お姫様と狼は一夜限り… 03

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 やわらかな重み。火照った肌。先に意識を取り戻したのは、のぞみ。絶頂後、二人は重なっ
たまま失神してしまったらしい。
(りんちゃんのカラダ……あったかい)
 背に両腕を回して、ギュッと抱き締める。皮膚の表面を濡らす汗の感触。
(んっ、ちょっと待ってね、りんちゃん)
 りんのカラダの下から抜け出し、スリップを脱いで全裸になる。のぞみがスリップを四つ折り
に畳み、心の中で母に詫びる。
(ゴメンね、お母さん。あとでちゃんと洗濯するからいいよね?)
 湿ってはいるものの、汗拭きタオルの代わりとしては十分。のぞみが畳んだスリップで、りん
の肌に滲む汗を丁寧に拭ってゆく。
「んっ…ん〜……」
 りんが寝苦しそうな声を上げ、ごろりと寝返りをうった。まだ意識が戻っていないらしい。深く
曲げた右脚を開いて、のぞみに見せ付けるかのように秘所を丸出しに晒している。
(ううっ、りんちゃん、はしたない……)
 まるで男の子みたい、と思った。けれど、なだらかな乳房の先は、感じやすそうな乳首がツン
と可愛らしく勃起している。股間も、媚肉をたっぷりと蜜で濡らし、生々しい匂い香をうっすらと
立ち昇らせていた。
 男勝りな感のある四肢も、よくよく眺めてみれば、随分とほっそりしている。
(やっぱり女の子だよね、りんちゃん)
 絶頂の余韻に浸っている悩ましげな表情を見つめながら、のぞみがベッドの脇に置かれてい
たスリップに手を伸ばした。
 羽衣伝説。
 天女が羽衣を隠され、天に帰れなくなってしまったというお話。
 のぞみが、自分のものと一緒に、りんのスリップをクローゼットに隠した。
(これでりんちゃんはもう家には帰れません。ずっとあたしと一緒に暮らすのでした。めでたしめ
でたし)
 ベッドに戻って、りんの隣に両ひざを抱えて座る。眼差しは、優しく彼女の顔に注がれてい
た。どんなに外見がボーイッシュでも、中身はすっごく恥ずかしがり屋のお姫様。
 さっきまであんなに熱く喘いでいた彼女が、今はすやすやと寝息を立てている。
(そういえば、眠り姫って王子様のキスで目を覚ますんだっけ)
 真珠のようなツヤを見せる薄桜色の綺麗な唇。
(王子様が来る前に、ちょっとだけつまみ食いしちゃおっかな)
 ベッドに両手をついて姿勢を崩し、ゆっくりと顔を近づけていく。唇が触れそうになって、そこ
でとめる。
(なんで王子様は眠り姫を起こしちゃったんだろう? こんなに寝顔が可愛いのに……)
 食べちゃいたい。のぞみが身を起こして、りんのほっぺたをプニプニとつっつく。
「ふふふ……」
 本当に食べちゃおうか? 一晩中かわいがってくれると言ったのに、すっかり眠りこけてしま
った嘘つきのお姫様。ちょっとお仕置きしてやりたい気分。
「よ〜っし、りんちゃんを食べちゃうぞ。けって〜〜い」
 声をひそめて高らかに宣言。コソコソとベッドを降り、部屋の鍵を静かに開ける。目指すはキ
ッチンの冷蔵庫。確かイチゴのジャムがあったはず。
 冷蔵庫を開き、ジャムのビンに手を伸ばし、そして嫌でも目に飛び込んでくる大きなホールケ
ーキの箱に「ごくっ」と喉を鳴らした。
「うううぅ……見るだけ、見るだけだからね」
 ホールケーキの箱を冷蔵庫から取り出し、ガソゴソ音を立てて開ける。
 りんとのぞみ、ケーキの真ん中に添えられたチョコ板に仲良く並んだ二人の名前。真っ白い
生クリームの上を、真っ赤に熟れたイチゴがぐるりと円を描いて等間隔で配置。
 ……………………。
 ……………………。
 ……………………。
「……あした、りんちゃんと一緒に食べよ」
 未練たっぷりな眼差しが、冷蔵庫へと戻されていくホールケーキの箱を追った。……イチゴが
三つほど減ってしまっているが。
 ジャムのガラス瓶を手に、中を覗いて「う〜ん」と洩らす。残量は3分の1を切っているが、多
分足りるだろう。
 スプーンも用意して、
「そうそう」
 部屋に帰る前に、何か縛れそうなものを探す。……丈夫なビニールテープ発見。
 自室のドアをそっと開けて、忍び足で滑り込む。まだりんは意識を取り戻していない。
「…………」
 静かにベッドの脇に立ち、りんの両手を取った。彼女の両手首を重ねて、慎重にビニールテ
ープを何重にも巻きつけてゆく。さすがにこれは女の子の腕力では解けないだろう。
 りんが小さくうめいて、まぶたをぴくぴくさせる。意識が戻りつつあるようだが、もう遅い。
 のぞみがベッドの上に乙女座りになって、りんの耳元に近づけたジャムのビンをスプーンの
背でコツコツと叩いた。
「……ん、……のぞみ?」
 ぼんやりまぶたを上げ、視界にのぞみの顔を捉える。この時点では、両手首に違和感を覚え
たものの、まさか縛られているなどとは露ほども思わなかった。
「おはよう、お姫様」
 のぞみが妙にニコニコと微笑みかけてくる。その顔を怪訝そうに見返したあと、ようやく自分
の手首に視線を向け、りんが悲鳴を上げた。
「な、なにこれッ!? やだっ、ちょっとのぞみッ! 何の冗談!?」
 りんは完全に引き攣った表情。両手首にぐるぐる巻きつけられたビニールテープを引き千切
ろうと、ほっそりした二の腕に小さな力こぶを盛り上がらせる。
「りんちゃんでも無理無理♪」
 のぞみが明るい声で笑う。
 確かに、どれだけ力を込めても、手首のいましめは解けなかった。りんが裏返った声で叫ん
だ。
「のぞみぃっ、これ、どうゆうことなのッ!!?」
 のぞみは答えず、ジャムのビンをころころと、りんのお腹の上に転がした。
「ひっ!?」
 冷蔵庫でたっぷりと冷やされたつめたさに、りんがビクッと身をすくめた。のぞみを見返す表
情は、怯えを含んでいた。
「りんちゃんは〜、今からあたしに食べられちゃうんだよ」
 りんが心の中で悲鳴を上げた。
(今度はのぞみが狼!?)
 のぞみが、ぺちぺちとスプーンの背で、お腹を叩いてくる。抵抗できない獲物をいたぶるよう
に、ゆっくりした動きで下半身にまたがってこようとした。
「やぁッ!」
 りんが慌てて両ひざを自分の身体に引き寄せた。防御姿勢。かまわずのぞみは間合いを詰
めてくる。
「りんちゃん、こわいの?」
 答えるよりも早く、のぞみの両手がりんの身体をベッドに押さえつけた。ぺろり…と耳たぶが
舐められる。皮膚が粟立ち、震えが走る。そこで、ハッと気付いた。
 両手首を拘束されたまま、りんがのぞみの頭部に手を伸ばし、ガシッと鷲掴む。アイアンクロ
ー。
 頭にきりきり食い込んでくる指の痛みに、のぞみが悲鳴を上げた。
「はううううううっっ!?」
「これ……全然あたしの抵抗封じてないんですけど?」
 りんが半眼でのぞみの顔を見つめた。
 指の力を緩めてやると、のぞみは涙目でベッドの端まで逃げていった。あまりの情けなさに、
やるせない溜め息をついた。
「のぞみ、こっちおいで。あたしを食べるんでしょ? ……よっと」
 りんがお腹にのっていたジャムのビンを両脚へと転がし、ひざの間に挟んで差し出した。
「うぅ……抵抗するなんてひどいよぉ、りんちゃん」
 そう言いながら、ビンに手を伸ばすのぞみ。指が触れる寸前、ビンを挟むひざがサッと逃げ
た。「うううぅ」とのぞみが泣きそうな顔で、ニヤニヤと笑うりんを睨みつける。
「こーら、泣・か・な・い・の。……もお、ベッドの上にスプーン落っことしてるじゃない。はい、さっ
さと拾う。ほら、これも取る」
 いつものテキパキした口調でのぞみに指示し、両ひざで保持していたジャムのビンも受け渡
す。
「5分間」
 唐突に、りんが再び制限時間を口にした。えっ?という表情になるのぞみに、りんがイタズラ
っぽく瞳を細めて、艶のある微笑を送った。
「あたしが声を出さずにガマンできたら、この手ほどいて。でも、ガマンできずに声上げたら、の
ぞみの好きなだけ……、ねっ?」
 先程、のぞみに対して突き付けた条件の裏返し。すかさず、のぞみが「10分っ」と交渉に出
る。
「う〜ん、10分かぁ……。長くない?」
「早食いは体に良くないって、いつもりんちゃん言ってる〜」
「早食いっていうか……この場合、早舐め? ―――― ああっ、もうそんな悲しそうな目しない
の! わかった、10分ね、オーケー」
 早々に折れたりんが、キョロキョロと時間を計れそうなものを探す。
「えっと、のぞみ、その目覚まし、10分後に鳴るようにセットしてくれる?」
「はーい」
 のぞみが言われたとおりに時間をセットし、目覚まし時計を枕元に置いた。
「じゃあ、どっからでもかかってきなさい、狼さん」
 ベッドに仰向けに寝そべりながら、りんが挑発的な視線で宣戦布告。その姿に「いただきま
す」と、のぞみが行儀よく手を合わせた。
 ビンの蓋をあけ、スプーンでジャムをすくう。
「んん〜、まずは……」
 おへその周りを冷たい感触がなぞった。
(うっ…)
 りんがうめき声をこらえる。
 チュッ、と甘いくちづけ。続いて、舌先が円を描いてジャムを舐め取る。
(やだっ……これ、思ってたよりくすぐったい……)
 りんが腹筋をビクビク震わす。綺麗に舐め取った跡を、のぞみのキスがしつこく『ちゅっ、ちゅ
っ』と音を立ててなぞってくる。
(お、お腹はくすぐったいからダメっ……)
 りんのカラダが、ぶるるっ…と震えた。まだ前の興奮の火照りが下半身に残っているのか、も
じもじと太ももをすり合わせる。
「次はどこにしよっかな〜?」
 スプーンのひんやりした金属の感触が、りんの肌をサーッとなぞり上げた。
(…ヒイッ!)
 ビクッ、ビクッ。
 両手首を縛るビニールテープにガッと歯を立て、りんが喘ぎ声を抑えた。すでに呼吸が乱れ
始めて、裸身もなまめかしい悶えを繰り返している。
「りんちゃんのスベスベの脚〜♪ ふくらはぎに〜♪ ふともも〜♪」
 ふくらはぎにイチゴジャムがべったりとなすりつけられ、こじ開けられた太ももの内側にも冷た
いジャムが載せられた。
 のぞみの舌が美味しそうに踊る。ペロペロ、ペロペロと。皮膚をムズムズ這いまわるくすぐっ
たさ。りんのスラリとした脚がたまらず痙攣する。
「おひざも舐めちゃえっ♪」
 クッ…と、りんの口がますますきつくビニールテープを噛む。手首にも痛みが食い込んでくる
が、そのおかげで何とか耐えられる。
(でも、これ、やっぱり10分は長すぎる……こ…こら、スプーンでどこ突っついてんのよっ!?)
 りんが腰をよじった。のぞみがスプーンを逆さにして、柄の部分でちょいちょいっと股間を刺
激してきたのだ。ぴっちり閉じた少女の恥裂を、スプーンの柄が上下に何度もなぞる。指とは
違う無機質な感触は、処女のりんにはおぞましく感じられた。鳥肌が立つ。
(やだ……そんなのでいじらないでっ!)
 りんの喉が『くっ…くっ…』と苦しげに痙攣した。呼吸すら止めて、顔を真っ赤にしながら必死
に喘ぎを押し殺す。
 スプーンのいやらしい動きが止まると、りんが荒く呼吸をついた。吐息には悩ましい色が付い
ていた。
「りんちゃんのここ、いやらしい匂いがする」
 その一言で、りんの顔がさらにカァーッと熱さを増した。股間の恥毛が、のぞみの息にそよい
でいる。
(こんなに近くで見られてるなんて ―――― )
 秘所の奥が疼きを増す。ガマンできない。のぞみがまじまじと視線を注いでいるにもかかわら
ず、閉じた割れ目から新しい蜜を漏らした。
「見られただけで感じちゃうんだよね、りんちゃんは」
 脚の付け根に、股間のすぐ近くに、ひんやりとしたジャムが薄く塗られる。こびり付いていた
愛液を上塗りするように。
(うっーーっ!)
 びくんっ!と、りんの尻がベッドの上を小さく跳ねた。りんは、自分が思っている以上に感度
が高い。男勝りな面もあるが、そのカラダはいじらしいまでに女の子だった。
 のぞみが、太ももの間に顔をうずめてくる。一番いやらしくて大切な部分のすぐ近くに甘いキ
ス。舌がぴちゃぴちゃとジャムを舐める。
 ぞぞぞぞぞ……と、りんの膣内を快感の蟲が這い回った。のぞみの舌の動きにあわせて、何
百もの快感の蟲が一斉に膣内を ――― 。たまらず声が洩れそうになる。
(もし直接舐められたら……無理、絶対無理っ!)
 りんの眉間を刻むシワがきつくなり、表情ににじみ出た絶望が、彼女の顔に扇情的な彩を添
えた。
 ジャムを舐め取っても、のぞみの唇は離れない。薄い皮膚の上を、ちろり……ちろり……と、
もどかしいほどのゆっくりさで舌先が踊っていた。官能的な焦らしに、りんの腰が、ぶるるっ…と
震えた。
(早く……トドメさしなさいよ……)
 半ば開き直ったみたいに心の中でつぶやく。でも、それは単なる強がり。心臓は怯えて、早
鐘を打ち続ける。まるで、胸から必死で逃げ出そうとパニックになっているかのよう。
 コツッ。
 ジャムをすくう際に、スプーンがビンに触れた硬い音。その音が、りんの強気を崩壊させた。
(やだやだやだッ……やっぱりだめッ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!)
 一瞬前の強がりからあっさり一転、全身を強張らせて怯える。
 のぞみが脚の間から顔を上げた。目を見開いたりんと視線が重なる。
「りんちゃん、ちょっと泣いてる。……いじめるの好きなくせに、いじめられるのは怖いんだ」
 のぞみが「でも…」と言葉を続けた。
「いじめられるのって、すっごく気持ちいいよね」
 のぞみがにっこりと柔らかな表情で笑った。りんを見つめる瞳は、とても優しく、愛おしく。
 スプーンいっぱいにすくったジャムが、ぺちゃっ、とりんの下腹部にこぼれ落ちた。ちょうど恥
丘の上。のぞみがスプーンの先をヘラのように使って、股間全体に薄く延ばしていく。
(んっ…くっ……)
 りんが息を止めた。スプーンの先がジャムを引き伸ばしながら、ゆっくりとクリトリスを通過す
る。スプーンが肌から離れた。再びジャムをすくって、クリトリスの上に落としてきた。
 ジャムの冷たいヌメリをたっぷりと塗りつけながら、スプーンの背がゆっくりと小さな円を描い
てクリトリスを愛撫してくる。
(やだっ、なんか溶けてる……溶けちゃう……、いやぁっ!)
 りんが頭を左右に振り乱す。腰がさっきからずっとひくついている。
「そうだ、りんちゃんのお漏らししたおつゆも混ぜちゃお」
 スプーンが、秘所の縦筋をこするように、ぐっと強くなぞり上げてきた。
 ――― ビクビクビクッッ!
 りんの両脚が、通電したみたいに激しく痙攣した。
(あっ、うぅっ…)
 りんが歯を食いしばる。悦びの声が喉までこみ上げている。最後の気丈さを振り絞って、そ
れを飲み下して、フーッと荒々しく息をつく。
(大丈夫、大丈夫、まだ全然いけるから……)
 それが紙で出来たみたいな脆い強がりであるコトは、本人が一番良くわかっていた。それを、
のぞみに見抜かれていることさえ知っていた。
(もうちょっと頑張ってほしいな)
 せっかくだからイジメてみたい。のぞみの中にある無垢なサディズム。スプーンを覗き込ん
で、すくい取った透明な粘液に、底にこびりついていた赤いジャムがまだらに溶け出すのを見
つめた。
 それが、りんの処女の血みたいに思えて、のぞみが軽く酩酊感を覚えた。小指の先をつけ
て、口へと持っていく。ジャムの甘さ。それに打ち消されそうなっている微かな酸っぱさ。ゾクゾ
ク来る。
 のぞみが、クリトリスの上に広げたジャムに取れたての愛蜜をこぼし、スプーンを裏返して、
その丸い背で再び丁寧に塗りたくっていく。
「……………………」
 りんが悶えながらも耐え続けるのを見つめながら、ジャムのビンに人差し指をいれ、イチゴの
ジャムをすくう。その指で、自分の唇に真っ赤なルージュを引いた。
 砂糖のように甘く。
「この唇で……」
 なめらかな動きで、りんの両脚をまたぎ、馬乗りの姿勢から彼女の顔を見下ろす。
「りんちゃんを気絶するまでイジメてあげるね。りんちゃんのこと大好きだけど、今日だけは泣
いても許してあげない」
 のぞみの手が目覚まし時計に伸びて、リセットした。りんが驚いた顔で見返してくる。
(あたし、声上げてないでしょ!)
 視線に圧力を込めて抗議するも、のぞみはニッコリ笑って受け流す。
「だってもう無意味でしょ? お姫様は王子様の助けを待っているフリをしてるだけなんだもん」
 本当に心から待ちわびているのは、狼に無理やり食べられてしまう、その被虐的な瞬間だ
け。りんが、のぞみの言葉を肯定するみたいに脚をモジッ…とすり合わせた。
 胸の先にもジャムが塗られる。ひんやりした軟泥の感触が敏感な乳首をいらう。ゾクゾクと突
き上げてくる期待に、りんの顔が悩ましげに歪んだ。
 りんが、縛られた両手首を額の上に置き、熱い溜め息をこぼした。どのみち自分の<負け>
で終わるゲームなのだからと、耐えるのをやめて声を出す。
「ねえ、狼さん」
「何でございましょう、お姫様?」
 茶目っ気たっぷりに訊き返してくるのぞみ。
 りんが両腕をさらに高く、頭の上にまで移動させる。よだれを垂らしそうな狼に対して、美味し
そうな肢体の全てを、惜しみなく見せつける。
「あたしの唇から食べてよ。そのあとは、この体……どんなにメチャクチャにしてもいいから」
 震えている声。もう強がってもいない。彼女の眼差しは涙に潤んで、ただ切なげにキスをねだ
っていた。けれども、のぞみはフワフワのマシュマロみたいな笑顔で、
「やだ」
 にこやかに一言。りんが何かを言い返す前に、「お姫様、はい、どーぞ」と、その唇にスプーン
の先を滑り込ませた。
「最後までスプーンを咥えたままでいられたら、ご褒美にキスしてあげる」
 その言葉にりんが慌てた。ゆっくりと倒れていきそうになったスプーンの先に『ガキッ』と噛み
ついて咥え直す。ピンッとりんの口に直立したスプーンを眺めて、のぞみが明るく微笑んだ。
「そうそう、その調子。キスして欲しかったら、気絶しても口からスプーンを離しちゃダメだよ?」
(無茶言わないでよっ!)
 りんが心の中で叫び返す。涙を溢れさせる瞳が不安そうに揺らいだ。
 のぞみが試すように、りんのスベスベした腋(わき)を指でくすぐってきた。
「うーっ!」
 身をよじらせて、りんがうなる。
「がんばって、りんちゃん」
 腋から指が離れる。ほっと一息つく暇もなく、今度は入れ違いに顔が近づいてきた。ぎりぎり
まで鼻を寄せて、スンスンと嗅ぐ。
(そんなところ嗅がないでっ!)
 りんが顔をしかめて、ますます強くスプーンを噛んだ。
「りんちゃんの汗の匂い。好きだよ」
 スポーツで流した汗……しなやかな身体にまとわりつく匂い ――― 夏の太陽の香り。
 ほんの少しだけ、その香りがここに残っているような気がした。
 のぞみが甘くジャムで味付けされた唇を、腋のくぼみに押し付ける。そして小さく円を描いて、
ねっとりとジャムを塗りつけていく。ビクッ!とりんの両腕が震えた。
「ふっ…ふふふっはいっ」
 スプーンを咥えているために「くすぐったい」とマトモに発音できない。
 ちろり、
 さっそく舌の這う感触。りんが、びくんっ!と弾かれたように硬直。
(ひいぃぃ、来たぁぁっ)
 くすぐったさに弱い腋を、のぞみの舌がチロチロと攻め始めた。りんが全身を震わせて悶え
る。
「うぅっ! ううーッ!」
 自由にならない口で、りんが激しくうめいた。首を振ろうとして、その動きを必死で押し留め
た。そんなことをすれば、スプーンがたちまち口からすっぽ抜けてしまう。
(腋は……腋は勘弁してぇぇぇっ)
 全身くねくねと、なまめかしく踊るように。ひたいにじっとりと汗が滲んでくる。気が狂いそうなく
すぐったさが腋をちろちろと……ちろちろちろと……。
 ――― ビクビクビクビクビクッッッ!
 さざ波のような痙攣が頭からつま先まで駆け抜けた。少女の裸身がわななく。スプーンを咥え
た口で、りんが叫んだ。
「ほほひぃ〜、はへへぇっ! はへへーっっ!」
 りんが涙をポロポロ流して許しを乞う。それでも、ねちっこく腋を舐めてくる舌は止まってくれ
ない。小刻みな舌使いで、こそばゆさをどんどん重ね塗りしてくる。
『ガチッ、ガチッ』と歯と金属の噛み合う硬い音が口で鳴った。
 ジャムの代わりに唾液でベトベトになった腋からのぞみが顔を上げた頃には、りんは完全に
泣き顔になっていた。小さな嗚咽で喉が「ひくっ、ひくっ」と何度も震えている。
「りんちゃんの泣き顔、かわいいね」
 りんの大きな瞳には懇願の色が浮かんでいた。のぞみがその瞳を真っ直ぐ見つめて、優しく
諭すように言った。
「だーめ。泣いても許してあげないって言ったでしょ? がんばって。あたし、りんちゃんにキス
するの……楽しみにしてるからね」
 大輪の花の笑顔を咲かせて、のぞみの視線が胸へと下がっていった。せわしない呼吸に合
わせて上下するやわらかい二つの小山。その先端はジャムの苺色に包まれている。
(いやっ ――― )
 りんがカラダをくねらせて、視線から逃れようとした。だが、その動きもいつもの彼女に比べて
弱々しい。勝ち気な雰囲気はすっかりナリをひそめ、表情も随分としおらしい。
 瞳の奥に覗く、これから来る快感への怯えと期待。
 しっとり汗ばんだ肌は上気して、スポーツで鍛えられた健全な肢体を興奮の色に包んでい
た。
「りんちゃんがどんどん女の子っぽくなっていくよぉ。…ふふっ、ここをイジメてあげたら、もっと
可愛くなってくれるのかなー?」
 のぞみの息が乳房にかかった。それだけでもう、りんは身をすくめていた。のぞみがふんわり
と前髪をかき上げ、乳房に「ちゅっ」と吸い付いた。
「…ふひっ」
 ジャムをてっぺんに載せた乳房に、ぶるっと震えが走った。敏感な部分には、すぐに口をつ
けない。苦しいぐらい焦らして焦らして……それからだ。
 まだ小ぶりな乳房の表面を『ちゅちゅちゅっ…』とキスの音が滑っていく。キメ細やかな肌の
感触と白さを愛でるみたいに。
「りんちゃんのおっぱい、ふわふわ」
 手の平が乳房の山裾に這い、その浅い傾斜を指を滑らせながら登った。ジャムに覆われた
乳輪から先には触れないよう注意して、優しい指使いで乳房を揉みほぐした。
「うぅっ……くっ! ふふぅっ!」
 りんの四肢がびくつき、上半身がうねうねと悶えた。呼吸は不規則に乱れ、スプーンもぐらぐ
らと今にも倒れそうに揺れている。
「ふふっ、ねえ、りんちゃん、ガマンできない? それとも、もっとガマンする?」
 りんがスプーンを強く噛んで、首を左右に振った。
「おっぱい揉まれてガマンできなくなっちゃったんだ。じゃあ ――― 」
 のぞみがりんのカラダの脇に両手をついて、乳房に顔を近づけてきた。りんが息を呑むヒマ
すらなく、いきなりカプッと乳輪ごと咥えられてしまった。
(ヒッ…!)
 りんが心の中で悲鳴を上げた。のぞみが『じゅるるるっ…』と行儀の悪い音を鳴らして、赤ん
坊みたいに乳房の先に吸い付いてくる。
「りんちゃんの乳首、すっごく美味しいよぅ」
 ちゅぱっ、と離れた口がそうささやいて、すぐにまた吸い付いた。ジャムの甘さと愛しい体温
のぬくもり。ふわふわした乳房のやわらかさと、コリコリした乳首の舌触り。
(いくらでもおかわりできちゃう)
 そして、何よりも大事なのが、大好きなりんをいじめているという手応え。
 敏感な乳首に快感が集中して、14歳の肢体を悶え狂わせる。拘束された両腕と、壊れたオ
モチャみたいにデタラメな痙攣を繰り返すしなやかな両脚。
「あうううっ」
 スプーンを噛み締めた口で、りんが喘いだ。興奮して感度が高まった乳首を、強い吸い付き
と、細かく動く舌使いが執拗にいじめてくる。
(や…そんなに強く吸ったら乳首伸びちゃ……、ひっ、くす…くすぐったいっ! ああっ! やだ
っ、激し……あっ、だめっ、激しすぎるッ、アッ!)
 悩ましげに開いた口から、スプーンがポロッとこぼれた。
「―― ッ!!」
 りんがとっさに口を閉じるが、もう遅い。あっけなくベッドの上へ落ちたスプーンを、見開かれ
た瞳が追った。
「あっ…あっ……」
 思考が停止しそうになる。ハッと我に戻って、のぞみの反応を窺がった。
「あー、りんちゃん……」
「無しっ! 今の無しっ!」
 のぞみが何か言おうとするのを、上擦った声をかぶせて打ち消す。そして、上半身をよじっ
て、大急ぎでスプーンを咥え直す。でも、そんなズルイ行為をのぞみは見逃さない。
「♪〜」
 まずは乳首を優しく舐める。ゆっくりと、ゆっくりと……。甘い情欲の疼きでさんざん昂ぶって
いる敏感な部分を、快感を丹念に与えて蕩かせる。そして唐突に、
 カリッ。
 充血した固い突起に、歯を立ててやる。乳頭に噛みつかれたりんが、その痛みに顔を歪ませ
て悲鳴を上げた。
「痛ぁっ!」
 ビクンッッ!
 全身が弾かれるように痙攣した。再びポロッと口から落ちるスプーン。
「や、やだ、またスプーンが……」
 りんの声が今にも泣きそうに震えていた。これを咥えていないと、ご褒美のキスが貰えないの
に。
「おねがい、のぞみ。見逃して……」
 はぁ…はぁ…と熱い吐息にまぎれた哀願。りんの口がベッドを這って、スプーンの柄を咥えよ
うとした。しかし、その行為に対して、じんじんと痛みの残っている乳首に、警告のように歯の硬
い感触が当てられる。
「…ひっ! 噛まないで噛まないでぇっ!」
 りんが悲鳴と共に身をすくめた。まるで怖い看守に怯える虜囚のように。いつも芯が強く真っ
直ぐな彼女だからこそ、今の哀れなまでに心の折れた姿は逆に魅力的だった。
 怯えながらも陶然と潤んだ瞳。覚めやらない興奮で上気した表情。のぞみの視線を感じて、
自然としなを折る細身の身体。
(りんちゃん、もっといじめて欲しそう……)
 のぞみが胸から顔を上げて、わざとツンッとした表情になって横を向いた。
「あたしのキスなんていらないんだっ!」
「そんなこと…」
「じゃあ、スプーン咥えてなきゃ」
「で、でも……」
 逡巡は短かった。りんが意を決して、ガッ、とスプーンを横向きに咥える。
「……ズルしたからお仕置きだよ」
 冷たく告げられた声に反応して、思わずりんは両目をつむってしまった。スプーンを咥える歯
が小さくガチガチと鳴った。
 乳首に歯が添う。容赦のカケラもない硬さが、りんを震え上がらせた。心臓が『きゅぅっ』と縮
み上がる。
(あっ……!)
 乳首に気を取られすぎて、口から落ちそうになっていたスプーンをしっかりと咥え直す。
 まだ噛まれない。
 のぞみがゆっくりと顔を動かして、前歯の先で乳首をなぞってくる。りんが「うぅっ」とうめきな
がら背を軽く反らせた。怯えているのと感じているのが身体の中で混ざり合う。
 乳首が上下から歯で挟み込まれる。今度こそ来ると思って、りんがスプーンを強く噛み締め
た。けれど、来たのは歯による硬い愛撫。優しく歯を滑らせて、乳首を刺激してくる。
「くううう…」
 もうガマンできず、りんが上半身を悶えさせた。ビクビク怯えつつ噛まれるのを警戒している
と、その態度を笑うように乳首を舐められた。
(ああんっ、もう! 噛むのっ? 噛まないのっ? あたしを好き勝手もてあそんで……)
 悔しさが胸に湧いてくる。でも、乳首を舐め洗う舌さばきの前に、すぐにその気持ちは崩壊し
た。快楽に飼い慣らされた心は、もう強がることさえ出来ないようだ。
『ぢゅうぅぅぅっっ!』とのぞみが頬をすぼめて強く乳首を吸ってきた。胸先に甘い電流が走っ
て、りんが裸身をわななかせた。
(やぁっ、だめっ! 死んじゃうよぉっ)
 のぞみの口が反対側の乳房に移った。ジャムを塗りつけられた乳首がたっぷりと舐めまわさ
れる。
「くう…ううううっ、ふううう……」
 いやらしく乳首を舐め転がす舌。快感に理性がとろけた瞬間を狙うかのように、硬い歯が乳
首に当てられた。「ひっ」と声を漏らして、りんが表情と身体を強張らせた。
(ふふっ、りんちゃんこわがってる♪)
 噛むつもりは無い。ただ噛む素振りを見せて怖がらせるだけ。彼女が怖がった分、優しく乳
首を舌でいじめてフォローしておく。
(のぞみったらぁっ!)
 りんが心の中で、愛しさという蜜をたっぷりと載せて甘く吠えた。
 イジメられる=愛されている。だから、もっとのぞみにイジメられたい=愛されたい。
 乳首を咥えた唇が、『ちゅうちゅう』と音を立てて吸ってくる。ゾクゾクゾク…と乳首が刺激され
て、りんが腰をくねらせた。秘所で沸く淫らな悦びの熱に狂わされそうになる。
「うぅーっ!」
 表情に淫らな歓喜が狂い咲く。もっともっといやらしくイジメられたい。りんの口がわざとスプ
ーンを落とした。
「のぞみ…のぞみ……、見て。あたし、またスプーン拾うよ。……ズルしちゃうよ」
 のぞみが乳房の先を口に含んだまま、ジッとりんの目を見つめてきた。つんっ、と尖った乳首
は、期待の疼きで痛いくらい感じていた。
 りんが上体をよじって、ベッドの上に落ちたスプーンを口で拾った。こぼれそうなほど涙を溜
めた双眸で、いいよと合図する。
 次の刹那、りんの目から涙が飛んだ。敏感な乳首を、灼熱の痛みが貫いてきた。快感の電
流が胸先で火花を散らしたかのよう。
「ふうううううううっっ!」
 スプーンを咥えた不自由な口で、りんが顔を仰け反らせながら嬌声を上げた。
 乳首に噛みつかれた瞬間に、りんは達していた。痛みで肉体を陥落させられる屈辱が、麻薬
のように甘美に膣の内側をたぎらせた。腰にぶるるっ…と震えが走る。
(やだっ…やだっ…あたしイッてる! こんなに痛いのに……感じちゃう!)
 倒錯した感情が胸に吹き荒れた。被虐的な嬉びが、濁流となって脳をかき乱して思考を奪い
取った。快感の津波にさらわれてゆく意識が緩慢に暗転して、そして……。