Yes! ふたりはプリキュアっ! 04

「ここに隠れていれば、しばらくは大丈夫よ」
「そうですね」
 こまちの手が、かれんの制服の袖(そで)をキュッと掴んだ。何でもなさげな言葉の裏に隠し
通した怯えを、そのいかにも心細げな所作が露わにしていた。
 まだ心臓は、ハイドラに斬り付けられた恐怖に凍りついたまま。全身を巡る血は、完全に冷
え切っていた。なのに、かれんへと向ける笑顔だけは暖かい。
 自分がどんな辛い目に合っていようとも、大切な人を思いやれる優しさ、強さ。
 かれんは、そんな彼女の制服につけられた爪跡のひとつひとつに目をやり、全身から無言の
怒りを立ち昇らせた。脳裏に思い浮かべたハイドラの姿を、怒りの炎が焼き焦がしていく。
(―― 許せない。あなただけは)
「だめよ、かれん。危ないことは考えないで」
 くいっと制服の袖を引っ張って、こまちが首を横に振った。
 かれんは、いつもの『お嬢さま』という敬称ではなく、初めて名前で呼ばれたことに不快ではな
い驚きを覚えつつ、「でも…」と反論しようとした。しかし、こまちはやっぱり首を振って、
「だって、わたしは、今はかれんのお母さんだもの。見過ごせないわ。……あの怖い人のことは
忘れて。せめて今だけでも、ね?」
 自力で身を起こしたこまちが、かれんの頭を優しく抱いて、そっと自分の胸へと引き寄せた。
そこにあるのは、母の柔らかさと温もり。ほんの一時だけ、かれんの胸を安らぎが満たした。
 だが。
 かれんが、毅然とした表情でこまちの腕から ―― 母の感触から ―― 抜け出し、立ち上が
った。すらりとした両脚で交番の床を踏みしめて、まだ床に身を置いているこまちを、宝石のよ
うに気高く澄んだ視線で見据える。
「あなたは、わたしのお母さんじゃないわ」
 ハッキリとした声音で言う。ちいさな二つの手は決意の証として、グッ…と固くコブシを握って
いた。
 それは、どんな時でも自分を優しく甘えさせてくれる『母』からの卒業。いうなれば、『母』という
蛹(さなぎ)からの羽化だった。
 花を思わす可憐な容姿は変わらず、瞳の奥に覗くのは、大空(たいくう)を往く鷹の勇猛さ。
かれんの、眼差しが真っ直ぐにこまちの瞳を捉えて、そして言った。
「あなたは秋元こまち。生涯、このわたしだけに仕えるメイドよ」
 その言葉に、秋元こまちが意思の挟む余地を一切与えてやらなかった。いつもみたいに、た
だ傲然と、彼女のこれから進む道を決め付けてやった。けれども、その瞬間、こまちは心の中
を歓喜で蕩かした。
 かれんの唇が、さらに強く、彼女にとって人生の誓いとなる言葉を紡いでゆく。
「こまち、あなたを誰にも渡さない。奪わせてもやらない。何があったって、わたしが絶対に守り
抜いてみせる」
 その時、自分がちゃんと「はい」と言えたかどうか、こまちの記憶にはなかった。あまりに強く
身を打つ言葉に、身体の芯が熱く疼きながら震えていた。
 差し伸べられた白い繊手を恭しく取って立ち上がった彼女は、何を考えるでもなく、乱暴にか
れんの身体を抱き締め、強引に唇を奪った。
 幾度となくキスを交わしてきた二人だったが、それがこんなにも熱くて、唇が甘く溶けてしまい
そうなものだったとは、今この瞬間まで気付かなかった。
 ガタンッ ―― と音を立てて、かれんの背が交番のデスクにぶつかった。たちまち、その上に
上半身が仰向けに組み伏せられて、もっと強く唇をむさぼられた。
(お嬢さまッッ ―― )
 ひたすら愛おしさを込めて、かれんの唇を吸い続ける。高貴な細身を力いっぱい抱き締め
て、彼女の全てが欲しいと、それだけを願った。

 始まりは、こまちが小学校に上がる前にクレヨンをたくさん使って描き上げた自作の絵本。タ
イトルは『こまちのぼうけん』だった。
 幼い頃の彼女は、その絵本を読んで想像の翼をめいっぱい広げてから、冒険と称して自分
の家を一周するのを日課にしていた。
 ある日、彼女は、ほんの少しだけ冒険の輪を広めてみた。まだ見ぬ地(とはいっても本当に
すぐ近所なのだが)へと想像の翼で心を飛ばしながら、ひとつ、ふたつ…と角を曲がっていくう
ちに、見たことの無い通りに出た。こまちは後ろを振り返り、自分の家が見えないことに不安を
覚え、途端、どうしようもないほどの心細さに襲われた。
 その時、たまたま通りがかった、いかにも立派そうな車のドアが開いて、そこから自分よりも
小さな幼女が走り出てきた。彼女の富貴な服装を見て、きっとお姫様なのだろうと、こまちは思
った。そのお姫様がいきなり手をぎゅっと握ってきたものだから、こまちは大層びっくりした。
「もうだいじょうぶよ。だって、わたしがいるもの!」
 泣きそうになっていたこまちの顔を、車の中から見るなり駆け出してきた彼女は、何の根拠も
不要といった自信満々の体(てい)で、そう断言してのけた。
「…うんっ」
 こまちが元気良く頷く。その顔は、もう不安に曇ってなどいなかった。幼女の存在は、こまち
のちっちゃな胸の中で太陽以上に輝いていた。
「さあ、どうぞ。くるまのなかへ」
 幼女が見様見真似のエスコートで、こまちを車の中に案内し、運転席の執事へと朗らかに命
じた。
「では、じいや。この子をおうちまでおくってさしあげて」
 こまちがどこの家の子かも分からない執事は、後部座席でニコニコと微笑む二人の子供を
前にして、温和そうな表情に困惑の笑みを広げた。

 あの時の執事の顔を思い出して、こまちがクスッ…と微笑を洩らした。
(そういえば、お嬢さまはあの日の事、憶えていてくれているのかしら?)
 あの日、恋焦がれるような強さで胸に抱いた夢を、家に帰ってから『こまちのぼうけん』の最
後のページに無理やり描き足した。

『とてもかわいいおひめさまのおしろで、こまちはずっといっしょにくらしました』

 かれんがそばにいてくれるだけで、もう何も怖いものなんてない。幸せが胸を満たしていく。
熱くなった唇を離し、陶然とした眼差しで、かれんを見つめた。
「お嬢さま、本当にわたしなんかでいいんですか?」
「当たり前よ。このわたしに、こまち以外の誰を望めと言うの?」
 その言葉だけで、もう充分すぎるほど。なのに、こまちの心は、さらなる言葉を欲してしまう。
潤みをたたえた瞳にかれんの顔を映し、切望を口にした。
「だったら、もっと強い言葉を聞かせてください。……もっと強い言葉でわたしの心を縛ってくだ
さい」
 今にも泣き出しそうなほどの強い嬉びに打たれているこまちに、かれんは優しく微笑んだ。
 幾千、幾万もある言葉の中から、たった一つを選択して、彼女へと送る。
「愛しているわ、こまち」
 感極まった涙の一滴が、ぽたり…とかれんの顔に落ちてきた。
「わたしも、お嬢さまを……」
 かれんが首を横に振った。視線で、言い直すように促す。
 こまちが、そっと頷き返して、
「かれん、あなたを愛しています。永遠に」
 その言葉が終わるのを待って、かれんが目を閉じた。こまちも、震えるまぶたを下ろした。お
互いの口が吐く細い息を頼りに、唇をゆっくりと近づけていく。
 けれども、唇が重なろうとした刹那、かれんの肢体がピクンッと緊張したのを感じて、こまちが
動きを止めた。
「……こまち、何かしら、あの声」
「えっ?」
 かれんが身を起こして、眼差しを鋭くして交番の外を窺がう。こまちもまた、静かに耳を澄まし
て、かれんが聞きつけた音の気配を探る。
『……コワイナー……』
 幽かに響く声を、二人の鼓膜がハッキリと捉えた。続いて、固いコンクリートが砕ける派手な
衝撃音が交番を揺るがした。
 ズブッ! と湿った足音と共に、道路を挟んだ向こうの道に、黒い人影が姿を現した。
 正確には、人のカタチを模した黒いモノ、だ。顔の部分に嵌(はま)った道化の面だけが白
い。ざっと見て、軽く2メートルを超える背丈に、どっしりと質量を湛えた手足。先程の派手な音
は、間違いなくこの手もしくは足によるものだろう。
 黒い巨人の後ろから、もう一体、同じモノが姿を見せた。のったりした大きな動作で闊歩しな
がら、何かを探すみたいに首を左右に巡らせていた。
「何かでたミルッ!」
「きっとコワイナーだよ」
 交番の奥から走り出てきたユメとミルクを振り返り、かれんが唇に人差し指を当て、「しっ」と
言った。彼らの様子を見るに、まだコチラには気付いていないらしい。
「……コワイナーって?」
 小声で、こまちがユメに尋ねた。ユメも声を小さくして答える。
「えっとね、バラバラってね、お面をばら撒くと……人の形になって襲ってくるの。……そうだっ
たよね、ミルク?」
 全然自信無さげに視線を向けてきたユメに代わって、ミルクが説明を行う。
「コワイナーは、あの仮面によって大地から汲み上げられた<闇の力>ミル。凄く腕力が強い
から、近づいたら危険ミル」
 最初に現れたコワイナーが、道路に止まっていたセダンを殴り飛ばした。ミルクの言葉を裏
付けるように、その一撃で軽々と宙を舞ったセダンを目で追いながら、「そのようね」とかれん
が頷く。
『コワイナ〜〜…』
 さらにコワイナーが一体、ズブッ、ズブッと湿った足音を立てて現れた。その後ろから、また、
もう一体……。
「いったい何人いるのよ……」
 かれんが緊張した面持ちでつぶやく。
「とりあえず、まだ気付かれていないうちに……こまち、警官はいないけど、どこかに拳銃が保
管されているはずよ」
 かれんが、交番の内部を素早く見渡す。だが、コワイナーの動向を息を潜めて窺がっていた
こまちが、冷静に指摘した。
「……拳銃が通用する相手でしょうか?」
「どっちかっていうと、ファンタジーの世界に属してるわよね、アレは」
 じゃあ剣か魔法ね、とかれんが両肩をすくめてみせた。そして、こまちに微笑みかけて、視線
で問う。こまちは澄んだ笑みを返して、頷いた。
 コワイナーが探しているのは、間違いなく自分たちだ。ここに隠れていても、いずれコワイナ
ーたちがやってきて、破壊の猛威を振るうだろう。
 さりとて、あちこちから騒がしく響き始めた破壊音から察するに、今目にしている以上の数の
コワイナーが付近に存在しているようだ。外に逃げても、無事で済む保証はない。
 決まりだった。
(可能性がゼロならば、まず最初の1パーセントを作るところから始めましょう)
 かれんが決断を下す。
「ユメちゃん、ミルク」
 かれんが、一点の曇りもない清々しい微笑を二人に向けた。そして、自分の隣に立つこまち
へと誇らしげに眼差しを滑らせ、
「わたしたち、征くわ。あの腕輪、借りてもいいかしら?」
 ユメとミルクが顔を見合わせて、頷いた。
 肌身離さず持っていた腕輪を、祈るにも似た気持ちで二人へと託した。
 遥かな時を経た静謐な輝きを湛える二つの腕輪が、かれんの左手に、こまちの右手に通さ
れる。
 こまちの表情が緊張する。伝説の腕輪を通した右手……それに託された希望は、重い。け
れども、かれんが隣で笑いながら言った瞬間、その重さは消えてなくなった。
「きっと大丈夫よ。だって、わたしが一緒だもの!」
 少し語句は変わってしまったが、まぎれもない、あの時の言葉。全ての不安が吹き飛んでし
まうほどの、力強いおまじないの言葉。
 だから、
「はいっ」
 あの時と同じく、こまちは、ただ大きく頷くだけでよかった。これ以上の幸せは、こまちに胸に
入りきらない。かれんという少女に愛を誓った事を、とても誇り高く思う。
「行きましょう」
 かれんの左手が、こまちの右手をぎゅっと握った。微かに触れ合った腕輪同士が『リ…ン』と
神秘的な音を響かせる。
 それは、とても小さな音だった。にもかかわらず、赤黒く染まった空に遠雷のような響震を走
らせた。神霊クラスのエネルギーが突如として湧出した影響で、一瞬だけ、世界の位相にブレ
が起きた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「敵……ッ!」
 かれんたちを捜し求めるコワイナーたちよりも早く、ハイドラがその気配を感知した。その脅
威の大きさに、浅黒い肌がビリビリと震える。片手に五指ずつ生やした鉤爪が、『ギチギチ』と
軋む音を立てつつ、より鋭く、凶悪に長さを伸ばした。
 金色の瞳が、戦意に高揚した。
 普段の虐殺愛好家としての面はなりを潜め、代わりに、生粋の戦闘鬼としての本性を露わに
して、にぃっと笑う。
「いい……楽しめそうだ」
 抑えようもない闘気の噴出が、ハイドラを中心して『ドンッッ!』と爆衝の壁を築いた。砕け散
ったコンクリートやアスファルトの破片が空中に激しく舞い踊る中、ハイドラが空間を跳躍した。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「 デュアル・セイクリッドコールッッ!! 」」
 かれんが、大きく指を開いた左の掌を、高々と天へ向けてかざす。その手の甲に、下から伸
びたこまちの右の掌が重なった瞬間、二人の喉から声がほとばしっていた。
 かれんとこまちが同時に叫んだ聖句によって、神器である腕輪が光の粒子に還元され、煌び
やかに二人へと降り注いだ。
 そして、燦然と輝きを帯びた二つの体から、爆発的に立ち昇る光の奔流。居合わせたコワイ
ナー全てを圧倒する程の光子の質量が、光柱となって赤黒い空を突き上げる。
 清澄な光が二人の身体に結晶していく。肉体的に普通の女子中学生である二人に、闇の軍
勢と対等以上に闘えるだけの力を ―― 伝説の戦士・プリキュアとしての力を。

「殺(と)ったぁぁッッ!!」
 光柱に激突するのもかまわず、ハイドラが強引な空間跳躍で二人の遥か頭上を取った。
「でやあああああああああああッッッ!!!」
 凶剣と化した両手の鉤爪で、光の柱を斬り裂きながら、二人に向けて急降下していく。
 隼が獲物を強襲するスピード以上の速さで肉薄する。左右の手で、それぞれひとつずつの計
算。二人の頭部に鉤爪を叩きつけて、真っ二つに粉砕するまでの刹那の間隙。
「―― ッ!?」
 必殺の一撃を防ぐ二つの手。ハイドラの両腕が受け止められ、次の瞬間、その体が宙を舞
っていた。投げられた、と気付いたハイドラの目が好戦的な色に染まる。
 華麗にトンボを切って、ハイドラが大きく間合いを取った。

 逆しまに噴き上げていた光子の瀑布が緩やかに収まり、再び、赤黒い暗さを取り戻した空の
下で。

 一見して、それは戦士の出で立ちというには軽装すぎた。
 清麗な純白の生地がゆったりと胸部を包み、腰のくびれに沿ってキュッと締まっている。肩口
から伸びた腕のヒジより先を覆うのは、やはり同色の薄生地のグローブ。
 動きやすさを重視したのか、裾にフリルをあしらったスカートは膝(ひざ)上までの長さで、編
み上げのショートブーツが軽やかに足元を飾っていた。
 二人の姿を大きく分けるのは、白生地の縁(ふち)を鮮やかに彩るサファイヤブルーのライン
と、エメラルドグリーンのライン。そして、ストレートロングの髪をポニーに束ねるプラチナの髪
留めと、ボブの髪を押さえる金のカチューシャ。
 胸元を飾る蝶のモチーフは、それぞれのカラーに合わせた宝玉を戴く台座から、金・銀の翅
を大きく広げた作り。
 鎧兜は身に着けず、その手には武器も無し。およそ戦いの場に臨むに相応しいと言いがた
い姿。されど双方ともが、抜き放つ寸前の神剣の如き威圧感をもって、ハイドラやコワイナーた
ちと相対していた。
 スッ……と眼前にかかげた右手に蒼く澄んだ炎を灯し、名乗りを上げる。
「この手に宿りし炎の勇気・キュアブレイブ!」
 スッ……と眼前にかかげた左手に黄金色に輝く光を乗せ、名乗りを上げる。
「この手に掴みし明日への希望・キュアエスポワール!」
 すぅ、と息を吸った二人の口が、伝説の中で眠っていた自分たちの呼び名を、朗々たる声を
そろえて世界に響かせた。
「「 ふたりはプリキュアッッ!! 」」
 善なる全ての者には安らぎを、邪悪なる全ての者には殲滅の予感を ―――― 。
 キュアエスポワールが、目の前に立ち塞がる敵を指差し、
「邪悪な意思にかしずく者よ……」
 その言葉をキュアブレイブが拾って、宣告へと続ける。
「速やかに去れ。さもなくば ―― 倒すッ!」

 交番の中から、こわごわと外の様子を窺っていたミルクだったが、やがて、
「変身……できたミルッ! やっぱり二人はプリキュアだったミルッ!」
 と、嬉しそうにユメを振り返った。
 ユメも大きく頷き返して、いつものように笑みを顔に広げようとして ―― 。
「あれ…?」
 これはとても嬉しい事のはずなのに……。本当に心から喜んで笑ってもいいはずなのに。…
…。ユメの目に涙が溢れてくる。
「もうガマンしなくてもいいミル…」
 ミルクが優しげに声をかけてきた。
「泣きたいなら、いっぱい泣けばいいミル。無理に笑おうとする必要なんて、もう無いミル」
 この少女が、誰にも心配をかけたくない一心で、泣きたいのを必死で堪えて笑っていたのをミ
ルクは知っていた。
 剣を取れる年でもなく、結界術の素養もなく、……だから、せめて騎士や姫たちが一瞬でも辛
い事を忘れられるよう、
 終焉を迎えつつある絶望の世界に、とびっきり明るい笑顔を ―― 。
 それだけが、ユメに出来るたったひとつの事だったから。
 けれど、それがようやく終わりを告げた。
「そっか……あたしもう泣いても……いいん…だよね、プリキュア……来てくれたもんね……」
 言葉までが、たちまち涙に濡れていった。嗚咽を挟んで途切れ途切れにしゃべるユメのが、
知らず知らずのうちに『本物の笑顔』を浮かべていた。
(騎士さま、姫さま、あたしたち、プリキュアに逢えたよっ)
 涙でぼやけた目に映るのは、この星で最も頼もしい二つの後ろ姿。
 ユメが交番から顔を出して、大きな声で呼びかける。
「プリキュアっ……お願いっ、あたしたちの世界を……騎士さまや姫さまを救って!」
「「 Yes! 」」
 二人の口が、短く、力強い返事を同時に紡いだ。――― それは約束の言葉。ユメやミルク
に、微塵も不安を感じさせない響き。だが、それに対して、にハイドラが嘲弄で答える。
「ハッ、救うだと? ここで死を晒すオマエたちがか?」
 キュアブレイブが、正面からハイドラを見据えた。
「どうやら、おとなしく帰るつもりはなさそうね」
「帰るさ。お前たちの首をもらってからな」
(まずはどれほどのものか見せてもらおうか、プリキュア!)
 ハイドラが鉤爪を『カチッ』と鳴らした。それを合図に、コワイナーが二人へと殺到する。