人魚姫の花珠(パール) 02


 ――― かろうじて、くちびるが触れ合う程度に。
 ――― 軟らかさをグッと押し付けあうように。
 くちづけのカタチを何度も変えて繰り返す。とめられない。
 お互いのカラダを、腕の中に『独り占め』しながら…。くちびるを快感で満たしながら…。
 いつのまにか、くちびるが唾液で濡れていた。二人のキスに新しい感覚が加わる。
(はるか…もっと深く……)
 このキスで、わたしの心の奥まで入ってきて……。
 ギュッとはるかを抱きしめてから、その手をゆっくりと彼女の背に這わす。制服越しにカラダ
の温もりを感じながら、その生地の下にある肌を想像して ――― 。
(はるかっ!)
 ゾクッ…ゾクッ…。
 みなみが「んっっ」と声を洩らして、快楽の悦びを覚えた上半身を、ぶるっ、と震わせた。離れ
た二つのくちびるは、透明な唾液の糸でしばらく繋がっていた。
(全生徒の模範であるべきわたしが、こんなに……ふしだらな……)
 罪悪感。
 ――― それでも。
 恥じらうように赤らんだ表情で、うっとりと溜め息をつく。
「……気持ちいいわ、はるか」
「わたしも…です、みなみさん」
 みなみの鼓膜を、微かな震えを帯びた声がくすぐってきた。
「もっと……気持ちよく…なりたいです」
 ブルッ…!と、みなみの柔らかなカラダに強い震えが走った。今のはるかの言葉だけで、全
身が甘い悦びの色に染め上げられた。海藤家の誇りすら溶けてしまうほどに、嬉しい。
 キスで熱くなったくちびるで、気付くとこんな言葉を言っていた。
「……その代わり、わたしだけのものになるのよ、はるか」
 はるかの瞳が一瞬大きく見開かれて、そのあと、全部受け入れたみたいに、こくん、と頷きを
返してきた。彼女の反応に、言った本人であるみなみのほうがたじろぐ。
 胸が切ない気持ちで詰まって息苦しかった。
 きもちよく ――― してあげたい。くちびるのとろけるようなキスの感触、それを彼女のカラダ
の隅々まで届けてあげたい。
 はるかを愛したい。心からそう思った。
「電気、消すわね。…じゃないと恥ずかしいでしょ?」
 直感でこれからする行為を予想したはるかの手が、びくっ、と震えて、みなみの手を握ってき
た。彼女を安心させるように、みなみが優しく握り返す。
 カーテンをキッチリと閉め、部屋の電気を消す。そして、暗闇の中で小さく揺れるアロマキャン
ドルの炎に、二人一緒に「ふうっ」と息を吹きかけた。なんだか、結婚式での初めての共同作業
みたいだった。隣のはるかもそう思ったらしく、クスッ、という笑い声が聞こえてきた。
 炎を吹き消された蝋燭から立ち昇る香りが、わずかな時間、少女たちの鼻腔を蠱惑的にくす
ぐった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 暗闇で見えないのに、隣で憧れの人が服を脱いでいるというのは、はるかの胸をとてつもなく
ドキドキと興奮させた。もちろん、自分だって脱いでいる。……みなみに言われた通り、下着も
だ。
「あの…みなみさん、脱げました」
 同じベッドに腰かけた相手に呼びかける。
 全裸になってしまった心細さから、みなみの手を握ろうとした。…が、手の平に伝わってきた
のは、すべらかな太ももの肉付き。
「わっ、すみませんっ」
 ビックリして、はるかが手を引っ込めるも、
「あら」
 と、みなみの微笑む声と共に、すらりとした細腕が追いかけてきた。視界の利かない暗闇の
中で、器用にはるかの手をつかむ。導かれた手は、再び瑞々しい太ももを這った。
「わたしの足なんて、さわりたくない?」
 からかうような声に、はるかがあわてて首を横に振る。
 スッ…とみなみが動いて、二の腕と肩が触れ合うほどの距離まで近づいてくる。むき出しの肌
同士の感触。あらためて、みなみもハダカなのだと実感。
「みなみさんの太もも、すべすべです」
「ふふっ、足を撫でられるのって、意外にくすぐったいのね」
 こそばゆそうに、みなみが笑って裸身を微妙に悶えさせた。見えないけれど、なまめかしい。
はるかが赤面しながら、じっくりと太ももの感触をまさぐる。
 手の平が滑るような肌のキメ細やかさと、柔らかな肉厚。さわさわと太ももの表面を撫でまわ
して、その感触を堪能しようとするが、みなみのカラダの反応のほうに注意が行ってしまいがち
だ。
 気持ちよさをこらえつつ、ぴくんっ…ぴくんっ…と、バレリーナのようなほっそりとしたカラダが
小さく跳ね悶えている。 ――― 見えてはいないけれど、途切れ途切れの押し殺した声と、ベッ
ドの微かな軋みで、それが伝わってくる。
 くすぐったそうだけど、嫌がってない。 ――― きもちよさそう。
 スゥーっ…と、太ももの内側へすべり落ちるみたいに手の平を這わす。「あっ…」というささや
かな喘ぎ声を洩らして、みなみが裸体をくねらせる。
「んっ、もお…、太ももの奥は駄目よ、はるか」
「気持ちよくないんですか?」
「そうじゃないけど ――― あっ、やだっ…、そ…そういう触り方をされたらっ」
 きゅっ、という締め付け。両太ももの肉の厚みが、柔らかにはるかの手を挟んで動きを阻止
する。さらにその上から、みなみの手がはるかの手を押さえつけてきた。
 あせったような声の感じがカワイかった ――― はるかの瞳に微笑が浮かぶ。
「みなみさんの足、もっとよくさわらせてほしいです」
 ハダカのカラダをぐいっと密着させ、耳もとまでくちびるを寄せてからのおねだり。
 みなみは、いつのキリッとした態度を忘れて、歳相応の女の子として弱々しく戸惑う。
「えっ…、でも…」
 そう言って、押さえつけたはるかの手に、モジモジと指を這わせてくる。
 はるかは思い切って手を動かしてみた。両太ももに挟まれた手をグイッ…と奥まで差し入れ、
太ももの内側 ――― ひざのほうから脚の付け根近くまでを、まさぐりながら往復させる。
「はっ…はるかっ!」
 叱りつけるみたいに語気は強い。けれど、どこか困惑に揺らいだ感じも否めない。きもちよく
なっているせいだろうか?
 抵抗的な態度を取るみなみに、はるかが意地悪そうに眉をひそめて言った。
「さわらせてくれないと、みなみさんのものになってあげませんよ?」
 …うっ、とみなみが声に出さずにうめく。
 仕方なく開いた太ももの内側を、さぁーっ…となぞり上げるはるかの手の平。
 我慢する。
 14歳の恥じらい。か細い喉が、あふれ出してしまいそうな声を必死で飲み込む。
 しかし、そんな抵抗は脆く ――― 。
 一分も経たぬうちに、びくんっ!とみなみの尻が跳ねるように激しく震えた。
「だ…だめよ、はるか、くすぐった ――― ああッ! ゆ、許してっ……ああぁっ…」
「どうしたんですか? 抱きついてきて…ふふふっ」
 まさぐり寄せてくる腕の中で、はるかがくすぐったそうに笑う。こそばゆさに耐えようとみなみ
がしがみついてくるのだが、その肌があまりにもスベスベしていて、くっついた状態で身悶えら
れると、こちらのほうがくすぐったくてたまらない。

 ――― こんなにキレイなカラダの人と、こうしていられるなんて。

 太ももの丸みをすべる手は、外側から内側へ、またはその逆を優しくなぞる。みなみがガマ
ンしようとすれば、その柔らかな肉付きに這わせた指をこちょこちょと動かして、彼女の忍耐を
脆く突き崩す。
「だ…だめよ、はるか……本当に、くすぐったいの…」
 藍玉のごとく青く澄んだ声音に、熱っぽさがにじみ始めていた。
 気持ちの良いこそばゆさにうろたえ、そのたびに白い肌をわななかせ ――― 。
 さっきまで床に着けていた足の裏は、かかとが完全に浮き上がってしまい、つま先の指がぎゅ
っと丸まっている。力(りき)んだふくらはぎは、今にもプルプルと震えだしそうだ。
(おねがい、はるか、いじわるしないで……)
 はるかを抱く腕のチカラが自然と強まる。ほっそりとした裸身を押しつけ、熱くなってきた胸の
気持ちを伝えようとするが、はるかは太ももをまさぐる手を止めてくれない。
「うう……あぁぁっ…、はるかぁ…、も、もういい加減になさいっ、そ…それ以上は…うぅうぅぅっっ
…」
 なけなしの気丈さをかき集めて放った声が、甘いうめきに変わる。
 なめらかな太ももの上を、スゥ…、と滑ったはるかの指先が、今度は膝頭をさわさわと撫でま
わしてきたのだ。
 ――― ゾクッ。
 足をくすぐられているのに、それ以外の場所がくすぐったくてたまらなくなるような感覚。
 暗闇の中で、切なそうに柳眉を寄せて、熱い息をこぼした。

「あああっ…」と震える喘ぎと共にこぼれた吐息のぬくもり ――― それに頬を撫でられたはる
かの胸が、キュウウっと締め付けられるみたいな切なさを覚えた。
(みなみさんっ…)
 ほそやかな脚をくすぐったくいじめる手を止め、みなみの腕の中でカラダの向きを変えた。大
好きな人と、くちづけを交わすために。
 その動きを察したみなみも、はるかのくちびるを求めようとした。……が、鼻と鼻が柔らかくぶ
つかってしまう。「ん…」と小さな声を出したみなみが、きもちよさそうにスリスリと鼻同士をこす
り合わせてきた。 
(ふふっ、みなみさんってば子犬みたい)
 クスクス笑って、みなみと同じようにする。みなみの口からも、淑やかな笑い声が洩れた。
 二人の鼻が離れ、今度こそキスを交わす。
 ……さっきした時よりも、お互いのくちびるで感じる温度が高くなっている気がした。
(はるか……)
 はるかの背に回していた腕を解いて、みなみが愛しそうに彼女の手を取り、手の平同士を重
ね合わせる。ぎゅっとはるかが握り返してきた。……同時に少女たちのキスも、甘くとろけるよ
うな熱を高める。
『ちゅっ…ちゅっ……ちゅっ……』
 暗闇に、軟らかく湿った音が跳ねる。
 学園のプリンセスの桜唇 ――― 高嶺の花であるはずの場所が何度も吸われ、熱く濡らされ
ていく。これは唾液の湿りだろうか、はるかの。
(いいのよ、はるかのなら……)
 彼女のくちびるが離れた瞬間を狙って、舌でペロリ…と舐めてみた。
 ――― ぶるッッ。
 次の瞬間、すごくイケナイ事をしたみたいに、体の奥が震えた。白い肌の下に、じわっ…と痺
れが滲(し)みだしてくる。みなみにとって、初めての淫らな悦び。
「はるか……口をお開けなさい……」
 かろうじて上級生の威厳を保った声で命じる。言葉の端々に震えをにじませた声に、何を感
じたのか、はるかが素直に従った。
 二つのくちびるが軟らかに重なり、そして、みなみの舌がはるかの舌に触れてきた。
「…………っ!?」
 はるかが、ビクッ、と裸身を強張らせた。驚いて口を閉じてしまわなかったのは、さいわいだ。
(みなみさん……何をっっ?)
 目を開いているのに、暗くて何も見えない。急に少しだけ怖くなって、みなみの手を、ぐっ…と
強く握る。自分の口の中で、みなみの舌が小さくだが動いている。
 ――― うそっ、わたしの舌を舐めてるの!?
 くすぐったい。
 でも、なぜだか声をこらえてしまう。じっとしていないと駄目なような気がした。
 胸の鼓動が速くなってくる。まるで、絶対に開けてはならないとキツく言われていたドアをこっ
そり開けて、チラリと中を覗き見したみたいな感覚。
(んっ…うぅ、みなみさんの舌……くすぐったくて、ちょっと気持ちいいな)
 彼女のなめらかな肌に触れる小ぶりな胸の先っぽが、さっきからむずむずとこそばゆい。

「んっ…んうう……うぅぅ…」
 うっとりとした声の響き。
 開いたくちびるに、みなみの舌がふれている。はるかの舌を求めてちろちろ動く、軟らかくて
濡れた感触。イヤラシイことを二人でしているという実感が、はるかの胸を悪戯っぽくドキドキさ
せる。
(もっとみなみさんと……色々したいな)
 わたしたちのカラダが、きもちよくなることを。
 繋がっている手を、こっそりと抜く。みなみは、はるかの舌を恍惚と舐めているせいか、気付
かない。ゆっくり持ち上げた手を、年上の少女のカラダへ静かにすべらせる。
「…ッッ」
 声を出さずに、みなみが喘ぐ。
 ほそやかな肢体をこそばゆそうにくねらせるも、はるかの手を拒否する様子はない。むしろ、
はるかの口の中で舌を舐め合わせながら、積極的にカラダを密着させてくる。
「……………………」
 指に、手の平に、白い肌の感触が伝わってくる。
 目で見るよりも、深く理解できる。
 美しくバレエを舞う細身のカラダの、本当の姿。
 はるかの指一本に肌を喘がせ、手の平に撫でられるたび、なまめかしく全身を悶えさせる。
 ――― 愛しい。
(もっとみなみさんにさわって、みなみさんを知りたい)
 はるかにカラダをさわられているせいか、みなみの舌の動きが鈍くなっている。その舌をくす
ぐるみたいに、今度は、はるかがこまやかに舌を動かしてみた。
「んっっ…!」
 たじろぐようなうめきに続いて、みなみの裸身が、ビクンッ、と悶え跳ねた。まるで、背筋にい
きなり快楽の蜜を流し込まれたような反応だ。気持ち良さそうに、ぴくっ…ぴくっ…と震えている
肌を優しく撫であげつつ、濡れた舌先同士をこすり合わせる。
 もじっ…。
 みなみのカラダが、じれったそうに悶えた。
(はるか……来て)
 すらりとした繊手が、腰後ろのくびれを這っていたはるかの手をとって、自分の胸元まで持ち
上げる。
 みなみの手が離れても、はるかは手を下ろさなかった。吸い寄せられるように、うら若き乙女
の胸へ手の平を這わせる。
「う…ん…、あっ…!」
 微かに仰け反ったみなみの背中。同時に二人のくちびるが離れる。
「くすぐったいですか? みなみさん」
 ようやく乳房と呼べるぐらいには育ってきたとはいえ、まだまだ小ぶりな丸み。だが、きめこま
やかな肌に包まれた柔らかな肉性の弾力は、少女期ならではの瑞々しい触り心地が旬を迎え
ていた。
 はるかが、その慎ましやかな曲線をなぞるように、手の平を下から上へ、そして上から下へと
すべらせる。熟れる前の果実とはいえ、みなみの乳房には、さわる者を愉しませる健康的な肉
感があった。
「みなみさんのおっぱい、とっても気持ちいいです…」
「あ…、はるか、言わないで……恥ずかしいから」
 乳房をまさぐる手つきに悶えながら、みなみが色香を滲ませた声を洩らす。まだ14歳の少女
が、覚えたての快感にカラダを溺れさせつつあった。そんな彼女を間近で感じて、はるかも興
奮を昂らせてゆく。