイテムだ。それが振り上げられ、蠱惑的に揺
すられている尻肉へ打ち下ろされた。
「ひぐっっ!!」
 喉の奥から搾り出された苦鳴。ピシッ!という小気味よい音に尻をぶたれ、せつなが全身を
わななかせた。
「ほら、せつな、ミルクは? ねえっ、早く、ほらぁっ!」
 二度、三度と連続する尻叩きのお仕置きに、こそばゆさに虐(いじ)められている肢体が限界
を迎えた。屈辱的な幸福に身を委ねて、
(イクイクイクイクッッッ!!)
 と、せつなが心の中で大きく叫ぶ。
 両目から溢れる涙がくっきりと跡をつけた貌(かお)が、強く突き上がってくる官能の響きに歯
を食いしばった。ラブの容赦ない嗜虐性によって、腰の奥が甘美さに痺れ、絶頂感に熱く熔け
る。愛液の蜜でベットリと蕩けた性器が、撮影中のカメラのレンズに向かって、ビュッ…ビュ
ッ!と潮を噴いた。
(ああああああああああ…………)
 恍惚と放心した表情のせつなを、ラブが後ろから一瞬だけギュッと抱きしめた。
「がんばったね、せつな」
 カラダ8ヵ所に張られた全パッドがくすぐり責めを停止。ぐったりと床に倒れ伏したい気分だ
が、両手を吊られているために不可能。ぴくっ…ぴくっ…と余韻の痙攣を走らせている裸身の
あちこちを、ラブの靴ベラが優しくペシペシ叩いてくる。
「どう、気持ちいい?」
「ん、…きもちいい」
「変態だね、せつなは」
「そうね、私は…変態……だから……」
 意識がぼんやりする。
 けれど ――― まだ、もう少しだけ。