“ It's Magical Show Time ! ” 02
――― 魔法除去薬の完成まで、あと2工程。
完成したら、みらいをこの金ダライの中に入れて、しっかりと彼女の全身に薬を塗り、浸透さ
せれば、リコがかけた魔法が抜けてソックリリーへと戻るはずだ。
しゃがみ込んだリコが、手にした魔法薬のビンを静かに傾ける。
(この薬を入れて…っと。これで液が青から黄色に変わったところに最後の薬を……)
金ダライのプールに広がる液の状態を観察しているリコの後ろで、手持ち無沙汰なみらいが
キョロキョロしている。また魔法薬品の棚のほうへ行かれても困るし、だからといって、今は彼
女が手伝えるような仕事もなく……。
「そうだ、みらい、肩を揉んでくれない?」
「肩…? モミモミするの? 分かった! リコ大好き!」
「あっ、いい? 強く揉んじゃダメよ。優しく……気持ちよく揉んでちょうだい」
「優しく……気持ちよく……モミモミ!」
「そうそう、気持ちよくモミモミしてね」
別に肩が凝(こ)っているわけでもなかったが、みらいにとって、何らかの暇つぶしになるのな
ら。
これなら邪魔にはならないし、どうせ、あとはタイミングを見て薬を入れるだけだ。
みらいの手の平が、リコの両肩にそっと乗せられた。
制服の短いケープの上から、なで肩を前後にさするように。
ときおり、揉むというには弱いほどの微かな圧力が伝わってくる。
(みらいの手、柔らかくて気持ちいい……)
肩をそっと撫でる動き。優しすぎる揉み加減。
ゆったりと繰り返される、心地よい柔らかさのリズム。
みらいの手のぬくもりが伝わってくる……。
「んっ…」と、小さな声がリコのくちびるからこぼれる。
どこか甘い感じのする声の響きだった。
それを耳で拾ったみらいが、肩を揉む手付き同様に優しい声で訊ねた。
「気持ちいいの? リコ」
「ええ。みらいの揉み方……すごく好き」
リコの答えに、みらいが顔いっぱいの笑みを輝かせた。……が、彼女の邪魔をしてはいけな
いと思い、派手な愛情表現は控えることにした。
大好きな少女の背中へ静かに体をくっつけ、そっと伸ばした手で彼女の両腕ごと抱き包む。
ほそっこいとも思える華奢な上半身を。ただ優しく ――― 。
「…………」
言葉ではなく、行動で気持ちを伝える。
リコのつやめく後ろ髪に顔を寄せ、すりすりと頬擦り。とても愛おしそうに ――― 。
金ダライの中で色を変えつつある液の状態を見守っていたリコが、くすぐったそうに微笑した。
ちなみに、くすぐったいのは、身体ではなく心だ。
みらいにこんな風に抱きしめられて、嬉しいけれど、なんだかすごく照れくさいような……。
(やだっ、心臓がドキドキしてきちゃったじゃない、みらいったらぁ)
気恥ずかしそうに、身体をくねらせるリコ。
まんざらでもなさそうな顔を赤らめて、肩越しにみらいへ視線を送る。
魔法除去薬の仕上げが残っているのに、変に気を取られてタイミングを外したり薬を入れす
ぎたりしたら大変だ。
勿体無いけれど、この気持ちのいい抱擁を解いてもらわないと……。
「みらい、腕……、その、解いてもらってもいい?」
「リコはこういうの嫌?」
「まさか。全然嫌じゃないわよ? でもね、みらい、今のあなたのお仕事は、気持ちよく、優しく、
モミモミでしょ」
「うん、大好きなリコのためにお仕事がんばる」
頬を触れさせていた髪から顔を上げたみらいが、甘くささやく。
「……リコを優しくモミモミして、気持ちよくしてあげるの」
制服の上から、少女の身体をススッ…と這う左右の手の平。
くすぐったさに続いて、ぞわぞわっ…とした未知の感覚を覚え、
「ひっっ!」
という悲鳴と共に、リコが、びくっ、と身体を震わせた。
みらいの手の平が、リコの胸の上でクロスする。ただ純粋に、揉みやすそうと思っただけの
場所へ手を置きにゆく。右手の平は左を。左手の平は右を。
まだ平たい ――― かろうじて、ふくらみと呼べる程度の幼い盛り上がりを、制服越しに優しく
さする。
「ちょちょちょ…ちょっとみらいっ、そ…そこはっ!」
「どうしたの、リコ? ……もしかして、ここは気持ちよくない?」
「き、気持ちよくなくはないんだけど…」
「もっと優しくするね、リコ。 ――― 気持ちよくなって」
第二次性徴の芽生えを見せつつある胸の小さなふくらみ。そのあどけない丸みに乗せた手
の平を、ゆっくりと左右に滑らせる。そこに交じるのは、揉むというよりも、そぉっ…とピアノの鍵
盤の押さえるような指の動き。胸の微妙な曲線が描くやわらかさを、指先で味わっているかの
ようだ。
「う…うう…っ」
リコが居心地悪そうな表情になっている。
制服越しに、ふくらみかけの乳房を撫でる手の平の動きが……。
こそばゆくてムズムズしてくるようなチカラ加減の指使いが……。
(うううう、なんだかメチャクチャ恥ずかしい!)
うら若き乙女のまなざしが羞恥に揺れる。
(でも……、みらいはわたしを一生懸命気持ちよくしようとしてくれているのよね)
そう思うと、やめてとは言えなくなってしまった。
「はぁっ…」と、自分の吐息にくちびるをくすぐられ、リコが軽く両目を閉じる。
じれったくなるほどに優しい手付きが、13歳の少女の胸をまさぐり続ける。
正直、リコは丁寧なマッサージを受けているような気持ちよさを覚えていたし、なにより、こうし
てみらいと身体を密着させていると、あったかくて幸せな気分になれる。
――― もっとみらいと一緒に……このままで……。
――― いいえ、やっぱりダメよ。早く彼女をソックリリーに戻して、本物のみらいのところへ帰
らないと。
金ダライの中の液が、青色から黄色へと変化。そろそろ仕上げの薬を入れるタイミングだ。
リコが名残惜しさを感じながらも、手にした薬のビンを傾ける。
「みらいはモミモミが上手ね。……すごく気持ちいいわよ」
「わたしも……気持ちよかった。リコの胸やわらかい、大好きだよ」
みらいの言葉に、リコの胸が揺らいだ。
――― やっぱり、もう少しぐらいならいいかも。
「ふふっ、じゃあ、もっと深く触れてみて」
金ダライの中にビンの中身を適量垂らしてから、それを静かに床に置いた。そして、リコの手
がゆっくりと持ち上がり、胸に触れているみらいの右手の上へと重なった。
みらいが息を呑んだみたいに押し黙った。
リコが自分の手にグッとチカラを込め、下にあるみらいの右手の平を、ふくらみかけの乳房
に押し付ける。まだまだ肉付きが少なすぎて、ふにっ、と貧しい感触しか彼女の手の平に伝え
られなかったが……。
しかし、みらいは気にならない様子で、押さえつけるリコの手からチカラが抜けても、そのまま
少女のふくらみかけの胸を掴んで離さなかった。
「ねえ、リコ、モミモミしたい」
「いいわよ。みらいの好きなだけ……」
微かに上擦った声でリコが答えると、反対側の胸にも、グッと手の平が押し付けられてきた。
制服越しに幼いサイズのふくらみに密着した手の平は、大きく開いた五指を乳房の麓(ふも
と)へと伸ばした。
くすぐったいというよりも、恥ずかしいという感情から、リコが「ああ…」と声をこぼした。羞恥の
念で顔が熱くなっていることには自身でも分かっていたが、瞳が悩ましげな潤みを帯びつつあ
ることにまでは気付いていない。
発育途中の浅い肉付きを掴んだ手は、ゆったりとしたペースで、手の平を優しくすぼめる動
きを繰り返してくる。その度に、子供っぽい胸の柔肉がソフトに揉み寄せられる。
「くっ…」と一度は声をこらえたリコのくちびるを割って、「あ…ふぁっ…」という切なげな声が洩
れた。痛みや快楽を感じたからではなく、心に覚えた興奮のためだ。
性知識のないリコにとって、胸を揉まれるという初めての体験は、みらいとの大胆なスキンシ
ップにすぎないが、それも人前では見せられない、ふたりだけの『秘密』の触れ合いだ。
(優しくモミモミしてくれるから痛くはないけど…、何なの……、心臓がバクバク鳴って胸が苦し
い)
リコは我慢出来ず、両手で金ダライの縁を掴んだ。
意識していないが、少し呼吸が乱れてきている。
「あっ…、ん、みらいったら……、本当にモミモミが好きなのね」
「うん。やわらかくて気持ちいいから、ずっとモミモミしていたい」
ソックリリーは、変身の際に相手の性格までもそっくりに写し取る。つまり、本物のみらいも、
リコの小さな胸の手触りに気持ちよくなってくれるというコト。
(だったら、本物のみらいにも……)
――― ぞくり。
甘い誘惑が心に芽生えた。
けれど、それを振り払うようにリコが優等生の仮面を被る。
「みらい…、そろそろ薬の準備が出来たから……」
「うん」
素直にみらいが胸から手を離す。 ――― ちょっと残念。そんなことを思ってしまうリコだが、
いつまでも本物のみらいをほったらかしにしておくわけにもいかない。早く帰らないと。
「今からこの薬であなたの体を洗うから、服を脱いで金ダライの中に入ってちょうだい」
「…………」
制服の袖をめくり上げようとしていたリコが、ふと後ろの沈黙に気付いて動きをとめた。
「みらい?」
「脱ぐ…の?」
予想外の恥じらい。
リコが体ごと振り向いた。リコと目が合った途端、宿題を忘れた生徒が先生を見るような顔
で、みらいが縮こまってしまう。
「……どうして恥ずかしがるのよ? こっちの世界に最初に来た夜、一緒にお風呂入ったでし
ょ」
みらいに変身したソックリリーにも当然その記憶はあるはずだ。リコはみらいのハダカを見て
いるし、みらいだってリコのハダカを見ている。みらいの強引な誘いで、『洗いっこ』だってやっ
た。
今さら何を恥ずかしがる事が ――― 。そう思っていたリコの胸が急にドキドキし始めた。
思いがけない感情の変調。恥ずかしがるみらいを、妙に意識してしまったせいだ。
(な、な…、なによ、お風呂の時と全然変わらないはずよ。緊張する意味なんて無いわ)
心の中でうなずいて、いつのまにか逸らしていた視線を、みらいへと戻す。また、目と目が合
った。リコの胸を壊さんばかりに心臓が早鐘を打つ。
「ふ…、ふたりっきりだから。ね? 安心して服を脱いでいいわよ。わたし以外、見る人いない
し」
「リコに見られるのが……恥ずかしいんだもん……」
消え入りそうな声で、さらに意識させるような事を言うみらい。リコの両手が彼女へと伸びか
けるも、なんとか自制する。可愛い。ギュウッと抱きしめてしまいたい。
こんなにも強い気持ちを感じたのは初めてだった。……少しこわい。肌が粟立つ。でも、同時
に胸が甘く痺れるような感覚も覚えた。
ちらっ、と魔法で拡張した金ダライのプールを見る。最初の予定では、みらいにここへ入って
もらった上で、金ダライの外から彼女のカラダを魔法除去薬で洗うつもりだった。
(でも、それだと洗いづらい気が……)
――― いっそ自分も服を脱いで、この金ダライの中に入ったほうが洗いやすいのでは。
そんな考えを心に浮かべて、リコがうなずく。
(うん、こっちのほうが合理的だわ)
二人でハダカになるところを想像したら、息が苦しくなった。心臓の鼓動が激しさを増してい
る。恋愛経験のないリコには、その原因が解からない。
「ねえ、みらい」
リコが優しくみらいの手に触れた。拒絶の反応が無いことを確かめてから、その手を静かに
握る。そして見つめ合う。
「服を脱いでくれたら、わたしがあなたのカラダに、魔法除去薬を優しくヌリヌリして、気持ちよく
してあげる。……わたしもハダカになるから、その、さわってもいいわよ。……カラダに」
みらいの視線が、つっ…と下に落ちるのが見えた。
もし断られたらリズを呼んできて、目の前の少女にかかった魔法を解いてもらおうと思った。
恥ずかしがっているのに無理強いはしたくない。
しかし ――― 。
握っている手が、優しいチカラ加減で握り返された。
みらいは落としていたまなざしを上げて、しっとりと潤んだ瞳でリコの双眸を捉えてくる。
彼女のくちびるが、幸せそうに緩んだ。
「……大好きだよ、リコ」
その言葉が答えだった。二人がうなずき合って、自分の服を脱ぎ始める。
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